【凡作】ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌_話が記憶に残らない(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(1992年 香港)
ジョン・ウーらしい抒情性がなく、チョウ・ユンファが行く先々でドンパチしているだけの映画なので面白いとは思えませんでした。味のある悪役達のおかげで何とかなってはいるものの、アクション映画としてはイマイチではないでしょうか。

作品解説

トニー・レオンは悪役だった

本作の企画が持ち上がったのは1990年のことで、闇社会を美化する映画ばかりを作っていると批判を受けていたジョン・ウーが、今度は警察をかっこよく描こうとして考えたものであり、香港版『ダーティハリー』(1971年)を目指していました。

ダーティハリーはむしろガラの悪い警察官のような気がするのですが、まぁそれは気にしないということで。

主演はいつも通りチョウ・ユンファで、プロデューサーのテレンス・チャンとの交流のあったミシェル・ヨーをその相棒にする予定でした。

内容はというと、ベビーフードに毒を盛るサイコパスを悪人とし、「エッジの利いたスリラー」にしたいとウーは関係者に説明していたようです。完成した作品と全然違う内容なのですが、クライマックスの舞台が病院なのはその名残です。

トニー・レオンはこのサイコパス役でキャスティングされていました。

しかし本作をジョン・ウーのアメリカ進出の足掛かりにしたいと考えていたテレンス・チャンは「赤ちゃんに毒を盛るってのはさすがになぁ」と考え、いったん製作を止めてでも脚本を書き直すことに決定。

そこで思いついたのが潜入捜査官の話であり、スケジュールの都合でミシェル・ヨーが出演できなくなってユンファの相棒を新たに作る必要もあったことから、トニー・レオンを潜入捜査官役にすることにしました。

またユンファからも、当時若手だったトニーの今後のキャリアを考えると、赤ちゃんに毒を盛る役をやらせるべきではないとのアドバイスがあったようです(トニー本人はやる気だったようですが)。

これを実現するために『狼 男たちの挽歌・最終章』(1989年)の脚本家バリー・ウォン(『ゴッドギャンブラー』の監督とは別人)が急遽呼ばれたのですが、導入部を書き直したところで体調が悪化し、そのまま死亡。

決定稿のないまま撮影に入ったことから、脚本は撮影中にも何度か書き直されました。

西高東低の評価

本作は1992年4月16日に香港で公開されたのですが、ツイ・ハーク監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』(1992年)と、チャウ・シンチー監督の『ファイト・バック・トゥ・スクール2』(1992年)に敗れて初登場3位でした。

またジョン・ウーの過去作品と比較しても、『男たちの挽歌』(1987年)や『狼 男たちの挽歌・最終章』(1989年)の売上には届かず、香港での評価は高いものではありませんでした。

しかし1993年9月に北米プレミアを行ったところ、観客の反応が非常に良くてテレンス・チャンは驚いたと言います。また欧米メディアからの評判も良く、かつてオリバー・ストーンやマーティン・スコセッシから絶賛された『狼 男たちの挽歌・最終章』(1989年)以上の人気を獲得しました。

現在のIMDBなどを閲覧しても、ジョン・ウー監督作品でもっともスコアが高いのは本作となっており、欧米ではかなりの人気作であることが分かります。

ちなみに香港人が一番好きなジョン・ウー映画は『男たちの挽歌』(1986年)だと本で読んだことがあるのですが(香港映画史上No.1作品に選ばれたこともある)、こちらは欧米での人気はイマイチみたいですね。

感想

話はあってないようなもの

上記の製作時の混乱が示す通り、本作に強力なストーリーラインはありません。

むか~しにゴールデン洋画劇場で見て以来、本作は何度も見ているはずなんですが、驚くほど話が記憶に残っていません。つい最近もDVDを見たのですが、こうして感想を書こうと思っても話を思い出せません。

行く先々でチョウ・ユンファが銃撃戦をするなぁという、本当にそれだけの映画。

基本的に頭空っぽのアクション映画は嫌いじゃないのですが、ジョン・ウーがそれをやるのは違うんじゃないのって思います。

ジョン・ウーの映画にはド演歌みたいな湿っぽい話があって、その感情の発露として過剰なくらいのアクションが提示されるという両者の有機的な繋がりが特徴なんです。『男たちの挽歌』(1986年)はそれが恐ろしくうまくいったので面白かったんだし。

しかし本作はアクションだけになっていて抒情性というものがまったくないので、ウーっぽくないなぁと思うながら見てしまいました。

なので全体的には評価低めです。

2タイプの悪役が良い

そんな中でも評価できるのは悪役の配置のし方で、アクション映画の悪役って

  • 心の底から腐っている正真正銘の悪人タイプ
  • 戦士としての矜持を持つ好敵手タイプ

の2タイプがいるのですが、本作ではその両方を登場させ、かつ、どちらもインパクトのあるキャラ造形が出来ているので、悪役を楽しむ映画としては非常によく出来ています。

アンソニー・ウォンが悪い!

正真正銘の悪人タイプはアンソニー・ウォン。後の『インファナル・アフェア』シリーズではカッコいい上司役を演じるものの、本作製作当時30代に入りたてのウォンにはまだ渋みはなく、脂ぎっていて「いかにも悪人」という佇まいです。

この見事な悪人顔を香港映画界は見逃すことはなく、本作後には『八仙飯店之人肉饅頭』(1993年)で香港電影金像奨最優秀主演男優賞を受賞しました。本人は悪人扱いを受けることが嫌で仕方ないようなのですが。

このウォンが演じるジョニーというヤクザが本当に悪い奴で、画面に映る度にムカつくわけですよ。目的のためなら誰だって殺すし、人の死に対してあまりにも無関心だし、本当に心が腐っている人間という感じでした。

こういう悪人がいるとアクション映画は盛り上がりますね。

センター分けの殺し屋がカッコいい!

そして好敵手タイプを担うのはセンター分けの殺し屋。役名も演じている役者も分からないのですが、木下ほうかと中村倫也を合わせたような見た目の中肉中背のこの男が、異様にカッコいいわけです。終盤はすべてこいつが持っていきます。

この地味な男がアクション映画史に残るカッコよさを見せます

チョウ・ユンファとトニー・レオンの二人がかりでも押さえ込めない程の圧倒的な強さと、一応はアンソニー・ウォンの子分ではあるが、親分の汚すぎるやり方にははっきりと抗議するという男らしさ。

最後はユンファとの一騎打ちとなるのですが、その場にいた患者が退室するまでは発砲を控えたり、ユンファに装弾する機会を与えたりと、やることがいちいち武士道的で盛り上がります。

ジョン・ウーの全作品を通しても、最高クラスの良キャラではないかと思います。