ブレイブハート_燃える時代劇【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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中世・近代
中世・近代

(1995年 アメリカ)
13世紀のスコットランド。少年期にイングランド軍に家族を殺されたウィリアム・ウォレスは農夫として静かに生きることを望んだが、妻までをイングランド軍に殺されて復讐を行う。そして、個人の復讐劇はスコットランド独立運動へと繋がっていく。

8点/10点満点中 ドラマ性とスペクタクルの両立

©20th Century Fox

1995年のアカデミー賞作品賞受賞作

1月22日に第91回アカデミー賞のノミネート作品が発表され、『女王陛下のお気に入り』と『ROMA/ローマ』が最多ノミネートのことでした。『女王陛下のお気に入り』は批評家絶賛の宮廷ドラマなのですが、2018年11月25日の全米公開から一度たりとも週間興行成績トップ10に顔を出したことがないほど観客から見られていない映画だし(ノミネート効果でこれから伸びるのでしょうが)、『ROMA/ローマ』も監督自身の家庭環境を描いた規模の小さいドラマであり、年間のベストを競うメンツとしてはちょっと物足りない気もしました。

『ノーカントリー』が作品賞を受賞した2007年頃からアカデミー賞はピリリとした小品が受賞する傾向が強くなったのですが、かつてのアカデミー賞はドラマ性とスペクタクルを高度に両立したザ・ハリウッドな映画が受賞する賞でした。
本作こそがまさにその典型例。エモーショナルなドラマに、大規模なアクションに、美しい撮影に、どっしり重厚な風格と、アカデミー賞の求めるものがすべて備わった満足度の高い娯楽作として仕上がっています。近年ではオスカーにふさわしくない受賞作として挙げられる傾向も見られるのですが、同年のノミネート作品(『アポロ13』『ベイブ』『イル・ポスティーノ』『いつか晴れた日に』)と比較しても本作がぶっちぎりであり、本作を差し置いてまで受賞に値するライバルはいなかったと断言できます。

メル・ギブソン監督の素晴らしい演出

メル・ギブソンはピーター・ウィアーやジョージ・ミラーから演出法を学んだと言いますが、静から動への転換や、言葉を使わずに感情表現をするという情感豊かな演出面でいかんなく才能を発揮しており、監督2作目にして巨匠レベルの仕事をものにしています。

例えばミューロンを殺されたウォレスが駐留軍への反乱を開始する場面。ドラマからアクションへと転換する本編中の最重要場面なのですが、まずウォレスを長い長いスローモーションで捉え、哀しみが怒りへと転換する様を一切のセリフを使わずに表現。次に、ウォレスが一撃目を繰り出すタイミングでスローモーションから通常スピードへと戻り、ここから凄まじい勢いで大アクションが展開されるのですが、このアクションへ向けてのテンポの作り方や、開始されたアクションのテンションの高さには目を見張るものがありました。

歴史的事項に係る誤謬の数々

他方で問題なのは、歴史的事項に係る誤謬があまりに多いことです。
脚本を書いたランダル・ウォレス(同姓ですがウィリアム・ウォレスとの血縁はありません)は、自由にドラマを構築できるようあえてリサーチせずに脚本を書いたそうです。なので本作には誤謬が山ほどあります。

なお、ランダル・ウォレスとメル・ギブソンのコンビは2004年に空前の大ヒットとなった『パッション』の続編を作ろうとしているようです。ただし、作るとしたら映画史上最大規模の予算が必要になるとの話もあり、本当に製作するのかどうかはかなり不確実ですが。

初夜権

初夜権とは、権力者、聖職者、世俗的人格者などが、領地において結婚したばかりの新婚夫婦が存在した場合に、その初夜において新郎よりも先に新婦と性交することができる権利を指し、本作においてはウォレスの反乱のきっかけとなった悪法という重要な構成要素のひとつとなっています。
スコットランドのみならず世界各地で初夜権について記した文献は多く見られるのですが、肝心の文献が「昔、こんな制度があったらしい」という伝承や伝聞の記録ばかりで、当該制度について直接的に記載した文献が皆無であるため、その実在性を疑問視する声はかなりあります。私の個人的な見解としては、領主の目的は結婚に対する課税であり、課税に応じない場合には新婦の体を使ってでも払ってもらうぞと脅した話のみが一人歩きして、結婚したら新婦を差し出さねばならないという話に変容したのかなと思っています。

自由

ウォレスは自由、自由と連呼するのですが、自由という価値観が政治的主張として確立したのは17世紀後半のジョン・ロックやジョン・スチュアート・ミルなどの啓蒙主義時代であり、13世紀末を舞台にした本作は400年早すぎました。この辺りは、啓蒙主義の影響を受けて建国されたというそもそもの成り立ちが原因で、自由や民主主義が人類史上普遍の価値観だと思い込んでいるアメリカ人特有の錯覚であり、民主主義を押し付けるために他国を攻撃する現代のアメリカの国策にも通底するものがあって興味深く感じました。それらの価値観を重んじていない人たちも広い世界にはいるということをあの国には早く理解いただきたいものです。

ファッション

ウォレスの軍勢は青い染料でウォーペイントを施して戦場に現れるのですが、このウォーペイントは13世紀よりも1000年も前の古代ケルト人の風習でした。Blu-rayのコメンタリーを聞くとメル・ギブソンもこの誤謬は認めており、「まぁ文献には書いてないけど13世紀にもやってたかもね」なんて苦しい言い訳をしていましたが、絵的に非常に映えることと、モブの中で主要登場人物が一目で見分けられるという効果もあって、映画の演出としては成功していました。
また、現在の形のキルトは18世紀に作られたもので、こちらは500年早すぎました。

フランス王女・イザベラの年齢

ソフィー・マルソー演じるイザベラはウォレスと恋仲になりますが、イザベラの生年は1295年、イギリスに嫁いで来たのが1308年であり、対してウォレスが処刑されたのは1305年なので、恋仲どころか二人の間には面識すらありませんでした。

【おまけ】ウィリアム・ウォレスの年齢

これは誤謬ではないのですが、ちょっとした違和感があったので記載しておきます。
ウォレスの生年は定かではないのですが、スターリングの戦いの時点で25歳頃、処刑された時点で33歳頃とされており、撮影当時38歳のメル・ギブソンでは歳を行き過ぎていました。特に前半におけるミューロンとの恋愛パートでは、無軌道な若者として見るにはメルギブは貫禄ありすぎだったし、当時22歳のキャサリン・マコーマックとも不釣り合いでした。メルギブ自身にもその自覚はあり、当初の想定では監督業に専念して主演にはジェイソン・パトリックを使おうとしていたのですが、せっかく大スター・メル・ギブソンが関わる企画なのに大スターを出さないでどうすんだとパラマウントが主張したことから、渋々メルギブが主演したという経緯があります。監督・主演の兼任はかなりの負担だったと述べており、後の作品では監督業に専念するようになりました。

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