【良作】ハード・ターゲット_意外と社会派なテーマ(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(1993年 アメリカ)
ジョン・ウー×ヴァンダムが実現した唯一の映画なのですが、貧困による孤立という社会派テーマにマンハントものアクションを組み合わせた異色作であり、かつそのブレンドに成功しており、なかなか見ごたえのある作品となっています。

最近、ライアン・レイノルズ主演の『セルフレス/覚醒した記憶』という映画を見たのですが、ニューオーリンズが舞台であるという点、悪の組織が富裕層向けに貧乏人の命を商材にしているという点、クライマックスがマルディグラの山車の倉庫であるという点が本作と非常に類似していると感じました。

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©Universal Pictures

あらすじ

弁護士のナターシャ(ヤンシー・バトラー)は、音信不通となった父を探しにニュー・オーリンズへやってくる。貧困地域で父を捜索していたナターシャは強盗に襲われるが、偶然通りかかった港湾労働者のチャンス(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)に救われる。ナターシャはチャンスをボディガードとして雇って父の捜索活動を続けるが、その最中に父の焼死体が発見される。警察は事故と判断したが、チャンスの独自捜査によってその死にはマンハントビジネスを行っているエミール・フーシュン(ランス・ヘンリクセン)が関わっていることが判明する。

作品概要

ジョン・ウーのハリウッド進出作

ジョン・ウーの存在は80年代末からハリウッドで話題になり始めていました。

まずその影響を受けたのがドン・シンプソンであり、『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)のラストでローズウッド刑事に唐突に黒コートを着せ、ショットガン2丁持ちをさせました。

またジョエル・シルバーも『リーサル・ウェポン3』(1992年)でリッグス刑事に2丁拳銃での銃撃戦をさせました。ジョン・ウー作品がアメリカで大ブームとなったのは90年代後半でしたが、その遥か前から水面下での影響は出始めていたのです。

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そんな中、まずウーに声をかけたのが『燃えよドラゴン』で香港の人材を扱った経験のあるワーナーで、ウーを高く買っていたオリバー・ストーン製作で現代風のカンフー映画を監督させようとしていたのですが、結局企画はまとまりませんでした。

その後、ウーは香港で『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(1992年)を撮り、これがまた従前の作品に輪をかけて物凄いアクション映画だったことから、ハリウッドはウーに対する思いをより強めたのでした。

ウーの元には本作『ハード・ターゲット』と『フェイス/オフ』の企画が来ていたのですが、SF要素のある『フェイス/オフ』は難しいと感じていた一方で、『ハード・ターゲット』の方はすでに面識のあったジャン=クロード・ヴァン・ダムが主演することもあって比較的撮りやすいと考えたのか、ウーは『ハード・ターゲット』を選択しました。

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ただし、ユニバーサルはロクに英語も話せないウーが本当に現場の指揮を執れるのか不安がっており、サム・ライミに現場を監視させて、もしウーが機能不全に陥った場合にはライミに後を継がせるという体制を敷いていました。

これに対して、ライミは以下のような心温まる言葉を残しています。

「ウーが70%の力を出す時、それはアメリカのアクション映画監督の100%の力に当たる」

感想

貧困をかなり重く扱っている

ヤンシー・バトラー扮するナターシャは、連絡の取れなくなった父・ダグラスを案じてニューオーリンズにやってくるのですが、当初、彼女の捜索活動は難航します。

それは、生前のダグラスが娘に対して路上生活をしていることを伝えていなかったし、ナターシャからダグラスの近況を聞かれた知人達も、彼の名誉を守るために路上生活をしていたことをなかなか話してくれなかったためです。

相談相手がいなくてどんどん追い込まれていくという貧困の現状がこのパートには織り込まれています。

また路上生活者には従軍経験者が多いのですが、この点でも、いかに戦場で優秀であっても社会で戦闘スキルが役立つことはなく、国のために尽くした元兵士達が落ちぶれていくという『ランボー』やNetflix版『パニッシャー』のようなテーマを扱っていることも興味深く感じました。

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テーマと設定の見事な融合

そしてランス・ヘンリクセン扮するフーションはこの点を商機としました。

彼は生身の人間を狩猟対象とするマンハント事業を富裕層向けに展開し、かなりの収益を上げているのですが、行方不明になっても誰も探さず、従軍経験者が多いため狩猟対象として丁度良いとの理由から、ホームレスを狩りの対象としていました。

これは、テーマと一致した見事な設定だったと思います。

また中盤にて狩猟対象とされたホームレスが市街地に逃げ込む場面があるのですが、その場には大勢の人がいたにも関わらず、血まみれで明らかに普通の状態ではないホームレスを助けてやる者は一人もおらず、冷たく扉を閉められたり突き放されたりで、結局、このホームレスは命を落とします。

