(1995年 アメリカ)
前作までの孤立無援のアクションから一転してバディものとなり、舞台も大幅に拡大した第3弾。本作までは毎回作風を変えながらもダイ・ハードらしさは維持しており、それでいてどれもちゃんと面白いという奇跡的なクォリティを維持しています。

あらすじ
ニューヨークで爆弾テロ事件が発生。サイモンと名乗る犯人はジョン・マクレーン警部補(ブルース・ウィリス)を指名し、命令に従わなければ次の目標を爆破すると脅してきた。
サイモンの命令通りハーレムのど真ん中で人種差別的なプラカードを掲げたマクレーンはストリートギャングに絡まれ、危機一髪のところを地元の家電修理店店主ゼウス(サミュエル・L・ジャクソン)に救われた。サイモンはゼウスもゲームに加わるようにと命令し、二人はNY市内を走り回ることになる。
スタッフ・キャスト
第一作のジョン・マクティアナンが監督に復帰
1951年生まれ。名門ジュリアード音楽院で学び、ピアース・ブロスナン主演のホラー『ノーマッズ』(1986年)で監督デビュー。
『プレデター』(1987年)、『ダイ・ハード』(1988年)、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)と、キャリア初期には奇跡のような傑作を連打し、90年代初期には次世代を担う監督としてジェームズ・キャメロンと並ぶほどの注目を浴びていました。
『レッド・オクトーバーを追え!』とスケジュールが競合したため『ダイ・ハード2』(1990年)はレニー・ハーリンが監督したのですが、本作でシリーズに戻ってきました。
ただし代表作以外はどれもイマイチで、『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)は期待外れの結果に終わり、『13ウォーリアーズ』(1999年)は製作費1億6000万ドルに対して全世界興行成績が6000万ドルという大爆死、『ローラーボール』(2002年)は酷評を受けました。
2006年にはFBIへの偽証罪で逮捕され、12か月の実刑を受けました。2020年時点での最後の監督作はジョン・トラボルタ主演の『閉ざされた森』(2003年)となっています。
主演はブルース・ウィリス
1955年生まれ。高校卒業後に警備員、運送業者、私立探偵など複数の職業に就いた後、俳優としてニューヨークで下積みを経験し、オフ・ブロードウェイの舞台などに立っていました。
1984年頃にLAに転居してからはテレビ俳優となり、オーディションで3000人の中から選ばれた『こちらブルームーン探偵社』(1985年~1989年)の主演でコメディ俳優としての評価を確立しました。
アーノルド・シュワルツェネッガー、クリント・イーストウッド、リチャード・ギア、メル・ギブソンらに次々と断られた末にオファーが来た『ダイ・ハード』(1988年)の主人公・ジョン・マクレーン役でコメディ俳優の枠を超える評価と、国際的な知名度を獲得。
1990年代前半には多くのアクション大作に出演したのですが、並行してインディーズ映画『パルプ・フィクション』(1994年)にも出演。
スター俳優がギャラを下げてまでインディーズ映画に出演するということは現在では一般的なのですが、ハリウッドスターではじめてそれをやったのがブルース・ウィリスでした。
シリーズ初の相棒はサミュエル・L・ジャクソン
そんなブルース・ウィリスと『パルプ・フィクション』(1994年)で共演した縁で本作にも出演したのがサミュエル・L・ジャクソン。
1948年テネシー州出身。長い下積みの末、『星の王子 ニューヨークへ行く』(1988年)、『パトリオット・ゲーム』(1992年)、『ジュラシック・パーク』(1993年)などへの出演でちょいちょい見かける顔になり、『パルプ・フィクション』(1994年)で大ブレイク。
その後は出演作が途切れることがなく、ついには『アベンジャーズ』(2012年)でSHIELD長官ニック・フューリーにまで登り詰めました。
ブルース・ウィリスとはよほど気が合ったのか、『アンブレイカブル』(2000年)、『ミスター・ガラス』(2019年)でも共演しています。
悪役はオスカー俳優ジェレミー・アイアンズ
1948年イングランド出身。元はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに所属する舞台俳優で、1980年に映画デビュー。バーベット・シュローダー監督の『運命の逆転』(1990年)でアカデミー主演男優賞を受賞しました。
ダイ・ハードシリーズの悪役で唯一のオスカー受賞者です。
なお、彼が演じたサイモン・グルーバー役はデヴィッド・シューリスに断られたものであり、後に二人はリドリー・スコット監督の時代劇『キングダム・オブ・ヘブン』(2005年)で共演します。
作品概要
脚本の変遷
元々、本作はジェームズ・ハギンという人物が書いた”Troubleshooter”というオリジナル脚本を改変し、カリブ海クルーズに出かけたジョンとホリーがシージャック事件に巻き込まれる話になる予定でした。
