【凡作】フラッシュ・ゴードン_ミン皇帝はフェアな奴(ネタバレあり・感想・解説)

(1980年 アメリカ)
良くも悪くも漫画レベルの映画。お話も見てくれもチープで、大予算をかけてなぜこのようなものを作ろうと思ったのか、ラウレンティスがこの企画のどこに勝機を見出していたのかはサッパリ分からない。あまりにも愚直すぎて唯一無二の魅力を放っていることも確かだが。

感想

Blu-ray版には注意が必要

子供のころから存在を認識していたが、本編は見たことがなかった映画。

2023年夏のAmazonプライムセールでBlu-ray版が安く売られていたので衝動買いしたが、セール後にも値段が変わっていなかったので、急いで買う必要もなかったなとちょっと後悔。

いざ見てみると、どうにも日本語字幕がこなれていない。まさかと思ってジャケットを確認すると、案の定「日本語字幕:須賀田昭子」の記載があった。

映画界では知る人ぞ知る須賀田昭子。スタジオカナル系映画ソフトの日本語訳としてたびたび登場しては、まったく頭に入ってこない日本語字幕で映画ファンたちのピュアなハートを傷つけてきた。

「須賀田昭子=姿無き子」として字幕界のアラン・スミシーとも呼ばれており、日本語に堪能な外国人が訳しているのではないか、いやNY在住の日本人だ、社内のド素人が翻訳した字幕をそのまま載せただけだ、機械による自動翻訳だと、様々な憶測がなされているが、その正体はいまだはっきりしない。

『戦争のはらわた』『ニューヨーク1997』『卒業』『ディアハンター』など幾多の名作傑作を台無しにしてきた御大が、まさかこんなところにまで進出していたとは。その守備範囲の広さには驚かされた。

幸いなことに日曜洋画劇場版の吹き替えも収録されているので、マッハで吹き替えに切り替えて事なきを得たが、字幕派の方にとっては厳しいソフトではないかと思う。購入の際には注意をされたい。

ビジュアルも音楽もクセが凄い

公開時には興行的にも批評的にも苦戦を強いられ、主人公を演じたサム・J・ジョーンズが第1回ラジー賞主演男優賞にノミネートされるなど、全くと言っていいほど敬意を受けられていない本作だが、冒頭はなかなか良い感じではないか。

♪ずんずんずんずんずんずんずん フラッシュ!アーアー!

有名なクィーンのテーマ曲が景気よく流れ、コミック風のシルエットが映し出されるイントロは、チープかつ大袈裟なアメコミの印象をうまく実写にコンバートしている。

製作のディノ・デ・ラウレンティスはクィーンを知らなかったそうだが、どういうわけだかクィーンは『スター・ウォーズ』(1977年)を死ぬほど嫌っており、その対抗馬的存在だった本作への参加にはノリノリだったらしい。

良い意味での精神年齢の低さを感じさせられる「フラッシュ・ゴードンのテーマ」には、そんなクィーンの並々ならぬ情熱が込められている。

主人公フラッシュ・ゴードン(サム・J・ジョーンズ)はアメフトのスター選手で、自分の名前がデカデカと書かれたピチピチTシャツを着ている。原作準拠もたいがいにした方がいい。

移動のため乗った小型機内には若くて美人の添乗員デイル(メロディ・アンダーソン)も居合わせていて、ちょっとテンションの上がるフラッシュだったが、それも束の間、ミン皇帝(マックス・フォン・シドー)の起こした天変地異に巻き込まれて飛行機は不時着する。

偶然にもそこはミン皇帝との直接交渉に向かおうとするザーコフ博士(トポル)の敷地内だったが、平和のため大いなる敵と対峙しようとするザーコフ博士に対し、フラッシュとデイルはキ●ガイだ何だと大変失礼な物言いをする。

須賀田昭子氏による直訳が炸裂

なんやかんやあってミン皇帝の本拠地である惑星モンゴに降り立つ3人組だが、即、捉えられて皇帝の前に突き出される。

ここで登場する大広間が圧巻の一言で、途方もなくバカでかいセットが組まれており、現在の目で見ても、というか現在の目で見るからこそ驚かされる。CGがなくて本当に作るしかなかった時代の作品には、格別のものがありますな。

そこには赤とか金で装飾されたチープなキャラクターたちがいて、巨大セットとの対比で悲しくなってくるのだが、1930年代のアメコミを馬鹿正直に実写化すれば、まぁこんな感じになるだろうなという妙な納得感もあって、次第に味わい深く感じられてくる。

ミン皇帝はデイルに惚れて彼女を無理やり我がものにしようとし、これを阻止しようとしたフラッシュの処刑を決定する。

一方、ミン皇帝の娘オーラ姫(オルネラ・ムーティ)はフラッシュに一目惚れし、処刑寸前のところでフラッシュを逃がす。

揃いも揃って色ボケした親子が善悪両サイドの物語を動かすことになる点は脱力だし、フラッシュとデイルはいつの間に恋仲になったんだっけと、そもそもの部分にも疑問がわいてくる。

巨大セットを動かすことにみんな必死で、誰も脚本の出来には注目していなかったのだろう。かけた金に対して話があまりにもお粗末すぎるのが本作最大の欠点である。

また、オーラ姫の魅力がデイルを大幅に上回っており、姫に対して塩対応をとりながら愚直にデイル救出を目指すフラッシュの行動に合理性を感じない点も、思わぬネックとなっている。

ミン皇帝はフェアな奴

一方ミン皇帝は、部下のクライタス将軍に全権限を与えてフラッシュを追わせている。

捜索の過程でオーラ姫が裏切ったという事実を掴んだ将軍は、姫を拘束し拷問するのだが、父であるミン皇帝もこの拷問には反対しない。

組織に対して損害を与えれば、かわいい娘であろうと容赦なく罰する。何というフェアな男だろうかとミン皇帝を見直した。

拷問を受ける姫は姫で、どれだけの苦痛を与えられても秘密を守り通そうとする。フラッシュに対してはあくまで一途なのだ。

悪に位置付けられているミン皇帝とオーラ姫が、実は登場人物中でもっとも筋が通っているという倒錯した点も、本作の奇妙な味わいに繋がっている。

その分、主人公側の薄っぺらさが際立ってしまうのだが。

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