コマンドー【傑作】人間の心を持ったパワフルな男(ネタバレあり・感想・解説)

(1985年 アメリカ)
本作が出鱈目な映画であることは間違いありません。しかし、シュワルツェネッガーという特異な素材を受け取ったプロデューサーや脚本家達がどうすればこの男を使いこなせるのかと考え抜き、そのベストアンサーを導いたのが本作だったのだろうと思います。彼らの目論見は当たり、本作には論理を越えた面白さがありました。それは、論理的に正しく作られた映画よりも魅力的です。

©Twentieth Century Fox Film Corporation

あらすじ

元コマンドー部隊の大佐で、今は退役して平穏な生活を送っているメイトリックスの自宅が襲われ、娘を誘拐された。犯人からの要求は南米某国の大統領の暗殺だったが、犯人の要求に従っても娘は返ってこないことを感じ取ったメイトリックスは、反撃を仕掛けるのだった。

スタッフ

監督のマーク・L・レスターとは一体何者なのか

本作は80年代後半から90年代にかけての爆破アクションの嚆矢となった作品なのですが、それほどの重要作を監督したのはリチャード・ドナーでもトニー・スコットでもなく、マーク・L・レスターという耳慣れない監督でした。

この人は1971年に監督デビューしており、本作が製作された1985年にはそこそこのベテランでした。ただし、その時点での代表作が『炎の少女チャーリー』(1984年)という事実が示している通り、ロクな映画を撮ったことがありません。しかし特筆すべきはその作品リリース数であり、1971年から1984年までの間で10本もの映画を監督しており、しかも大半が製作も兼任。圧倒的な仕事の速さと納期厳守の姿勢が、映画界で重宝される原因だったのではないかと推測されます。

本作は1984年10月に企画開始、1985年4月22日から7月3日の期間で撮影を行い、1985年10月4日には全米公開という急なスケジュールで進められていました。最初に監督をオファーされていたジョン・マクティアナンになぜ断られたのかは明らかにされていないのですが、当時新人だったマクティアナンにはこの強行スケジュールを乗り切る自信がなかったのではなかろうかと思います。そこでフレッシュなマクティアナンとは対照的に、目立った才能はなくとも現場掌握力の高い中堅監督として、マーク・L・レスターが呼ばれたのではないかと。

本作でアクション映画史に名を残す仕事をしたものの、それ以降は再びパッとしない監督に逆戻り。ドルフ・ラングレン&ブランドン・リーの共演作で一部には期待する声もあった『リトルトウキョー殺人課』(1991年)もとんでもない駄作でした。しかしこの人の仕事は途切れることがなく、2010年代に入っても新作をリリースし続けています。才能はなくても仕事をきっちりこなせる人材ってちゃんと評価してもらえるんだなと、彼の姿はとても励みになります。

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関わった5人の脚本家

  • マシュー・ワイズマン:ジョセフ・ローブ3世と共に本作の初期稿を執筆。ただしジョセフ・ローブとは違ってその後のキャリアでめぼしい作品はなく、すでに業界からフェードアウトしているのかもしれません。
  • スティーヴン・E・デ・スーザ:80年代から90年代の映画界を席捲した脚本家。元はテレビ界で脚本を書いていたのですが、1982年の『48時間』の共同脚本家の一人として映画界に進出。その後は『コマンドー』(1985年)、『バトルランナー』(1987年)、『ダイ・ハード』(1988年)、『ダイ・ハード2』(1990年)と、シェーン・ブラックと並ぶアクション映画の大家となりました。ただし90年代に入ると『ハドソン・ホーク』(1991年)、『ビバリーヒルズ・コップ3』(1994年)、『ストリートファイター』(1994年)とアレな映画ばかりとなり、『ジャッジ・ドレッド』(1995年)以降はビッグプロジェクトに参加できなくなり、ここ10年はテレビ界に出戻っているようです。
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  • ラリー・グロス:スティーヴン・E・デ・スーザと同じく『48時間』の共同脚本家の一人。ウォルター・ヒルとは気が合ったらしく、『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)、『48時間PART2/帰って来たふたり』(1990年)、『ジェロニモ』(1993年)にも参加しています。
  • リチャード・タッグル:本作の最終稿を書いたとされる人物。『アルカトラズからの脱出』(1979年)、『タイトロープ』(1984年)とクリント・イーストウッド作品に関与しています。
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登場人物

