(1990年 アメリカ)
潜入捜査官ヴァンダムが刑務所に潜入するサスペンス・アクション。全盛期のヴァンダムの勢いと、後の名脚本家デヴィッド・S・ゴイヤーの手腕が奇跡のブレンドを果たし、B級らしからぬ面白さがある。

ヴァンダム初期の良作
中学生の頃に金曜ロードショーで見たような気がするけど、地味すぎてほとんど印象に残っていない。
Amazonプライムのまもなく配信終了欄にのっていたので32年ぶりの鑑賞となったが、国内Blu-ray未発売の本作を鮮やかなフルHD画質で視聴できたうえ、懐かしの金ロー版吹替も配信されていて、Amazon本社があるシアトル方面に向かって拝みたくなった。
こんな素晴らしいものを見せていただいてありがとう、ジェフ・ペゾス。
そしてもう一つ驚いたのが、かつての印象からは一転してめっぽう面白かったということ。
初期ヴァンダム作品としては最高の仕上がりではなかろうか。
なお私はヴァンダムの経歴をこんな感じで考えている。
- 【初期】B級アクション期/『シンデレラ・ボーイ』(1985年)~『ライオン・ハート』(1990年)
- 【中期】メジャー大作期/『ダブル・インパクト』(1991年)~『ユニバーサル・ソルジャー/ザ・リターン』(1999年)
- 【後期】Vシネ期/『レプリカント』(2001年)~
本作の製作は、ヴァンダムがB級からメジャーに駆け上がろうとしていた時期に当たる。
若い頃の勢いに加えスターとしての貫禄も身に付きつつあり、もっとも脂の乗っていた時期のヴァンダムを楽しむことができる。
『ブルージーン・コップ』とは潜入捜査官を示していると金ローの解説で水野晴朗さんが言ってたような気がする。
ただしこれは邦題で、原題は「死刑執行令状」を意味する” Death Warrant”
なんちゅー物々しいタイトルだと思うが、作品中に死刑囚は一人も出てこない。
本作はメナハム・ゴーラン率いるキャノン・フィルムズ(日本の光学機器メーカーとは無関係)の製作で、当初のタイトルは「すべて終了する」「完敗する」といった意味を含む”Dusted”だったが、キャノン倒産後に配給権が移行したMGMによって改題されたらしい。
表向きは平凡なB級アクションである本作の内容をロクに確認せず、語感と勢いのみで適当に付けられたタイトルだと思われる。
名脚本家デヴィッド・S・ゴイヤーのデビュー作
ヴァンダム扮するバーク刑事が、死亡事件が相次ぐ州立刑務所に潜入捜査官として送り込まれるというのがざっくりとしたあらすじ。
ありがちな設定だなぁと思いきや、潜入捜査×刑務所ものって意外と思い浮かばない。
しいて言えば『フェイス/オフ』(1997年)かな。けどあれも中盤の一幕が刑務所というだけで、全編が潜入捜査ものというわけでもない。
『地獄の処刑コップ/復讐の銃弾』(1995年)というB級映画もあったけど、あれは本作を豪快にパクったと思しき映画なのでノーカウントとすべきだろう。
そんな「ありそうでなかったB級アクション映画」の脚本を書いたのは、後に『ブレイド』(1998年)や『ダークナイト』(2008年)でアメコミ映画の大家となるデヴィッド・S・ゴイヤー。
映画学校の学生時代に書いた彼にとって二本目の脚本であり(一本目は自叙伝的内容だったとか)、これがマッハで売れたあたりに、後の売れっ子脚本家の片鱗が伺える。
加えて、80年代のジョン・フランケンハイマー監督作品の常連で、後に『沈黙の戦艦』(1992年)も手掛ける作曲家ゲイリー・チャン、『タイタニック』(1997年)でアカデミー撮影賞を受賞することとなる撮影技師ラッセル・カーペンターも参加しており、なかなか豪華なメンバーが揃っている。
なおゲイリー・チャンは『ダブルチーム』(1997年)で、ラッセル・カーペンターは『ハード・ターゲット』(1993年)で、再度ヴァンダムと組むこととなる。
そして監督はチャーリー・シーン主演のスカイダイビングアクション(なんちゅージャンルだ)『ターミナル・ベロシティ』(1994年)のデラン・サラフィアン。彼は名監督ロバート・アルトマンの甥っ子にあたる。
荒れ狂う刑務所
