【良作】エイリアン・ネイション_元祖『第9地区』(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1988年 アメリカ)
宇宙移民と差別主義者のコンビという『第9地区』(2009年)を先取りした物語だが、バディ刑事ものという定番ジャンルを換骨奪胎した本作もかなり面白い。水と油のコンビが次第に本物のバディになっていく様には、定番ながらも熱いものがあった。

作品解説

ターミネーター関係のスタッフ集結

本作のオリジナル脚本を手掛けたのは、後に『シークエスト』(1993-1996年)や『ファースケープ』(1999-2003年)でSFドラマの大家となるロックニー・S・オバノンで、駆け出し時代に書いた作品だった。

フォックスに提出されたこの脚本に目を付けたのが『ターミネーター』(1984年)『エイリアン2』(1986年)でお馴染みの女性プロデューサー ゲイル・アン・ハードで、彼女はさっそく資金を調達して制作に取り掛かった。

撮影にアダム・グリーンバーグ、特殊メイクにスタン・ウィンストンと『ターミネーター』(1984年)に関与したスタッフを集め、当時の夫だったジェームズ・キャメロンも本作の初期稿執筆している。

なかなかの豪華なメンツが集まったのだが、監督は『オーメン/最後の闘争』のグレアム・ベイカーで、完成作品に漂う凡庸さは、この監督のせいなのかなとも思う。

パッとしなかった興行成績

当初、本作は1988年夏に公開される予定だったのだが、ポストプロダクションの遅れから1988年10月7日公開に延期された。

この遅れの最大の要因は音楽を全面的にやり替えたことで、当初の音楽は大御所ジェリー・ゴールドスミスに依頼していたのだが、ゴールドスミスはあまりにも奇抜なテーマを作曲してきたことから製作陣はこれを支持せず、『フラミンゴキッド』(1984年)のカート・ソベルに新たなスコアを製作させた。

この遅れが影響してか、全米興行成績は2521万ドルとヒットにはならなかった。

後にテレビシリーズ化

上記の通り興行的にはパッとせず、批評家レビューも良くはなかった本作だが、その特異な設定がウケてか一定の支持層を作り、1989年から1990年にかけて22話のテレビシリーズが放送された。

さらに5本のテレビ映画も製作されており、コンテンツとしてはなかなかの成功を収めたと言える。

感想

80年代バディムービーの変種

80年代はおかしな刑事の2人組がコンビを組むアクション映画が量産された時代だった。

はじまりは『48時間』(1982年)で、以降は『リーサル・ウェポン』(1987年)、『ブラック・レイン』(1989年)などいろんなバディが試みられたが、そんな中でも最も特殊だったのが、人間とエイリアンがバディを組むという本作だった。

なお、本作が公開された1988年はそのブームもピークに達しており、ソ連刑事とアメリカ刑事がバディを組む『レッド・ブル』(原題はレッド・ヒート』)、ゾンビ刑事と常人刑事がバディを組む『ゾンビ・コップ』(原題はデッド・ヒート)も公開された。

そして本作も原題は『アウター・ヒート』だったことから、危うくヒートかぶり3連発になるところだったのだが、すんでのところで『エイリアン・ネイション』に改題をして、ややこしい事態は何とか避けられた。

エイリアン・ネイションとは文字どおりエイリアン国家という意味なのだが、疎外を意味するエイリアネイション”alienation”ともかかっているらしい。日本人にはピンとこないが。

本作は日曜洋画劇場でやたら放送されていた記憶があり、子供の頃に何度か見たのだが、なかなか面白かったという印象がある。そしてこの度DVDを購入して再見したが、やはり面白かった。

SF設定をベースとしつつも現実のアメリカ社会を映し出しており、刑事ものとしてもしっかりと作りこまれている。なかなかまとまりの良い佳作として仕上がっているのである。

『第9地区』のプロトタイプ

そして本作で気になるのは、後にアカデミー作品賞にノミネートされたニール・ブロムカンプ監督『第9地区』(2009年)との類似性である。

  • 数十万単位の宇宙移民が地球に押し寄せる
  • ただし文化的・技術的な交流はさほど盛り上がらない
  • エイリアンは魚介の蔑称で呼ばれる(こちらはタコ、あちらはエビ)
  • エイリアンは独特な好物を持つ(こちらは腐った牛乳、あちらはキャットフード)
  • すっかりエイリアンの存在に慣れきった人類社会は、やがて彼らの存在を邪魔に感じ始める

どうだろう、もはやコピーである。

本作の方が20年も早く作られているのでブロムカンプが本作を豪快にパクったとも言えるのだが、アカデミー賞ノミネート作品にそこまでの影響を与えたのだから、本作がいかに先見性に富んだ優れた企画であったかが分かる。

差別刑事&実直エイリアン

舞台は、30万人のタンクタン星人が移民してきてから3年後のLA。

高い知能と温和な精神を持つタンクタン星人達はアメリカ社会に馴染んだのだが、彼らを快く思わない地球人もいる。

ロス市警のサイクス刑事(ジェームズ・カーン)もその一人で、エイリアン達が市民権を得た街の様子を見ては、相棒と共に差別意識丸出しの会話をしている。

そんなサイクスだが、エイリアンの犯罪者が起こした強盗事件に鉢合わせして、相棒を殺されてしまう。

相棒の仇を捜すにはエイリアン社会に明るい者が必要であろうとのことで、LAPD初のエイリアン刑事 サム・フランシスコとのバディに名乗りを上げる。

こうして人間とエイリアンのコンビが成立するのだが、サイクスは己の目的にサムを利用することしか考えていないため、彼に対して塩対応を繰り返す。

対するサムは底抜けの良い奴で、「私たちのような者を受け入れてくださった地球人の寛大さに感謝しております」「私と組んでくださってありがとうございます」と、サイクスが胸に秘める悪意なんてお構いなしに、彼の懐に入っていこうとする。

そんな水と油のコンビであるが、捜査が進むうちに自然と絆が芽生え、やがて本物のバディになっていく過程には、定番ながらも胸打たれるものがあった。

ジェームズ・キャメロンが脚本に参加していることもあって、基礎が実によく出来た話なのである。

民族の痛ましい記憶

そんな感じで、当初は暴走刑事サイクスと落ち着いた刑事サムというコンビで推移してきたのだが、ある時点からこれが逆転する。

何があったのかというと、エイリアン社会の大物ハーコート(テレンス・スタンプ)が、宇宙麻薬の密売を企んでいるとの情報を掴むのである。

タンクタン星人達はもともと奴隷であり、彼らは支配階層から麻薬依存にされ、報酬として支給される麻薬欲しさに厳しい労働に耐えてきたという負の歴史を背負っている。

地球に移民したことで麻薬依存を脱することができたのに、これを再び世に出そうとする不埒な輩がいる。

これは麻薬依存という問題に留まらず、彼ら民族の負の歴史を象徴するものでもあるため、サムは決して見逃すわけにはいかないのである。

ここからは、サムが犯人逮捕に躍起になり、サイクスがこれをサポートするという関係性となるのだが、ベテラン刑事であるサイクスが若くて暴走気味なサムのメンター的な役割を果たすことで、世代間交流の物語と見ることもできる。

最後には二人の友情を試されるような試練もあり、やはりバディムービーとして充実していた。

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