メイトリックス側

  • ジョン・メイトリックス((アーノルド・シュワルツェネッガー):東ドイツ出身なのに米コマンドー部隊の大佐にまで登り詰めたとんでもない男で、現在は退役している。世界中のいろんな悪党から恨みを買っていることを警戒してか、娘のジェニーと二人、山奥でスローライフを満喫中。アリアス一味にジェニーを拉致され、バル・ベルデ共和国のベラスケス大統領を暗殺するよう強要されたが、バル・ベルデ行きの旅客機から飛び降りてジェニー救出へと向かう。当初のキャスティング候補はニック・ノルティだった。
  • ジェニーメイトリックス(アリッサ・ミラノ):メイトリックスの娘。ベネットに人質に取られる。どうすればシュワルツェネッガーの血筋からアリッサ・ミラノが生まれるのかは謎。
  • シンディ(レイ・ドーン・チョウ):客室乗務員。サリーにナンパされたためにメイトリックスにも目を付けられ、敵のアジトに辿り着こうとするメイトリックスに協力させられた気の毒な女性。セスナの操縦ができる。
  • フランクリン・カービー将軍(ジェームス・オルソン):メイトリックスの元上司。メイトリックスの部下達が次々と殺されていることをメイトリックスに伝え、護衛を置きに来てくれた優しい人だが、その親切のために極秘扱いだったメイトリックスの現住所がアリアス一味にバレ、今回の件へと発展した。窮地のメイトリックスからはまったくアテにされていない。

アリアス側

  • アリアス(ダン・ヘダヤ):中米の小国バル・ベルデの元大統領だが、メイトリックス率いるコマンドーの介入によって失脚させられた。現大統領からの信頼の厚いメイトリックスを刺客として送り込み、大統領に返り咲こうとしている。
  • ベネット(ヴァーノン・ウェルズ):メイトリックスの元部下だが、凶暴な性格が原因で隊を追い出されたことを恨んでいる。演じるヴァーノン・ウェルズは、かつてベネットがメイトリックスに恋心を抱き、それを裏切られたことを想定して役作りをしたらしい。
  • クック(ビル・デューク):元グリーンベレーで、メイトリックスの部下を殺したのはことごとく彼だったという点から察するに、アリアス陣営の主力の一人だと思われる。しかしメイトリックスには歯が立たなかった。
  • サリー(デヴィッド・パトリック・ケリー):アリアスに雇われた男で、小柄だが従軍経験があり、エンリケスとは戦友だったらしい。殺気立ったメイトリックスに気楽に話しかけたり、ビール券を渡したりと気さくな男で、もし同じ陣営にいれば仲良くなれるタイプ。メイトリックスも彼の人柄は嫌いじゃないようで「お前は最後に殺す」と言ったのに、割かし早めに殺された。
  • エンリケス(チャールズ・メシャック):機内でのメイトリックスの監視役だったが、搭乗してすぐに首の骨をへし折られた。

感想

B級アクションの金字塔

この映画には小学生の頃に遭遇したのですが、圧倒的な見せ場の連続と、シュワルツェネッガーという俳優のインパクトは、小学生をも虜にしました。R指定の映画だというのに。そして、録画していたビデオをほぼ毎週のように見ていた時期がありました。何度見ても飽きない、それがこの映画の凄さです。

さらに驚くべきは、この映画には幅広い層に訴えかける魅力があったということです。週末にテレビで見た洋画が月曜のクラスの話題をさらうということはほぼなく、私が『ターミネーター』や『ダイ・ハード』の面白さに感動しても、それを分かち合う相手は当時の親友のみだったのですが、本作だけは違いました。

なぜかクラスの大半が『コマンドー』を見ており、「凄かった!」と言い合っていたのです。さらには、担任までが「昨日の『コマンダー』って映画は面白かったな」と、言い間違えこそしているものの確かにコマンドーの話をしており、そこにはコマンドー旋風が吹き荒れていました。この映画には、万人受けする何かがあるのです。

私が子供の頃に感じたこの熱気は30年近く経った今もなお日本国内に残っており、テレビ洋画劇場が廃れた今でも年に一度は放送され、その際にはネットが祭り状態になるという、他の映画には起こらない現象が起こっています。まさにB級映画界におけるレジェンド、不朽の名作とも言えるのが本作『コマンドー』なのです。

ただし、欠点がめちゃくちゃに多い映画

と、褒めちぎった後に言うのもなんですが、この映画の何がそんなに面白いのかを説明することはなかなか難しい作業です。欠点がめちゃくちゃに多く、まともに考えればむしろ駄作に近いと言っていいほどの作品だからです。

