クリムゾン・タイド【凡作】艦長の主張、おかしくないですか?(ネタバレあり・感想・解説)

(1995年 アメリカ)
ロシアで軍のタカ派がクーデターを起こし、核ミサイル基地を占拠。世界はキューバ危機以来の緊張状態となり、米原子力潜水艦アラバマが警戒に出撃した。警戒態勢12日目、アラバマには敵基地への先制攻撃の指令が下りたが、直後にロシア原潜が現れたことから攻撃を避けるために深度を下げ、電波の受信ができなくなった。その間に新たな指令文書が出たようだがアラバマでは全文の把握ができなかったことから、内容の分からない第二報は無効とし、第一報のみを有効として先制攻撃を行うべきとするラムジー艦長と、第二報の確認を行うまで攻撃を控えるべきとするハンター副長が対立し、艦内は真っ二つに分裂する。

Hollywood Pictures – © 1995

4点/10点満点中

スタッフ・キャスト

製作はドン・シンプソン×ジェリー・ブラッカイマー

  • ドン・シンプソン:1943年生まれ。オレゴン大学卒業後に映画会社に入社。最初はワーナーに入り、その後にパラマウントに移籍し、若くしてマーケティング担当重役へと出世しました。『フラッシュダンス』(1983年)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)、『トップガン』(1986年)とヒット作を量産。パラマウントは80年代にもっとも高い収益をあげたスタジオでしたが、その収益に大きく貢献したのがシンプソンでした。
    ただし私生活に問題があり、非リア充だった学生時代のコンプレックスの反動からか、有名人を自宅に招いての連日のパーティ、乱れた女性関係、整形手術、ドラッグの濫用と、友人のプロデューサー・ジョエル・シルバーから心配されるほど荒れていました。
    そんな心配は的中し、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)を最後にパラマウントから解雇されました。相棒のブラッカイマーと共にウォルト・ディズニー・スタジオに移ったもののしばらくは稼働しておらず、本作『クリムゾン・タイド』(1995年)が久しぶりの作品でした。しかしシンプソンはロクに現場にも現れず、しびれを切らしたブラッカイマーは次回作『ザ・ロック』(1996年)の製作中にシンプソンを切ると宣言。ほどなくしてシンプソンはオーバードーズにより死亡しました。
  • ジェリー・ブラッカイマー:1945年生まれ。最初のキャリアは、後に彼がプロデューサーとして使うこととなる監督達と同じく、コマーシャル・フィルムの監督でした。ニューヨークの広告代理店で数々の賞を受賞した後にロサンゼルスへ移って映画製作を開始。初期にはハードボイルド小説の古典の映画化『さらば愛しき女よ』(1975年)、ジーン・ハックマン主演の『外人部隊フォスター少佐の栄光』(1977年)、マイケル・マン監督の『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1980年)などやたらシブイ映画ばかり作っていたのですが、1980年代よりドン・シンプソンの製作助手となったことから、その作風は一変しました。
    見栄えのする若手俳優、人気アーティストを起用したサウンドトラック、特殊効果を駆使した派手なアクションというドン・シンプソンスタイルを継承・発展させ、これによりヒットメーカーの仲間入り。彼の作品は派手さの割には中身がないと揶揄されることも多いのですが、それはシンプソンと組む以前のシブい作品群が収益を生み出してこなかったというブラッカイマーなりの反省がスタート地点にあり、彼は百も承知の上でやっているのです。

監督はトニー・スコット

1944年生まれ。兄のリドリー・スコットも映画監督。若い頃は画家として生計を立てていたのですが、1970年代にリドリーが経営するCM製作会社に入り、CMディレクターとして活躍しました。その後、リドリーの後を追うように映画界入りし、デヴィッド・ボウイ主演のバンパイア映画『ハンガー』(1983年)で長編映画監督デビューしました。細かいカット割や派手な映像装飾という特徴がジェリー・ブラッカイマーの方向性と合致しており、大作『トップガン』(1986年)の監督を任されたことから、ヒットメーカーの仲間入りをしました。以降はブラッカイマー御用達の監督となり、『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)、『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)、『デジャヴ』(2006年)を手がけました。

後年、トム・クルーズと共にトップガンの続編を製作しようとしていたのですが、2012年にカリフォルニア州サンペドロの橋から飛び降りて死亡。遺書はないものの自殺という見方が一般的です。

豪華な脚本家陣

本作の脚本家としてクレジットされているのはマイケル・シファーとリチャード・P・ヘンリックの2名なのですが、リライトでアカデミー賞受賞歴のある高名な脚本家が3名も参加しているという、恐ろしく豪勢なことになっています。