しかしワーナーが『沈黙の戦艦』(1992年)の製作を開始したことから、どうしても印象が似通ってしまう”Troublemaker”はボツにされました。このシナリオは後に『スピード2』(1997年)に流用されています。
その後『リーサル・ウェポン』のシェーン・ブラックに新たな脚本の執筆依頼をしたのですが断られ、1992年に『コナン・ザ・グレート』のジョン・ミリアスが雇われたのですが、決定稿には至りませんでした。
1993年には『ダイ・ハード2』のダグ・リチャードソンと『48時間PART2 帰って来た二人』のジョン・ファサノが雇われ、それぞれ別個に『ダイ・ハード3』の脚本を執筆。LAの地下鉄がテロリストの手に落ちるという内容でしたが、どちらもブルース・ウィリスによって却下されました。
その後、ジョナサン・ヘンズリーが執筆した『サイモン・セズ』というオリジナル脚本が流用されることとなりました。
なおこの『サイモン・セズ』、ジョエル・シルバーは『リーサル・ウェポン3』(1992年)の原案に使おうとしていたのですが、フォックスが譲渡を拒否したものでした。
そのフォックスは『ラピッド・ファイヤー』(1992年)の続編に使おうとしていたのですが、主演のブランドン・リーが死亡したために企画自体が消滅。なお、サミュエル・L・ジャクソン扮するゼウスに相当する役柄を主人公にするつもりだったようです。
こうして『ダイ・ハード3』の原案として流れ着いたのですが、ヘンズリーによると本編の最初1時間はオリジナルの『サイモン・セズ』に比較的忠実なのですが、後半はまるで別物になるとのことです。
プロデューサーの交代劇
『ダイ・ハード』シリーズは、1984年から1986年までフォックス社長を務めたローレンス・ゴードンと、その弟子筋であるジョエル・シルバーがプロデューサーを務めてきましたが、『ダイ・ハード2』(1990年)の後にフォックス、ゴードン、シルバーの関係は悪化していました。
まずフォックスは『プレデター2』(1990年)と『フォード・フェアレーンの冒険』(1990年)の興行的失敗と人間的な軋轢から、ジョエル・シルバーへの不信感を抱いていました。
次にゴードンは、自身が代表を務めるラルゴ・エンターテイメントで”The Ticking Man”という映画を製作しようとしていたところ、同時期に『ラスト・ボーイスカウト』(1991年)を製作していたジョエル・シルバーに主演のブルース・ウィリスを横取りされてしまい、結局”The Ticking Man”が製作中止となったためにシルバーとの仲が険悪になっていました。
そこに1980年代から90年代前半にかけて映画市場を席巻していたカロルコ・ピクチャーズの元共同代表であるアンドリュー・G・ヴァイナと、彼が率いる新興の製作会社シナジー・ピクチャーズが登場。
シナジーは『ザ・スタンド』(1992年)でジョン・マクティアナンと、『薔薇の素顔』(1994年)でブルース・ウィリスと仕事をした経験を持っており、ゴードンとシルバーにそれぞれ75万ドルずつ支払って権利を買い取って本作『ダイ・ハード3』を製作しました。
全世界年間興行成績No.1
こうした紆余曲折を経て完成した本作ですが、全米興行成績は1億ドルで、1億1700万ドルを稼いだ前作を多少下回るというやや期待外れな結果でした。
しかしヨーロッパや日本での興行成績の伸びは驚異的で、全世界では3億6600万ドルもの売り上げを記録しました。これは『トイ・ストーリー』(1995年)や『アポロ13』(1995年)といった強敵を上回るものであり、1995年でもっとも高い興行成績をあげた映画となりました。
登場人物
- ジョン・マクレーン警部補(ブルース・ウィリス):ニューヨーク市警警部補。妻ホリーとは不仲となっており、家族とは別居している。酒浸りの荒れた生活のために停職中だが、爆弾犯サイモンからの指名で現場に引きずり出される。
- ゼウス・カーバー(サミュエル・L・ジャクソン):ハーレムの家電修理店の店主であり元タクシードライバーなのでNYの地理に詳しい。若者たちに絡まれるマクレーンを助けたことからサイモンの目に留まり、マクレーンと一緒にゲームに参加するよう命令される。
- サイモン・グルーバー(ジェレミー・アイアンズ):元東ドイツ陸軍大佐で、現在はテログループを率いている。当初はサイモンと名乗ってマクレーンを振り回したが、実は第一作の悪役ハンス・グルーバーの兄で、弟の仇であるマクレーンへの復讐に現れた。
- ウォルター・コッブ警部(ラリー・ブリッグマン):ニューヨーク市警重犯罪課の責任者で、マクレーンの上司。現在のマクレーンの状態に失望してはいるが、基本的にマクレーンの実力を買っている。今回の爆弾騒動への対応の陣頭指揮を執っているが、無能な現場指揮官が多いダイ・ハードシリーズでは例外的に良い仕事をしている。
感想
シリーズの定番をことごとく崩した第3弾
『ダイ・ハード』、『ダイ・ハード2』と真冬の夜を舞台にしてきましたが、本作は真夏の真っ昼間。
