【凡作】逃亡者(1990年)_ミッキー・ロークの魅力のみ堪能する映画(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス・ホラー
サスペンス・ホラー

(1990年 アメリカ)
有名なハリソン・フォード主演の方ではなく、ミッキー・ローク主演の方。密室劇の割に緊張感がなく、犯罪者・被害者・捜査官のいずれにも行動のユルさがあって犯罪サスペンスとしては失敗した部類に入るのですが、力の入れ所がどうにもおかしな演出や豪華出演者達が妙な味になっており、見る価値はあります。

あらすじ

高い知能を持つ凶悪犯マイケル・ボズワース(ミッキー・ローク)は、自身の公判中に逃亡を図る。その協力者で恋人でもある弁護士ナンシー(ケリー・リンチ)と合流するため、マイケル一味は犯罪とは無関係なコーネル家に押し入る。ここからコーネル家の恐怖の夜が始まるのだった。

スタッフ・キャスト

製作はディノ・デ・ラウレンティス

1919年イタリア王国出身。1940年から150本以上の映画をプロデュースしており、インディペンデントのプロデューサーとしては最高峰に君臨していました。

特に1970年代から1980年代前半にかけては、『キングコング』(1976年)、『ハリケーン』(1979年)、『フラッシュ・ゴードン』(1980年)、『コナン・ザ・グレート』(1982年)、『デューン/砂の惑星』(1984年)と、質はともかくかける金は凄まじい映画を多く手掛けていました。

しかし1980年代半ばになると資金繰りが思わしくなくなり、『トータル・リコール』の製作途中に一度破産(脚本はマリオ・カサールとアーノルド・シュワルツェネッガーに引き取られた)。以降はかつてほどの大作は作れなくなりました。

2010年にロサンゼルスで逝去。

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監督は『ディア・ハンター』(1978年)のマイケル・チミノ

1939年ニューヨーク出身。イェール大卒業後に広告業界に入り、TVコマーシャルの監督となりました。1971年に映画脚本家に転身し、『サイレント・ランニング』(1972年)と『ダーティハリー2』(1973年)の脚本を執筆。

『ダーティハリー2』でのご縁かイーストウッド主演の『サンダーボルト』(1974年)で監督デビューを果たし、長編2作目『ディア・ハンター』(1978年)がアカデミー作品賞を始めとした5部門を受賞し、自身も監督賞を受賞しました。

次いで意欲作『天国の門』(1980年)を製作しましたが、チミノの本物志向が炸裂して製作費と撮影日数が大幅超過。加えて完成した作品は「史上最悪の赤字を出した映画」としてギネスブックに掲載されたほどの大コケをして(後にレニー・ハーリン監督の『カットスロート・アイランド』(1995年)が記録を更新)、製作会社ユナイテッド・アーティスツを倒産に追い込みました。

その後しばらくはチミノを使うスタジオは現れなかったのですが、本作でも組むこととなるディノ・デ・ラウレンティス製作×ミッキー・ローク主演の刑事アクション『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985年)で監督復帰しました。

ただし『ディア・ハンター』『天国の門』ほどの映画を作ることは2度となく、2016年に自宅で逝去。

なお、当初の本作の監督は『ヤングガン』(1988年)のクリストファー・ケインだったのですがプリ・プロダクションの最中に降板し、『フレンチ・コネクション』(1971年)のウィリアム・フリードキンが雇われたもののこちらも降板し、ミッキー・ロークの提案でマイケル・チミノが選ばれたという経緯があります。

『スーパーマン4/最強の敵』(1987年)のコンビ脚本家が脚色

本作を脚色したのはコンビで活躍するローレンス・コナーとマーク・ローゼンタール。

ローレンス・コナーはもともとテレビ界の住人で、『大草原の小さな家』や『探偵レミントン・スティール』などのエピソードを執筆していました。

その後映画界に転身してマーク・ローゼンバーグと組むようになり、マイケル・ダグラス主演の『ナイルの宝石』(1985年)や『スーパーマン4/最強の敵』(1987年)など低品質な続編を手掛けました。

完成作品が観客からの支持を得られるかどうかはともかく、このコンビは続編やリメイクの類を得意としているようであり、『必死の逃亡者』(1955年)のリメイク企画である本作、人気シリーズ第6弾『スター・トレックVI 未知の世界』(1991年)、『猿人ジョー・ヤング』(1949年)のリメイク『マイティ・ジョー』(1998年)、往年の名作のリメイク『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001年)などを手掛けています。