  • マイケル・シファー:原案を担当。デニス・ホッパー監督×ロバート・デュバル主演のクライムアクション『カラーズ/天使の消えた街』(1988年)が脚本家としての初クレジット作品。本作以降は軍事アクションを得意とし、ジョージ・クルーニーが消えた核兵器を追う『ピースメーカー』(1997年)や、テレビゲーム『コール・オブ・デューティ』シリーズの脚本を書いています。
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  • リチャード・P・ヘンリック:原案を担当。本職は脚本家ではなく小説家であり、海洋アクションや潜水艦ものを得意としています。
  • クェンティン・タランティーノ:言わずと知れた90年代最強の映画人であり、『パルプ・フィクション』(1994年)と『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)でアカデミー脚本賞受賞。自身の脚本『トゥルー・ロマンス』(1993年)をトニー・スコット監督で映画化されたご縁で、本作に参加したものと推測されます。シルヴァーサーファーを巡る下士官同士の諍いや、スタートレックを引き合いにしてハンターが技術兵を励ます場面などは、タランティーノが書いたっぽいですね。
  • ロバート・タウン:脚本の優れた作品としてしばしば名前の挙がる『チャイナタウン』(1974年)を手掛けた凄腕で、同作にてアカデミー脚本賞受賞。また、ノークレジットで『ゴッドファーザー』(1972年)の脚本の直しも行っています。ジェリー・ブラッカイマー×トニー・スコット組とは、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)以来の仕事となります。
  • スティーヴン・ザイリアン:現代最高の脚本家の一人で、『ハンニバル』(2001年)で仕事をしたディノ・デ・ラウレンティス御大をして「ザイリアンは素晴らしい仕事をしてくれるが、その分値も張る」と言われました。ロバート・デ・ニーロ×ロビン・ウィリアムズ共演の『レナードの朝』(1990年)で脚光を浴び、スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(1993年)でアカデミー脚本賞受賞。以降はハリウッド有数の脚本家として『今そこにある危機』(1994年)、『ミッション:インポッシブル』(1996年)、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2001年)、『エクソダス:神と王』(2014年)などを手掛けています。
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2大アカデミー賞俳優激突

  • ジーン・ハックマン:1930年生まれ。『フレンチ・コネクション』(1971年)でアカデミー主演男優賞受賞、『許されざる者』(1992年)でアカデミー助演男優賞受賞。ブラッカイマーとは『外人部隊フォスター少佐の栄光』(1977年)以来の付き合いであり、演技派のハックマンが本作のようなブロックバスターに主演したのは、心ある映画を作っていた時期のブラッカイマーへの信頼があったためとも考えられます。
  • デンゼル・ワシントン:1954年生まれ。『グローリー』(1987年)でアカデミー助演男優賞受賞、『トレーニングデイ』(2002年)でアカデミー主演男優賞受賞。黒人俳優である自分が白人女優とのキスシーンを演じると攻撃対象になるとの理由から、異人種間のキスシーンを断るという一風変わったポリシーを持っています。

登場人物

ラムジー艦長派

  • フランク・ラムジー大佐(ジーン・ハックマン):原子力潜水艦アラバマ艦長。実戦経験豊富なたたき上げタイプで、潜水艦内に愛犬を持ち込むことを黙認されるほどの敬意と畏れを周囲から抱かれている。仕事一筋の姿勢から、奥さんには逃げられている。本件においては、敵が核ミサイル発射体制を整える前にこちらが撃たねばならないと焦っている。
  • ピーター・”ウェップス”・インス大尉(ヴィゴ・モーテンセン):兵器システム将校で、ハンターの友人。ミサイル発射システムの責任者であることから、本件でのキーパーソンとなった。そもそも乗り気ではなかったものの、ドガーティに押し切られる形でラムジー派に付いた。
  • ボビー・ドガーティ大尉(ジェームズ・ガンドルフィーニ):実戦経験のないハンター副長による指揮に不安を抱き、艦長室に監禁中だったラムジーに接触してハンター派へのクーデターを主導した。

ハンター副長派

  • ロン・ハンター少佐(デンゼル・ワシントン):士官学校出身、ハーバード大で学んだ経験のあるエリート士官だが、実戦経験はない。盲腸になったアラバマ号の副長代理として急遽配属された。乗組員達のメンタルに気を配っており、乗組員を追い込むような艦長の姿勢に違和感を覚えている。本件においては、誤って核ミサイルを発射するわけにはいかないからと、慎重な確認を主張している。
  • ウォルターズ先任伍長(ジョージ・ズンザ):ラムジー艦長の長年の女房役。ミサイル発射を巡ってラムジーとハンターの意見が対立した際、ラムジーが軍規に反する形でハンターを解任しようとしたため、ハンター側について逆にラムジーを解任した。以降はハンター派として行動するが、「ラムジーが正しい可能性だってある」と、ハンターを完全に支持しているわけでもない発言もする。
  • ダニー・リベッチ(ダニー・ヌッチ):ソナー室主任。アメコミの内容を巡って他の乗組員と喧嘩をした際、ハンターにフォローされたことを恩義に感じていたようで、ラムジー派に監禁されたハンター達を解放した。
  • ラッセル・ヴォスラー(リロ・ブランカート.Jr):通信室のエンジニアで、破損した通信システムの復旧作業を行っている。ロシアが核ミサイル発射体制を整えるデッドラインまでに通信を復旧させよと、ハンターからの要請を受ける。

