【凡作】エグゼクティブ・デシジョン_もっと面白くなったはず(ネタバレなし・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1996年 アメリカ)
特殊な設定を熟練したテクニックで見せる作品で、見せ場に走ってサスペンスをぶち壊しにすることなく、ステルス戦の楽しみを存分に味わわせてくれます。ただし、判断に悩む司令部やミスを犯した主人公のドラマがほぼスルーなので、もっと良くできたのにと歯がゆい部分もあります。

©Warner Bros.

あらすじ

ワシントンD.C.行きの旅客機がハイジャックされるが、その機には化学兵器が持ち込まれている可能性があった。もし化学兵器が散布されれば東海岸壊滅という予想もなされる中で、飛行中の旅客機に特殊部隊を送り込むという作戦が提案される。

作品解説

『フォレスト・ガンプ』とトレードされた企画

『プレデター』のジム&ジョン・トーマスによって執筆された本作の企画を当初進めていたのはパラマウントだったのですが、企画が棚上げされた後に、ワーナーが脚色やキャスティングで行き詰っていた『フォレスト・ガンプ/一期一会』と交換されました。

両作の最終的な製作費は5500万ドルとほぼ同額だったのですが、パラマウントが『フォレスト・ガンプ/一期一会』で6億7700万ドルも稼いだのに対して、本作の世界興収は1億2200万ドルと5分の1も稼げませんでした。この結果に、ワーナー幹部は地団駄を踏んで悔しがったことでしょう。

スチュアート・ベアードの監督デビュー作

このブログでは大変お馴染み、スチュアート・ベアードの監督デビュー作です。

この人の本職は編集マンで1970年代から活躍しており、非常に腕が良いので編集の神様なんて呼ばれることもあるのですが、あまりに巧すぎてダメ映画の手直しに駆り出されることも多く、この人の名前を見つけると「この映画は何かあったんだな」と思った方がいいような状況となっています。

そんなベアードが手直しで参加した主な作品が以下の通りで、特にワーナーへの貢献度が高かったので、ご褒美で本作の監督をさせてもらったんでしょうか。

≪スチュアート・ベアードが直した作品≫
デッドフォール【凡作】撮影現場は地獄だった
リトルトウキョー殺人課【駄作】彼女を見捨てて修行するドル
ラスト・ボーイスカウト【凡作】荒み方が最高な前半とブチ壊しの後半
デモリションマン【凡作】期待しすぎなければ楽しめる
ミッション:インポッシブル2【駄作】シリーズ随一の駄作
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

感想

堅実なサスペンスアクション

本作の見せ場はイントロのセガール部隊突撃とクライマックスの飛行機大パニックくらいしかなく、サスペンスアクションを標榜する割にアクション要素には乏しいのですが、サスペンスだけでも観客をグイグイと引っ張っていくような牽引力があります。

意表を突く展開の連続であるという脚本の充実ぶりに加えて、長年娯楽作に携わってきたベアードは観客を飽きさせないテンポを分かっているようで、見せ場に依存しなくても映画をもたせています。

加えて、込み入った設定の整理もうまくいっています。

下手な監督が撮っていれば何が何だか分からない映画になったところ、観客に対する情報伝達は実にうまくいっており、理解しようと思わなくても情報が勝手に頭に入ってくるような感覚すら持ちました。やっぱり編集の神はダテじゃないなと。

“エグゼクティブ・デシジョン(最高決定)”が置き去りにされた本編

ただし機内のサスペンスに焦点を絞り過ぎたことから、この脚本に本来あったはずであろう重要な構成要素がいくつか犠牲にされている点も気になりました。

無辜の市民を乗せた旅客機を撃墜するかどうかの選択を迫られる司令部の葛藤が本作の重要なファクターだったはずであり、だからこそタイトルがエグゼクティブ・デシジョン(最高決定)なんですね。

