【凡作】デルタフォース2_法を守るチャック・ノリス(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1990年 アメリカ)
前作での暴れ過ぎを反省したのか、今回のチャック・ノリスは「敵を生け捕りにして法廷に突き出す」ということを徹底しており、その結果、B級アクションに必要な勢いがありませんでした。チャック・ノリスは人を殺してナンボなのです。

作品解説

チャック・ノリスの家族映画

当初、『デス・ウィッシュ』シリーズでお馴染みのマイケル・ウィナーに監督オファーが行っていたのですが、脚本の不出来を理由に断られ、アーロン・ノリスが監督として雇われました。

アーロンはチャック・ノリスの弟であり、元はスタントマンや武術指導をしていたのですが、同じくチャック・ノリス主演の『ブラドック/地獄のヒーロー3』(1988年)で監督デビューを果たしていました。

また、チャック・ノリスは無名時代に面倒を見ていたジャン=クロード・ヴァン・ダムに出演依頼をしていました。

もし実現していれば『エクスペンダブルズ2』(2012年)に12年先駆け、現役時代の子弟共演となったはずなのですが、ヴァンダムは本作と同じくキャノンフィルムズが製作していた『サイボーグ』(1989年)への主演のため、本作には出演できませんでした。

前作を大幅に下回った興行成績

本作は1990年8月24日に全米公開されたのですが、初登場11位と低迷。なお、その週の1位はサム・ライミ監督の『ダークマン』(1990年)でした。

全米トータルグロスは669万ドルであり、1776万ドルを稼いだ前作の1/3程度にまで落ち込みました。

感想

今回のテーマは遵法精神

チャック・ノリスという神がスコット・マッコイ大佐に扮する『デルタ・フォース』(1986年)の続編。

B級アクションながら現実の国際問題を織り込むという実は含蓄深いシリーズなのですが、80年代後半から90年代前半にかけての麻薬戦争が今回のテーマとなります。

敵はビリー・ドラゴ扮する麻薬王ラモン・コタ。ドラッグビジネスで世界有数の大富豪にまで登り詰めた点や、地元政府や軍関係者も取り込んでいる点などを見るに、実在の麻薬王パブロ・エスコバルをモチーフにしていると思われます。

パブロ・エスコバルの仰天人生はテレビシリーズ『ナルコス』でご覧になれますよ。

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一方マッコイ大佐はというと、現在は母国で平穏な日々をエンジョイしています。仕事仲間で親友でもあるボビー・チャベス少佐(ポール・ペリ)とは家族ぐるみの付き合いであり、ご子息のバスケの試合を一緒に観戦するほどの親密ぶり。

現在の大佐の周囲にある暴力と言えば、チャベス夫妻と共に訪れたレストランで暴れているチンピラに渇を入れる程度のものであり、戦場に殺戮の花を咲かせていた『1』からは考えられないほど穏やかなものです。

レストラン店主に絡むチンピラに料理の味を教えるマッコイ大佐。『男たちの挽歌Ⅱ』以来のアクションヒーローの恒例行事

そんな大佐の元に、DEA(アメリカ麻薬取締局)から応援要請が来ます。麻薬王ラモンに手こずっているので、その逮捕に協力してくれないかと。

DEAが数年間追いかけても尻尾を掴めなかったというラモンを、コンビニへ買い物に行く程度の感覚でいとも簡単に拘束するマッコイ大佐。『1』の時ならば躊躇せず撃ち殺していたであろう場面ですが、今回のマッコイ大佐は生きたまま拘束して法の裁きを受けさせるということにこだわります。

そんな仏のようなマッコイ大佐に向かって「てめぇぶっ殺すぞ!」と暴言を吐くラモン。生死を握られているのはお前の方で、たまたまマッコイさんが殺さないという判断をしているだけとも知らず恐れ多いことをぬかします。

そんなこんながありつつもラモンはアメリカの法廷に突き出されるのですが、保釈金1000万ドルを要求という呆気ない判決が下されて閉廷。そんなものはラモンにとってはした金であり、実質的に無罪放免で麻薬王を世に放ったのと同じです。

この判決にキレたのは同僚のチャベス少佐の方で、マッコイ大佐は「まぁ法がそう判断したのなら仕方ないか」という態度を取ります。

遵法精神こそが今回のマッコイ大佐のテーマなのです。

その後、ラモンによる報復が始まりチャベスの妻子が殺されます。普段のチャック・ノリスならば銃を手に取って30秒フラットで南米に殴り込みをかけるであろう場面ですが、今回はいきり立つチャベスを制止する側に回ります。