この描写にも、貧困層に対して極端に冷たい中間層という問題提起があったように感じました。本作はなかなかの社会派作品でもあるのです。

ヴァンダムのみ浮いた存在になっている

ただし、肝心のヴァンダムがこの作品の内容に馴染んでいないんですよね。

ファッションがおかしい

ヴァンダム演じるチャンスは港湾労働者という設定。

しかし耳にはピアス、ちゃんとした腕時計をしているし、黒コートを着て全体的に身なりは良く、本当に生活に困ってる人なの?という見てくれとなっています。

前半にてチャンスは漁船への乗組員募集に参加しているのですが、他の港湾労働者とは明らかに異質な身なりなのに「俺に仕事くれ」とか普通に言ってるので、違和感が物凄いことになっています。まずあなたは港湾労働者らしい服を着なさいと。

ヴァンダミングファッション

ヴァンダムの自意識が強すぎた

またヴァンダムは肉体美を見せたくて裸でのアクションを望んだものの、それをやるとおかしくなると言ってジョン・ウーに大反対されたという裏話もあります。

ウーが正しい主張をしたおかげで最悪の事態は回避されましたが、この裏話からは、作品全体を見ていないヴァンダムに相当引っ掻き回されたことが伺えます。

なお、本作が原因でヴァンダムとウーは険悪な仲となりました。作品の大ヒットに気を良くしたユニバーサルはヴァンダムとウーの再コラボを希望したものの、両者の関係があまりに悪くて断念したという話もあります。

そもそもヴァンダム主演じゃない方が良い

キャスティングへの不満はもうひとつあって、ヴァンダムとヘンリクセンの役が逆じゃないかという点が終始気になりました。

悪役フーションはマンハントビジネスを引っ提げて世界中を渡り歩いてきた男であり、ニューオーリンズもただ立ち寄っただけという外国人設定が置かれています。

この役をアメリカ人のランス・ヘンリクセンが演じていることには違和感があったし、強い欧州訛りのあるヴァンダムこそが適任だったのではないかと思います。

加えて、チャンスは社会に馴染めない戦闘マシーンという設定なのだから、ヴァンダムのような血色の良い男ではなく、これこそヘンリクセンのような枯れ切った見た目の男の方が良かったような気がします。

ヘンリクセンなんて大した相手じゃないだろと舐めてかかったら、実はとんでもない戦闘スキルを持っていたという展開だとさぞかし楽しかったことでしょうね。

ジョン・ウー史上最強のアクション

そんな感じでドラマや演技には一長一短あったのですが、アクションは文句なしに満足できるものでした。

アーノルド・ヴォスルー扮するヴァン・クリーヴ(リー・ヴァン・クリーフから命名されたらしいです)とチャンスがついに相まみえた後、銃撃戦→バイクチェイス→馬vsヘリの追撃戦→倉庫での大銃撃戦と見せ場が詰め込まれた怒涛のラスト45分には血がたぎりました。

本作のアクションの質・量と比較すると、『フェイス/オフ』すらのどかに感じられるほどでした。

倉庫での大銃撃戦なんて、そこら中で景気よく火花上がりまくりで、火器を使ったわけでもないのに一面火の海になってましたからね。この過剰さも最高でした。

チャンスとヴァン・クリーヴが至近距離から二丁拳銃で撃ち合うという、まんま『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』な様式美も炸裂しており、ウーがやれること全部やり尽くしましたって感じで盛り上がりました。

なお、追撃戦において当初はボートチェイスが予定されていたものの、ヴァンダムが馬を使うことを希望したので変更されたという経緯があります。このボートチェイスは後の『フェイス/オフ』で復活することとなります。

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名セリフ「貧乏人は暇でね」

80年代から90年代にかけて、アクション映画で主人公が人を殺す際には決め台詞を言うことが定番でした。

中には長年連れ添った奥さんの脳天を撃ち抜いて「離婚成立だ」と言った『トータル・リコール』(1990年)のような、人の死に際にさすがにその言葉は如何なものかと観客をドン引きさせるものもあったりで、これをバチっと決めることはなかなか難しいのですが、本作の決め台詞は最高に決まっていました。

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クライマックス、部下を全滅させられ、多分自分も殺されるであろう状況でチャンスと相まみえたフーションが「なんで無関係なお前が俺に関わったんだ」と言ったことに対してのチャンスの切り返しがこれです。

「貧乏人は暇でね」(ソフトでは「貧乏人は退屈でね」)

貧乏人の命を軽んじたフーションが同じ貧乏人により追い込まれたというカタルシス、チャンスにとっては「お前との戦いなんて暇つぶしみたいなもんだぜ」という余裕、そしてB級アクションでありがちな「なぜこの人はこんなに必死に戦ってるんだろうか」という疑問への回答にもなっているという、この短いワードで見事にすべての総括ができており、私はこのセリフを聞いた瞬間に飛び上がりそうになるほど興奮しました。

加えて、英語では”poor”(貧乏)と”bore”(退屈)が韻を踏んでいるわけです。なんという素晴らしいワードチョイスなんでしょうか。

これは世の真理をも的確に突いた一言でもあります。現に貧乏人は暇ですからね。この点で非常に汎用性が高いセリフでもあり、私は日常生活でもこのセリフを使っています。

毎日毎日映画や海外ドラマばかりを見ていることを家族からそれを揶揄された時、この言葉で返すとちょっとだけヴァンダムの気分が味わえます。

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