【駄作】今そこにある危機_長いだけで面白くない(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント

(1994年 アメリカ)
長大で複雑な原作小説の要約に失敗した作品。話を追いかけることにいっぱいいっぱいで面白くするという肝心なことが放棄されており、大作であるにも関わらず目を見張るような見せ場も少なく、特に見るべき所のない映画でした。

あらすじ

カリブ海でアメリカ人実業家一家の死体が発見された。一家は現職大統領の友人でもあったが、その凄惨な死に方から麻薬カルテルの資金洗浄係だったことが明らかになる。政治スキャンダル化を恐れるホワイトハウスは、国民的関心の高い麻薬戦争で成果を挙げることを急ぎ、特殊部隊を使った違法な軍事作戦を開始する。CIA分析官ジャック・ライアン(ハリソン・フォード)は蚊帳の外に置かれていたが、次第に合衆国政府の関与に気付き始める。

スタッフ・キャスト

監督は『パトリオット・ゲーム』のフィリップ・ノイス

1950年オーストラリア出身。1977年に映画監督デビューし、若い頃のニコール・キッドマンが主演したサスペンス『デッド・カーム/戦慄の航海』(1988年)などを手掛けてきました。『座頭市』のハリウッドリメイク『ブラインド・フューリー』(1989年)でハリウッドに進出し、『パトリオット・ゲーム』(1992年)でジャック・ライアンシリーズを任されての続投となります。

他にシャロン・ストーン主演のエロサスペンス『硝子の塔』(1993年)、アンジェリーナ・ジョリー主演のスパイアクション『ソルト』(2010年)などを手掛けているのですが、名作・傑作の類を撮ったことはなく、凡庸な監督だと言えます。

直近作はジェフ・ブリッジスやメリル・ストリープが出たのに面白くなかったティーン向けSF『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(2014年)です。

ギヴァー 記憶を注ぐ者_パクリと矛盾のオンパレード【2点/10点満点中】

有名脚本家が複数参加

  • ドナルド・E・スチュワート:1930年生まれ。コスタ=ガヴラス監督の政治サスペンス『ミッシング』(1982年)の共同脚本でアカデミー脚色賞を受賞しました。本作を含め『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)、『パトリオット・ゲーム』(1992年)と、90年代のジャック・ライアンシリーズには皆勤賞を通しました。
  • ジョン・ミリアス:1944年生まれ。『ダーティハリー』(1971年)の脚本をノークレジットで執筆し、その続編の『ダーティハリー2』(1973年)では正式なクレジットを得ました(マイケル・チミノとの共同脚本)。同年の『デリンジャー』(1973年)で監督デビュー。以降、『風とライオン』(1975年)、『ビッグ・ウェンズデー』(1978年)、『コナン・ザ・グレート』(1982年)の監督・脚本を手掛けました。『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)にもノークレジットで参加しています。
  • スティーヴン・ザイリアン:1953年カリフォルニア州出身。ショーン・ペン主演の実録スパイサスペンス『コードネームはファルコン』(1985年)で脚本家デビューし、『シンドラーのリスト』でアカデミー脚色賞受賞。オリジナルよりも雇われ仕事で実力を発揮するタイプのようで、『ミッション:インポッシブル』(1996年)、『ハンニバル』(2001年)などの脚色で確かな腕前を披露しました。マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』(2019年)が直近作です。

主演は大スター・ハリソン・フォード

1942年シカゴ出身。本作が製作された1990年代には世界最高の映画スターであり、前作『パトリオット・ゲーム』(1992年)からの続投となります。

実はシリーズ第一弾『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)も製作側のキャスティング希望はハリソン・フォードだったのですが、断られたのでアレック・ボールドウィンに決まったという経緯がありました。

音楽は『タイタニック』のジェームズ・ホーナー

1953年LA出身。元はUCLAで音楽理論を教えていたのですが、B級映画の帝王ロジャー・コーマンに誘われて映画音楽の世界に入り、コーマンの伝手でジェームズ・キャメロンと知り合いになりました。『エイリアン2』(1985年)『ブレイブハート』(1995年)、『アポロ13』(1995年)など錚々たる作品を手掛け、『タイタニック』(1997年)でアカデミー歌曲賞と作曲賞を受賞。

