【凡作】007 ワールド・イズ・ノット・イナフ_アクション映画として不十分(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1999年 イギリス、アメリカ)
ソフィー・マルソー扮するエレクトラの魅力が只事ではなく、シリーズ有数のキャラに仕上がっているのですが、その描写に全精力を投入したのかアクションなどはただ撮っているだけという状態であり、全体的にはさほど面白くなかったことが難点でした。

作品解説

ピーター・ジャクソンが監督候補だった

前作の公開後、すぐに続編の企画がスタートし、前作のロジャー・スポティスウッド監督に続投の打診がなされたのですが、『トゥモロー・ネバー・ダイ』があまりに過酷な現場だったこともあり、スポティスウッドからは断られました。

その後に新監督選びが始まり、悪女エレクトラを中心にした物語だったこともあってか『蜘蛛女』(1993年)のピーター・メダックが候補として考えられていたのですが、その後にメダックが監督した『スピーシーズ2』(1998年)が大コケしたことから、その案はなくなりました。

また、同じく女性描写という点から『乙女の祈り』(1994年)のピーター・ジャクソンも候補に挙がったのですが、こちらも次回作『さまよう魂たち』(1996年)で、やっぱりちょっと違うっと思われて候補から外れました。

そのほか、マーティン・スコセッシやジョー・ダンテも監督候補として挙がったのちに、『愛は霧の彼方に』(1988年)のマイケル・アプテッド監督に決まりました。

脚本家としては、21世紀のボンド映画すべてに関わることとなるニール・パーヴィス&ロバート・ウェイドがシリーズ初参加。

彼らの書いたドラフトを、『ゴールデンアイ』(1995年)、『トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)のブルース・フィアステンが推敲する形で仕上げられました。

興行的には成功した

本作は1999年11月19日に全米公開され、ジョニー・デップ主演の『スリーピー・ホロウ』(1999年)を僅差で下して1位を獲得。

全米トータルグロスは1億2694万ドルで、前作『トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)をわずかに上回ってその時点でのシリーズ最高記録を達成。

国際マーケットでも好調で、全世界トータルグロスは3億6183万ドル。こちらでもシリーズ最高記録を達成しました。

感想

悪女エレクトラの魅力に尽きる

本作には二人のボンドガールが登場するのですが、うち、ソフィー・マルソー扮するエレクトラ・キングの魅力は突き抜けています。シリーズ全体を通してもトップクラスのキャラクターではないでしょうか。

エレクトラは石油王ロバート・キング卿の娘で、テロリスト レナード(ロバート・カーライル)に誘拐されて命からがら脱出した過去を持っています。そのレナードが再び活動を開始し、今度はロバート・キング卿が殺害されたことから、ボンドの警護を受けることに。

登場時点でのエレクトラはテロの被害者であり、若くして父の事業を引き継いだ女性実業家。そしてボンドは彼女の魅力に夢中になります。

しかしボンドが調べていくうちにエレクトラとレナードはグルであることが判明。かつての誘拐事件でエレクトラの心は完全に壊れており、テロリスト側の人間になっていたというわけです。

心に痛みを感じないエレクトラと身体的な痛みを感じないレナードというコンビには興味深いものがあるのですが、エレクトラの振舞を見ると二人の関係はフェアーなものではなく、一方的な愛情を示しているのはレナードの方であることが分かります。

すなわちエレクトラは、ボンドとレナードの両方を手玉にとっていたというわけで、ここまでの悪女はシリーズ史上類を見ません。

歴代ボンドガールには有名女優を使ってこなかったのですが、そんな規則性を破ってまで国際的な知名度のあったソフィー・マルソーを起用したのも、ちょっとやそっとの実力ではエレクトラを演じられないとの見立てによるものでしょう。

実際、マルソーは妖艶さと狂気の両方を帯びた演技で場の空気を席巻し、『恋におちたシェイクスピア』(1998年)でオスカーを受賞したばかりのジュディ・デンチの存在感をも霞ませます。

その最後も壮絶なもので、彼女は怒り狂ったボンドにより射殺されます。女性、しかも丸腰の相手をボンドが撃つということはかつてなかったし、状況を考えてもあの場面ではエレクトラを人質にしてレナードと交渉すべきだったのに、そうした判断がすべて吹き飛ぶほどボンドが我を失っていたというわけです。

ボンドをここまで精神的に追い込んだ敵は唯一エレクトラだけではないでしょうか。

凡庸な演出でアクション映画としては不発

そんなわけで本作はキャラクター劇として優れており、またブロスナンボンド前2作と比較するとシナリオには筋が通っているのですが、アクション映画らしいスリルや興奮というものとは無縁だったので、面白くはありませんでした。

プロデューサーたちは本作の成功のカギはエレクトラにあると睨んでいたようで、そのために『歌え!ロレッタ愛のために』(1980年)でシシー・スペイセクにアカデミー主演女優賞をもたらし、『愛は霧の彼方に』(1988年)、『ネル』(1994年)でもそれぞれシガニー・ウィーバーとジョディ・フォスターをアカデミー主演女優賞にノミネートさせたマイケル・アプテッド監督が選ばれたと思われます。

実際、エレクトラをシリーズ随一のキャラクターに仕立て上げたのだからアプテッドは期待されるだけの仕事をしたと言えますが、それ以上のものにもなっていません。

エレクトラ絡み以外の場面は「ただ撮っているだけ」という状態であり、ハラハラもドキドキもなし。

クライマックスは前作『トゥモロー・ネバー・ダイ』に引き続いて船内での格闘なのですが、アクション映画としてきちんとまとまっていた前作と比較すると、本作のダラダラ加減にはかなり厳しいものがありました。

≪007シリーズ≫
【凡作】007 リビング・デイライツ_重厚な国際情勢を軽く描く
【良作】007 消されたライセンス_地獄のような壮絶さ
【凡作】007 ゴールデンアイ_良くも悪くも伝統に忠実
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