【傑作】ヒート_刑事ものにして仁侠もの(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(1995年 アメリカ)
犯罪者を追い込む刑事ものであり、男の生き様や滅びの美学が描かれた仁侠ものでもあるという一粒で何度も美味しいクライムドラマの傑作。ディテールでキャラクターを語るマイケル・マンの真骨頂でもあり、説得力ある描写の積み重ねには驚かされます。

あらすじ

ニール・マッコーリー(ロバート・デ・ニーロ)率いる強盗団が現金輸送車を襲った。一味が逃げた後の現場を訪れたLA市警強盗殺人課の刑事ヴィンセント・ハナ(アル・パチーノ)は、その鮮やかな手口から熟練グループの仕業であると推測。現場に居合わせたホームレスがたまたま耳にした「スリック(お調子者)」という言葉から、犯人を一人ずつ特定していく。

スタッフ・キャスト

製作・監督・脚本はマイケル・マン

1943年シカゴ出身。1960年代半ばにイギリスへ渡り、リドリー・スコット、アラン・パーカー、エイドリアン・ラインらとコマーシャル演出などを手掛けました。昔の仲間が凄すぎですね。

その後アメリカに帰国しテレビ番組の脚本や演出を手掛けるようになり、製作総指揮を務めた『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1989年)が大人気となりました。

並行して映画界での活動も行っており、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981年)で長編監督デビュー。続いてハンニバル・レクターが映画に初登場する『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986年)も監督したのですが、どちらもヒット作とはなりませんでした。

90年代に入ると時代劇『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)がヒット。本作がクライムアクションの金字塔となり、『インサイダー』(1999年)でアカデミー監督賞ノミネートと、男性映画の雄としての地位を確立しました。

強盗犯役にロバート・デ・ニーロ

1943年NY出身。なおデ・ニーロが生まれたのはNYの中でも芸術家などに愛されているグリニッジ・ヴィレッジです。

『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1943年)でアカデミー助演男優賞受賞、『レイジング・ブル』(1980年)で主演男優賞受賞という実績を持つ、当代きっての演技派俳優です。

特にマーティン・スコセッシ監督とのコンビネーションの評価は高く、『タクシードライバー』(1976年)『キング・オブ・コメディ』(1983年)、『グッドフェローズ』(1990年)などの傑作を生みだしています。2012年に発表された『映画史に残る監督と俳優のコラボレーション50組」では第1位に選出されました。

警察官役にアル・パチーノ

1940年NY出身。なおパチーノが生まれたのはブロンクスであり、そこはマンハッタン島ではなく、またゴリゴリの下町で治安も良くありません。

演劇界で高評価を受けた後に映画界に進出し、『ゴッドファーザー』(1972年)のマイケル・コルレオーネ役でブレイク。ただしデ・ニーロと違って賞レースでは苦戦し、1972年から4年連続でアカデミー賞にノミネートされるも受賞には至りませんでした。

加えて今や名作とされている『スカーフェイス』(1983年)が公開時には惨憺たる批評を受けるなど、出演作自体がなかなか評価されないという苦労もしました。

『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)でようやくアカデミー主演男優賞を受賞しましたが、その輝かしい出演作の中でベストとは言い難い同作での受賞はちょっと微妙でした。

