沈黙の断崖【凡作】クセが凄いがそれなりに楽しめる(ネタバレなし・感想・解説)

(1997年 アメリカ)
ウェスタンの王道を踏まえた安定感のあるストーリーと、いつものセガール映画が組み合わされた、セガール好きなら相応に楽しめる作品でした。ただし本作辺りからセガール作品にも予算がつかなくなり、『沈黙の戦艦』(1992年)『沈黙の要塞』(1994年)と比較するとかなりのスケールダウンをしているという寂しさはありますが。

©Warner Bros.

あらすじ

環境保護局のエージェント・ジャック・タガート(スティーヴン・セガール)は、同僚エージェントが不審死を遂げた山間の村へとやってくる。そこは地元の有力者(クリス・クリストファーソン)が産業廃棄物の不法投棄で巨万の富を得ており、保安官も結託しているために誰も手出しのできない村だった。

スタッフ

監督は『ER』のフェリックス・エンリケス・アルカラ

1951年カリフォルニア州出身。90年代初頭よりテレビドラマの監督を務めるようになり、『ER緊急救命室』の演出で名を上げました。当初の監督だったウリ・エデル(『BODY/ボディ』(1993年))が降板したことからアルカラに声がかかって本作で映画監督デビューをしたのですが、結果が芳しくなかったためか映画は本作が最初で最後となり、再びテレビ界に出戻っています。

脚本は『ダイ・ハード』のジェブ・スチュワート

1956年アーカンソー州出身。無名時代に企画開始当初にはさして期待されていなかった『ダイ・ハード』(1988年)の脚色を任され、同作が興行的にも批評的にも大成功したことから一躍アクション脚本の大家となりました。他にシルベスター・スタローン主演の『ロックアップ』(1989年)やハリソン・フォード主演の『逃亡者』(1993年)を手掛けています。

本作は90年代初頭に書いたオリジナル脚本であり、『ダイ・ハード』つながりで元はブルース・ウィリスが主演する予定でした。その頃の企画では探偵ものとしての色合いが強かったのですが、セガールが主演に決まって以降は脚本の直し屋であるフィリップ・モートンによって大幅な変更が加えられました。

作品概要

「沈黙」シリーズ最終作になる予定だった作品

スティーヴン・セガールと言えば沈黙、沈黙と言えばスティーヴン・セガールと言われるほど日本では定着した組み合わせですが、「沈黙シリーズ完結編」と書かれた上記劇場公開時のポスターの通り、実は沈黙シリーズは本作で終わるはずでした。

「沈黙」の歴史を振り返ると、スティーヴン・セガール主演のアクション大作”Under Siege”(包囲下の意)を、当時流行していた漫画『沈黙の艦隊』にあやかって『沈黙の戦艦』(1992年)と配給のワーナーが邦題を付けたことが始まりでした。

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続いてセガールが監督・主演した”On Deadly Ground”(死の大地にての意)は”Under Siege”とはまったく無関係の映画でしたが、日本でも大ヒットした『沈黙の戦艦』と関連付けて売りたかったワーナーは『沈黙の要塞』(1994年)と命名。ここから「セガール=沈黙」という図式が本格化しました。

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しかし1995年に”Under Siege2”がリリースされたことから事態はややこしくなりました。日本では『沈黙の戦艦』の続編は『沈黙の要塞』ということにしていたのに、本国が正式な続編をリリースしてしまい辻褄が合わなくなった。そこでこれは『暴走特急』(1995年)と70年代パニック映画のような直球勝負の邦題をつけ、『沈黙の戦艦』『沈黙の要塞』との関連が不明確な作品として売り出されたのでした。

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次にリリースされたセガール作品は当時流行していたサイコサスペンスにセガール無双を無理やりくっつけた珍品刑事アクション”The Glimmer Man”(瞬殺する男の意)であり、大規模爆破を売りにしていた前3作とは随分と毛色の違う作品だったので「沈黙」は付けられず原題そのままの『グリマーマン』(1996年)の邦題でリリースされました。

そして本作です。原題は”Fire Down Below”(地獄を焼けの意)、当然”Under Siege”とは無関係な作品なのですが、セガールの興行成績の低迷期にあり本国での売り上げも振るわなかったことから、何とかこれをヒットさせたかったワーナーは封印していた「沈黙」の冠を復活させて『沈黙の断崖』(1998年)の邦題で公開したのでした。無理矢理にこじつければ、エコロジー路線で共通する『沈黙の要塞』と親戚関係にあると言えなくもないし。

