【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1995年 イギリス、アメリカ)
ブロスナンボンドの第一弾にして、良くも悪くもシリーズの伝統を引きずった水準作。完全無欠の英国スパイが、よくわからん目的を掲げる悪の組織と戦うという伝統的な007フォーマットを丸々踏襲しており、古色蒼然とした作品であるという印象を持ちました。

作品解説

5代目ボンドのデビュー作

前作『消されたライセンス』(1989年)の公開後、すぐにティモシー・ダルトン主演の次回作の企画は持ちあがっており、今度は香港を舞台にする予定だったのですが、その後にシリーズを製作するイオン・プロと、配給するMGM/UAが法廷闘争に入ったことから、企画はいったん中断となりました。

1992年12月に裁判が決着したことから企画は再開し、『クリフハンガー』(1993年)のマイケル・フランスによる初期稿も完成。この時点では依然としてダルトン主演の予定だったのですが、4~5本の続編に出て欲しいというプロデューサー側の要望には応えられないとして、ダルトンは降板しました。

その後に新しいボンド探しが始まり、大スター メル・ギブソンやヒュー・グラント、リーアム・ニーソンとレイフ・ファインズという『シンドラーのリスト』(1993年)コンビに声がかけられていましたが、軒並み断られていました。レイフ・ファインズは『スカイフォール』(2012年)以降のMを演じることになります。

彼ら「本命」から断られたプロデューサーは、本来は4代目で起用するかもしれなかったピアース・ブロスナンに再度目を向けました。

ブロスナンは『ユア・アイズ・オンリー』(1981年)でボンドガールを演じた故カサンドラ・ハリスの夫であり、妻の撮影現場に顔を出した際に、その端整なルックスに注目が集まったとか。

彼は4代目ボンドを選ぶ際の有力候補だったのですが、その話を聞いたNBCは打ち切りを決めていたテレビドラマ『探偵レミントンスティール』を延長することにし、007への出演機会を逃していました。

念願の役柄が再度回ってきたブロスナンは当然これを引き受け、1994年6月に5代目ボンドに就任したのでした。

興行的には成功した

本作は1995年11月17日に全米公開されて初登場1位を記録。全米トータルグロスは1億642万ドルで年間興行成績第9位となりました。

国際マーケットでは北米以上に好調で、全世界トータルグロスは3億5219万ドル。こちらは年間第6位の大ヒットでした。

感想

良くも悪くも伝統に忠実なボンド

6年というシリーズ史上最長の中断期間を経て製作された上に、その間に現実世界でソ連が崩壊して敵失するなどいろいろあって、公開当時には「すべてが新しい007」などと言われていました。

しかしフルリニューアルを行ったクレイグボンドの存在が前提となる現在の目で見ると、これはむしろ伝統的なボンド像であると言えて、斬新な部分は少ないように感じます。

ピアース・ブロスナンは今回初めてボンドを演じるにも関わらず、登場場面から「あ、007があそこにいる」と言えるほどのハマり具合を見せます。

おしゃれでカッコよくて酒と女が大好きで、どんな危機にでも軽口を叩いていられる鋼のメンタルの持ち主。ブロスナンは、そんなボンドっぽさをすべて持ち合わせた完全無欠のヒーローぶりを体現しています。

ブロスナンのベラボーなかっこよさ

そのクセの強すぎる個性と完璧すぎるルックスからは良くも悪くも人間らしさが感じられず、その存在は非現実性を帯びています。加えてソフト版の吹替が冴羽獠なので(テレ朝版はテリーマン)、吹替で鑑賞するとその傾向は尚のこと強くなります。

いかなる窮地に陥っても「何となるんだろうな」という安心感があって、実際に何とかなっていくし、そもそも陥る危機もその回避策も007映画では見慣れたものが多いので、「まぁそうなるわなぁ」という感じです。

何だかネガティブに書いてしまいましたが、これには良い面もあって、現実的にはあり得ない見せ場であっても「007」「ブロスナン」という組み合わせがあればちゃんと成立するわけです。

崖から落ちた無人の飛行機に向かってボンドもダイブし、落下しながら飛行機に乗り込んで間一髪で操縦を立て直すとか、戦車で公道を爆走して建造物を破壊しながら逃げる敵を追うとか、馬鹿馬鹿しくも楽しい見せ場を成立させているのは007でありブロスナンだからです。

