ディープ・インパクト【良作】よく考えられたシミュレーション映画(ネタバレなし・感想・解説)

(1998年 アメリカ)
リアリティの醸成にこだわった非常に頭の良い映画で、SFパートにはかなりの見応えがありました。ドラマの出来が酷いものの、このジャンルでは比較的短めの上映時間のおかげで致命的な欠点にはなっておらず、トータルで見ると長所が短所を凌駕しています。

©Paramount Pictures and Dream Works

スタッフ・キャスト

『ジョーズ』(1975年)のチームが製作

  • リチャード・D・ザナック:1934年ロサンゼルス出身。20世紀フォックスのトップだったダリル・F・ザナックの息子であり、その強力なコネクションから大学在学中より映画製作に関わっていました。キャリアのスタートは父の威光の強い20世紀フォックスであり、『サウンド・オブ・ミュージック』(1962年)などを手掛けて制作部門のトップに立ったのですが、『ドクター・ドリトル』(1967年)と『スター!』(1968年)の興行的・批評的失敗の責任で1970年に解雇されました。しかしそこからの巻き返しが物凄く、拠点をユニバーサルに移すや『スティング』(1973年)、『ジョーズ』(1975年)と記録破りの大ヒット作を連打しました。
  • デイヴィッド・ブラウン:1916年ニューヨーク出身。学校でジャーナリズムを勉強し、最初は雑誌社で編集を担当していたのですが、後に映画界に転職。20世紀フォックスでストーリー・エディター(脚本家の人選から始まり、脚本家に助言をして共に台本を作り上げる役目)として働いていました。その後、20世紀フォックスを解雇されたリチャード・D・ザナックのパートナーとなり、プロデューサーとしてスティーヴン・スピルバーグのキャリア初期を支えました。
  • スティーヴン・スピルバーグ:1946年シンシナティ出身。言わずと知れた大監督であり、SFオタク。憧れのアーサー・C・クラーク原作のSF小説『神の鉄槌』(1993年)を映画化しようとしており、それが本作の企画の元となりました。当初は自ら監督するつもりでいたのですが、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)、『アミスタッド』(1997年)、『プライベート・ライアン』(1998年)と驚異の3本連続撮影をしていた時期だったので、本作は断念しました。
    プライベート・ライアン【良作】孤立主義と国際主義の間で揺れるアメリカ(ネタバレあり・感想・解説)

監督は『ER 緊急救命室』のミミ・レダー

1952年ニューヨーク出身。父はB級映画監督のポール・レダーで、『ホワイト・ハウスに赤いバラ』(1977年)、『大虐殺(みなごろし)の最後通告』(1987年)、『20$スター/引き裂かれたハート』(1989年)といったそそるタイトルの駄作を撮っていた人でした。そんな父への反発があったのかなかったのか、彼女は大手テレビ局が製作するドラマの監督としてキャリアを築き上げ、『L.A. LAW/7人の弁護士』(1987年)やスピルバーグ製作の『ER 緊急救命室』(1994年)で頭角を現しました。

『ER』で見せた手腕や、同じく黒澤明フリークであったことからかスピルバーグからの信頼は厚く、彼が創始者の一人となってドリームワークスS.K.G.を立ち上げた際には、その第一回作品『ピースメーカー』(1997年)の監督に抜擢されました。

ピースメーカー【良作】アメリカの患部を突きすぎたアクション大作(ネタバレあり・感想・解説)

本作にはロン・エルダード、ローラ・イネスと『ER 緊急救命室』のレギュラー出演者を起用しています。

脚色は人の死ばかりをテーマにしているブルース・ジョエル・ルービン

1943年デトロイト出身。ニューヨーク大学に在学し、マーティン・スコセッシやブライアン・デ・パルマがその時の同窓だったようです。20代の頃にはインドやチベットを1年半ほど旅行し、ネパールの僧院にしばらく滞在した経験もあるというスピリチュアル系の人物で、クリスティ・スワンソンの死体が甦る『デッドリー・フレンド』(1986年)、ティム・ロビンスが生と死の間の曖昧な世界を彷徨う『ジェイコブズ・ラダー』(1990年)、がんで余命宣告されたマイケル・キートンが生まれてくる息子のために自分の映像を残そうとする『マイ・ライフ』(1993年)など、人が死ぬ映画ばかり作っています。『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)でアカデミー脚本賞受賞。