実際にあった類似事件

本作は90年代のアメリカ海軍を舞台にしたフィクションなのですが、1962年のキューバ危機において、ソ連海軍で非常によく似た事例が発生したことがあります。

キューバ危機とは、冷戦下の米ソが核戦争寸前にまで至った事件であり、その最前線はアメリカと目と鼻の先にあるキューバでした。そんな危機の真っただ中、キューバ近海を航行していたソ連原子力潜水艦B-59は米駆逐艦からの爆雷攻撃を受け、攻撃を避けるために深度を下げたことからラジオ電波の受信が困難となり、米ソが開戦しているかどうかの確認ができないまま核ミサイルを発射するかどうかの判断を下さねばならないという事態に直面しました。

艦内の決定権者3名のうち2名は発射すべきとの判断を下したのですが、ヴァーシリー・アルヒーポフ副長一人が、浮上してモスクワの指示を待つべきと主張。このアルヒーポフという人物は、前年の1961年に テスト航行中に原子炉事故に見舞われたソ連原子力潜水艦K-19艦内にて対応の陣頭指揮を執った人であり、 当該事故対応での名声もあって残る2名もアルヒーポフの意見を軽視できなかったことから、キューバ危機での全面核戦争は回避されたのでした。 K-19での一件は、キャスリン・ビグロー監督の実録潜水艦映画『K-19』(2002年)として映画化されており、アルヒーポフに相当する役はリーアム・ニーソンが演じています。

B-59のエピソードはあまりにも本作に似ているのですが、事件の公表は2002年なので、本作の着想に影響を与えたということは時系列的にありえません。

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感想

明らかに艦長側の論理が間違っている

本部との通信ができない状況下で核ミサイルを撃つべきか撃たないべきかを悩む話であり、対立する艦長と副艦長のどちらにも理があるような説明となっているのですが、本当にそうなのでしょうか。

ミサイルを撃てという第一報からしばらくして第二報が来たが、その内容が分からないって、どう考えても第二報の内容を確認すべき状況でしょ。核ミサイル発射という極めて深刻な案件に対して司令部が何か言ってるっぽいのに、こちら事情で内容の受信ができなかったから、第二報は無視して第一報を正として扱いましょうなどというラムジー艦長の理屈が成立する組織なんてあるんでしょうか。

例えばある会社員が社命をかけた重要プロジェクトの担当を任されたとします。これをやったらもうプロジェクトは引き返せないよという重要局面で社長から携帯に電話があったが、たまたま出られなかった。もしかしたら社長からプロジェクトへの別途の指示が出される可能性も十分に考えられる状況下で、確認もとらずに進めていいなんてことにはなりませんよね。そこは予定通りに進めることよりも、確認することの方が重要です。

一応、作品にはラムジー艦長側の正当性を高めるための仕掛けも入れてあります。ロシア側のミサイル発射体制が整うまでのタイムリミットが設定されており、もしロシアに先に撃たせればアメリカと日本が標的にされるから、通信システムの復旧など待っている時間などないというのです。ただしこの仕掛けも不十分で、ハンターからハッパをかけられたヴォスラーが、ギリギリのタイミングで通信システムを直してみせるのです。結果から振り返ると、ラムジーもハンターもカッカせず、通信システム復旧に艦内リソースを全投下すりゃよかったじゃんということになってしまいます。

ラストの審問会が出鱈目

ラムジーとハンターの主導権争いを受けて開催された審問会もかなり出鱈目でした。なんと委員長は、事件の一方の当事者であるラムジー艦長からの報告のみで審問を終えようとしているのです。そのことにもう一方の当事者であるハンター副長が抗議すると、「ラムジーは個人的な知り合いだけど、ウソつくような奴じゃないから彼の報告だけで十分」と、世間では言ってはいけない一言をさらりと言ってしまうのです。アメリカ海軍というのは一体どんな組織なんだと耳を疑いました。

まとめ

トニー・スコットによるテンションの高い見せ場や、アカデミー賞俳優同士による演技合戦など見るべき点はあるのですが、基本的な話がありえなさ過ぎて、全然面白くありませんでした。