【良作】コラテラル_死闘!社畜vs個人事業主(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(2004年 アメリカ)
スリラーとしてはあまりに設定がユルユルな一方、お仕事論としては非常に充実しており、「明日からしっかり仕事しよう!」と思わせられるような普遍性もあって、自分に気合を入れたい時に見たくなる映画です。

あらすじ

ある夜、タクシー運転手のマックス(ジェイミー・フォックス)はビジネスマン風の客を乗せる。ヴィンセント(トム・クルーズ)というその男は不動産業者であり、一晩で複数の物件を回りきるためにタクシーを貸切りたいと言う。600ドルの提示額に負けたマックスはこれを引き受けるが、最初の目的地でヴィンセントを待っていると空から死体が落ちてくる。ヴィンセントの正体は殺し屋であり、その任務遂行にマックスは付き合わされることになる。

スタッフ・キャスト

監督は男性映画の巨匠マイケル・マン

1943年シカゴ出身。1960年代半ばにイギリスへ渡り、リドリー・スコット、アラン・パーカー、エイドリアン・ラインらとコマーシャル演出などを手掛けました。昔の仲間が凄すぎですね。

その後アメリカに帰国しテレビ番組の脚本や演出を手掛けるようになり、製作総指揮を務めた『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1989年)が大人気となりました。

並行して映画界での活動も行っており、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981年)で長編監督デビューし、ハンニバル・レクターシリーズ第一弾『刑事グラハム/凍りついた陰謀』(1986年)などを手掛けています。

90年代に入ると時代劇『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)がヒット。ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノを共演させた『ヒート』(1995年)がクライムアクションの金字塔となり、『インサイダー』(1999年)でアカデミー監督賞ノミネートと、男性映画の巨匠としての地位を確立しました。

主演は大スター・トム・クルーズ

1962年ニューヨーク州出身。

高校卒業後に俳優を目指してハリウッドに移り、『タップス』(1981年)、『アウトサイダー』(1983年)、『栄光の彼方に』(1983年)などの青春映画に次々と出演。『卒業白書』(1983年)でゴールデングローブ主演男優賞にノミネートされました。

リドリー・スコット監督のファンタジー『レジェンド/光と闇の伝説』(1985年)はコケたものの、その弟トニー・スコット監督の『トップガン』(1986年)が年間第一位の大ヒットとなり、加えて同年に出演したマーティン・スコセッシ監督の『ハスラー2』(1986年)で共演のポール・ニューマンにアカデミー主演男優賞をもたらしたことで評価と人気を獲得。

以降も『カクテル』(1988年)や『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)のような若者向けの軽い作品と、『レインマン』(1987年)や『7月4日に生まれて』(1989年)のような賞レース向けの映画の両方にバランスよく出演し、スターの中のスターとなりました。

40歳を過ぎた辺りからアクションスターとして開眼し、近年は『ミッション:インポッシブル』シリーズの無茶なスタントで名を馳せています。

共演のジェイミー・フォックスはアカデミー賞にノミネート

1967年テキサス州出身。高校時代はアメフトのクォーターバック、大学進学後には名門ジュリアード音楽院でピアノを学び、卒業後にはコメディアンになったという、恐ろしいほど何でもできる人です。

コメディアンとして出演したテレビ番組『ザ・ジェイミー・フォックス・ショー』(1996-2001年)が大人気となり、ミュージシャンとしてアルバムもリリース。

オリバー・ストーン監督の『エニイ・ギブン・サンデー』(1999年)から本格的に俳優業を開始し、テイラー・ハックフォード監督の『Ray/レイ』(2004年)でアカデミー主演男優賞を受賞しました。

本作のマックス役にはアダム・サンドラーが予定されていたのですが、他作品とスケジュールが競合して出演できなくなったので、代わりにマイケル・マンの前作『ALI アリ』(2001年)に出演したフォックスが選ばれたのでした。

作品解説

全米No.1ヒット作

本作は2004年8月6日に公開され、M・ナイト・シャマラン監督の『ヴィレッジ』(2004年)やポール・グリーングラス監督の『ボーン・スプレマシー』(2004年)を抑えて全米No.1を獲得。

その後も好調を維持し続けて7週に渡ってトップ10圏内に留まり、全米トータルグロスは1億100万ドル。意外なことですが、マイケル・マンにとって初めて1億ドルの大台を突破した作品となりました。

世界マーケットでも好調であり、全世界トータルグロスは2億800万ドル。6500万ドルという控えめの製作費を考えると興行的には大成功したと言えます。

登場人物

  • ヴィンセント(トム・クルーズ):フリーランスの殺し屋。一晩で5件の殺しを依頼主から請け負い、偶然拾ったマックスのタクシーを使って全件を回ろうとしている。中盤のファニング捜査官の台詞によると複数の暗殺の後にタクシー運転手が殺されるという事件がオークランドでも発生したとのことだが、その犯人がヴィンセントなのかどうかは不明。
  • マックス(ジェイミー・フォックス):LAのタクシー運転手。土地勘が良く、誠実な仕事ぶりであることからヴィンセントの目に留まってしまった。個人事業主として独立することを夢見ている。
  • アニー・ファレル(ジェイダ・ピンケット=スミス):LA検事局の検事。マックスのタクシーの乗客だったが、運転手としてのスキルの高さと誠実さに感心し、自分の名刺を渡した。
  • レイ・ファニング(マーク・ラファロ):LA市警の刑事。ヴィンセントが別々の場所で殺害した死体の銃創が似ていたことから同一犯による殺人であることを見抜き、ヴィンセントを追いかけ始める。
  • フェリックス(ハビエル・バルデム):ヴィンセントの依頼主。

