【凡作】G.I.ジョー_緩急のない見せ場の連続(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2009年 アメリカ)
秘密兵器に秘密基地と男子の大好物がこれでもかと詰め込まれたサービス精神満点の映画なのですが、演出に緩急がなく緊張感のない見せ場がいつ終わるともなく続いているような状態なので、面白くはありませんでした。面白くないということを除けば、良い娯楽作だったと思います。

作品解説

完成までの苦節15年

アメリカのおもちゃメーカー ハズブロが『G.I.ジョー』の映画化権を売ったのは1994年のこと。購入したのは『トゥルーライズ』(1994年)のプロデューサー ローレンス・カザノフで、ワーナーで製作するつもりでいました。

しかしカザノフは『モータルコンバット』(1995年)の製作を優先し、本作の企画はいったん立ち消えに。

2003年、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラがこの企画に興味を持ちました。ボナヴェンチュラはワーナー幹部として『マトリックス』(1999年)や『ハリーポッター』シリーズで辣腕を振るった人物であり、プロデューサーとして独立した後、めぼしい企画を探しているところでした。

そして彼の製作会社ディボナヴェンチュラピクチャーズは古巣ワーナーではなくパラマウントとのアライアンスを持っていたことから、本作もパラマウントで製作することとなりました。

『300 〈スリーハンドレッド〉』(2006年)の脚本家マイケル・E・ゴードンが雇われて脚本の執筆がスタートしたのですが、当時はイラク戦争下で軍事ネタはタイムリーすぎたことから、ボナヴェンチュラとパラマウントは同じくハズブロ発の『トランスフォーマー』(2007年)の製作を優先することに。

2005年には『フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い』(2005年)の脚本家ポール・ラヴェットとデヴィッド・エリオットが雇われてゴードンによる初稿の手直しを行い、更に『ソードフィッシュ』(2001年)のスキップ・ウッズ、『コラテラル』(2004年)のスチュアート・ビーティも次々と関与しました。

しかしネット流出した脚本がファンからの猛烈なバッシングを受けたことから(コブラの設定が気に食わなかったようです)、ハズブロは脚本の全面的な見直しを約束。

2007年には『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(1999年)のスティーヴン・ソマーズが監督として雇われ、007映画のようなコンセプトを打ち出しました。ソマーズはスチュアート・ビーティと共に脚本の執筆を行い、また日系のアメコミ編集者ラリー・ハマがコンサルタントとして雇われて、ファンが嫌いそうな要素を取り除く作業を行いました。

そして脚本家協会がストライキに突入する前に何としてでも脚本を仕上げる必要性が発生したことから、『パーフェクト・ワールド』(1993年)のジョン・リー・ハンコック、『オーシャンズ13』(2007年)のコンビ脚本家ブライアン・コペルマンとデヴィッド・ㇾビーンが雇われて執筆作業をスピードアップ。

かくして脚本が完成し、2008年2月に撮影開始、2009年8月にワールドプレミアと、ローレンス・カザノフが映画化権を購入して15年後にようやく完成にまで漕ぎつけたのでした。

期待外れの興行成績

2009年8月7日に全米公開され、2位のメリル・ストリープ主演作『ジュリー&ジュリア』(2009年)に2倍以上の金額差をつけてのぶっちぎりの1位を獲得。しかし翌週には売上高が半減して思ったように伸びていかず、全米トータルグロスは1億5020万ドルに留まりました。

また国際マーケットでも同様の状態であり、全世界トータルグロスは3億246万ドル。

一般的には悪くない金額ではあるのですが、1億7500万ドルという高額な製作費と比較すると物足りないレベルだし、パラマウントが本作のベンチマークとしていたであろう『トランスフォーマー』(2007年)の売上高7億ドルの半分以下だった点からも、本作の成績は期待外れだったと言えます。

感想

秘密基地!忍者!タンクトップ!

世界各国が資金と人材を提供して作り上げた秘密組織G.I.ジョーと、世界制覇をたくらむ悪の組織コブラが、新型の大量破壊兵器ナノマイトを巡って衝突するというのがざっくりとした本作のあらすじ。

実はいろんなサブプロットが錯綜していて、細かい部分まで把握しようとするとなかなか骨が折れるのですが、それらを理解したところで面白さが増すわけでもないので上記程度の認識で大丈夫です。

本作で描かれるのは巨大な秘密基地、特殊な乗り物、特殊な武器、覆面被った敵、そして忍者と、男子の大好物ばかりであり、出されたものを素直に楽しむべき内容となっています。

さらにはお色気もあり。レイチェル・ニコルズにシエナ・ミラーと敵味方両方に美人女優を配置。しかもピッチリのボディスーツや胸元が大きくあいたタンクトップなど、どうぞエロい目で見てくださいと言わんばかりのコスチュームが連続します。