撮影は『フルメタル・ジャケット』のダグラス・ミルサム

『ハイランダー/悪魔の戦士』(1986年)、『フルメタル・ジャケット』(1987年)、『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)などを手掛けた名撮影監督。本作でも雄大な自然を捉えた見事な撮影技術を披露しています。

その後、なぜかジャン・クロード・ヴァン・ダムのお抱えとなり、『レジョネア 戦場の狼たち』(1998年)、『ザ・コマンダー』(2005年)、『ザ・ディフェンダー』(2006年)、『ディテクティブ』(2007年)、『ザ・プロテクター』(2008年)を手掛けています。

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編集は『ボーン・アルティメイタム』のクリストファー・ラウズ

1958年LA出身。本作で初めてクレジットされた新人でした。その後『ボーン・アイデンティティ』(2002年)の追加編集に参加したことからジェイソン・ボーンシリーズの編集技師となり、『ボーン・スプレマシー』(2004年)、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)、『ジェイソン・ボーン』(2016年)と手掛け、うち『ボーン・アルティメイタム』ではアカデミー編集賞を受賞しました。

やたら豪華な出演者達

  • ミッキー・ローク(マイケル・ボズワース):1952年NY出身。80年代のセックスシンボルで、ロバート・デ・ニーロと渡り合うほどの演技力も併せ持ったスターでした。90年代には低迷したものの、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞のドラマ『レスラー』(2008年)の主演で復活しました。
  • アンソニー・ホプキンス(ティム・コーネル):1937年ウェールズ出身。元は舞台俳優で60年代後半より映画界に進出。本作の翌年に出演した『羊たちの沈黙』(1991年)でアカデミー主演男優賞を受賞しました。アクターズ・スタジオのメソッド演技法(役柄を深く研究し、徹底した役作りを行う演技法)に反対の立場をとっており、脚本に書かれていることを忠実に演じるというアプローチをとる俳優です。あれ?共演のミッキー・ロークはアクターズ・スタジオ出身だったような気が…。
  • ミミ・ロジャース(ノラ・コーネル):1956年フロリダ州出身。リドリー・スコット監督の『誰かに見られてる』(1987年)の主演で注目されました。トム・クルーズの最初の奥さんですが、1990年に離婚。
  • ショウニー・スミス(メイ・コーネル):1969年サウスカロライナ州出身。フランク・ダラボンが脚本を書いた往年のモンスター映画のリメイク『ブロブ/宇宙からの不明物体』(1988年)のヒロイン役で注目されました。彼女のファンだったリー・ワネルからの依頼で主演した『ソウ』(2004年)が人気シリーズとなり、4作品に出演しました。
  • リンゼイ・クルーズ(ブレンダ・チャンドラー):1948年ニューヨーク出身。劇作家デヴィッド・マメットの奥さんで(1990年に離婚)、彼が脚本を書いた『評決』(1982年)などに出演しています。『ブレイス・イン・ザ・ハート』(1984年)でアカデミー助演女優賞ノミネート。
  • ディーン・ノリス(マドックス):1963年インディアナ州出身。テレビドラマ『ブレイキング・バッド』(2008-2013年)のDEA捜査官ハンク・シュレイダー役で有名。90年代はやたらSWAT隊員の役を演じており、『グレムリン2』『ターミネーター2』『交渉人』(1998年)でもSWATをやっていました。
  • ケリー・リンチ(ナンシー・ブレイヤーズ):1959年ミネソタ州出身。元はモデル活動を行っており、1985年より女優業を開始。トム・クルーズ主演の『カクテル』(1988年)やガス・ヴァン・サント監督の『ドラッグストア・カウボーイ』(1989年)で注目された後に本作に出演。その後はジョン・トラボルタ主演の人種ドラマ『ジャンクション』(1995年)、ラッセル・クロウとデンゼル・ワシントンが共演したSFアクション『バーチュオ・シティ』(1995年)、往年のテレビドラマのリメイク『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)に出演しています。
  • イライアス・コティーズ(ウォーリー・ボズワース):1961年モントリオール出身。アクターズ・スタジオで演技を学んだ後に1985年から映画出演を開始。テレンス・マリック監督の『シン・レッド・ライン』(1998年)のスタロス大尉役で素晴らしい演技を披露しました。他にアーノルド・シュワルツェネッガーの『コラテラル・ダメージ』(2001年)などに出演。
  • デヴィッド・モース(アルバート):1953年マサチューセッツ州出身。『ザ・ロック』(1996年)の副官役、『ロング・キス・グッドナイト』(1996年)の武器商人役、『コンタクト』(1997年)の父親役、『交渉人』(1998年)のSWAT隊長役など大作への出演が多く、かつ、幅広い役柄を演じる性格俳優です。