作曲家のクセって出てしまうのか、本作冒頭のファンファーレや特殊部隊降下場面でのスコアは同時期の『アポロ13』(1995年)によく似ているし、以前に手掛けた『コマンドー』(1985年)に似た曲調、後に手掛ける『タイタニック』(1997年)に似た曲調もあって、「この部分はあの映画っぽいなぁ」と思いながら聞くと楽しめます。

ここから超余談ですが、『タイタニック』のメインテーマに歌詞を付けて歌曲化にすることに、当初ジェームズ・キャメロンは反対していました。しかしホーナーが秘密裏に作詞や歌唱を発注し、ある程度出来上がったものをキャメロンに聞かせてゴーサインを得たという経緯があります。

こうしてリリースされた『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』は全世界で1500万枚を売り上げる世紀の大ヒット曲になったのだから、ジェームズ・ホーナーには商才もあったということになります。

作品概要

ジャック・ライアンシリーズ第3弾

ジャック・ライアンシリーズとはトム・クランシー原作の軍事小説シリーズであり、小説の第1弾『レッド・オクトーバーを追え!』が1990年にジョン・マクティアナン監督×アレック・ボールドウィン主演で映画化されて大ヒットしました。

続けて小説第2弾『愛国者のゲーム』も映画版第二作『パトリオット・ゲーム』(1992年)として映画化されて、こちらも大ヒット。ただしメンバーはフィリップ・ノイス監督×ハリソン・フォード主演に変更されましたが。

小説の順番的には次に『クレムリンの枢機卿』が来るのですが、その内容が『レッド・オクトーバーを追え!』の直接的な続編であるため、監督と主演が交代した映画版シリーズにとっては都合が悪いと判断されたのか、これは飛ばして小説第4弾『いま、そこにある危機』が映画化されました。

「今そこにある危機」とは

原題の”Clear and Present Danger”とは法律用語で、邦題はこれを直訳したものですが、日本語では「明白かつ現在の危険」と訳されることが一般的です。これは緊急時における自由の制約を定める際の判断基準であり、1919年に定式化され、1969年には現在にまで効力を発揮しているブランデンバーグの基準というものが示されました。

  • 近い将来、実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白であること
  • 実質的害悪が重大であり時間的に切迫していること
  • 当該規制手段が害悪を避けるのに必要不可欠であること

この3要件を充たした時に、当局は表現行為等を規制することができるとされています。

悪役のモデルはパブロ・エスコバル

1980年代から1990年代にかけてアメリカ合衆国は麻薬カルテル戦争を戦っていました。Netflixの人気シリーズ『ナルコス』でお馴染みの世界であり、コロンビアのメデジン・カルテルやカリ・カルテルがその相手でした。

そして、本作の悪役エルネスト・エスコベドはその名前、風貌から明らかにパブロ・エスコバルがモデルとなっています。

パブロ・エスコバルとはコロンビアの麻薬産業を確立して世界のコカイン流通量の80%を手中におさめ、一時期は世界第7位の富豪にまで登り詰めた男です。国際的には大犯罪者だったのですが、慈善事業に熱心で教育や貧困者支援に尽力したことから、コロンビア国内での人気は高かったようです。

劇中、エスコベドの所属するのはカリ・カルテルということになっているのですが、実際にはパブロ・エスコバルが所属していたのはメデジン・カルテルであり、カリ・カルテルはエスコバルのライバル組織でした。

