【まとめ】映画はアレだが音楽はかっこいい作品

雑談
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音楽は映画の重要な構成要素であり、多くの名作は名曲と共に記憶されていますが、時に映画の内容は伴わないが、音楽だけがよく出来た作品というものも存在します。そんな、「映画の内容さえ良ければ名曲扱いだったかも…」という作品を紹介いたします。

ウォーターワールド(ジェームズ・ニュートン・ハワード)

午後のロードショーのオープニングで使用されており、映画ファンにとってはお馴染みの音楽。

午後ローの歴代OPは『風と共に去りぬ』『大いなる西部』『アラビアのロレンス』『八十日間世界一周』など名曲揃いで、そこに肩を並べている時点で評価の高い楽曲であると言えます。

映画『ウォーターワールド』(1995年)は90年代大コケ映画の代名詞的作品であり、1億7500万ドルという当時としては史上最高額の製作費をかけたものの、批評面でも興行面でも振るいませんでした。

また大スター ケビン・コスナーのキャリアが、本作後に一気に下降に転じたという点でも悪名高い作品。

アウトローとして登場した主人公の性格がどんどん丸くなっていき、最終的には幼女と海水浴を楽しむに至るというワイルドじゃない展開、中盤辺りに最大の見せ場がやってきて、そこから先はグダグダという歪な構成など、アクション映画としての明確な欠点をいくつも抱えています。

後年、ユニバーサルスタジオで名物ショーになったこともあって「意外と悪くないんじゃないか」という意見もチラホラ聞かれるようになりましたが、依然として「面白い!」と言い切る人が皆無であることが、その完成度を物語っています。

そんな作品の音楽を担当したのはジェームズ・ニュートン・ハワード。もとはエルトン・ジョンのキーボード奏者をやっていた人で、80年代に映画音楽の分野に進出しました。

80年代末から90年代にかけてのハワードはとにかく多作で毎年4~5本もの映画をコンスタントに担当しており、しかも『逃亡者』(1993年)ではアカデミー賞にノミネートされるという評価も獲得。早い!うまい!を両立した職人でした。

そしてもう一つの特徴と言えるのが、監督のビジョンの具現化に長けているということです。

後に手掛ける『キングコング』(2005年)は、当初の担当者だったハワード・ショアとピーター・ジャクソン監督の意見が合わず、ショアの降板後にハワードが起用されたものでした。

本作の経緯も同じくで、元は『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)のマーク・アイシャムが起用されていたのですが、民族的で主旋律の弱い曲調をケビン・コスナーが嫌って作曲済の音楽を全ボツにし、代わりに雇われたのが『ワイアット・アープ』(1994年)で一緒に仕事をしたハワードでした。

ハワードは前任者が解雇された現場を素早く立て直し、ヒロイックで明確な旋律のある曲調というコスナーの依頼通りに作曲。

疾走感のあるメインテーマや、重厚感のある悪党のテーマ曲など、冒険映画らしいメリハリのある曲調であり、もし映画も傑作なら名曲扱いだっただろうと思う逸品です。

カットスロート・アイランド(ジョン・デブニー)

『ウォーターワールド』が大コケ映画の代名詞的存在であるとすれば、裏番長的な存在と言えるのがレニー・ハーリン監督の『カットスロート・アイランド』(1995年)。

一般的な知名度は高くないのですが、1億ドルの製作費に対して全世界興収が1000万ドル足らずで、製作費の1割も回収できなかった大赤字映画としてギネスレコードを持つ、ある意味で伝説的な作品です。

『トータルリコール』(1990年)『ターミネーター2』(1991年)などの大ヒット作を連発していた独立系スタジオ カロルコの最末期の作品であり、本作製作中にスタジオが破産したことからうまい形で商業ベースに乗せられなかったという、悲劇の歴史を持っています。

財宝の島を巡る争いを描いた海賊映画であり、『ウォーターワールド』と同じく水物であるという点に、このジャンルの難しさが伺えます。そして、同じく水物である『タイタニック』を大成功させたキャメロンって凄かったんだなということが、この2本の失敗作を見ると理解できます。

そんないろいろとお疲れ様な映画なのですが、その音楽を担当したのは後に『パッション』(2004年)でアカデミー作曲賞にノミネートされ、ミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』(2017年)を手掛けることになるジョン・デブニーです。

デブニーは『怪傑ゾロ』(1958年)のプロデューサーであるルイス・デブニーの息子であり、元はテレビ業界で『トワイライト・ゾーン』(1986年)や『スタートレック:ディープ・スペース・ナイン』(1993年)などを担当していました。

1993年に映画界に進出したデブニーにとって初の大作が本作であり、加えて往年の娯楽活劇の復活という点では『怪傑ゾロ』を手掛けた父のキャリアの延長線上にもあることから、相当な気合で取り組んだものと思われます。

