ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場【良作】王道パターンが気持ちよく決まっていく(ネタバレなし・感想・解説)

(1986年 アメリカ)
アメリカ海兵隊で数々の武勲をあげてきたが、平時においては居場所を失いトラブルメーカーになっていたトム・ハイウェイ一等軍曹に辞令が下され、古巣である第二偵察大隊内の小隊を任されることになった。当該小隊は問題児ばかりの落ちこぼれ部隊であり、ハイウェイは弛みきった上に反抗的な兵卒たちを、一から鍛え直すことにする。

©Warner Bros.

スタッフ・キャスト

監督・主演はクリント・イーストウッド

1930年生まれ。学生時代には運動能力と音楽の才能を評価されていた一方で、学業の方は全然ダメだったらしく、高校を卒業できたのかどうかは定かではありません(伝記作家が調査したものの、守秘義務の壁に阻まれて解明できなかったようです)。当時の友人たちによると、彼は学校にもまともに来ておらず、恐らく卒業はしていないとのことです。1949年から工場勤めを開始し、1951年より2年間の兵役を務めました。『グラン・トリノ』(2008年)、『運び屋』(2018年)などで朝鮮戦争に従軍した老人役を演じるのは彼自身のこの履歴によるものですが、彼の勤務地はカリフォルニア州のフォート・オード基地であり、戦場に出たことはありません。

運び屋【7点/10点満点中_家庭も金もどっちも大事】(ネタバレあり感想)

従軍中に映画関係者とのコネができ、特にアーサー・ルビンという映画監督が長身イケメンのイーストウッドを買っていたことから、1954年にユニバーサルとの契約を結びました。ただしオーディションを受けても落ちまくり、来る仕事はアーサー・ルビン関係のものばかりだったことから、1955年にはユニバーサルを解雇されました。

1958年からスタートしたテレビドラマ『ローハイド』の主演で人気を博し、1964年には当時ほぼ無名だったイタリアの映画監督セルジオ・レオーネからの依頼を受け出演した『荒野の用心棒』が大ヒット。続く『夕陽のガンマン』(1965年)、『続・夕陽のガンマン』(1966年)も世界的にヒットし、イーストウッドは俳優としての地位と豊富な資金を得ました。そこで設立したのが自身の製作会社・マルパソ・プロダクションであり、2019年現在に至るまでイーストウッドはこのプロダクションを活動拠点としています。

ストーカーという言葉もなかった時代に作られた先進的なストーカー映画『恐怖のメロディ』(1971年)より監督業にも進出。ただし70年代から80年代にかけては大作や賞レースに絡むような目立った作品を手掛けることはなく、どちらかと言えばB級と言えるレベルの作品群でマイペースに実績を積み上げていきました。本作もそんな中での一作。

流れが変わったのが『許されざる者』(1992年)であり、同作でアカデミー作品賞と監督賞を受賞し、以降は文芸性の高い映画も手掛けるようになりました。『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)で再びアカデミー作品賞と監督賞を受賞。同作では74歳という史上最年長受賞の記録も出しました。その他、『ミスティック・リバー』(2003年)、『硫黄島からの手紙』(2006年)、『アメリカン・スナイパー』(2014年)の3作品で作品賞・監督賞にノミネートされています。

脚本家は第1騎兵師団出身者

本作の脚本を書いたのはジェームズ・カラバトソスという人物であり、他に『ノー・マーシィ/非情の愛』(1986年)や『ハンバーガー・ヒル』(1987年)を手掛けています。本作や『ハンバーガー・ヒル』というフィルモグラフィが示すとおり従軍経験のある人で、ベトナム戦争中には第1騎兵師団に所属していました。第1騎兵師団とは『地獄の黙示録』(1979年)のキルゴア中佐や、『ワンス・アンド・フォーエバー』(2002年)のメルギブ隊長が所属していた由緒正しい部隊であり、その一員だったということで、この人物への信頼性もぐっと上がりました。

登場人物

偵察小隊

  • トム・ハイウェイ一等軍曹(クリント・イーストウッド):朝鮮戦争、ベトナム戦争、ドミニカと活躍してきた古参兵。将軍になってもおかしないほどの武勲をあげているが、上官を殴ったり酒場で喧嘩をしたりといった素行不良が祟って、現場の一責任者レベルに留まっている。落ちこぼれだらけの偵察小隊を鍛え直すために配属された。
  • リング少尉(ボイド・ゲインズ):ハイウェイ達の偵察小隊の隊長。一般大学出身で、士官学校出ではない。学問や論文執筆で忙しく、現場に出てくることはほとんどない。
  • スティッチ・ジョーンズ伍長(マリオ・ヴァン・ピープルズ):ミュージシャン志望の隊員。隊員達のリーダー的ポジションにいるがやる気はなく、上官からの影響を排除して仲間だけで気楽に過ごすということを理想としている。冒頭にて赴任地へ向かうハイウェイと同じバスに乗り合わせ、明日からの上官になる人物とも知らずにハイウェイのチケットを盗むという犯罪をおかした。
  • スイード・ヨハンソン一等兵(ピーター・コッチ):偵察小隊の大男。上官に暴行をはたらいては営倉に入れられるということを繰り返しており、今回も新任のハイウェイを黙らせたい他の隊員達から担ぎ出されたが、ハイウェイから返り討ちに遭った。以降はハイウェイに忠実な部下となり、良い軍人に生まれ変わろうとした。

