【良作】ザ・グリード_面白いしよく出来ている(ネタバレなし・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1998年 アメリカ)
密輸業者+美人泥棒+ハイテクで武装した傭兵 VS 謎の人食い怪獣というキワモノ映画なのですが、これが高い構成力で破綻なくまとめられており、驚くほど良くできています。巨大怪獣のインパクトと意外性は最後まで維持されているし、モンスター映画としては破格の作品だと言えます。

作品解説

全米大コケ作品

まず残念なお知らせですが、本作はアメリカで大コケしております。

1998年1月30日に全米公開されたのですが、同じく水もの映画である『タイタニック』(1997年)公開の1か月後というタイミングの悪さもあって、初登場8位と低迷。

その後も盛り返すことはなく、全米トータルグロスは1120万ドルで、4500万ドルの製作費にも遠く及びませんでした。

東宝東和の攻めた宣伝戦略

全米での失敗を受けてか、日本での配給を行った東宝東和は、作品全体の大掛かりなお色直しを行いました。

東宝東和と言えば1970年代より大袈裟な宣伝で幾多のヒット作を生み出してきた猛者であり、本作にて久々にその伸び伸びとした手腕が炸裂。

まずタイトルを”Deep Rising”(深海から浮かび上がってくるもの)から『ザ・グリード』に変更。何とも言えないインパクトやいかがわしさが備わりました。

またホラー映画っぽいアメリカ版ポスターを採用せず、モンスターを前面に押し出した日本オリジナルのデザインに変更。こちらもまたインパクトが大幅に増加しました。

日本版ポスター
アメリカ版ポスター

そこに「90分で3000人 喰って、喰って、喰いまくれ!」というどんぶり勘定も勇ましい豪快な宣伝文句を加え、全国のモンスター映画ファンのハートを鷲掴みにしたのでした。

感想

緩急のバランスが良い

本作を監督したのは『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(1999年)や『G.I.ジョー』(2009年)のスティーヴン・ソマーズ。

ソマーズの特徴は、観客に飽きられることを恐れてか全編を見せ場の連続にした結果、緩急が失われて逆につまらなくなるということなのですが、本作ではその罠が回避されており、しっかりとした緩急のあるバランスの良い作品となっています。

実は本作、ハリソン・フォード主演の大作として進められていたのですが、ハリソンが降板したことから製作規模を縮小されてしまい、撮れなくなった場面も多く発生したものと思われます。

そうした見せ場のリストラが逆に奏功してか、ドラマとアクションのバランスが整えられ、緩急の差がしっかりとれた、ソマーズ監督作中ではもっともよくできた作品となりました。

そして、ハリソンに代わって主演に就任したのは『ゾンビコップ』(1988年)のトリート・ウィリアムズでしたが、安っぽいメル・ギブソンのような彼の個性も、作品のコミカルな面に貢献しています。

キャラクター間の緊張感が見事

本作に登場するのはどいつもこいつもアウトローばかり。

  • フィネガン(トリート・ウィリアムズ):密輸船の船長
  • トリリアン(ファムケ・ヤンセン):豪華客船に忍び込んだ女泥棒
  • ハノーバー(ウェス・ステュディ):傭兵のリーダー
  • キャントン(アンソニー・ヒールド):保険金目的で豪華客船を沈没させようとする船主

そんな身の上のキャラばかりなのでお互いの信頼関係はなく、そのやり取りには常に緊張感が漂っているのですが、そうは言っても得体のしれないモンスターに襲われている最中なので、連帯しなければ乗り切れない。

その辺りの微妙なバランス・駆け引きが、本作のドラマを面白くしています。

例えば、傭兵のリーダー ハノーバーは、表面上はお茶らけているが、戦闘経験はありそうなフィネガンに武器を持たせたくない。

しかし怪物が迫ってきている場面ではフィネガンに銃を渡し、フィネガンも四の五の言わずにこれを受け取ります。

「組まなきゃ倒せない」という逼迫感がこのやりとりから伝わってくるし、言葉を発することなく無言で意思疎通できるということより、この二人には高い練度があることも分かります。

かと思えば、自分が生き延びるためには誰かを犠牲にしなければならない場面もある。

そうした付かず離れずの関係性が映画全体の緊張感に繋がっているし、各キャラクターの行動は論理的によく考えられており、不合理な行動をとる者が一人もいないという点もポイント高かったです。

個性豊かなモンスター

モンスターは怒涛の迫力。

『遊星からの物体X』(1982年)『ロボコップ』(1987年)のロブ・ボッティンがデザインを手掛けているのですが、触手だと思っていた部分の先端が開いて口になったり、ワーム状の生物かと思いきや、根元部分にはビオランテのような巨大な本体があったりと、常に予想を裏切ってくるデザインが秀逸でした。

また触手の動かし方が実に絶妙で、そんなわけないんだけど、あたかも感情を持って動いているように見えたりと、得体のしれないモンスターに個性を持たせることにも成功しています。

ここまでよく出来たモンスターって、なかなかお目にかかれませんよ。

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