【人物評】ゲイル・アン・ハードは男前な女性プロデューサー

雑談
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ゲイル・アン・ハードはジェームズ・キャメロンの元奥さんということで映画通にはそれなりに知られた名前ではあるのですが、キャメロン関係以外でもモンスター映画(『トレマーズ』『レリック』『ヴァイラス』)、ディザスター映画(『ダンテズ・ピーク』『アルマゲドン』)、マーベル実写化作品(『ハルク』『パニッシャー』)、テレビドラマ(『ウォーキング・デッド』)と、僕らの大好きなものをいっぱい作ってくれている偉い方なのです。

今回は、意外とスポットライトの当てられてこなかったゲイル・アン・ハードのお仕事について触れたいと思います。

ゲイル・アン・ハードとは

1955年ロサンゼルス出身。スタンフォード大学卒業後にニュー・ワールド・ピクチャーズに入社し、B級映画の帝王ロジャー・コーマンのエグゼクティブ・アシスタントになりました。その後、管理職を経て映画製作に携わるようになりました。後に彼女がバカバカしくも大衆受けする素材を見分けるプロデューサーとなったのは、ロジャー・コーマンの下で身に付けた選別眼の賜物だったのかもしれません。

1982年に自身の製作会社パシフィック・ウエスタンを設立して独立。以降はプロデューサーとして多くのヒット作を生み出しました。

ゲイル・アン・ハードのここが凄い!

ジェームズ・キャメロンのキャリア初期を支えた!

ハードは、ニュー・ワールドに雑用係として出入りしていたジェームズ・キャメロンと知り合い、交際を開始しました。

金属製の骸骨が自分を殺そうと炎の中から這いずってくるというキャメロンが見た悪夢に着想を得た『ターミネーター』では共同で脚本を執筆し、大手スタジオからの映画化の誘いを断って自力で製作することにした際にもプロジェクトはパシフィック・ウエスタンが引き受け、彼女がキャメロンの現場を支えました。

『ターミネーター』(1984年)がヒットした翌年の1985年にキャメロンと結婚。キャメロンの次回作『エイリアン2』(1986年)、『アビス』(1989年)も引き続きパシフィック・ウエスタンで製作し、彼のビッグ・プロジェクトを支え続けました。

ジェームズ・キャメロンとの恥ずかしい写真
James Cameron and wife Gale Anne Hurd circa 1985 © 1985 Dana Gluckstein

結婚歴が凄い!

そんなキャメロンとも1989年に離婚。余談ですが、二人の最後のタッグ作『アビス』(1989年)は離婚危機にある主人公バッドとリンジーが非常事態の中で愛を確かめ合うという内容だったのですが、このキャラクターには当時のキャメロンとハードの関係が込められていたのではないかと推測しています。

1991年にはサスペンスの巨匠ブライアン・デ・パルマと結婚。デ・パルマ監督作品『レイジング・ケイン』(1992年)にはプロデューサーとして参加しましたが、1993年には離婚しました。離婚するのはやっ。二人の間にはロリータ・デ・パルマという一人娘がいます。

1995年には年下の脚本家ジョナサン・ヘンズリーと結婚。この人は弁護士出身で、映画学科に通ったことがないのに脚本家になったという変わり種であり、『ダイ・ハード3』(1995年)の原案となった『サイモン・セズ』というオリジナル脚本を書いたことで注目されていました。

ヘンズリーは90年代後半には売れっ子脚本家となって『ジュマンジ』(1995年)や『セイント』(1997年)の脚本を書いています。またジェリー・ブラッカイマーとの関係が深く、『コン・エアー』(1997年)、『アルマゲドン』(1998年)、『60セカンズ』(2000年)で製作総指揮を務めました。そしてマーベルコミックの映画化『パニッシャー』(2004年)で監督デビューしました。

数年おきに映画監督との結婚と離婚を繰り返してきたハードの遍歴もここで打ち止めとなり、2020年現在もヘンズリーと夫婦関係にあります。

すでに実績のあったデ・パルマはともかく、キャメロンとヘンズリーはハードと結婚したことでキャリアが上昇気流に乗ったとも見ることができます。ハードは彼らに対して的確なアドバイスやサポートを与えていたのではないでしょうか。

『アルマゲドン』の企画を立ち上げた!