どっこい終わらなかった「沈黙」シリーズ

しかし、沈黙シリーズはここで終わりませんでした。”The Patriot”(愛国者の意)が『沈黙の陰謀』(1998年)の邦題で公開。以降も『沈黙のテロリスト』(2001年)、『沈黙の標的』(2003年)、『沈黙の聖戦』(2003年)と沈黙シリーズは止むことがなく、2019年までに43作品もの沈黙が量産されるに至り、いまだ増殖を続けています。

ただし覚えておいていただきたいのは、『沈黙の陰謀』を配給したのはヘラルド、『沈黙のテロリスト』を配給したのはギャガであり、共にワーナーとは別会社。ワーナーは『沈黙の断崖』以降に沈黙を使っていないということです。ワーナーによる沈黙シリーズはちゃんと終わっており、後は他の会社が勝手に沈黙を流用しているだけなのです。

感想

セガールのウェスタン

一応現代劇ではあるのですが、本作の構成は完全に西部劇です。特にクリント・イーストウッド監督の『ペイルライダー』(1985年)との類似点が多く見てとれます。

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結託して悪事を働く地元有力者と保安官。実力もないのに親の力だけで偉そうにしている有力者のバカ息子。虐げられる弱者の家に居付いて用心棒となる流れ者。用心棒は圧倒的な強さで敵をなぎ倒し、街の平和を取り戻すという流れ。どうです、概要はまんま『ペイルライダー』でしょ。

本作はそうした確固たる型に当てはめて作られているので、それなりに面白くなっています。セガールが自分で監督するほど思いをぶちこんだ挙句に訳の分からん映画になった『沈黙の要塞』などと比較すると、よほど映画らしく仕上がっているのです。以下にいろいろと文句も書きますが、基本的には見られる映画になっていると思ってください。

セガールの啖呵の切り方が独特

能ある鷹は爪を隠すが、一度出した爪は二度と隠さないことでお馴染みのセガール作品は、まだ爪を隠している時点では比較的平穏に推移します。相手がセガールだと知らないアホ達に絡まれてもやり返すことはなく、ただセガールが言葉で威圧することが定番の流れとなっているのですが、本作のセガールの啖呵の切り方はかなり独特でした。

悪徳保安官に向かって「お前を刑務所にぶち込むだけでは済まさず、金で囚人を雇って尻の穴を掘らせる」と言い、次に保安官に会った時には「尻の穴の具合はどうだい?」と言う。また悪徳業者クリス・クリストファーソンに対しても刑務所で尻の穴を掘る発言をし、やたら尻の穴尻の穴とうるさいのです。この変な啖呵の切り方のせいで内容に集中できませんでした。ま、集中するほどの内容もないのですが。

倒錯したエコへの思い

『沈黙の要塞』(1994年)、『沈黙の陰謀』(1997年)とセガールは大自然を汚す奴らに正義の鉄槌を喰らわせる映画を好んで作っており、本作もその傾向の中にあるのですが、相変わらず自然への愛情表現が不器用であり、アクションにより環境破壊をするという倒錯した内容となっています。

沈黙の要塞【凡作】セガールの説教先生

終盤、セガールは有害廃棄物が投棄された廃坑に誘い込まれ、そこで悪人たちに取り囲まれて絶体絶命の危機に陥ります。そこでセガールが咄嗟にとったのが、廃棄物の入ったドラム缶を銃撃して穴をあけ、廃棄物を浴びた悪党達が慌てている内に反撃をするというものでした。元はきちんとドラム缶に入っていた廃棄物を、セガールが大地に垂れ流すという倒錯した行動には唖然としました。

セガールが悪党をボコる様はやっぱり気持ちが良い

いろいろおかしな点もありますが、相手がセガールだと知らずに絡んでくる雑魚をセガールが豪快に締め上げる様は、やっぱり見ていて気持ちが良いものですね。セガールの所作は非常に美しく、流れるような殺陣には惚れ惚れとします。やられ役のスタントにはお弟子さんを使っているようで、セガールとの呼吸もぴったりでした。

ちょっとだけ文句を言うと、セガールの動きが達人的すぎて演じられるスタントがいなかったためか、主人公と組み手の応酬戦ができるキャラクターを一人も作れていないために、雑魚を払いのけるだけの内容に終わってしまった点は残念でした。『暴走特急』(1995年)のマーカス・ペンに相当するキャラクターがいれば格闘映画としてのもうひと盛り上がりを期待できたのですが。

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