メデジン・カルテルは1993年に壊滅していたために、本作製作時点でコカイン取引の覇権を握っていたカリ・カルテルに変更されたものと思われます。

ナルコス(シーズン1)_麻薬戦争は文字通り戦争だった!【8点/10点満点中】

登場人物

CIA

  • ジャック・ライアン(ハリソン・フォード):CIA分析官で、上司グリーアの重病に伴いCIA副長官代行として事態に当たる。分析官らしい率直な物言いをするため、ホワイトハウスでのコミュニケーションに苦労する。また持ち前の清廉性が政界で煙たがられて蚊帳の外に置かれがち。
  • ジェームズ・グリーア(ジェームズ・アール・ジョーンズ):CIA副長官で、ジャック・ライアンの上司。膵臓がんに侵されていることが判明し、部下のジャックを後任に指名する。演じるジェームズ・アール・ジョーンズは『スターウォーズ』シリーズのダースベイダーの声優なので、ベイダーがハンを後任に指名したという構図となっている。
  • ロバート・リッター(ヘンリー・ツェニー):CIA作戦担当副長官。大統領補佐官カッターと結びつき、国際法違反の「相互利益作戦」を陰ながら遂行する。

ホワイトハウス

  • エドワード・ベネット(ドナルド・モファット):アメリカ合衆国大統領。友人がカリ・カルテルの資金洗浄係であることが判明して政治スキャンダルに晒される。支持率回復のため、カリ・カルテルNo.2のコルテズとの裏取引の上、違法な形で特殊部隊を海外に派遣するという「相互利益作戦」の実行をカッター補佐官に命じる。
  • ジェームズ・カッター(ハリス・ユーリン):大統領補佐官。カリ・カルテルNo.2のコルテズと繋がっており、CIAのリッターとジョン・クラークを使って「相互利益作戦」を遂行する。

特殊部隊

  • ジョン・クラーク(ウィレム・デフォー):コロンビアで活躍するCIA工作員で、海軍特殊部隊出身。「相互利益作戦」の実行担当者となり、優秀な軍人をスカウトしてチーム編成をする。
  • ラミレス(ベンジャミン・ブラット):米陸軍大尉。コロンビアへ潜入する特殊部隊のリーダーを務める。
  • ドミンゴ・シャベス(レイモンド・クルス):米陸軍軍曹。狙撃の名手で特殊部隊の一員にスカウトされた。

カリ・カルテル

  • エルネスト・エスコベド(ミゲル・サンドバル):カリ・カルテルのボス。メデジン・カルテルのパブロ・エスコバルがモデル。
  • フェリックス・コルテズ(ジョアキム・デ・アルメイダ):カリ・カルテルの相談役だが、裏でカッター補佐官と結びついている。ボスであるエスコベドの首を差し出し、麻薬取引量を減少させて合衆国政府に花を持たせる代わりに、クーデターにより自身が乗っ取った後のカルテル存続を黙認させるという「相互利益作戦」を進めている。

感想

長大で複雑な物語をまとめることでいっぱいいっぱい

面白そうな話なのに、なんでこんなに面白くないんだろうかというのが本作に対する率直な感想です。

1990年代の麻薬カルテル戦争を舞台に、大統領再選に向けて政治スキャンダルを何とか収拾したいホワイトハウスと、麻薬カルテル内部でクーデターを起こそうとするNo.2が結びつき、ボスの首を討ち取らせるという成果を合衆国政府に与える代わりに、後継組織の存続を保証させるという密約を結びます。

「相互利益作戦」と呼ばれるこの密約に気付いたジャック・ライアンが、米大統領も絡む陰謀に立ち向かうことが本作の概要となります。

これだけ書くと実に面白そうな話なのですが、本編は長大で複雑な物語を娯楽映画の尺に落とし込むことにいっぱいいっぱいで、原作小説のダイジェスト版のような仕上がりとなっており、映画らしい面白みはありませんでした。

ホワイトハウス・麻薬カルテル・CIAだけでなく、米陸軍、FBI、DEAなども絡んでくるため舞台や登場人物があっちやこっちへ激しく移って落ち着きがないし、米国の行政機関の区別がついていないと相当に厳しい内容となっています。

【保安官・市警・FBI】アメリカ捜査機関を徹底解説【DEA・CIA・NSA】

また現在どれほど深刻なことが起ころうとしているのかという認識が観客の側で十分に形成されていない状態で驚きの展開を持ち込んでくるので、あらゆることがサラっと流されていくような感覚を持ちました。