結局報復に走ったチャベスはラモンに捕まってしまい、毒ガスで処刑される映像がアメリカに送り付けられてきます。それでもなお独断に走らず大統領からの攻撃命令を忍耐強く待ち続けるマッコイ大佐。

ただし溢れる怒りを抑えきれなかったのか、稽古と称して部下達をボコボコにはしますが。事情が事情なので反撃するわけにもいかず、木人の如く技を喰らい続ける上司思いの部下達には頭が下がる思いがしました。

友人を殺された怒りを稽古にぶつけるマッコイ大佐。一点の曇りもなくパワハラ。

本作の前半はそんな感じなのですが、個人的にはチャック・ノリスの映画に遵法精神は要らなかったと思います。法とか秩序を無視し、マイルールの元で自由に暴れ回ることこそがノリスの魅力であって、法という制約条件を設けてしまったために痛快さが失われているような気がしました。

トム・クルーズにパクられた討ち入り

そして自国の兵士を殺されたことに怒った大統領からの攻撃命令が下り、いよいよ反撃が始まります。

ただしマッコイ大佐は攻撃を目的とした本隊からは離れ、単身、ラモン邸に拘束されているDEA捜査官達の救助に向かうことに。

ラモン邸は切り立った岩山の上にあり、マッコイ大佐はロッククライミングをしてそこに潜入しようとするのですが、これがまんま『ミッション:インポッシブル2』(2000年)のクライマックスなんですね。

で、本作はM:i-2よりも10年も早く作られていることから、トム・クルーズとジョン・ウーは本作をパクったということになります。

さらに類似点はあります。ロッククライミング後の敵拠点での隠密アクション、施設内のパイプを鉄棒のように使ったアクロバット、車両を使って敵の追撃から逃れる主人公とそれを上空から支援する味方ヘリコプターという構図と、いくつもの要素がM:i-2に移植されています。

ここまで来ると言い逃れできませんね。トム・クルーズは菓子折り持ってチャック・ノリスのところに挨拶に行くべきでしょう。そうした社会人としての礼儀は大事ですよ。

武闘派テイラー将軍大活躍

↑で「敵の追撃から逃れる逃れる主人公」と書きましたが、今回のチャック・ノリスは敵から逃げるんです。まさかと思われるかもしれないのでもう一度書いておきますが、今回のチャック・ノリスは敵から逃げます。

ミサイルランチャー装備のバイクで敵を豪快に爆破して回った前作のマッコイ大佐と同一人物とは思えないほどの腰の引け具合に、私はとてもガッカリしました。

しかも、性懲りもなくラモンの生け捕りにこだわり続けるのですが、一度法廷に突き出して失敗したのに、またしても同じ方法を取ることはアクション映画的には正しくないと思うわけです。

そんな感じで本作でのチャック・ノリスの煮え切らない姿勢には終始疑問符が付いたのですが、そんなグダグダな空気の中で唯一気を吐いていたのがテイラー将軍(ジョン・P・ライアン)です。

左がテイラー将軍(ジョン・P・ライアン)。一見すると冴えないこのおじさんが殺戮の花を咲かせます。

さすがは将軍だけあって大統領からの電話を直接受けるほどのえらい人なのですが、ラストでは単独行動をとることに決めたマッコイ大佐の代理として、デルタフォース本隊の指揮を執るという現場主義者ぶりも披露。

隊員達と共に攻撃ヘリに乗り込むと、バイオハザードの無限ロケットランチャーの如く一向に尽きることのないミサイルをコカ畑の隅から隅にまで撃ち込み、機銃掃射で敵兵を一掃するという方法で次々と敵拠点を壊滅させて回ります。

同行する地元政府の役人が「勝手に攻撃しないでください」と言ってきても合衆国将軍という権威によってこれを無視。

本来はチャック・ノリスが担当すべき破壊と殺戮という役割を、すべてこのテイラー将軍が担います。

ゴールデン洋画劇場版では銭形警部でお馴染みの納谷悟朗さんが吹替を担当されているのですが、ややコミカルな口調で大規模破壊を指揮するという倒錯ぶりもツボでした。

後半はテイラー無双に注目しましょう。

なお、本作の撮影中にヘリコプターが墜落して5名が死亡するという痛ましい事故が起こったのですが、テイラー将軍役のジョン・P・ライアンは事故に巻き込まれながらも無事生還しました。

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