娘を人質に取られているとは思えない自由さ

自宅の山小屋を襲撃される導入部。ガレージから武器を取って来たメイトリックスはジェニーを守るため子供部屋へと向かうのですが、時すでに遅し。ジェニーはアリアス一味にさらわれた後で、そこにはアリアスのメッセンジャーの男が座っていました。

通常の映画であれば、主人公は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、しかし敵が娘をどうするのか分からない以上、今はこの男の話を黙って聞き、要望があれば受け入れるしかないという態度をとるのですが、メイトリックスは違いました。ロクに話も聞かずにアッサリ射殺。

なお、ここでの『OK?』『OK!』ズドーン!というやりとりは本作の名場面のひとつとされていますが、ここでの間が『ターミネーター』(1984年)でターミネーターがアラモ鉄砲店の親父を殺した時の間と同じでしたね。

話はそれてしまいましたが、何が言いたかったのかと言うと、まず観客と主人公に対してストレスを与え、終盤以降の反撃で観客に留飲を下げさせることこそが通常のアクション映画の構造じゃないのと思うのですが、本作にはそういったものがありません。

メイトリックスは最初っからトップギアで反抗します。アリアスやベネットに対しても「必ず戻って来てやるぜ」と啖呵を切るのですが、娘の命を握っている相手に対してそれ言っちゃうのということを平気で言うのです。

メイトリックスが無敵過ぎて緊張感ゼロ

ジェシーが人質にとられる序盤では、こんな場面もありました。アリアス一味に追い付こうとメイトリックスはエンジンを破壊された愛車を下り坂を利用して走らせるも、勢いの付きすぎた車は制御不能となって横転。その隙を突かれて銃を持った5~6人の男に取り囲まれます。

こちらは丸腰、相手は銃を持った複数人となれば両手を挙げて降参するしかない場面なのですが、メイトリックスはこの男達に平然と殴りかかっていきます。相手が自分を撃ってくるかもという躊躇がまったくありません。

また、クライマックスの討ち入りはこんな感じでした。メイトリックスは棒立ちでも敵の放った無数の弾はまったく当たらず、他方でこちらが放った弾はどんどん敵兵に当たっていきます。もはや弾道上に吸い寄せられるかのように敵兵が動いてくれている状態で、メイトリックスは狙いをつける必要すらありません。

あちらの弾は決して当たらないが、こちらの弾は面白いように当たる。そんな戦いに緊張感など宿るはずもありません。

タイムリミットサスペンスになっていない

本作はリーアム・ニーソンの『96時間』(2008年)との類似をよく指摘されます。

娘の誘拐、怒った親父が殺人マシーン、娘のためならいくらでも人を殺せるメンタルと、確かにほぼ同じ話なのですが、一点だけ大きく違うのは、『96時間』がその邦題の通りタイムリミットを重視したサスペンスアクションとして作られていたのに対して、11時間というより厳しい時間制限が設けられていたにも関わらず、本作ではタイムリミットがほとんど有効活用されていないという点です。

タイムリミットが設定された場合、劇中でデッドラインまでの時間が何度も何度も表示され、果たして主人公はこれに間に合うのかという煽り方をするのですが、本作ではメイトリックスも観客もタイムリミットの存在をほぼ忘れてしまいます。また夜の場面では時間経過が分かりづらかった点もマイナスでした。

すべてはシュワルツェネッガーのため

こうして欠点を列挙してみると、前述した通り優秀な脚本家が多く参加した作品なのに、なぜここまでアクション映画としての王道的な作りから外れてしまったのだろうかという点が気になります。まともな話を書ける脚本家が揃っていたはずなのに。

登場人物の項目で、最初に主人公役に考えられていたのはニック・ノルティと書きましたが、ジョセフ・ローブ3世とマシュー・ワイズマンによる初期稿は老兵が体にムチ打ちながら娘を救うために死力を尽くす話だったらしく、この時点では『LOGAN/ローガン』(2017年)のような映画だったと推測されます。そこにはちゃんとドルマツルギーというものもあったはずなのですが、リライトによって映画らしい要素はどんどん外されていきました。

その原因は、シュワルツェネッガーにあったのだと推測します。私には、20世紀フォックスの重役からシュワルツェネッガー主演で映画を撮れと言われて、途方に暮れるジョエル・シルバーの画が浮かんできます。