清廉潔白なジャック・ライアンは主人公向きではない

こうした込み入った物語を見ていて感じたのは、ジャック・ライアンを主人公にしない方が分かりやすかったんじゃないかということでした。分析官があっちへ行ったりこっちへ行ったりする物語は連続ドラマでこそ有効であっても、映画向きではないのかもしれません。

例えば『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)ではジャック・ライアン(アレック・ボールドウィン)は脇役扱いとなっており、ラミウス艦長(ショーン・コネリー)を実質的な主人公にし、レッド・オクトーバー号の亡命劇に視点を絞り込むことで、観客が感情移入しやすい物語を構築していました。

本作で言えば現場で特殊部隊の指揮を執るジョン・クラーク(ウィレム・デフォー)を主人公にし、ホワイトハウスからの指示により国際法違反の隠密作戦に従事するが、使い捨てにされたことでむしろ敵対者側にいたはずのジャック・ライアンと結びつくという物語にすれば、随分とスッキリした話になったんじゃないかと思います。

そもそも、ジャック・ライアンというキャラクターには面白みがありません。家族を愛する男で職務においても清廉潔白。たとえ大統領からの誘いであっても、汚い方向には決して転ばない鉄の意思の持ち主。ここまで理想的な人物って主人公には向きません。

「いま政治スキャンダルを起こすことは利敵行為だ」「意思決定過程にウソや誤魔化しがあったとしても、麻薬戦争を鎮静化させるという実利があるのなら不正を黙認すべきではないか」というホワイトハウス側の主張にも一理ある中で、どうすることが真の正義なのかを主人公が悩み、観客に対しても問題提起してこそ本作は面白くなったと思うのですが、「ならぬものはならぬのです!」で突っ走るジャック・ライアンが主人公では、その醍醐味が大きく損なわれています。

実は、原作小説ではジャック・ライアンは大統領の告発を見送ります。ここで「いま、そこにある危機」というタイトルが意味を為してくるのですが、麻薬戦争という目の前の脅威に対して、今は口をつぐんでおくべき時であると苦渋の決断を下すのです。

こうした逡巡が描かれていれば社会派サスペンスとして筋が通ったのかもしれないのですが、主人公が最後まで清廉潔白では面白みがありません。

麻薬戦争のえげつなさが描けていない

テレビドラマ『ナルコス』を見ていれば麻薬カルテルというのはマジでヤバイ連中だということが分かるのですが、本作ではその部分の描写が不足しており、ボスのエスコベドも脱税している中小企業の経営者くらいにしか見えてきませんでした。

その結果、麻薬戦争を舞台にしながら麻薬戦争をまったく描けていないという致命的な問題が発生しています。

そして終盤でジャック・ライアンがエスコベドの元を訪れて共同戦線を提案するという展開も、サプライズ足りえていません。

これって、日本で言えば内閣府の不正に気付いて四面楚歌となった警察官僚が、山口組の親分のところに行って協力を求めるような物凄い展開なんですけどね。事前のキャラクター描写の不足によって、その面白さが全然伝わってきませんでした。

アクション映画としての不完全さ

本作はアクション映画という側面も持っているのですが、この点でも不発でした。

見せ場の数が少ない上に、面白いアクションもなく、ただ撮っているだけ状態。FBI長官一行の車列が袋小路でロケットランチャーに襲われる場面のみ素晴らしかったのですが、これが作品の中盤なのでハイライトの配置にも失敗しています。

実はフィリップ・ノイス監督は、クライマックスの捕虜奪還劇もロケットランチャーに匹敵する見せ場になると思って撮っていたらしいのですが、完成した見せ場はどうにも鈍重で派手さにも欠けるものでした。完全に計算が狂っていたのです

本作の出来には原作者のトム・クランシーも大変不満だったようで、フィリップ・ノイスを二流監督と見做していたようです。

≪ジャック・ライアンシリーズ≫
【良作】レッド・オクトーバーを追え!_シリーズで一番面白い
【駄作】今そこにある危機_長いだけで面白くない
【凡作】トータル・フィアーズ_全然恐怖を感じない
【凡作】エージェント:ライアン_役者は良いが話が面白くない