(2022年 アメリカ)
派手!かっこいい!クドイ!マイケル・ベイが得意のカーアクションで136分を埋め尽くしたという、アクション映画ファンにとってはご褒美のような作品だった。ストーリーやキャラ描写なんてものは要らない、車が派手に爆破していればそれでいいんだという豪快な割り切りも気持ちよかった。

感想
90年代アクションのアップグレード版
マイケル・ベイが久々に純然たるアクション映画に帰ってきたというわけで、高校時代に『ザ・ロック』(1996年)のレーザーディスクをテレビCM並の頻度でリピートしていた私としては、居ても立っても居られなくなって初日にIMAX版に駆け付けた。
マイケル・ベイの新作、しかも全米より2週間前の公開というご祝儀のような興行であったが、映画館には10名程度の客しかいなかったのは切なかった。
しかも、私を含む10名は全員エグゼクティブ・シートに座っており、ここにはゴリゴリのファンしかいないということも判明。
一般人が純然たるアクション大作を見に映画館に足を運ぶという、90年代のような光景はもはやないのかと、ちょっと寂しくなった。
作品の内容はというと、ジェリー・ブラッカイマーとマイケル・ベイが量産していた90年代アクションのリバイブという風情で、あの時代のアクション映画好きにはたまらない作品になっていた。
白人と黒人の兄弟という設定からしてウェズの『マネー・トレイン』(1995年)だし、『ターミネーター2』(1991年)や『60セカンズ』(2000年)でお馴染みロサンゼルスリバーでの激しいカーチェイスもある。
猛スピードで疾走する車の背後を、超低空飛行のヘリが追うという90年代にしつこいほど見せられた構図も、本作でしつこいほど見せられることになる。
ベイもかなり意識的で、劇中の会話では『バッドボーイズ』(1995年)や『ザ・ロック』(1996年)ネタが登場するし、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世扮する主人公ウィル・シャープは、『アルマゲドン』(1998年)でウィリアム・フィクトナーが演じたキャラと同名である。
この通り、90年代アクションを意識的になぞった作品なので、あの時代の映画に感じるもののある方は必見なのである。
ストーリーなんて飾りです
子供が生まれたばかりのタイミングで奥さんがガンになるが高額な手術代を保険で賄えず、しかも自分自身は無職という八方塞がりにも程がある元軍人ウィル・シャープ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)がいる。
奥さんに「保険金が下りたぞ!」と嘘をついてウィルが向かった先は、血のつながらない兄ダニー(ジェイク・ギレンホール)のところだった。
ダニーは犯罪組織を率いており、お国のために戦ってきたウィルとしてはしばらく距離を置いてきた仲だったのだが、背に腹はかえらんというわけで、今度ばかりは兄に金を借りようとしているのである。
ただしウィルの経済状況を考えると”借りる”というよりも”もらう”に近く、そんな雰囲気を察したダニーからは「今から銀行強盗に行く。それを手伝えば高額報酬が手に入るぞ!」との提案を受ける。
家族とはいえ金が絡むとシビアになるのは世の常ですな。
で、背に腹は代えられないウィルとしては銀行強盗に参加せざるを得なくなり、彼は『ヒート』(1995年)のデニス・ヘイスバート状態に置かれる。
ただし当日飛び入り参加の銀行強盗ではロクなことにならないのはアクション映画の常であり、ウィルもまたえらい目に遭わされる。
同じマイケルでもマンではなくベイなので、ダニー強盗団の作戦は超適当。「ガーっと侵入して、バーっと逃げる」程度のざっくりとしたプランしかない。
しかも顔を隠すでもなく、強盗中でも本名で呼び合う。
この世界線上では現行犯逮捕さえされなければお咎めなしなのかというほどのユルユル作戦は早々に崩壊し、ケガをした警察官と緊急救命士を人質にして、二人は救急車で逃げ出すというのが本編となる。
実は本作は『25ミニッツ』(2005年)というデンマーク映画のリメイクであり、オリジナルは、このまま救急車で逃走するのか、それとも車内の重症者を病院にまで送り届けるのかの二者択一を迫られるという、マイケル・サンデルの『白熱教室』的な内容だったらしい。
しかしそこはマイケル・ベイのこと、そんなしちめんどくさい問答など早々にうっちゃってしまい、ウィル&ダニーには逃げる以外の選択肢を与えない。
じゃあ車内の重症者はどうするのかというと、爆走中の車内で医者からのリモート指示を受けながらの緊急手術を行い、迷わず二兎を追うことにする。
まぁ滅茶苦茶な内容で、ストーリーなどないに等しい。
それはキャラ描写においても同様であり、特にダニーなどは、犯罪者だが実は良い奴と思わせつつ、たまにマッドな判断も下すという具合に、善悪の境をフラフラしすぎて結局何者なんだかよく分からん。
よく分からんのだが、カメレオン俳優と呼ばれるジェイク・ギレンホールを起用することで、まぁ何とか帳尻は合っているのだから、俳優の演技って大事なんだなということを改めて思い知らされた。
見せ場だけで埋め尽くされた長尺
そんなわけでストーリーは超適当、キャラ描写は俳優にお任せ状態で、マイケル・ベイはアクション演出に全振りしている。
そもそもアクション演出には定評のあったベイだったが、本作では特に凄まじいことになっている。
撮影中に何台の車を潰したんだというほど車のクラッシュが日常茶飯事的に発生。その度に凄まじい火花が散り、火炎が噴き出す。その映像的快感や、クセになるレベルである。
その他、遠隔操作の車が警官隊に向けて突っ込んでいき、ガトリング砲を乱射するという、バカが考えたとしか思えない見せ場もバッチリものにしており、本作のアクション演出は本当に神がかっている。
しかも凄いのが、そんな豪快なアクションが136分という長尺を埋め尽くしているということである。
「136分とはいえ、最後の10分はエンドロールでしょ」と思ったあなたは甘い。
本作のエンドロールは最近の海外ドラマよりも短く、2時間以上に渡ってカーアクションが続くという現象は、誇張ではなく事実なのである。
これをやり切ったマイケル・ベイの絶倫ぶりには本当に驚かされる。
「なんか俺が『トランスフォーマー』シリーズに関わっている内に『ワイルド・スピード』がアクション映画界で幅を利かせるようになったらしいが、カーアクションと言えば俺が一番だからな!」
そんなベイの心の声が私には聞こえてきたような気がした。
そして、これからもベイに付いていきたいと思った。