一般に『アルマゲドン』はジェリー・ブラッカイマーの映画として認識されていますが、元はゲイル・アン・ハードが進めていた企画でした。

『アウトブレイク』(1995年)のロバート・ロイ・プールによるオリジナル脚本『Premonition(予言)』は小惑星が地球に落ちてくると予言し続ける男の物語であり、ハードはこれを映画化したいと思っていました。ただし、スタジオが好むような腹にがつんとくるアクション大作ではないことが気掛かりでした。

その解決策を思いついたのが夫ジョナサン・ヘンズリーでした。当時ヘンズリーはジョン・ウェイン主演の『ヘルファイター』(1968年)のモデルにもなった油田事故対策の専門家ポール・アデアの人生を映画化したいと考えていたのですが、それと『Premonition』を合体させ、NASAでも解決できない問題にローテク労働者が立ち向かうという奇策を思いついたのです。

ヘンズリーがこの着想を持ち込んだのが『ザ・ロック』(1996年)を大ヒットさせたマイケル・ベイであり、これを気に入ったベイは『ザ・ロック』で仕事をしたディズニー・スタジオに脚本を持ち込み、当時の会長のジョー・ロスをベイとヘンズリーの二人で直接口説き落として製作が決定しました。

ただし公開までの日数がさほど多くない中で大プロジェクトを仕切らねばならないということで、ディズニーとの契約関係にあったジェリー・ブラッカイマーが呼ばれ、『アルマゲドン』と改題されたこの企画はブラッカイマーのプロジェクトとなったのでした。

マーベルコミック実写化の第一人者!

現在では大盛況にあるアメコミの実写化ですが、それも2000年代初頭の試行錯誤の時期を経てこそのものでした。その試行錯誤に時期に、ハードは2本のアメコミ原作を元に4本の実写化映画を放っています。

まずは『ハルク』(2003年)。『ハルク』は90年代からユニバーサルが温めてきた企画であり、技術レベルが整った21世紀に入って製作が本格化しました。しかし完成した作品はコミック原作とは思えないほどの胃もたれしそうなドラマに、やたら複雑なプロットと観客のニードに合った作品とは言えず、期待されたほどの評価と収益を受けることができませんでした。

ハルク(2003年)_ 作り手の思いが肥大化しすぎた【5点/10点満点中】

5年後には『インクレディブル・ハルク』(2008年)としてリブート。前回の反省を活かしてハルクvsアボミネーションの対決ものというシンプルな構図に落とし込み、ドラマ要素も軽めにしてそれなりの成功をしました。主演のエドワード・ノートンがこれ一作で降板したので分かりづらいのですが、本作はMCUの世界観と繋がっています。

そして『パニッシャー』(2004年)。妻子を失ったクライムファイターが犯罪者を処刑する『パニッシャー』は他のアメコミ作品と違って技術的な制約条件がなく、実写化のハードルは低めではあるのですが、ドルフ・ラングレン版『パニッシャー』(1989年)の失敗から鬼門の企画となっていました。

これをハードは夫のジョナサン・ヘンズレイ脚本・監督で再映画化。主演にトーマス・ジェーン、ヴィランにジョン・トラボルタとなかなか期待の持てる布陣ではあったのですが、蓋を開けるとヌルいアクションコメディとなっており、興行的にも批評的にも大失敗しました。

4年後には『パニッシャー:ウォー・ゾーン』(2008年)」としてリブート。2004年版の反省を活かして異常な暴力描写の炸裂するアダルトな仕上がりとなり、R指定を受けました。同作も成功作とは言えないのですが、そのブルータルな作風は後にマーベルとNetflixが製作するテレビシリーズ『パニッシャー』(2017年)へと繋がっていきます。

パニッシャー(シーズン2)_すべてが失敗しており全く面白くない【4点/10点満点中】

『ウォーキング・デッド』を製作している!

2010年には名脚本家フランク・ダラボンと共に『ウォーキング・デッド』のパイロット版を製作。このパイロット版は530万人の視聴者を獲得し、AMC史上もっとも鑑賞されたパイロット版となりました。

『ウォーキング・デッド』は2020年現在シーズン11まで更新されている大人気シリーズとなり、スピンオフ『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』もハードが製作しました。

『ウォーキング・デッド」の撮影現場
© AMC Film Holdings LLC.

素晴らしきハードの裏方気質

こうしてゲイル・アン・ハードのキャリアを振り返ると80年代から一貫して話題作に関わり続け、目立ったブランクの時期がないことに驚かされます。 加えて、キャメロン、ブラッカイマー、ケヴィン・ファイギ、フランク・ダラボンと優秀なクリエイターを支えて彼らの影に隠れることも多いのですが、現場をきっちり守る裏方気質には頭の下がる思いがします。

≪ゲイル・アン・ハード関連作品≫
ターミネーター【傑作】どうしてこんなに面白いのか!
ターミネーター2【良作】興奮と感動の嵐!ただしSF映画としては超テキトー
エイリアン2【良作】面白い!かっこいい!見せ場の満漢全席
アビス【凡作】キャメロンでも失敗作を撮る
トレマーズ【良作】手堅くまとまったモンスター映画
アルマゲドン【凡作】酷い内容だが力技で何とかなっている
ハルク(2003年)_ 作り手の思いが肥大化しすぎた【5点/10点満点中】
ゲイル・アン・ハードは男前な女性プロデューサー

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