その他にも豪華キャスト集結

本作はキャラクターが異様に多い上に、それらをことごとく名の知れた俳優達が演じているため、えらく豪華な作品となっています。

  • ヴァル・キルマー(クリス・シヘリス):1959年LA出身。アイスマンにしてバットマン。クリス役はキアヌ・リーブスに断られ、ジョニー・デップはギャラが高すぎ、最終的にヴァル・キルマーに落ち着きました。
  • トム・サイズモア(マイケル・チェリト):1961年デトロイト出身。中年の貫禄があるものの、実はヴァル・キルマーよりも年下。『プライベート・ライアン』(1998年)、『ブラックホーク・ダウン』(2001年)での鬼軍曹役で有名。なお、チェリト役にはウィリアム・ピーターセンやドン・ジョンソンも考えられていました。
  • ダニー・トレホ(トレホ):1944年LA出身。実際の服役経験を持つ強面俳優で、80年代より犯罪者役を多数演じてきました。『デスペラード』(1995年)以降はロバート・ロドリゲス監督の常連俳優となり、『マチェーテ』(2010年)でついに主演の座を獲得。てゆーか、役名くらい付けてあげてよ。
  • ジョン・ヴォイト(ネイト):1938年ニューヨーク州出身。アカデミー作品賞受賞作『真夜中のカーボーイ』(1969年)の主演であり、『帰郷』(1978年)でアカデミー主演男優賞を受賞。アンジェリーナ・ジョリーの父。親子仲は最悪らしいですが。
  • ウィルアム・フィクトナー(ロジャー・ヴァン・ザント):1956年ニューヨーク州出身。『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』(1995年)『コンタクト』(1997年)『アルマゲドン』(1998年)、『ダークナイト』(2008年)など、大作でとにかくよく見かける名わき役。
  • ナタリー・ポートマン(ローレン・グスタフソン):1981年エルサレム出身。デビュー作『レオン』(1995年)に次ぐ映画出演2作目。『ブラックスワン』(2010年)でアカデミー主演女優賞受賞。
  • エイミー・ブレネマン(イーディ):1964年コネチカット出身。ハーバード出身の才媛ながら幸薄くおっさんに惚れる役柄を得意としており、『デイライト』(1996年)ではスタローンの相手役を演じました。本作の脚本を読んだブレネマンは血生臭すぎるとして出演を断ったのですが、その姿勢こそがイーディ役に丁度良いとのことで起用となりました。
  • ダイアン・ヴェノーラ(ジャスティン・ハナ):1952年コネチカット出身。『野獣教師』(1996年)での女教師、『ジャッカル』のコスロヴァ少佐、『13ウォリアーズ』(1999年)のウィロウ女王など、戦う女性役が得意。
  • アシュレイ・ジャッド(シャーリーン・シヘリス):1968年LA出身。『評決のとき』(1996年)、『ノーマ・ジーンとマリリン』(1996年)、『ダブル・ジョパディ』(1999年)など、90年代後半には大人気でした。
  • テッド・レヴィン(ボスコ):1957年クリーブランド出身。『羊たちの沈黙』(1991年)のバッファロー・ビル。
  • ケルソ(トム・ヌーナン):1951年コネチカット出身。『刑事グラハム/凍りついた欲望』のダラハイド、『ロボコップ2』(1990年)のケイン、『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)のザ・リッパーと悪役ばかりを演じています。
  • デニス・ヘイスバート(ドナルド・ブリーダン):1954年カリフォルニア州出身。『24-TWENTY FOUR-』シリーズの大統領。

作品概要

”HEAT”とは警察を意味するスラング

タイトルの”HEAT”は直訳すると「熱・熱さ」であり、これはこれで劇中描かれる激しい攻防戦を表現しているような気もするのですが、スラングでは「警察」や「警察による追跡」を意味する場合もあり、そちらの意味合いの方が強いように感じます。

ニール・マッコーリーは実在の強盗犯

マイケル・マンは長編監督デビュー作『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981年)制作の際に、専門知識を持ったアドバイザーとしてチャック・アダムソンを雇いました。

アダムソンはマンと同じシカゴ出身で、40歳の頃に脚本家に転向した元警察官。同作がきっかけで二人は親友となり、マンがプロデュースしたテレビシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1989年)などにも参加しました。

そのアダムソンから聞かされたのが実在の強盗犯ニール・マッコーリー(1915-1964年)に係る逸話でした。

マッコーリーはいつも同じメンバーとチームを組んで複数件の盗みを働き、最後は警察に監視されていることに気付かず強盗に入り、銃撃戦の末に射殺されました。捜査の過程でアダムソンは偶然マッコーリーと鉢合わせになり、二人でコーヒーショップに入って会話をしたと言います。

このエピソードに感銘を受けたマンは180ページという長大な犯罪ドラマの脚本を執筆。1980年代前半に男性映画の雄ウォルター・ヒルに監督依頼をしたのですが断られました。

『メイド・イン・L.A.』(1989年)

その後テレビシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1989年)を大成功させたマンは、NBCテレビから新たな連続刑事ドラマの製作依頼を受けました。そのパイロット版として先ほどのボツ脚本を流用し、『メイド・イン・L.A.』(1989年)を製作。

180ページのオリジナルを放送枠用に92分にまで刈り込んだこと、後に控えるテレビシリーズのパイロット版という位置付けだったこと、撮影から完成まで1か月足らずしかなかったことなどから芳しい出来ではなく、加えて主演俳優を交代させるか否かを巡ってNBCと折り合えなかったことから、シリーズ化には至りませんでした。

キャスティング

『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)が興行的にも批評的にも成功を収めた後、マンはワーナーでジェームズ・ディーンの伝記映画を撮る予定になっていたのですが、企画が一向に進展しないために降板。

スケジュールの空いたマンは『アンタッチャブル』(1987年)のプロデューサーであるアート・リンソンと共に『メイド・イン・L.A.』を本来の形でリメイクすることにし、制作費6000万ドルを調達しました。

まず脚本を読んだのはロバート・デ・ニーロで、彼は一発で気に入って出演を承諾しました。そしてアル・パチーノにも脚本を読ませて、パチーノも出演を希望。こうして夢の競演は実現したのでした。