イーサン・ハントやジェイソン・ボーンが同じことをしても映画として成立しないでしょう。

分かったようで分からん話

古色蒼然としているのは物語も同じく。

何か悪そうな奴らがいて、「彼らの何が悪いのか」「なぜ止めなきゃいけないのか」という理屈よりも先に「あいつらを倒さなきゃいけない」という図式の方が先に出てくるという。

冷静に振り返ってみると、ストーリーはほぼ破綻しています。

ボンドが精神科医と山道をドライブしていると、謎の美女が運転する真っ赤なスポーツカーに遭遇。すれ違いざまに交わした視線でお互いに感じるものがあったのか、二人は激しいカーチェイスを行います。

どうも引っかかるものがあったボンドはその美女へのマークをやめないのですが、すると彼女はNATO軍の新型ヘリを強奪するガチのテロリストで、その背後にはボンドの元同僚で、英国への敵対心を持つアレック・トレヴェルヤン(ショーン・ビーン)がいることが明らかになります。

これがざっくりとしたあらすじなのですが、物語の入り口部分が「たまたますれ違った美女とのカーチェイス」で、そこから死んだはずの元同僚が創設したテロ組織へとたどり着き、そして世界規模の陰謀にまで至るという、とんでもない偶然性と雑な結びつけの連続でストーリーは展開していきます。

あまりにも強引すぎて、初見時には話がまったく理解できなかったほどです。

で、アレックは英国とソ連の間で翻弄された歴史を持つコサックの出身で英国転覆を目論んでおり、そのために電磁パルス兵器ゴールデンアイを使ってロンドンの金融機能を破壊するという、タイラー・ダーデンを数年先取ったテロ計画を遂行中なのですが、動機部分が「民族の恨み」という実に曖昧なものなので、計画全体がどうにもピンときませんでした。

これに対しボンドは「金目当てのケチな犯罪者」というのですが、この指摘も当たっていません。

なぜなら巨大な秘密基地を作り、大規模な兵員を維持しているあたりを見ると、そもそもヤヌスには潤沢な資金があるからです。金が行動原理なのであれば大それたテロ計画など行わず、みんなで楽しく飲み食いでもしていればいいのです。

行動原理がよく分からない敵と、その理由を解き明かすまでもなく悪と断じて計画を阻止しようとするヒーロー。今の時代には厳しすぎる内容ですね。

その後、コンピューターを破壊されたことで計画遂行がほぼ不可能になると、やけくそになったアレックとボンドの一騎打ちが始まるのですが、硬派なアクションを得意とするマーティン・キャンベル監督の面目躍如か、ここから映画は異常に面白くなっていきます。

この部分だけが余りにも良かっただけに、男同士の対決という軸をもっと早くから鮮明にしていれば良かったのではないかと思います。

ちなみにジョン・ウーも本作の監督を打診されていたようなのですが、ウーなら間違いなくボンドvsアレックを前面に押し出した内容にしたでしょうね。

悪のボンドガールが輝いている

そんな良い点と悪い点が混在した本作の中で絶対的に優れているのは、悪のボンドガール ゼニア・オナトップ(ファムケ・ヤンセン)が変態すぎて最高であるということです。

彼女こそが冒頭で真っ赤なスポーツカーに乗っていた美女であり、目が合ったボンドとカーチェイスをするという狂った価値観を持っています。

どうやら激しい格闘や人殺しが彼女の性的快感に繋がっているようで、恍惚とした表情で銃を撃ちまくったり、笑いながら太ももで男を絞め殺したりと、すべての行動が異常すぎて目が離せませんでした。

演じるファムケ・ヤンセンはモデル出身であり、女優としては3年前の1992年にデビューしたばかりの新人だったのですが、未経験に近い状態でよくぞここまでぶっ飛んだ役を演じられたものだと感心します。

その後は割かし普通の役ばかりを演じるようになったのですが、今でも私にとってはゼニア・オナトップの印象が強く、『X-MEN』シリーズで能力は高いが引っ込み思案な性格のジーン・グレイを演じた際には「嘘つけ!」と思ってしまいました。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く
【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール
【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分
【駄作】007 ダイ・アナザー・デイ_壊滅的に面白くない
【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ
【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール
【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君
【良作】007 ノー・タイム・トゥ・ダイ_目を見張るアクション

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