アカデミー賞受賞者が複数出演

  • モーガン・フリーマン:1937年メンフィス出身。アカデミー賞に3回ノミネート、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)でアカデミー助演男優賞受賞。
  • ロバート・デュヴァル:1931年サンディエゴ出身。アカデミー賞に7回ノミネート、『テンダー・マーシー』(1983年)でアカデミー主演男優賞受賞。
  • マクシミリアン・シェル:1930年オーストリア出身。『ニュールンベルグ裁判』(1961年)でアカデミー主演男優賞受賞。
  • ヴァネッサ・レッドグレイヴ:1937年イギリス出身。『ジュリア』(1977年)でアカデミー助演女優賞受賞。祖父はサイレント時代のスター・ロイ・レッドグレイヴ、父は『バルカン超特急』(1938年)に主演したマイケル・レッドグレイヴという芸能一家の生まれで、娘のナターシャ・リチャードソン、ジョエリー・リチャードソンも実力派女優となりました。また、ナターシャ・リチャードソンはリーアム・ニーソンと結婚したので、ニーソンは義理の息子ということになります。

あらすじ

高校生のリオ・ビーダーマンが天体観測中に彗星を発見した。その報告を受けた天文台のウルフ博士の計算によって、地球との衝突コースにあることが判明。その後、米国政府はロシアと共同で彗星を破壊するためのメサイア計画を進める。

登場人物

リオと関係者

  • リオ・ビーダーマン(イライジャ・ウッド):天文学部に在籍している高校生で、後にウルフ=ビーダーマンと名付けられる彗星を発見した。
  • サラ・ホッチナー(リーリー・ソビエスキー):リオの同級生で恋人。
  • マーカス・ウルフ(チャールズ・マーティン=スミス):天文学者で、リオが発見した彗星を分析し、地球を直撃する軌道にあることを突き止めたが、直後に交通事故死した。
  • ドン・ビーダーマン(リチャード・シフ):リオの父。

ジェニーと関係者

  • ジェニー・ラーナー(ティア・レオーニ):テレビ局勤務でアンカーウーマンを目指している。リッテンハウス財務大臣の女性スキャンダルを追いかけている内に、そのキーワード“エリー”が女性の名前ではなく絶滅の危機の極秘コードであることを知った。離婚した両親とはうまくいっていない。
  • ロビン・ラーナー(ヴァネッサ・レッドグレイヴ):ジェニーの母
  • ジェイソン・ラーナー(マクシミリアン・シェル):ジェニーの父で、ジェニーと歳の変わらない妻と最近結婚した。
  • ベス・スタンレー(ローラ・イネス):テレビ局のジェニーの上司。幼い娘がいる。

政府関係者

  • トム・ベック(モーガン・フリーマン):合衆国大統領。極秘裏にメサイア計画を進める大胆なリーダーシップと、国民への公表時には不安を煽り過ぎないよう言葉を選びながら説明する慎重さを兼ね備えている。
  • アラン・リッテンハウス(ジェームズ・クロムウェル):財務長官だが、隕石衝突に絶望して辞任し、最後の時を家族と過ごすことにした。

宇宙船メサイア号クルー

  • オーレン・モナッシュ(ロン・エルダード):チーフ。妊娠中の奥さんを残してメサイアに乗り込んだ。サンバイザーなしで太陽光の直撃を受けて失明した。
  • フィッシュ・タナー(ロバート・デュヴァル):ランデブー・パイロット。6回のシャトル搭乗経験を持ち最後に月を歩いた男という、経験豊富な宇宙飛行士。絶体絶命の危機の最中でも他のクルーを和ませるために笑っていられるほどの強靭なメンタルを持っている。
  • アンドレア・ベイカー(メアリー・マコーマック):パイロット
  • ガス・パーテンザ(ジョン・ファヴロー):医療士官。彗星地表のガス噴出で弾き飛ばされ、宇宙船に戻れなくなって死亡した。
  • ミカエル・タルチンスキー(アレキサンダー・バルーエル):原子力担当
  • マーク・サイモン(ブレア・アンダーウッド):ナビゲイター

感想

IFを追及した物語の面白さ

滅亡が迫った時、人類はどう反応するのかを描いたシミュレーション映画として、本作は破格の完成度を誇っています。

彗星が衝突コースにあり、2年後にその日が来ることを知りつつも、政府は最初の1年間は秘密を守り続け、有人宇宙船を送り込むメサイア計画、核ミサイルで彗星を狙うタイタン計画、新世界創造のため選抜された人々をシェルターで保護するノアの箱舟計画という、3段階の計画を準備していました。『アルマゲドン』(1998年)のように宇宙飛行士を送り込んで終わりではなく、何層もの対策が講じられているという点に燃えました。