ただし実際に撮影に入るまではどちらかの気が変わったり、スケジュールの競合で出演できなくなったりといったリスクは残っており、万が一の場合には『特捜刑事マイアミ・バイス』の主演ドン・ジョンソンを交代要員として考えていたようです。

その他、製作段階ではメル・ギブソン×ハリソン・フォード、ニック・ノルティ×ジェフ・ブリッジスの組み合わせも考慮されていたようです。

リアリティへの異様なこだわり

マンは俳優達への銃のトレーニングのために元SAS隊員を起用。しかも強盗犯と警察官では違う動き方をするであろうという想定から別々のトレーナーを付け、訓練も別個に行うという念の入れようでした。

その他、役作りのために俳優達を本物に合わせることとし、デ・ニーロ、ヴァル・キルマー、トム・サイズモアはフォルサム州立刑務所で服役囚にインタビューを行いました。なお、出演者のダニー・トレホはフォルサムでの服役経験を持っています。

アシュレイ・ジャッドは売春婦上がりの主婦数名に会ったと言います。

またロケを中心にした撮影とし、その場に居たホームレスにまで出演交渉を行って、LAの空気感を全面的に作品に反映しました。

もはや病的なまでのこだわりようです。

公開当時の評価は微妙だった

当代きっての演技派俳優デ・ニーロとパチーノ初の本格共演作ということで話題性の高かった作品なのですが、1995年12月15日に全米公開された際には初登場3位。

その後もランクを上げることはなく、全米興行成績は6700万ドルとやや期待外れの結果に終わりました。

クライムアクションの傑作という評価が確立された現在の感覚からすると意外なのですが、公開当時にはネガティブな意見もチラホラと見られ、マフィアの大親分かと思いきやデ・ニーロが泥棒役だったことにガッカリとか、デ・ニーロとパチーノが一緒に映っていない上げ底共演作とか、この内容で3時間は長すぎるなどという声が上がっていました。

12月というバリバリの賞狙いの時期に公開されたにも関わらず大きな映画賞にはノミネートされていないことが、当時の評価を物語っています。

その傾向は日本でも同じくであり、現在の私が閲覧できる範囲内で申し上げると、「キネマ旬報」年間ベストテンでは21位、別冊宝島「この映画がすごい!」ではランク圏外であり、47名の投票者中で本作のタイトルを挙げていたのは塚本普也監督ただ一人でした(4位に投票)。

そんな中、広島のローカル番組「花本マサミのさわやかサタデー」だけは本作を年間ベストで第5位に選出していました。凄いぞ、広島ホームテレビ!

登場人物

強盗団とその関係者

  • ニール・マッコーリー(ロバート・デ・ニーロ):強盗団のリーダー格。非常に慎重で捜査当局にも面が割れていなかった。「30秒フラットで高飛びできるよう面倒な関わりを持つな」を座右の銘とし、人間関係を持たずに生活している。
  • イーディ(エイミー・ブレネマン):ニールが通う書店の店員。カフェで見かけたニールに彼女から声をかけ、恋仲になった。
  • クリス・シヘリス(ヴァル・キルマー):強盗団の一人。強盗としては腕利きだがギャンブル依存症であるため私生活は荒れ気味である。
  • シャーリーン・シヘリス(アシュレイ・ジャッド):クリスの妻だが、ギャンブル依存症の夫に愛想を尽かしてラスベガスの実業家と不倫をしている。劇中語られないが、ラスベガスのショーガールだったという設定が置かれている。
  • マイケル・チェリト(トム・サイズモア):強盗団の一人。円満な家庭生活を送り、強盗で得た資金は不動産投資等に回すという堅実な生き方をしている。
  • トレホ(ダニー・トレホ):強盗団の一人。車の運転など後方支援に回ることが多い。
  • ドナルド・ブリーダン(デニス・ヘイスバート):保護観察中の元囚人。かつて同じ刑務所に居たことからニールと面識があり、銀行強盗に参加できなくなったトレホの欠員補充として急遽メンバーに加えられた。
  • ネイト(ジョン・ヴォイト):ニールに襲えそうな場所を教えたり、強盗してきた金のロンダリングなどを担当している。

ヴィンセントと家族

  • ヴィンセント・ハナ(アル・パチーノ):LA市警強盗殺人課の刑事。大学院卒業後に海兵隊に入ったという文武両道であり、仕事の鬼。そのため家庭生活はうまくいかず2度の離婚を経験し、3度目の結婚も終わりかけている。
  • ジャスティン・ハナ(ダイアン・ヴェノーラ):ヴィンセントの妻。仕事のみに打ち込み家に居つかないヴィンセントに対して不満を持っている。
  • ローレン・グスタフソン(ナタリー・ポートマン):ジャスティンの連れ子。離婚した実父を慕っているが、その実父は面会日をすっぽかすような男。その上、母の再婚相手ヴィンセントは家に居ないタイプであり、父を求めているのに得られないという気の毒な境遇にいる。