作品概要

『必死の逃亡者』(1959年)のリメイク

本作はウィリアム・ワイラー監督×ハンフリー・ボガート主演のサスペンス『必死の逃亡者』(1955年)のリメイクです。

1954年にジョセフ・ヘイズの小説”The Desperate Hours”が出版され、1955年にはヘイズ自らの脚色で舞台化されています。その後、これまたヘイズ自身の脚色で映画版も製作されました。

そのリメイク企画である本作の脚色にもジョセフ・ヘイズは参加しています。なお、オリジナルのタイトル”The Desperate Hours”に対して、本作のタイトルは”The”がとれた”Desperate Hours”となっています。

登場人物

犯人グループ

  • マイケル・ボズワース(ミッキー・ローク):高い知能を持つ凶悪犯。刑務所内で起こした殺人事件の公判中に脱走を図り、恋人であるナンシーと合流するためにコーネル家に潜伏する。
  • ウォーリー・ボズワース(イライアス・コティーズ):マイケルの弟。兄の脱走に協力しているが、兄ほどの知能や凶悪さはない。
  • アルバート(デヴィッド・モース):ウォーリーの友人で、マイケルの脱走計画に協力。ただし、それまで面識のなかったマイケルからはよく思われていない様子。
  • ナンシー・ブレイヤーズ(ケリー・リンチ):モデルにしか見えない弁護士。マイケルとは恋人関係にあり、彼の脱走を手引きした。FBIからの監視をすり抜けてマイケルに合流しようとしている。

捜査官

  • ブレンダ・チャンドラー(リンゼイ・クルーズ):FBIの女性捜査官。型にはまらない発想力があり、そのために部下を振り回すことも多い。リスクをとるタイプでもあり、ナンシーを泳がせて脱走したマイケルの潜伏先を突き止めようとしている。
  • マドックス(ディーン・ノリス):FBI捜査官でブレンダの部下。奔放な上司に対して憎まれ口を叩きながらも、その指示に対しては忠実に動いている。

被害者一家

  • ティム・コーネル(アンソニー・ホプキンス):裕福な弁護士。家族を捨てて24歳の若い不倫相手と同居していたが、その不倫相手との関係が終わりそうなので、今度は家庭に戻ろうとしている。まさにクズ親父。
  • ノラ・コーネル(ミミ・ロジャース):ティムの妻。不倫を隠しもしないティムに愛想つかしており、心機一転のため現在の家を売ろうとしている。
  • メイ・コーネル(ショウニー・スミス):ティムとノラの高校生になる長女。父親に幻滅している。演じるショウニー・スミスは母親役のミミ・ロジャースとよく似ていて、本当の親子に見える。
  • ザック・コーネル(ダニー・ジェラード):ティムとノラの小学生の長男。まだ子供なので父親のしていることを理解しておらず、家庭内で唯一、ティムによく懐いている。ファミコンが趣味。
ミミ・ロジャース
ショウニー・スミス

感想

犯人・捜査官の計画がユルい

天才的な頭脳を持つ逃亡犯マイケル・ボズワース(ミッキー・ローク)が、恋人の弁護士ナンシー(ケリー・リンチ)と落ち合うために民家に潜伏することが本作のあらすじ。

乗換用の車を事前に準備しておくなど、犯人グループの行動は当初洗練されているのですが、コーネル家に潜入した辺りから行き当たりばったり感が出てきます。

もともと一晩だけ潜伏して、ナンシーと合流できればすぐに退散という予定だったものが、ナンシーがなかなか警察の尾行をまくことができず、それに伴いマイケル達の滞在時間も延びていきます。逃亡計画はよく考えられていたのに、その後はノープランだったのかと呆れてしまいました。