またこれまでのマクレーンは孤立無援の戦いを強いられてきましたが、今回は警察組織との連携がバッチリ取れている上に、強力な相棒までを獲得して『リーサル・ウェポン』みたいなバディものとなっています。
物語の構造も大きく異なっており、『ダイ・ハード』、『ダイ・ハード2』とマクレーンは妻の救助、対する敵は目的物の奪取という明確な目的に向かって動いていましたが、本作は二転三転してどの方向に向かっているのかが分からない物語となっています。
さらに、これまではマクレーンが敵の想定外の存在となり、本来は緻密だったはずの敵の計画に干渉し、敵を振り回していくという流れを取っていましたが、本作では敵側がマクレーンを指名した上で、マクレーンが敵に振り回されるという関係性となっています。
こうして眺めてみると、従来作品とはまったく別の構造の映画となっています。
それでもダイ・ハードらしさが残っているという凄さ
ただしこれほどの改変を加えてもなお、ダイ・ハードらしさはしっかりと残っています。
マクレーンもゼウスも傷だらけになり、ダラダラと不満をこぼしながらも戦いを続けており、中年男性が体に鞭打って戦うという構図はしっかりと維持。
加えて『ダイ・ハード2』では一般的なヒーロー像に近づきつつあったマクレーンのキャラクターもしがない中年像に引き戻されており、特に第一作とはちゃんと繋がったキャラクター像になっています。
また大規模化した見せ場においても爆破テロに巻き込まれるモブをきちんと描いていることが、第一作と通底する感触に繋がっています。
例えば『ダイ・ハード4.0』ではモブの存在感が希薄だったために、見せ場は派手でも手に汗握らないという現象が起こっていましたが、先駆ける本作ではその罠が回避できていたというわけです。
アクションの満願全席状態
見せ場のスケールはシリーズ最高となっています。
冒頭からNYの市街地が爆破され(本当に街の一角を爆破しています)、セントラルパークをタクシーが暴走し、地下鉄は脱線し、トンネルを洪水が襲い、激しいカーチェイスもある。
もはやアクションの満願全席状態です。お腹いっぱいになりました。
NYというロケーションをここまで有効活用したアクション映画はかつて見たことがなく、目で楽しませてもらいました。
加えて音響面でも聞かせてくれます。このシリーズのサウンドデザインは優秀なのですが、本作の音はとりわけよく出来ており、聞かせるアクション映画にもなっています。
華麗なるジョン・マクティアナンの演出スキル
マクティアナンは技術面で話題にのぼるタイプの監督ではないのですが、実は結構なテクニシャン。
『ダイ・ハード』(1988年)においては、通常であれば隠そうとするレンズフレアをあえて残して臨場感を高めていましたが、本作では手持ちカメラの多用によって、同じく臨場感を追及しています。まだ『プライベート・ライアン』(1998年)も『ボーン・スプレマシー』(2003年)もなかった時代、ここまで手持ちカメラを多用した娯楽作は見たことがありませんでした。
また劇中のモニターの使い方も華麗なものであり、サイモンたちが地下の金庫室を襲った際にガードマンからの抵抗を受けて足止めを喰らうのですが、そのガードマンの肩越しに見える監視カメラ映像では、奥からゆっくりと迫ってくるカティア(サム・フィリップス)の映像が映し出されています。この場面の緊張感はかなりのものでした。
音楽へのこだわりも『ダイ・ハード』(1988年)を引き継いでいます。
スタンリー・キューブリック監督の『時計仕掛けのオレンジ』(1971年)の大ファンであるマクティアナンは、同作の劇中で使用された「雨に唄えば」のメロディを『ダイ・ハード』(1988年)のスコアに忍ばせていました。
本作では、同じくキューブリック監督の『博士の異常な愛情』(1963年)で使用された「ジョニーが凱旋するとき」を大胆に使用。元は悲壮感漂う楽曲であるところをアップテンポにして行進曲のような勇ましい曲調に変更し、サイモンが金塊を奪取する様をカッコよく支えています。
このBGMの使い方のセンスの良さには感動しました。
悪役サイモンが魅力
今回の悪役サイモン・グルーバーにはオスカー俳優ジェレミー・アイアンズを起用。アイアンズが独自の軍隊を引き連れてウォール街を闊歩する様は画になっていましたね。
金目当てのハンス・グルーバー(『ダイ・ハード』)、独裁者奪還を目論んでいたスチュワート大佐(『ダイ・ハード2』)と、利益目的の敵と理念重視の敵が交互に現れた後に、今回の敵サイモンがどちらなのかを読ませないというシリーズ内での配置もうまくいっていました。
ジェレミー・アイアンズ自身が持つ重厚さとも相まって、サイモンの意図をなかなか読ませず物語への関心が高い状態が維持されています。二転三転するアクション映画の担い手として、実に良く機能していました。
≪ダイ・ハード シリーズ≫
【傑作】ダイ・ハード_緻密かつ大胆で人間味もあるアクション大作
【良作】ダイ・ハード2_シリーズ中もっともハイテンション
【良作】ダイ・ハード3_作風が変わっても面白い
【駄作】ダイ・ハード4.0_マクレーンが不死身すぎて面白くない