まともな演技ができないどころか、まともな英語もしゃべれない。フォックスの重役達は、シュワルツェネッガーにセリフを喋らせるなとまで言っていたようです。おまけにあの見た目ですからね。もはや普通の役などできません。そこでシルバーと脚本家達が考え出したのが、ジョン・メイトリックスという異常なキャラクターだったのではないかと思います。

メイトリックスのキャラの濃さ

  • 東ドイツ出身なのに米軍で大佐にまで登り詰めた。
  • バル・ベルデの民主化に貢献し、革命の英雄とまで呼ばれている
  • エンジンを破壊された車を押し、下り坂を利用して運転する
  • 離陸中の旅客機から飛び降りる。
  • 車のシートを腕力でもぎ取る
  • 10人以上いる警備員を余裕でなぎ倒す
  • 電話ボックスごと人を投げ飛ばす
  • 横転した車を腕力のみで立て戻す
  • フェンスを施錠している鎖(当然金属製)を腕力のみで引きちぎる
  • 航空図を読み取れる
  • 武装した100人の兵士をたった一人で始末する

こうして書き出してみるとめちゃくちゃなのですが、当時のシュワルツェネッガーの個性には、この過剰なキャラクターがピタリとハマっていました。これだけ振り切ってしまえば、観客にとってもドラマツルギーだの作劇の合理性だのという言葉はどうでも良くなり、次にどんな無茶をやるのかという点が楽しみになってきます。

これは『コブラ』のレビューでも書いたのですが、脂が乗り切っている状態のスターには、有無を言わさず観客を虜にする猛烈な魅力があります。本作のシュワルツェネッガーにも、まさにそれがありました。

コブラ【凡作】願わくば話がもっと面白ければ

人間の心を持ったパワフルな男

シュワルツェネッガーという素材を受け取った者の戸惑いと興奮はフォックス幹部に留まらず、日本の配給会社にも伝わったようです。

ページトップに掲げた日本版ポスターをご覧ください。宣伝担当者は何を興奮したのか、もしくは何を不安に思ったのか、映画のポスターとは思えないほど大量の宣伝文句で埋め尽くされています。

  • 許せない!!奴らはただでは済まさぬ!
  • 部下を殺され、娘を誘拐されたコマンドー隊長の怒りに燃えた復讐が爆発
  • これぞビッグ1
  • ついに「ランボー」「007」を越えた
  • 派手にやろうぜ!!
  • あの「ターミネーター」のシュワルツェネッガーが、さらに大暴れ!
  • 敵を断崖絶壁からつまみ落とし首をへし折ってぶっ飛ばす
  • 怪力!!強烈パワー
  • 頭脳明晰・堂々たる体躯・空手の名手 火器・武装のエキスパート 彼がたち向かった時
  • ノンストップアクション!
  • 圧巻!65マイルで滑走する飛行機から決死の大脱出。
  • 圧倒的スケールの面白さ!!
  • 痛快無比・最高の娯楽作品、人間の心を持ったパワフルな男、全米を初め各国で猛ヒット

メイトリックス大佐は紛れもなく人間なのに「人間の心を持ったパワフルな男」ですからね。なぜこんな念の押し方をしたんだろうかと、何度見ても担当者の意図が見えてきません。

日曜洋画劇場版の素晴らしさ

加えて、本作の吹替え版の出来が神がかっていたことも、映画の魅力アップに貢献しています。発音に問題があってシュワルツェネッガーに長台詞を与えられなかったために、人を殺した後に軽い一言を言わせるというそもそもの映画の作りがあった上に、素晴らしい翻訳と、素晴らしい声優さんの仕事が重なり、奇跡のように楽しい吹替え版となっています。

  • 連れを起こさないでくれ。死ぬほど疲れてるんだ
  • お前は最後に殺すと約束したな。あれは嘘だ。
  • 「あいつはどうしたの?」「放してやった」

加えて、メイトリックスの大暴れを飾るその他の人物のお囃子のようなセリフも気が利いており、いちいち印象に残りました。

  • 奴が生きていればまだ死体が増えるはずだ(カービー)
  • あんたなんてパパに捻り潰されるから(ジェニー)
  • 頭のイカれた大男がいる(警備員①)
  • 筋肉モリモリマッチョマンの変態だ(警備員②)
  • 「何が始まるんです?」「第三次大戦だ」(カービー)

≪シュワルツェネッガー関連作品≫
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コマンドー【傑作】人間の心を持ったパワフルな男
ゴリラ【駄作】ノワールと爆破の相性の悪さ
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