滞在時間が延びれば延びるほどコーネル家に来訪者がやってくるリスクも高まり、空調の修理人や娘の彼氏がやってくるたびにコソコソ隠れるマイケル達が何だか間抜けに見えてきます。

ここまでグダグダになってくると、アメリカ国内で合流するというプランにそもそも無理があって、目的地であるメキシコで合流すればよかったような気もしてきました。

グダグダと言えば捜査官側も同じくで、ナンシーがマイケルと内通していることを知りながらもあえて泳がせ、マイケルの居場所を突き止めるために利用しようとするのですが、その尾行がバレバレという(笑)。

結局ナンシーを泳がせる作戦はうまくいかず、たまたま見つかった不動産屋の死体からその顧客であるコーネル家を突き止めるので、前半でやっていたことがほぼ無意味となります。

この不動産屋の死体が見つかるくだりも不自然で、犯人の一人アルバート(デヴィッド・モース)は人のいない大自然のど真ん中に死体を捨てるのですが、次の瞬間には警察が死体を発見しているという、まずありえないことになっています。

噂によると本作のファイナルカット権はマイケル・チミノにはなく、プロデューサーによって完成作品がズタズタにカットされたために、筋の通らない展開が多く発生したとのことでした。ただしディレクーズ・カット版が陽の目を見たことはなく、スチールから未使用フッテージの存在が推測されるに留まっていますが。

密室劇なのに緊張感がない

主題となるマイケル一味とコーネル家の攻防戦にもキレ味が足らず、密室劇らしい緊張感が醸成されていませんでした。

マイケル達の監視が意外とユルくて、コーネル家から目を離している時間が結構あります。マイケル一味は1階リビングに居て、コーネル家は2階の寝室に大集合していたりとか、さっさと窓から脱出すればいいのにとイライラしてしまいました。

またコーネル家の作戦会議の声がでかいこと(笑)。「キャビネットの上に銃を隠してるわ」という会話をひそひそ声ではなく普通の音量でしています。

加えてコーネル家の面々はマイケルに堂々と反抗するんですよね。マイケルから何か指示されても「いやだ」とはっきり言ったり、「お前なんか死ね」的な発言をしたりと、犯人に怯えている様子ゼロなので、その分観客が感じる緊張感も損なわれていました。

ミッキー・ロークが良すぎる

そんな感じで全体としてはグダグダなのですが、主人公マイケルを演じるミッキー・ロークのみ、実に魅力的でした。天才的なIQと人を魅了する力を持った悪魔的な犯罪者にちゃんと見えています。

コーネル家に押し入った直後のノラ(ミミ・ロジャース)とのやりとりは秀逸で、ノラは突然の事態に極度に怯えるのですが、この緊張状態では人質としてコントロールしづらいとあって、マイケルは適度なレベルにまで彼女の恐怖心を解いてやります。

ルールさえ守っていれば危害を加えないと約束し、言葉通り紳士的に振る舞うのですが、もしルールを守らなければとんでもない目に遭わされるという無言の威圧感も常に発しています。この辺りの、人のコントロールに長けた知能犯ぶりは流石ミッキー・ロークというところでした。

加えて、恋人を待つというロマンチストな点が彼の欠点となり、わが身一つであれば成功したはずの逃亡計画の綻びになっていくことにも物の憐れが宿っていました。

家族の再生物語が機能していない ※ネタバレあり

本作は父の不倫が原因で崩壊寸前だったコーネル家の再生物語でもあったはずなのですが、この点もうまく回っていませんでした。

このテーマをとるのであれば、蓄積されてきた不信感ゆえに、危機に直面しても家族の連携がうまくいかなかったり、父親の家族愛が試される局面があったりすべきなのですが、あまり起伏なくドラマが推移していったので面白みがありませんでした。

加えて、愛し合っていたはずの恋人に裏切られる犯罪者マイケルに対して、崩壊寸前だったコーネル家が団結して脅威をはねのけるという対比構造があったものと思われるのですが、この点の掘り下げも甘くて、最後はマイケルが自滅しただけにしか見えなかったことも残念でした。

マイケルの敗因だけではなく、コーネル家に決定的な勝因も与えていれば対比構造がうまく機能したと思います。

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