全世界の男子を殺しにかかったレイチェル・ニコルズ

特筆すべきは序盤のトレーニング場面。タンクトップ姿のレイチェル・ニコルズがルームランナーで走る様がしばし映し出されるという、全世界の男子騒然の見せ場が待っています。しかもその隣には上半身裸のチャニング・テイタムもスタンバイし、お母様方の目の保養もバッチリという。

スティーヴン・ソマーズ監督は007映画をモチーフにしたとのことで、これらのお色気は意図的に仕込まれたものだと思います。

ただし007がはっきりと性的な描写だと分かる見せ方だったのに対して、本作は「トレーニング場面ですが、何か?」とすっとぼけながら美男美女の肉体を見せるというムッツリな感じだったので、余計にエロさを感じました。

本作のスタッフ・キャストは良い仕事をなさったと思います。

緩急ゼロ!いつものソマーズ演出

そんなわけでサービス精神満点な作風だったのは結構だったのですが、これらをまとめるスティーブン・ソマーズ監督の演出がイマイチどころかイマニ、イマサンくらいだったので、「見せ場の連続だけど手に汗握らない」という困った状態になっています。

ソマーズ監督の最高傑作と言えば間違いなく『ザ・グリード』(1998年)で、予算的・技術的制約条件がそこそこあったためか見せ場とドラマをうまく繋ぎ合わせて全体を構築し、ユーモアとスリルが絶妙なバランスで組み合わされた良作となっていました。

しかしメジャースタジオからの信頼を得て、予算と人材をいくらでも使えるようになった『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(2001年)辺りから、彼の映画の見せ場はインフレを起こすようになってきます。

観客に飽きられるのが怖いのか全編を見せ場で固めるようになり、そのために緩急なるものは失われました。

2時間ず~っと誰かが戦って何かが爆発しているだけで、「どうなれば勝ちなのか」「もし負けるとどんな悪いことが起こるのか」といった基本情報の伝達すら甘い状態でボカスカやってるので、そこに緊張とか興奮は伴わないわけです。

さすがに本作でハリウッドから愛想尽かされたソマーズは、以降、大作を取っていません。2009年頃に『地球最後の日』(1951年)のリメイク企画を立ち上げたものの、10年以上に渡って進捗がない状態です。

強いんだか弱いんだか分からないG.I.ジョー

本編の内容に戻ります。

ナノマイトの輸送を請け負った米軍の車列が、コブラの奇襲によりいとも簡単に壊滅。ナノマイトを奪われるというその瞬間に今度はG.I.ジョーが現れ、コブラを蹴散らしてみせます。

G.I.ジョーめちゃくちゃつぇぇ!

という初登場場面に続き、サハラ砂漠のど真ん中にある秘密基地に舞台が移り、ゴージャスにも程がある武装の数々が映し出されます。

追い込みをかけるように「世界中から選抜した兵士を集めている」とのホーク将軍(デニス・クェイド)の一言。武装も兵士も一流の世界最強部隊であることが強調されます。

しかしその数十分後、少人数のコブラに本部を襲撃されてホーク将軍は負傷、ナノマイトはあっさりと奪われます。

G.I.ジョーめちゃくちゃよぇぇ!

って、一体どっちなんでしょうか。本部を襲撃されてトップが負傷という展開は続編以降に残しておくべきで、第一作ではG.I.ジョーはひたすら強いという設定で通すべきだったと思いますが。

ゆるい部活みたいな秘密結社コブラ

対するコブラはコブラで変な組織です。

一般的に、悪の秘密結社とは指揮命令系統が実によく出来ているのが特徴です。例えばショッカーは大首領→幹部→怪人→戦闘員という形で組織化されています。『トランスフォーマー』(2007年)のデストロンもメガトロンを頂点としたピラミッド型の組織でした。スタースクリームはメガトロンにヘコヘコしてたでしょ。

が、本作のコブラは組織として洗練されておらず、悪の秘密結社らしさがありません。

その名の通りコブラコマンダー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)がリーダーであることは確かなのですが、その下についているはずのバロネス(シエナ・ミラー)、ストームシャドー(イ・ビョンホン)、ザルタン(アーノルド・ヴォスルー)、Dr.マインドベンダー(ケヴィン・J・オコナー)らはコブラコマンダーに対してタメ口を聞いており、ゆるい部活みたいになっています。

さらに組織図を分かりづらくしているのがデストロ(クリストファー・エクルストン)の存在で、こいつはコブラコマンダーとほぼ同格扱いで、口の聞き方どころか一部の指揮権すら持っているようでした。バイキンマンとドキンちゃんの関係くらい、どちらが上なのかよく分からんわけです。

これら一連の描写から、リーダーの権威が確立されていない未熟な組織にしか見えないので、厄介な敵という印象を持てませんでした。

またコブラの目的が「ナノマイトを持ってる俺らに世界は屈服する」という実にふわっとしたもので、仮に実現したところで何が良いのかよく分からない目的のために、巨大な秘密基地を作ったり、謀略を張り巡らせたり、死の危険を冒したりといったことがまったくピンときませんでした。

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