第二偵察大隊

  • パワーズ少佐(エヴェレット・マッギル):第二偵察大隊長で、ハイウェイやリングの上官にあたる。直近まで補給部所属で実戦経験がなく、書類や手続にやたらとこだわる。そんな経歴にコンプレックスもあってか、部下でありながら経験では遥かに格上のハイウェイを敵視している。
  • チューズ曹長(アーリン・ディーン・スナイダー):ハイウェイの古くからの戦友。ハイウェイとは違って上官との付き合い方がうまく、堅物のパワーズともおれなりにうまくやっている。
  • ウェブスター軍曹(モーゼス・ガン):パワーズ少佐直属の第一小隊を率いている古参兵で、ハイウェイやチューズと同じくらいの年齢層。落ちこぼれの偵察小隊を下に見ており、彼らを演習でのやられ役としてしか考えていない。

その他

  • メイヤーズ大佐:第二偵察大隊を含む連隊のトップ。ベトナム戦争時にハイウェイ達と同じ戦場にいたこともあってハイウェイに対して理解を示し、パワーズを「書類バカ」と呼ぶ。
  • メアリー(アイリーン・ヘッカート):基地の近くで長年バーを経営している女性。年齢はハイウェイよりも上であり、若い頃からハイウェイやアギーとの付き合いがある。
  • アギー(マーシャ・メイソン):ハイウェイの別れた妻で、バーでウェイトレスをしている。ハイウェイとは高校時代からの付き合いだったが、その荒れた生活に付き合っていられなくなって離婚。現在はバーの経営者であるロイと交際している。
  • ロイ・ジェニングス(ボー・スヴェンソン):アギーが働くバーのオーナーで、アギーと交際している。

ハートブレイク・リッジとは

直訳すると「心臓破りの丘」。これは朝鮮戦争において国連軍と北朝鮮軍が奪い合った丘の拠点を指しており、劇中では鬼軍曹・トム・ハイウェイの軍人としての人格形成をした場としても位置づけられていました。

史実ではアメリカ陸軍が戦った場所なのですが、主人公ハイウェイの設定は海兵隊員。これには理由があって、当初の脚本ではハイウェイは陸軍所属だったのですが、米陸軍に製作の協力依頼をしたところ、アル中で暴力的なベテラン軍人というステレオタイプな設定に物言いがついて協力を取り付けられず、仕方なく海兵隊にお願いしたという経緯があります。

その海兵隊にしても、訓練中の部下に向かって実弾を発砲するハイウェイや、名誉勲章を受けているハイウェイに対して一切の敬意を払わないパワーズなど、現実にはありえない描写が多いことから、完成した作品を見て以降は批判的な立場をとるようになりました。

感想

王道パターンが気持ちよく決まっていく

本作が製作された80年代半ばはアメリカが大きな戦争をしていなかった時期にあたります。一方で脚本を書いたジェームズ・カラバトソスは精鋭と名高い第1騎兵師団でベトナム戦争に従軍した人物であり、「俺らの頃とは違うなぁ」と平時の弛みきった軍隊内の様子を嘆きながらも、コミカルに描いた作品であるように思います。

やる気のない兵卒達と、書類や手続きばかりにこだわる実戦経験のない士官達が主流を占めるようになり、組織全体の価値観が変わってしまった中で取り残された中間管理職という構図は、軍隊のみならず組織を描いた映画全般でよく見られるもの。定番と言えば定番なのですが、王道ならではの安定感がありました。

また、実戦経験豊富なハイウェイがポンコツ揃いの小隊を叩き直して一端の兵隊達に育て上げるという物語は学園ものに近いノリであり、『GTO』や『ルーキーズ』がウケる日本人では特に親しみと面白みを感じるドラマになっていると思います。

終盤にかけて、落ちこぼれの偵察小隊が大隊内では格上の第一小隊を負かしていくという展開もベタと言えばベタなのですが、こちらもまた安定した手腕で素直に見せてくれる気持ちよさがあって、総じて王道パターンが気持ちよく決まっていく作品だという印象を持ちました。本作はイーストウッドにとって12本目の監督作であり、面白い映画とはどういうものなのかを知り尽くしたベテラン監督が、良い意味で力を抜いて撮った作品のように感じました。

迫力に欠ける戦闘シーン

ただし、グレナダ侵攻が描かれるクライマックスの戦闘が緊迫感・迫力に欠けるので、作品の詰めで失敗したという印象です。これは『プライベート・ライアン』(1998年)や『ブラックホーク・ダウン』(2001年)を通過した現在の目で見てショボいということではなく、1995年の日曜洋画劇場でのオンエアーを見た時点から感じていた欠点であり、製作時点の平均的な戦争映画の水準にも達していなかったと記憶しています。

なお、敵兵に包囲された小隊がクレジットカードを使って国際電話をかけて火力支援を要請したといエピソードはグレナダ侵攻作戦で実際にあったことであり、これはマイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』(2007年)でも使用されたほど有名な話のようです。

プライベート・ライアン【7/10点満点中_孤立主義と国際主義の間で揺れるアメリカ】

まとめ

突出した部分はないのですが、映画としてやるべきことがちゃんとなされた、破綻のない娯楽作だと感じました。人間味に溢れた面白い娯楽作を撮るという点で、イーストウッドは極めて優れた映画人であることを証明した作品のひとつだと言えます。