フルオーケストラを派手に鳴らしまくる豪胆な曲調であり、のっけから大活劇を期待させられます。これだけテンションの高いサウンドは後の『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003年)にも引けを取っておらず、映画さえ良ければ名曲扱いだったのになぁと歯痒い思いをさせられます。

カロルコ倒産のゴタゴタのせいか当初はサントラが発売されず、日本盤はいまだにリリースされていないのですが、世界的には人気があるらしく、2005年にはイギリスで2枚組という大ボリュームのサントラが発売されています。

スペースバンパイア(ヘンリー・マンシーニ)

そんなジョン・デブニーがリスペクトを表明している作曲家がヘンリー・マンシーニ。

『ティファニーで朝食を』や『シャレード』などのオードリー・ヘプバーン主演作が代表作であり、『刑事コロンボ』や『ピンクパンサー』など誰もが知るキャッチーなテーマ曲も手掛けた才人です。

そんな、どちらかと言えばポップな印象の強いマンシーニの履歴の中でも、特段の異彩を放っているのが『スペースバンパイア』(1985年)です。

駆け出し時代のマンシーニはユニバーサルで『大アマゾンの半魚人』(1954年)をはじめとしたB級ホラーを手掛けており、その素地はあったといえるのですが、それにしても意外過ぎる人選です。

『スペースバンパイア』(1985年)を製作したのは80年代に一世を風靡した独立系スタジオ キャノンフィルムズ(日本のカメラメーカーとは無関係)。

キャノンフィルムズの総帥メナハム・ゴーランは、商業面でハリウッドに貢献しているにもかかわらず、一向に業界内での敬意を得られないことに業を煮やしており、本気で凄いものを作ってやると意気込んでいた時期がありました。

フランスの巨匠ジャン=リュック・ゴダールに『ゴダールのリア王』(1987年)を撮らせたり、黒澤明による未製作の脚本『暴走機関車』(1985年)をロシアの名匠アンドレイ・コンチャロフスキーに監督させたりと、通好みのシブイ人材を起用していろいろやっていたわけです。

そんな中で製作されたのが本作『スペースバンパイア』(1985年)であり、監督は『悪魔のいけにえ』(1974年)のトビー・フーパー、脚本は『エイリアン』(1979年)のダン・オバノン、撮影監督は往年の怪奇映画の名匠であるアラン・ヒュームと、著名な人材をドバドバと投入しました。

その極め付きが名作曲家ヘンリー・マンシーニの起用であり、マンシーニはパワフルで印象的なメインテーマで、ゴーランの期待に応えてみせました。

いまだにテレビ番組などでも頻繁に使用される楽曲であり、映画は見ていなくてもこの曲は知っているという方も多いのではないでしょか。紛うことなき名曲だと言えます。

一方作品はというと、豊満すぎる女バンパイアが全裸でうろつく映画という印象が強すぎて、いまだに評価を得られていません(実際のところ女バンパイアの登場シーンは7分程度で、裸だけの映画というわけでもない)。個人的には面白いと思うのですが。

デルタ・フォース(アラン・シルヴェストリ)

キャノン・フィルムズ関係でもう一本あげるならば、チャック・ノリス主演の『デルタ・フォース』(1986年)があります。

上記『スペースバンパイア』(1986年)と同じく人材”だけ”揃えた作品であり、リー・マーヴィン、マーティン・バルサム、ジョージ・ケネディ、シェリー・ウィンタースら、60年代から70年代にかけてアカデミー賞を受賞した経験のある俳優をずらっと揃えています。

ただし客観的には盛りの過ぎた名優の小遣い稼ぎであることが明白であり、彼らのパフォーマンスが映画の質向上に貢献するということもなく、ゴーラン自身もB級アクションと割り切って撮っているので、安定のチャック・ノリス主演作です。

そんな本作の音楽を担当したのはアラン・シルヴェストリ。

後に『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)でアカデミー作曲賞を受賞し、『アベンジャーズ』シリーズなども手掛けてハリウッドを代表する作曲家となるのですが、若手時代に手掛けた本作ではご苦労なさったようです。

『アベンジャーズ』シリーズでも分かる通り、シルヴェストリは大編成のオーケストラサウンドを得意としているのですが、一方で本作では俳優の出演料に費やされたためかシルヴェストリに渡された予算はあまりに少なく、オーケストラは断念。

そこでシンセサイザーバリバリの80年代サウンドに切り替えて本作を作曲しました。

これが躍動感ある名曲であり、映画の不出来を音楽がかなり補っていると言えます。後にインディ500の中継でこのテーマ曲が使われるようになったので世界的に有名となり、曲だけは聞いたことがあるという人はかなり多いと思われます。

