【良作】ジェロニモ_マット・デイモンが若い(ネタバレあり・感想・解説)

その他
Geronimo
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(1993年 アメリカ)
アパッチ族の勇者ジェロニモと騎兵隊の戦いが題材だけど、先住民への弾圧を声高に糾弾する内容ではなく、お互いをリスペクトしあう戦士たちの激アツドラマだった。ウォルター・ヒル監督×ジョン・ミリアス脚本はダテじゃない。

作品解説

本作を製作・監督したのは『48時間』(1982年)『レッドブル』(1988年)等、男性映画の雄として知られるウォルター・ヒル。

『ダブルボーダー』(1987年)、『ジョニー・ハンサム』(1989年)で懇意にしていたカロルコで製作する予定で、『コナン・ザ・グレート』(1982年)のジョン・ミリアスを雇って脚本を書かせた。『レッドブル』製作中のことだった。

ヒルはミリアスの脚本の出来に満足していたが、カロルコでは遅々として企画が進まず、1992年にコロンビアへ売却された。

初期稿はジェロニモの若き日々を含む長大なものだったので改訂が必要となったが、ミリアスが書き直しに消極的だったので、腕の良い脚本家でもあるヒルと、その常連脚本家だったラリー・グロス(『48時間』『ストリート・オブ・ファイヤー』)が改訂作業にあたった。

当時のコロンビア社製作責任者マーク・カントンからの承認を受けて1993年5月に撮影を開始。

主演には期待の若手として業界内での評判こそ高かったが、俳優としての代表作のなかったジェイソン・パトリックが選ばれた。

またジーン・ハックマンとロバート・デュヴァルというオスカー俳優2名を共演に迎え、激シブの布陣が整えられた。

感想

1990年代前半は西部劇がプチブームで、その時流に乗って作られた映画。

その存在こそ昔から認識していたけど、公開時に大コケしたうえに(製作費3500万ドルに対して全米興収1800万ドル)、作品評も振るわず、おまけに『スピード2』(1997年)でやらかしたジェイソン・パトリック主演なので特に見たいとも思わず、長年にわたりスルーしてきた。

が、最近になってネットフリックスにあがっているのを発見し、何気なく見てみたら面白かった。たまにこういうことがあるので映画って素敵。

内容は至ってシンプル。西部開拓時代を舞台に、政府の定めた居留地にネイティブ・アメリカンを移住させようとする騎兵隊と、アパッチ族の戦士ジェロニモ(ウェス・ステュディ)の戦いが描かれる。

こうして書いてみると『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)のようなアメリカ史の暗部を描く重厚な歴史劇を連想させられるが、実際の作品の印象はまったく異なる。

騎兵隊が悪しざまに描かれることはなく、また先住民側の悲劇が協調されすぎることもなく、お互いをリスペクトしあう戦士たちによる崇高な戦いが描かれるのだ。

物語は、アパッチの戦士ジェロニモが騎兵隊に投降するところから始まる。

その護送にあたるのはベテラン騎兵ゲイトウッド中尉(ジェイソン・パトリック)と新米将校デイヴィス少尉(マット・デイモン)だが、彼らのジェロニモに対する扱いは公安と囚人のそれではなく、共に目的地を目指す仲間のような扱いだ。

騎兵隊と先住民は対立関係にあるが、それはあくまで組織vs組織の話であり、中にいる個人は戦士としての敬意を払い合っている。この辺りは初期稿を書いたジョン・ミリアスの色だろう。

物語はデイヴィス少尉の視点で語られるが、マット・デイモンが映画に出るようになったまさに初期の作品なので、この頃のジェイソン・ボーンが若いこと細いこと。

デイヴィスはジェロニモとゲイトウッドの両雄に対して深い尊敬の念を抱くのだけど、当時のマット・デイモンの瑞々しさもあって、映画には非常に公平な視点が生まれている。このキャスティングは見事だった。

なお私が見た吹替え版は1994年のソフトリリース時のものだと思われるが、後のデイモンのフィックス声優となる平田広明さんがこの時点から担当されているので、まったく違和感がない。

スター俳優の声優って紆余曲折を経て落ち着くもので、初期の吹き替えには違和感を抱くことも多いのだけど、これを一発でバチっと決めてきた本作の日本語演出は神がかっていたと思う。

あと『スピード2』(1997年)の若ハゲというイメージだったジェイソン・パトリックも良かった。戦士としてのオーラを常に放っているだけではなく、抜群の身体能力も披露する。

向かってくる先住民の戦士との一騎打ちの場面。

騎乗した状態から馬を寝かせて素早く射撃フォームに移ったかと思えば、敵を仕留めた後には立ち上がる馬に素早くまたがる。この一連の流れを片手にライフルを持った状態でこなすのだけど、こんな動きはスタントマンでも無理じゃないだろうか。

そんなこんながありつつも居留地に到着したジェロニモだが、阿呆な奴が阿呆なことをしでかしたせいで、仲間たちと共に再度武器を取ることとなる。

騎兵隊の新隊長マイルズ中将(ケヴィン・タイ)は戦士の作法など意に介さない男であり、ジェロニモとの親交の深いゲイトウッドを解任し、交渉の窓口を失ってしまう。

さらには、祈祷師が反乱を煽ろうとしているという噂を真に受けたマイルズは村を武力制圧しようとするが、かえってこの動きが暴動を煽る結果となり、そのどさくさの中でジェロニモは仲間を引き連れて居留地を抜け出す。

呼び戻されたゲイトウッドとデイヴィスはジェロニモを追跡するのだけど、悪いのは騎兵隊側なのでこの追跡が非常に空虚なものに感じられる。

最終的にジェロニモは降伏するのだけど、その時の条件だった「家族との生活を保障する」という約束が履行されることはなく、またジェロニモ確保に貢献したにもかかわらずゲイトウッドは再び軍隊内で冷や飯を食わされることになる。

「アメリカひどっ!」という直接的な描写こそないが、こうした後味の悪い終わり方にこそ、先住民とアメリカ政府の微妙な関係性が表現されている。この顛末も見事だった。

欲を言えば、「これぞウォルター・ヒル!」というド派手な戦闘が一つくらいあればよかったかな。全体に地味なので、アクション映画を見たという満足感は低い。

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