感想

あまりに杜撰な殺し屋

トム・クルーズ扮するヴィンセントは腕利きの殺し屋という設定なのですが、その割には行動が余りに杜撰なのでスリラーとしては盛り上がりません。

LAに着いた夕方にターゲットの一覧を受け取り、下調べもせずその夜には殺しを実行するという段取りの悪さ、というか段取りの無さ。

見ず知らずのタクシー運転手に業務の重要な部分を担わせ、暗殺で目を離している最中にそいつが通報もせず逃げもしないだろうという甘い見通し。

そして車のフロントガラスが破損してパトカーに停められるリスクが高まり、運転手のマックス(ジェイミー・フォックス)に殺し屋であることがバレて面倒な状況になったにも関わらず、車もマックスも処分しないという不用心さ。

いろんな理屈が破綻しています。

個人事業主vs社畜

そんな無理な設定を貫いてまで監督がタクシーという密室劇にこだわったのは、ヴィンセントとマックスの対話を描きたかったためだろうと思います。

冒頭から何度も言及される通り、マックスは個人事業主としての開業を夢見つつも、今は雇われドライバーに甘んじている男です。

他方でヴィンセントはと言うと、もともと殺し屋組織に所属していたが6年前に独立してフリーランスになったと自分自身で述べています。

独立志向という点でヴィンセントとマックスは共通しており、それを成し遂げて軌道に乗せたヴィンセントに対し、一歩踏み出せず社畜の身に甘んじているマックスという対比構造が置かれています。

ドライバーとしての腕前を見込んだからこそマックスを選んだヴィンセントの目からすると、彼はスキル的にはすでに十分すぎる状態にあり、さっさと独立して好きなことをやればいいのにと感じています。

しかしマックスの口から出てくる言葉は「いつか条件が整えば…」。

12年社畜をやっていても訪れなかった機会が、今後いつ訪れるというのか。本当に独立する気があるのなら、数年働いて頭金だけ揃えて開業してしまうという道もあったはず。

踏み出せないのは機会がなかったためではなく、そもそもお前は本気でやろうとしてないんじゃないか。

くだらない日常を認めたくないので茫洋とした夢にすがり、「いつかやってやる」と思いながらも結局は何も為さず、くだらないまま人生を終えていく。

ヴィンセントは容赦のない言葉を浴びせ、図星を突かれたマックスは返す言葉を失います。

トム・クルーズとジェイミー・フォックスの芸達者ぶりもあってこのやりとりにはヒリヒリとするような緊張感があったし、観客に対しても問いを突き付けてくるような鋭さがありました。

会社に対する不満を口にしながらも、結局は会社が提供する安定・安心に身を委ね、自分で戦うということを放棄してはいないか。

もし今の会社に文句があって、自分のスキルは売り物になるという自信があるのなら、独立してどんどん稼いでいけばいい。それをやらないのは社畜の現実逃避であるという強烈なパンチ。私はちょっと旅に出たくなりました。

キレる小市民というダイナミズム ※ネタバレあり

そうしてヴィンセントにコッテリと説教されるマックスですが、やることなすこと上から目線で批判してくるヴィンセントへのイライラも募る一方で、殺し屋のフリをしてヤクザの大親分の前に出て行くなど図らずも自分自身を試す機会にも遭遇し、「俺だって意外とやれるじゃん」という自信も芽生えます。

そんな中で「もうお前の言いなりになんてなっていられるか!」とキレてタクシーを暴走させ、ヴィンセントを狼狽させる様にはカタルシスが宿っていました。

そこから最後のターゲットを目指すヴィンセントと、食い止めようとするマックスの対決に至るのですが、小市民による反撃という構図にはやはり燃えるものがありますね。

興味深かったのはオフィスで二人が対峙する場面であり、マックスによる反撃が心底意外だったのかヴィンセントが撃つのを一瞬ためらったのに対して、マックスは躊躇せずヴィンセントに発砲し、クリティカルヒットではないものの傷を負わせます。

小市民の気迫がプロのスキルを凌駕した瞬間。

ここからやるかやられるかの攻防戦が始まるのですが、ヴィンセントもプロとしての意地を見せます。

象徴的だったのは地下鉄ホームでのくだりであり、分岐した道で完全にターゲットを見失ったヴィンセントは数秒間立ち止まり、相手はどちらにいったのかを勘で当てます。

プロとは熟練したスキルで勝負するものだが、どうしても直感に頼らざるを得ない場面もあり、そこで正解を引き当てられる能力も必要とされます。

そうした仕事論がサスペンスアクションの見せ場にも反映されており、私はかなり興奮させられました。 これまで一貫してプロフェッショナリズムを描いてきたマイケル・マンが、今回ついにアマチュアを勝利させたというオチの付け方も興味深く、背後に込められた意味を感じながら鑑賞すると、本作はかなり意義深い作品となっています。

≪マイケル・マン関連作品≫
【凡作】刑事グラハム/凍りついた欲望_レクター博士は脇役
【傑作】ヒート_刑事ものにして仁侠もの
【良作】コラテラル_死闘!社畜vs個人事業主
【凡作】マイアミ・バイス(2006年)_物語が迷走気味

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