【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2015年 イギリス、アメリカ)
平常営業の007にはやはりワクワクするのですが、満を持して登場したスペクターが強そうではなかったり、見せ場は豪勢なだけで面白くなかったりと、残念な部分が勝っていました。クレイグボンドの中では最低作品だと思います。

作品解説

シリーズ最高の製作費

前作『スカイフォール』(2012年)が全世界で11億ドルも売り上げるという記録破りの大ヒットとなったことから、本作は随分と資金調達が容易だった様子であり、製作費は高騰しました。

公称は2億4500万ドルとされており、これでもシリーズ最高の製作費なのですが、推定金額の最大値では3億ドルという試算もあり、すべての映画を見渡しても史上最大規模の製作費がかけられた映画ということになります。

権利問題のクリアー

ジェームズ・ボンドの宿敵と言えば悪の組織スペクターですが、原作者イアン・フレミングと映画製作者ケヴィン・マクローリーの長きに渡る法廷闘争の影響で、『ダイヤモンドは永遠に』(1971年)以降のシリーズではスペクターの名前を使えなくなっていました。

クレイグボンドにおいても、『慰めの報酬』ではクォンタムという別組織を登場させたのですが、2013年に法廷闘争が決着したことを受け、晴れて本作ではスペクターの名前が使えるようになりました。

そこに来て宙に浮いてしまったのが秘密結社クォンタムで、彼らはスペクターの下部組織という位置づけにされました。

シリーズ歴代2位の大ヒット

本作は2015年11月6日に全米公開され、最初の週末だけで7040万ドルを稼ぎ出しぶっちぎりの1位を記録しました。

とはいえネガティブな作品評もあってか前作『スカイフォール』程は伸びていかず、全米トータルグロスは2億7万ドルでした。

一方国際マーケットでは北米以上に好意的に受け入れられ、全世界トータルグロスは8億8067万ドルで年間興行成績第6位という大ヒットとなりました。

これはシリーズ全体で見ると前作『スカイフォール』に次ぐ歴代2位の売上高となります。

感想

いつものボンドが帰ってきた!

原作における第一作『カジノ・ロワイヤル』をスタートとしたことを契機に大幅なリニューアルを図り、3作かけてボンドの成長過程を描いてきたクレイグシリーズも前作『スカイフォール』のラストでようやく007の標準フォーマットに辿り着き、本作より晴れて平常運転。

どんなピンチに陥っても軽口を叩き、どんな女でも寝返らせる伊達男が帰ってまいりましたよ!

冒頭から景気の良いアクションの連続には大興奮なのですが、ボンドが落下した先にたまたまソファがある、パラシュートで優雅に降りてきたボンドが唖然とする市民に「こんばんは」と挨拶するなど、適度なユーモアを挟む様は、もはや古典芸能の域。

こうした緩急のつけ方は007固有のものであり、イーサン・ハントがどれだけスタントを頑張っても辿り付けない領域にいるシリーズであることを再認識いたしました。

そしてM、Q、マネーペニーとの家族のような関係や、スペクターの悪事の報告会の禍々しさなど、コネリー時代の空気を現代に蘇らせることにも成功しており、みんなが見たかった007を見事に作り上げています。

あと、大男がしつこく追いかけてくるというのは『私を愛したスパイ』(1977年)のジョーズへのオマージュですね。

前作で重厚なドラマを作り上げたサム・メンデスがここまで娯楽に徹したという驚きもあって、意外と手数の多い監督さんなんだなと感心いたしました。

スペクターが思いのほか貧弱

が、ワクワクできたのは前半の山場である悪事の報告会まで。そこから先はコレジャナイ感の連続でした。

悪事の報告会に潜入したことがバレたボンドは一目散に退散するのですが、追ってくるのはミスター・ヒンクス(デイヴ・バウティスタ)一人だけ。列車で秘密基地を目指すボンドを足止めしにやってくるのも、やはりミスター・ヒンクス一人だけ。

また拷問から脱出したボンドに襲い掛かってくるのも少数の兵士だけで、秘密基地なのに大した兵隊がいません。スペクターは人手不足なのでしょうか?

そしてスペクター首領ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)のショボさ加減も壮絶でしたね。

ボンドとは幼馴染という『オースティン・パワーズ』みたいな設定の時点でガッカリだったし、養子のボンドが実子の自分以上に親の愛情を受けていたことに嫉妬し、いい年になった今でもボンドへの復讐心で行動しているという器の小ささは考えものでした。

過去3作品の悪役はすべて彼の配下だったという仮面ライダーストロンガーの岩石大首領みたいな後付け設定もいただけません。

ル・シッフルやミスター・ホワイトがビビりまくっていた人間にはまったく見えないし、かなり強力な組織だったクォンタムを操れるタマでもなさそうです。そして亡霊だったシルヴァを手懐けるなんて不可能でしょ。

またこいつがやたら現場に出てくるのですが、これまで死を偽装してまで存在を秘匿してきたんじゃないのでしょうか。

そんなわけで、スペクターとブロフェルドにはガッカリ感しかありませんでした。

見せ場は凄いけど面白くはない

一説によると3億ドルもかかったというだけあって、見せ場は凄いことになっています。

メキシコシティの場面は群衆もヘリも本物でCGを使っていないし、中盤の秘密基地爆破は史上最大の爆破シーンとしてギネス記録を持っています。

ただ、メキシコシティの場面はあまりに凄すぎて「あれは実写です」という事前情報を持たない人はほぼ確実にCGだと思うだろうし、秘密基地爆破も引きの画だけなのでミニチュアを爆破したように見えてしまっています。

本物を本物らしく見せるという技が本作にはないのです。

また見せ場の温度感もまちまちで、ボンドとミスター・ヒンクスの格闘などはよく作りこまれている一方、雪上でのカーチェイスにボンドが飛行機で現れる場面の「どこにそんな飛行機止まってましたっけ?」と言いたくなるような唐突感とか、ピストルでヘリを撃ち落とすクライマックスとか、物凄く雑な場面も同居しているわけです。

リアリティの線引きが曖昧なので、どうにも見せ場に気持ちが入っていきませんでした。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く
【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
【良作】007 トゥモロー・ネバー・ダイ_戦うボンドガール
【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分
【駄作】007 ダイ・アナザー・デイ_壊滅的に面白くない
【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
【凡作】007 慰めの報酬_ジェイソン・ボーンみたいにしちゃダメ
【良作】007 スカイフォール_Mがボンドガール
【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君
【良作】007 ノー・タイム・トゥ・ダイ_目を見張るアクション

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