【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1987年 イギリス、アメリカ)
ハードでホットなダルトン=ボンドは悪くなかったのですが、脚本があまりに雑で東西冷戦を舞台にしたインテリジェントゲームを台無しにしてしまっており、映画としてはさほど面白くありませんでした。

作品解説

4代目ボンドのデビュー作

前任者ロジャー・ムーアは『美しい獲物たち』(1985年)の撮影時点で57才であり、ボンドガールを演じるタニア・ロバーツの母親が自分よりも年下であることを知り、引退を決意しました。

その後、4代目ボンドの候補者選びが始まり、メル・ギブソン、サム・ニール、クリストファー・リーブらが候補に挙がる中で、ピアース・ブロスナンが有力だったのですが、このうわさを聞き付けたNBCが打ち切り予定だったテレビシリーズ『探偵レミントン・スティール』の延長を決定したことから、ブロスナンは出演できなくなりました。

そこで名前が挙がったのが2代目の候補でもあり、『ムーンレイカー』(1979年)の後にロジャー・ムーアが引退を宣言した(のちに撤回)際にもボンド役をオファーされていたティモシー・ダルトンで、3度目のオファーにしてようやくダルトンのボンドが実現しました。

なお、本作のボンドガールであるマリアム・ダボはボンド役オーディションの際の相手役を演じていたのですが、評判が良かったことからそのままボンドガールとしてキャスティングされました。

4代目ボンド就任作ということで本作には気合が入っていたようで、製作費は4000万ドルがかけられました。同年に公開された『プレデター』(1987年)が1500万ドル、『ロボコップ』(1987年)が1300万ドルなので、標準的な大作数本分の予算が組まれたということになります。

興行的には成功した

本作は1987年7月31日に全米公開され、2位の『ロストボーイ』(1987年)に2倍以上の金額差をつけて1位を獲得。

ただし売り上げの伸びはイマイチで、全米トータルグロスは5118万ドル。不評だった前作『美しき獲物たち』(1985年)の5032万ドルを僅かに上回った程度でした。

一方、国際マーケットでは好調であり、全世界トータルグロスは1億9120万ドルで、こちらは年間第3位という大ヒットでした。

感想

エネルギッシュなダルトンボンド

出演本数たった2作で影が薄い反面、原作のイメージにもっとも近いとも言われているティモシー・ダルトンですが、なるほど、なかなかエネルギッシュですね。

ダルトンは英国演劇界のスターであり、映画初出演作『冬のライオン』(1968年)では若干22歳ながらアンソニー・ホプキンスよりも上のクレジットを得ていました。

上述した通り過去2回もボンドの候補に挙がっており、3度目にしてようやく引き受けてくれたというプロデューサーとしても念願の起用でしたが、ダルトンはその期待に応えて見事に人間ジェームズ・ボンドを演じています。

スパイ仲間が殺されて逆上したり、ボンドガールと真剣な恋愛をしたりと、ロジャー・ムーア時代にはなかった要素をきちっと入れられています。

またロジャー・ムーアから18歳も若返ったことでアクションにもキレがあるし、特殊兵器に頼らない硬派な作風にも馴染んでいます。

話が面白くない

そんなわけでダルトンは申し分ないのですが、肝心の話が面白くないので映画全体はあまりパッとしませんでした。

東西冷戦下、ボンドはソ連のコスコフ将軍(ジェローン・クラッベ)を西側のオーストリアへ亡命させ、コスコフよりKGBトップのプーシキン将軍(ジョン・リス=デイヴィス)が西側スパイの抹殺を企んでいるとの情報を掴みます。

これを受けてMよりプーシキン暗殺を命じられることが今回のボンドの任務なのですが、東西冷戦を背景にしている割にはあの時代のいかがわしさを表現できておらず、鉄のカーテンとも言われた国境も、何の苦も無く越えていきます。

リアル路線を標榜する割には妙な軽さがあって、ボンドにとって都合の悪いことは特に起こらないという展開には物足りなさを覚えました。

実はコスコフこそが陰謀の首謀者であり、プーシキンはコスコフにとって不都合な人物であるため標的にされたに過ぎなかったということがドンデンなのですが、もったいないことに物凄く早い段階でこのカラクリを明かしてしまうので、騙し騙されのスリリングなインテリジェントゲームという要素も死んでいます。

また悪役の存在感も軽量級で、ソ連に最新武器を売ろうとする武器商人ウィテカーと、ウィテカーから武器を買うためにソ連の公金を横領したコスコフが黒幕なのですが、陰謀のスケールが小さい上に両者ともコミカルに演出されているので、悪の総元締めらしい威厳や恐怖がありませんでした。

現実の国際情勢を織り込んだ展開もイマイチ。

物語の終盤はソ連と熾烈な戦争を戦っているアフガニスタンが舞台となり、ボンドはムジャヒディンと組むこととなるのですが、そのムジャヒディンは白豹団と呼ばれる商人を通してソ連にアヘンを売って戦費を稼いでいます。そしてコスコフはソ連軍人でありながらアヘンを白豹団から仕入れて裏金を稼いでいるという、歪んだ構図が浮かび上がってきます。

ソ連軍人がアヘンに対して払った金が、巡り巡って自分たちに向けられる銃になっているということであり、これもちゃんと描けばかなり面白い展開になったはずなのに、驚くほど雑に扱われるので勿体ない限りでした。

本作の脚色を行ったのは第一作『ドクターノオ』(1962年)以降のほとんどの作品を手掛けているリチャード・メイボームと、『ムーンレイカー』(1979年)以降のプロデューサー マイケル・G・ウィルソンですが、彼らの手腕では素材の良さを扱い切れていません。

もっとうまい脚本家に関わらせていれば見違えるように面白くなったかもしれないだけに、古参メンバーが幅を利かせた現場も考えものです。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く
【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
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【良作】007 カジノ・ロワイヤル_荒々しく暴力的なボンド
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【凡作】007 スペクター_幼馴染みのブロフェルド君
【良作】007 ノー・タイム・トゥ・ダイ_目を見張るアクション

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