状況はかなり逼迫しており、もし化学兵器を積んだ旅客機をD.C.上空に飛来させれば首都どころか東海岸の半分も壊滅するという予想がなされています。

ただしこれはカート・ラッセル扮するアナリストが状況から推測して言っているだけで、機内に化学兵器が持ち込まれているという確たる証拠はないという点がミソ。

しかもそのアナリストは一つ前の作戦では予想を外しており、そんな奴の意見を信用して無辜の市民を殺すという取り返しのつかないことをしてもいいのかと司令部は悩むことになります。

そこで機内にセガール隊長が率いる特殊部隊を突入させるわけですが、その後にも司令部の苦悩はさらに続きます。

こちらの輸送機が大破した上に部隊は通信機を失ったので司令部と現場がコミュニケーションをとれなくなり、機内に化学兵器があるのかどうかの確認がとれない、部隊が生存して作戦を遂行しているのかどうかも分からない。

こうした中での司令部の意思決定が作品のハイライトの一つであり、デッドラインが迫る中で司令部はどう腹を括るのか、また現場部隊はどうやって撃墜を回避するのかというサスペンスがあって、そこからクライマックスに向けた大きな流れを作るべきだったのですが、この意思決定というテーマがすっぽりと抜け落ちています。

ミスを犯した主人公の成長譚になっていない

前述した通り、カート・ラッセル扮するアナリストのグラントは一つ前の作戦で予想をミスっているのですが、そんな大チョンボにも関わらず「あくまで予想なので外すことだってありますよ」って感じでヘラヘラしており、責任感の欠片もありません。

そんなグラントの態度が、空振りだった前回の作戦で部下を無駄死にさせた上に、化学兵器を確保し損ねたために起こった今回のハイジャック事件の解決にも動員されて気が立っていたスティーヴン・セガール扮するトラヴィス隊長を刺激し、「お前も一緒に現場へ来い」と言われてしまいます。

本作は、一段上で構えてきたアナリストが、現場に入ることで多くを学ぶというグラントの成長譚でもありました。ただしこの点がまったく深掘りされていません。

まずグラントを恨んでいるのはトラヴィスのみで、その他の隊員達とグラントの間には軋轢がまったくない様子なので、トラヴィスが死んだ後はみんな仲良し。

これでは終始しかめっ面だったトラヴィスが悪者っぽく見えてしまい、従前のグラントの言動に問題があったという点が見えづらくなってしまいます。

また旅客機への潜入直後からグラントは的確なリーダーシップを発揮し、テキパキと隊員達を動かし始めます。最初から有能だと、欠陥を抱えた人間の成長譚として成立しないのですが。

グラントと隊員達の間には緊張関係があって、意見が割れた際に「お前は予想をミスって俺らの仲間を殺しただろ」と言われるようなホットなやりとりが必要だったし、グラントがこうした心理的なハードルをどう乗り越えるのかという点にこそ、ドラマの面白みがあったはずなんですが。

≪スティーヴン・セガール出演作≫
【凡作】刑事ニコ/法の死角_パワーと頭髪が不足気味
【駄作】ハード・トゥ・キル_セガール初期作品で最低の出来
【凡作】死の標的_セガールvsブードゥーの異種格闘戦は企画倒れ
【良作】アウト・フォー・ジャスティス_セガール最高傑作!
【良作】沈黙の戦艦_実はよく考えられたアクション
【凡作】沈黙の要塞_セガールの説教先生
【良作】暴走特急_貫通したから撃たれたうちに入らない
【凡作】グリマーマン_途中から忘れ去られる猟奇殺人事件
【凡作】エグゼクティブ・デシジョン_もっと面白くなったはず
【凡作】沈黙の断崖_クセが凄いがそれなりに楽しめる
【駄作】沈黙の陰謀_セガールが世界的免疫学者って…
【駄作】DENGEKI 電撃_セガールをワイヤーで吊っちゃダメ
【まとめ】セガール初期作品の紹介とオススメ

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