【良作】栄光の彼方に_病んだアメリカの青春(ネタバレあり・感想・解説)

その他
その他

(1983年 アメリカ)
若き日のトム・クルーズの主演作だが、本作のトムは本当に綺麗な顔をしている。妙に鬱屈とした映画の内容も80年代の病んだアメリカ(©水野晴朗)らしいし、あの時代の青春映画としてなかなかの仕上がりとなっている、

感想

病んだアメリカの青春

昔、金曜ロードショーでやってるのを見た記憶がある映画。最近、OA録画をしたビデオテープが発掘されたので再見した。

このぶっとい書体が当時の金曜ロードショー感全開でテンション上がる。

撮影はヤン・デ・ボンが担当しているのだが、当時は日本語表記が定まっていなかったのかジャン・デュポンとなっていたりする。これまた古い録画ビデオの醍醐味である。

そしてこの映画、子供心にも面白いと思っていたのだが、今回見ても面白かった。

舞台となるのはペンシルベニア州西部の田舎街で、そこは親子代々工場勤めの労働者ばかりの街である。

そこはかとなく『ディア・ハンター』(1978年)の香りが漂ってくるのだが、本作の監督のマイケル・チャップマンは『タクシー・ドライバー』(1976年)の撮影監督なので、70年代的な空気は意図して作られたものだと思う。

主人公ステフ(トム・クルーズ)は地元高校のフットボール部員であるが、父や兄のように地元で職に就くことを望んでおらず、都会の大学への進学を希望している。

しかし進学ができる経済的余裕などないことから、アメフトで大学からスカウトを受けて、奨学生として進学するというチャンスにかけている。

よってステフにとってアメフトとはただの部活ではなく、この地獄から抜け出すための蜘蛛の糸なのである。

ステフが本当に関心があるのはアメフトではなく工学であることは、彼が熱心に製図などをしている様子からも明らかであり、アメフトは彼にとっての自己実現の手段であることは間違いない。

青春映画らしからぬ、この切羽詰まった感じが素晴らしい。脚本を書いたのはウォルター・ヒル監督作品『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』(1981年)のマイケル・ケーンであり、やはり田舎の鬱屈とした空気の切り取りを得意とする人材である。

そして空気だけでなく内容もなかなか暗い。

チームメイトに次々とスカウトが来る中で、ステフにだけはなかなか声がかからないという焦り。そしてせっかくスカウトが来たのに、恋人を妊娠させて進学をあきらめざるを得なくチームメイト。果ては犯罪に手を染める者までが現れる。

なかなかの底辺ぶりである。

そんな作風なので、当時アイドル的なポジションにいたトム・クルーズとリー・トンプソンは、青春映画とは思えない生々しい濡れ場も演じる。

本作の濡れ場は『スクリーム』(1996年)でトム・クルーズのアソコが見えるとしてネタにもされた。さすがに地上波放送版でアソコは確認できなかったが、ソフト版では見られるのだろうか。

ちなみに当初の予定では濡れ場は2回あったのだが、デビュー直後のリー・トンプソンがナーバスになっていることを察したトム・クルーズが製作陣に掛け合って、一度だけにさせたらしい。

コーチがクズ野郎

そんな日常を送るステフがさらなる地獄に突き落とされる。

重要な試合に負けてどんよりとしたロッカールーム。ほぼ勝ちが見えていたところでの逆転負けだったので悔しさはひとしおで、ミスをしたチームメイトは涙を流している。

そこに追い打ちをかけるのがコーチ(クレイグ・T・ネルソン)による「お前のせいだ」という心無い言葉で、隣で聞いていたステフもさすがにキレた。

「いやいや、あんたの采配だってミスってただろ」

図星を突かれたコーチは激昂して、ステフはクビだと言い出す。大の大人が高校生相手にマジになって恥ずかしい限りだ。

帰りのバスからも降ろされたステフは街の悪い大人の車に乗せてもらうのだが、ここから事態は余計にこじれる。

良い歳をして地元高校のアメフトに入れ込み続けるオヤジたちは、負けたのは采配ミスのせいだと言って、コーチの家に押しかけて落書きをしたり玄関先に鳥の死骸を吊るしたりの嫌がらせをする。

深夜にどうやって鳥の死骸を用意したのかは謎だが、コーチに対する個人的恨みも持つステフもこれに参加し、しかもコーチ本人に見つかってしまう。どんくさすぎるだろ、ステフ。

後日、ステフはコーチに謝罪に行くのだが、怒り心頭のコーチは全く耳を貸さない。それどころか、ステフに関心を持った大学のアメフト関係者に対して「あいつは態度に問題がある」と言って、彼の進学機会を握りつぶしてしまう。

個人的なトラブルを抱えているとはいえ、これはやり過ぎである。いかに気に食わなくても、教師としてやるべきことはやろう。

もう無理だ、蜘蛛の糸は切れたと判断したステフは、高校を中退して地元の鉄工所で働き始める。分かってくれとは言わないが、そんなに俺が悪いのかと言いたくなりそうなシチュエーションである。

なのだが、コーチ自身も薄給の高校教師を抜け出して大学の指導者になる道を得たものだから、憑き物が落ちたように穏やかになり、今度はステフに対して世話を焼き始める。

何から何まで私情ばかりのこのコーチは教育関係者として全くふさわしくないと思うのだが、こういうクズみたいなやつがいると映画が盛り上がるのもまた事実であり、ムカつきながらも楽しめた。

スポンサーリンク
公認会計士のB級洋画劇場