【凡作】ハンニバル・ライジング_レクター博士の魅力半減(ネタバレなし・感想・解説)

サスペンス

(2007年 アメリカ・イギリス・フランス)
歴史ものとしては結構よく出来ているものの、サスペンス映画としてはハラハラさせられないし、ハンニバルの狂気の根源を描いてしまったために、かえってキャラの魅力を毀損しているように感じました。

あらすじ

1944年。リトアニアの名門貴族レクター家の領土もナチスとソ連の戦場と化し、子息ハンニバルを除いて一家は全滅した。戦後、ソ連に接収されたレクター城は赤化教育のための施設となり、ハンニバル(ギャスパー・ウリエル)は孤児の一人として収容されていたが、脱走。ハンニバルはフランスにいる親戚の元に身を寄せつつ、かつて家族を蹂躙したナチスの残党を追い始める。

スタッフ・キャスト

監督は『真珠の首飾りの少女』のピーター・ウェーバー

1968年英国出身。映画学校卒業後にはテレビ界で演出を手掛けました。

映画監督としてのデビュー作はスカーレット・ヨハンソンとコリン・ファースが主演した『真珠の首飾りの少女』(2003年)であり、同作はアカデミー賞3部門にノミネートされる高評価を受けました。

本作後にはトミー・リー・ジョーンズ主演の『終戦のエンペラー』(2012年)を監督しており、一貫して歴史ものを得意としています。

主演は『ロング・エンゲージメント』のギャスパー・ウリエル

1984年フランス出身。名門パリ大学で映画を専攻し、『ジェヴォーダンの獣』(2001年)で映画デビュー。続く『ロング・エンゲージメント』(2004年)ではオドレイ・トトゥの相手役を演じてセザール賞有望若手男優賞を受賞しました。

作品概要

原作は「ハンニバル・レクター」シリーズ第4弾

なんだか二次創作物っぽさの漂う本作ですが、『レッド・ドラゴン』を始めとするシリーズの原作者であるトマス・ハリス自身が本作も執筆し、今回は脚本までを担当しています。

寡作な作家であるトマス・ハリスが第4弾まで執筆することは異例中の異例のことなのですが、裏を明かすと、ハンニバル・レクターに関連する映画化権を持つプロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスが「原作者が関わろうが関わるまいがレクターの映画は作り続ける」という態度をとっており、愛するキャラクターを見ず知らずの脚本家にいじられるくらいなら、気乗りしなくても自分で作った方がマシということでトマス・ハリスが執筆したのでした。

感想

レクター博士にオリジン・ストーリーは必要だったのか

本作が製作された時期は『バットマン・ビギンズ』(2005年)に『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)、『テキサス・チェーンソー ビギニング』(2006年)と、人気キャラクターのオリジン・ストーリーが流行していました。

そんな中でついにレクター博士のオリジン・ストーリーが描かれたのが本作なのですが、問題は、果たしてレクター博士にオリジン・ストーリーが馴染むのかということでした。

レクター博士の魅力とは、本当に人間の両親から生まれてきたのかすら怪しく感じるほどの圧倒的な超越性と人を喰ったような態度。

そこにオリジン・ストーリーを追加することでレクターの魅力がより強化されることが製作陣の目論見だったように思うのですが、結果は正反対でした。

少年期まではレクターも一人の人間として普通に生きており、家族を失ったトラウマと復讐心が彼の異常性に繋がったという後付け設定は、従前あった超越性を弱めています。

『ダークナイト』(2008年)のジョーカーのような理由のない純粋悪こそが実はもっとも怖いのですが、本作ではレクターの狂気の根源を描いてしまったために、説明がつき、理解可能なキャラクターという位置にまで下がってしまいました。

この路線は失敗だったと思います。

優秀だが青臭いレクター

ハンニバル・レクターはリトアニアの名門貴族の出身ですが、第二次世界大戦時にはナチスに領土を荒らされて家族全員を失い、その後にやってきたソ連によって一族の城を没収され、同志スターリンを称える歌を連日連夜歌わされるという、実に気の毒な少年期を送りました。

歴史ものを得意とするピーター・ウェーバー監督の手腕もあって、ハンニバルが戦争や政治に翻弄されるこのパートはよく出来ており、史劇としての高い風格も備わっていて見応えがありました。

ただし高い知能を持つハンニバル(ギャスパー・ウリエル)が赤化教育で洗脳されるはずもなく、フランスに居る叔父を頼って脱出。

叔父の妻、つまりハンニバルにとって血の繋がらない叔母が日本人だったこともあって独特の精神文化も身に付けつつ、かつて我が家を蹂躙したナチスの残党狩りを開始します。

ここでハンニバルは未成年犯罪者となるのですが、当初は殺人に不慣れなので手際が悪いし、相手に銃を突き付けて優位な立場をとったにも関わらず、ダラダラと喋っているうちに形勢逆転されるという失態も犯します。

本編で描かれるのはレクター博士の興味深いオリジンというよりも、むしろ見たくなかった一面。トラウマに苦しみ、復讐心に燃えるが、失敗も犯す。こうした青臭さは不要でした。

見所に欠ける本編

当のハンニバルがこんな感じなので、従前シリーズには存在していた緻密さは本作にはありません。

その結果、知能vs知能の洗練された駆け引きもなければ、圧倒的な知能を持つハンニバルが悪漢を成敗する物語でもなくなり、どうにも見所に欠ける作品となっています。

今回主人公が死ぬことはないと分かりきっているオリジン・ストーリーでは、ハンニバルの未熟さを逆手にとってサスペンスを盛り上げるという手法も通用しないためハラハラ感もなく、なんとも退屈な作品に終わっています。

≪ハンニバル・レクターシリーズ≫
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