【凡作】勝利への脱出_スタローンが若手だった頃(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1981年 アメリカ)
戦時下におけるサッカー親善試合と、捕虜による大脱走計画を絡めるという驚天動地の闇鍋企画だが、正直あまり盛り上がらない。ただし後のスタ作品につながる要素も多いので、ファンとして切って捨てられない魅力があるのも確か。

感想

中学時代に日曜洋画劇場で見たんだけど、スタローンを神と崇めていた当時の私をもってしても、特段面白いとは感じなかった。

ソフト化面でも不遇の作品で、DVD黎明期にリリースされたディスクの再販が繰り返されるのみ。Blu-ray以降のハイビジョンメディアは未発売だし、コレクター魂をくすぐる商品展開がなされていないものだから、今の今まで見返してこなかった。

なのだけれど、ついこの間午後のロードショーで懐かしの地上波吹替版がオンエアーされたので、有難く視聴させていただいた。午後ロー様にはいつか菓子折り持ってお礼に行かなきゃ・・・と毎回書いてるような気がするなぁ。

初見時の私は戦争映画とサッカーを結びつけるとはさすがに強引すぎると感じたが、なんとこれが実話を元にしているらしい。

1942年8月に戦争捕虜vsナチス軍人のサッカー親善試合がウクライナで開催されたのだが、捕虜チームの勝利によって面目を潰されたナチスは、相手選手を収容所送りにしたり処刑したりで、後年「死の試合」と呼ばれるに至った。

この題材を元にした映画は本作が初ではなく、1962年にハンガリーで『地獄のハーフタイム』という映画が製作されたそうな(ここまで見事にwikiの知識の受け売り)。

同一素材の再映画化にあたり、ハリウッドは脱走要素のチョイ足しで戦争映画としての色をより強めることにした。

そして戦争映画として作るのであれば巨匠が必要だろうということで呼ばれたのが、ハリウッド黄金期を支えた大監督ジョン・ヒューストン。

ヒューストンは前作『王になろうとした男』(1975年)でも組んだマイケル・ケインを主演に起用した。

まだアクション俳優になる前のシルベスター・スタローン、当時のハリウッドにおいてゲルマン系の役柄を一手に引き受けていたマックス・フォン・シドー、サッカーの試合がハイライトなのだからサッカーができる奴が必要だろうという理由でプロサッカー選手のペレが、続々とキャスティングされた。

こうして書き出してみると出鱈目にもほどがあるメンツであり、よくこんな闇鍋感溢れる企画を一つのテイストでまとめ上げたものだと思う。巨匠の手腕はこうしたところで振るわれたのだろう。

捕虜vsナチス軍人の親善試合という概要こそ史実と一致しているが、舞台はウクライナからフランスに変更された。

ドイツ占領下にあったフランスにおいて、国力の違いを見せつけるためのプロパガンダとして親善試合は企画されたというのが本作の概要だが、連合軍側だって利用される一方ではない。

地元レジスタンスと協力して試合の最中に選手団を脱走させることで、晴れの舞台でナチスの鼻を明かしてやろうと考えたのである。

かくしてサッカーの試合と脱走計画が同時並行で進んでいくという厄介にもほどがある本編が開始されるのだが、本来は緊張感の相乗効果を狙うべきところ、両者が打ち消し合う関係性となっているのだから映画とは難しいものだ。

本作の主人公はマイケル・ケイン扮するジョン・コルビー大尉と、シルベスター・スタローン扮するロベルト・ハッチ大尉である。

コルビーは元イングランド代表選手であり、親善試合に勝つことに全力を挙げている。

一方アメリカ人のハッチはサッカーのルールすらよく知らない。彼の関心の対象は脱走の一点のみであり、サッカーの試合には勝とうが負けようがどちらでもいいと思っている。

この二人の相克が描かれていれば作品により深みがうまれたのかもしれないが、ジョン・ヒューストンは若手時代のスタローンの実力を信用していなかったのか、二人の絡みは実にアッサリしたものだ。

アッサリといえば、コルビーやハッチが二者択一を迫られる場面も、妙に軽々しく流されてしまう。

  • 単身での脱走に成功したハッチが、より大きな脱走計画実現のためメッセンジャーとして収容所に戻れと言われる場面
  • 脱走計画のキーパーソンであるハッチを選手入りさせるため、既存選手の1人を骨折させる場面
  • 開かれた脱出経路を前にして試合続行を選択する場面

彼らが重大な決断を迫られる場面が都合3度出現するのだが、いずれも熟慮なく流されてしまうので本来持つべき意味が失われている。

本作は万事こんな感じで、観客にも考えこませるような演出上のタメがないものだから、ドラマが淡白に感じられる。

かといって派手なドンパチもなければ、スタローンが胸のすくような活躍を見せるわけでもない。

ペレが華麗にオーバーヘッドキックを決める場面が作品のハイライトでは、ちとツライものがある。

というわけで総じて満足度の低い作品なのだが、その後のスタローン作品への影響がそこかしこに見える作品なので、彼のファンとしては感慨深いものもある。

スポーツが政治プロパガンダに利用されるというストーリーはモロにロッキー4/炎の友情』(1985年)だし、熱戦を繰り広げるアスリートの姿に権力者までがほだされるという展開も共通している。

また敵チームに肩入れした変則試合で主人公がボコボコにされるという流れは『ロックアップ』(1989年)に引き継がれている。『ロックアップ』は脱獄ものでもあったし。

本作で共演したマックス・フォン・シドーとは、後年の『ジャッジ・ドレッド』(1995年)でスタローンの師匠役として再共演を果たし、マイケル・ケインが若い頃に主演した『狙撃者』(1971年)はスタローン主演の『追撃者』(2000年)としてリメイクされ、ケインも助演した。

その後のスタローン作品につながる要素満載だと思うと、本作を見る目もまた変わるのではないだろうか。

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