アルマゲドン【凡作】酷い内容だが力技で何とかなっている(ネタバレなし・感想・解説)

また、計画の成功を確信できない財務長官が不自然なタイミングで辞職し、それを女性スキャンダルだと勘違いしたジャーナリストの突撃取材によって事の真相が明るみに出るという捻りの加え方にも意外性がありました。

公表にあたっては淡々と事実を話しつつも、国民を過度に不安がらせないよう、すべての対策は考えられていることを強調するベック大統領の話しぶりは非常にリアルだったし、「資源の買いだめ、独占、値上げは許さない」と締めるべき部分はきちっと締める周到さで、この人物が極めて優れた大統領であることが分かります。

メサイア計画の失敗後にはパニックを警戒して戒厳令を敷き、即座に第二段階へ移って行くという対応の良さも素晴らしいし、事ここに至っては地球が大打撃を受ける可能性が高いことを包み隠さず、政府が選んだ人間のみをノアの箱舟計画に参加させると言い切ってしまうという対応にも説得力があって、いちいち「ほぉ~」っと感心しながら見ることができました。

正しく見せることを心掛けた見せ場の説得力

メサイア号が彗星破壊に挑む場面は、NASAの協力で作られただけあって説得力十分。大気という保護膜のない彗星表面では太陽光がクルー達の脅威となったり、その太陽光で急激に熱せられた地表からガス噴射が起こったりと、意外なものがトラップになるので否応なしに緊張させられました。

DEEP IMPACT, Alexander Balueu, Jon Favreau, 1998

最大のハイライトである彗星衝突場面は現在の目で見ても怒涛の迫力で、破壊のカタルシスをたっぷりと味わうことができました。加えて、津波が来る前にいったん引き潮になったり、ビルの屋上に残った人々が津波とは逆方向に逃げているという些細な描写を入れたりすることで、大規模な見せ場を大味にしない工夫が施されています。この映像を製作したのは当時世界最高のVFX工房だったILM(インダストリアル・ライト・アンド・マジック)ですが、彼らはディティールにこそリアリティが宿るということを熟知していたようです。

群像劇に魅力がない

と、SFとしてはよく出来ていたのですが、ドラマ部分が全然面白くないことが作品のボトルネックとなっています。

2年前に大成功した『インデペンデンス・デイ』(1996年)に倣ってか本作も群像劇スタイルをとっており、『ER 緊急救命室』のミミ・レダーを監督に選んだことからもその方向性は読み取れるのですが、魅力的な登場人物がいないので、これがちっとも面白くありませんでした。

ジェニーの親子関係の話は本当にどうでもよくて、彼女が父親と和解する場面には何の感動もありませんでした。また、ノアの箱舟に入る権利を仲間内のくじ引きで分配したり、一度得た権利を人にあげたりといった描写には疑問符が付きました。ノアの箱舟に入れるのは新世界の創造に必要だと政府が判断した人間だけであって、勝手に融通し合うようなものではないと思うのですが。せっかくSFパートで築き上げられたリアリティが、出来の悪いドラマパートによって毀損されているように見えて、良い気分がしませんでした。

もっと酷いのがリオとサラの物語で、リオ一家と共にノアの箱舟に入る権利を得たにも関わらず、自分の家族と一緒にここに残ると言い出すサラがうざいし、最終的にサラは迎えに来たリオと合流し家族を置いて高台に逃げることになるのだから、最初っからノアの箱舟に入っとけよとイライラさせられました。どうやらリオとサラの物語はもっと多く撮影されていたようなのですが、試写の結果がよくなかったために、ほとんどがカットされたようです。

あと、冒頭で彗星のデータを届けようとして死亡したウルフ博士のエピソードには何の意味があったんでしょうか。

≪ライバル映画≫
アルマゲドン【凡作】酷い内容だが力技で何とかなっている

≪ディザスター映画≫
ポセイドン・アドベンチャー【凡作】作劇に古さを感じる
ポセイドン・アドベンチャー2【駄作】緊張感ゼロ
タワーリング・インフェルノ【凡作】アクション演出が悪すぎる
アルマゲドン【凡作】酷い内容だが力技で何とかなっている
ディープ・インパクト【良作】よく考えられたシミュレーション映画
アウトブレイク【良作】感染パニックものでは一番の出来