本作のサントラ盤は世界的に稀少なようで、2008年にアメリカで発売された限定盤は即完売、スペインでの再販では予約段階で完売という人気ぶりを示しています。

Amazonでは中古盤に19,900円という凄まじい値段がついていました(2021/11/17閲覧)。

ヴァン・ヘルシング(アラン・シルヴェストリ)

アラン・シルヴェストリ関係でもう一本。

往年の怪奇映画『ミイラ再生』(1932年)を現代的な冒険映画『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(1999年)として甦らせ大ヒットさせたスティーヴン・ソマーズ監督は、ユニバーサルモンスターズを使った映画をさらに企画。

ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、狼男が一堂に会し、『吸血鬼ドラキュラ』に登場するヘルシング博士を大幅に若返らせたうえで、バチカン所属のモンスターハンターということにしたアクション大作『ヴァン・ヘルシング』(2004年)です。

そして、ソマーズとは『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(2001年)でも組んだアラン・シルヴェストリが音楽に起用されました。

楽曲はテンションの高いアクションサウンドであり、シルヴェストリが得意とするフルオーケストラを基調としつつも、コーラスやギターを入れることで独自性を発揮しています。

特に面白いのがギターの使い方で、マカロニウェスタンを意識したものと思われるのですが、テンガロンハットを被った流れ者というヒーロー像と、良い意味でのパチモン感という点で本作と整合しており、作品の概要を音でも表現することに成功しています。

『ウンナン極限ネタバトル! ザ・イロモネア』で使用されていたので、音楽は知っているという方は多いのではないでしょうか。

一方作品の出来はというと、『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(2001年)以降のソマーズ作品の特徴である、観客を飽きさせないよう見せ場の連続にした結果、緩急がなくなって逆につまらなくなるという現象が特に顕著に表れた作品となりました。

全米興行成績は1億2000万ドルを超えるなかなかのヒットになったものの、1憶6000万ドルという膨大な製作費からすると不調であり、批評面でも振るわず、ハムナプトラのようにシリーズ化されることはありませんでした。

シルヴェストリの手掛けたテーマ曲は、シリーズ化後にも繰り返し使えるほどの完成度だったんですけどね。

スペシャリスト(グロリア・エステファン)

ここまでは劇判を紹介しましたが、最後に主題歌に着目した作品をご紹介します。

一般的にはあまりイメージないのですが、シルベスター・スタローンは”歌もの”に拘る人物であり、『ロッキー3』(1982年)の主題歌としてスタローンからの依頼で作曲された”Eye of the Tiger”は全米6週連続1位を記録し、サバイバーはグラミー賞の最優秀ロック・パフォーマンス部門を受賞しました。

この『ロッキー3』に影響されたのがパラマウントのプロデューサー ドン・シンプソンであり、映画とサントラを密接に融合させたMTV風映画という着想を得て、『フラッシュ・ダンス』(1983年)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)、『トップガン』(1986年)などを大ヒットさせました。

負けじとスタローンも有名なロッキーのテーマを排して全編を歌曲尽くめにした『ロッキー4/炎の友情』(1985年)、同じく80年代っぽい歌曲だらけの『コブラ』(1986年)、ヴァン・ヘイレンに加入したばかりのサミー・ヘイガーを主題歌に起用した『オーバー・ザ・トップ』(1987年)など、サントラに並々ならぬ拘りを見せます。

そんなMTV風映画の波も90年代には収まったのですが、依然としてスタローンは『ロッキー5/最後のドラマ』(1990年)の主題歌にエルトン・ジョン、『デモリションマン』(1993年)の主題歌にスティングと、”歌もの”への拘りを継続させていました。

そんな中で製作されたのがサスペンスアクション『スペシャリスト』(1994年)でした。

プロデューサーのジェリー・ワイントロープが映画界に入る前は音楽プロモーターだったこともあって、やはり歌曲への拘りの見られる作品であり、『トップガン』(1986年)『コブラ』(1986年)のサントラを手掛けたエミリオ・エステファン・Jr.をミュージック・スーパーバイザーとして起用。

舞台となるマイアミに合わせて全編をラテン風の楽曲で彩っており、サントラはなかなかの充実ぶりなのですが、出色なのはエミリオの妻グロリア・エステファンによる主題歌”Turn the Beat Around”です。

気が狂うかと思うほどノリノリの楽曲で、後にシングルカットされた際にも大ヒットし、グロリア・エステファンの代表曲となりました。

ただし、私怨にまみれた犯罪ノワールである『スペシャリスト』の作風に合っていたかと言われると微妙なところで、映画の初見時には、エンディングで何かを間違えたのかと思ったほどでした。

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