そんな素晴らしいスタッフ達の仕事にも支えられ、本作の舞台となる刑務所はいかがわしさ全開で最高だ。
ヴァンダムらを乗せた護送車が到着する時点より漂う物々しい空気。
ズラっと整列させられた新入り達を前に、デグラフ看守長(アート・ラフル―)は「うちは厳しいぜ」と一席ぶつ。
そんな中、看守の一人が南京豆のカラをポロっと地面に落とす。
何かを試されているらしい空気を察する新入り達。
ゴツい囚人が地面に落ちたカラを拾った瞬間、「勝手に動くんじゃねぇ!」と猛烈な暴行を加えられる。
ゴミを拾ってあげたのにこの仕打ち・・・ここがまともな場所ではないことを示す、素晴らしい導入部だった。
そしてヴァンダムもまた、洗礼を受けることとなる。
ようやく監房に到着したヴァンダムがほっと一息つこうとした瞬間、ロバート・パティンソン似の同房の囚人から「ケツを貸せ」と言われる。
タップリの間と共に「断るよ」とお返事するヴァンダム
初対面同士の会話としては最低の部類に入るが、それほどまでにここが荒れた場所だということだ。
そういえば80-90年代のアクション映画においては「刑務所=尻」という会話が多かったのだが(『デッドフォール』『ケープフィアー』『沈黙の断崖』etc…)、実際のところどうなんだろう。
また入所早々、洗濯室で暴漢2名に襲われるヴァンダム。
うちチェーンを使って襲ってくるのは、『リーサル・ウェポン』(1987年)や『ダイ・ハード』(1988年)でお馴染み、チョイ役界の大物アル・レオンだったので盛り上がった。
ヴァンダム版ショーシャンクの空に
その後、いろいろあって刑務所の黒人グループと仲良くなるヴァンダム
特に懇意にしているのはホーキンスという模範囚だ
刑務所内の誰からも慕われる人格者で、おおよそ犯罪者とも思えぬ落ち着いた物腰の人物なのだが、10年前に殺人罪で収監されたという、実はゴリゴリの男だった
演じるのは人気テレビドラマ『ミスター・ベンソン』(1979-1986年)の主演として有名で、『ライオン・キング』(1993年)ではヒヒのラフィキの声を担当したロバート・ギローム。
若い白人主人公の相手役として、黒人性格派俳優を置くというアプローチは『ショーシャンクの空に』(1994年)を先取りしたもので、本作の革新性には目を見張るものがある。
革新性と言えば、咄嗟に天井に張り付いて身を隠すんだけど、腕の傷から血が滴って危機一髪という、『スパイダーマン』(2002年)を先取った見せ場もあった。
凄すぎるぜ、デヴィッド・S・ゴイヤー。
B級アクションとは思えぬ構成のうまさ ※ネタバレあり
そんなこんながありつつヴァンダムが辿り着いたのは、富裕層への臓器移植目的で若く健康な囚人が殺されているという事実だった。
そして警察上層部にも臓器移植の恩恵にあずかった者がいて、すべてを知ったヴァンダムは組織から切られるという急展開を迎える。
さらには、ヴァンダムの口封じをしたい上層部より、因縁浅からぬ関係にある連続殺人鬼サンドマン(パトリック・キルパトリック)が送り込まれる。
ヴァンダムが刑事であることを明かしたうえで、監房の扉を開けるサンドマン
全囚人+看守から狙われ絶体絶命のヴァンダム
ヴァンダムの脱出劇が後半の見せ場となるのだが、この予想外の急展開には興奮したし、潜入捜査官が口封じに遭うという展開もドラマチックだった。
この映画、B級アクションとは侮れないほど構成がよくできているのだ。
サンドマン、お前はどうなんだ
ただしラスボス格のサンドマンがイマイチだったことは、本作の数少ない欠点だ。
クライマックスのヴァンダムvsサンドマンとのタイマンはちょい長すぎでダレたし、サンドマンが阿呆すぎて萎えた。
ヴァンダムを放り込むつもりで焼却炉の扉を開けるサンドマン。
ただし位置関係から考えて危ないのはお前の方だろ。
「これはチャンス!」と密かに思うヴァンダムと、燃え盛る炎をバックに「地獄へようこそ!」とか叫ぶサンドマン・・・案の定ヴァンダムの飛び蹴りを喰らって焼却炉へと叩きこまれる
なんじゃこの決着
なおサンドマンを演じたパトリック・キルパトリックは、本作から28年後に製作された『スティール・サンダー』(2018年)でヴァンダムと再共演を果たすこととなる。