その他

  • ロジャー・ヴァン・ザント(ウィリアム・フィクトナー):麻薬組織のマネーロンダリングを行っている金融業者。彼が管理している無記名証券がニール達に強奪され、その後、ニールから双方の利益になる取引を持ち掛けられたが、それに乗らなかったためにニールと戦争状態となった。
  • ウェイングロー(ケヴィン・ゲイジ):一時的にニールの強盗団に入ったが、低いスキルと狂暴な性格が災いして現場でミスを犯してしまい、ニールに処刑されかけた。運よく生き延びた後も、売春婦殺害などロクでもない行為を繰り返した。演じるケヴィン・ゲイジは2003年に刑務所で服役し、その時のあだ名はウェイングローだった。

感想

強盗団のホンモノ感が凄い

作品は、ニール・マッコーリー(ロバート・デ・ニーロ)の一味が銀行の現金輸送車を襲う場面から始まります。

5名は3班に分かれて行動しており、特に言葉を交わすことなくテキパキと仕事を進めていきます。標的は麻薬組織がマネーロンダリングの手段として使っている無記名証券であり、それ以外の金品には目もくれずに標的のみを奪取。

一味は誰も殺さないことを信条としているものの、新参のウェイングロー(ケヴィン・ゲイジ)が一名の警備員に発砲してしまうと、躊躇せず残りの警備員も射殺。

原則的な行動パターンが叩き込まれている上に、咄嗟の例外対応もできるプロ中のプロであることが一連の場面から伝わってきます。

その後、一味は車道沿いのダイナーで落ち合うのですが、先走った行動で現場を血の海にしてしまったウェイングローに対してニールは怒り心頭であり、席に着くやウェイングローの横っ面を殴ります。

暴力を振るう時のデ・ニーロが本物のヤクザみたいな身のこなしで怖かったし、物音に店内の視線が集まった瞬間、マイケル(トム・サイズモア)が「こっち見んなや」みたいな感じで周囲を牽制する様も同じくでした。

トム・サイズモアの演技はアカデミー賞もので、ガンを飛ばしているわけではなく真顔ではあるのだが、確実に周囲を威嚇しているという絶妙な顔をしていました。あんな怖い人達と鉢合わせになってしまった一般客が可哀そうになってきます。

トム・サイズモア「こっち見んなや」
©Warner Bros.

店を出たニールは殺すつもりでウェイングローを引き倒し、その瞬間にマイケルとクリス(ヴァル・キルマー)はそれぞれ見晴らしの利く場所に移動して周囲を監視、トレホ(ダニー・トレホ)は死体を隠すために車のトランクを開きます。

またしても無言の連携プレイが炸裂し、怖いんだかカッコいいんだかという状態となります。

これら一連の描写で彼らがプロの強盗であること、本物のヤクザ者であることが理解できます。セリフではなく描写の積み重ねでキャラクターを描くというマイケル・マンの真骨頂を見たような気がしました。

運悪くパトカーが通りかかってしまったためにニールは手を止め、一瞬の隙を突いてウェイングローは逃走。どうせ小物だと思ってニールはウェイングローを追うことを止めるのですが、その些細な読み違えが後に彼を追い込むこととなります。

犯罪者達の私生活

マイケル・マンは長編デビュー作『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981年)において、有能な犯罪者は私生活のこともしっかり考えており、地に足の着いた人生設計ができているという前提を置いていました。

本作もそのアプローチを継承しており、通常の映画では強盗犯は刹那的な存在として描かれるところ、本作では賢い強盗達は家族との私生活も堅実に送っており、長くは続けられない強盗という職業を終えた後の人生までを見据えて蓄財をしているという設定となっています。

唯一毛色の違うのがニールで、彼だけは家族も恋人も持たず、家具すら置かれていない部屋に一人で生活しています。僧侶のように私生活を完全に切り捨てているのです。

「30秒フラットで高飛びできるよう面倒な関わりを持つな」を座右の銘とし、身一つの状態を維持し続けているニール。マイケル・マンが繰り返し描いてきた職人肌の犯罪者の究極形と言えます。

そんなニールにも綻びが現れます。カフェで偶然知り合った書店店員イーディ(エイミー・ブレネマン)との関係は一夜限りだったはずが、子分たちの楽しそうな家庭生活を目の当たりにしてふと寂しさが去来し、「会いたい」と電話をかけてしまうのです。

守るべきものを持ったニールはこの後どんどん詰んでいくのですが、その発露が彼の人間らしさだった点に物の憐れを感じます。

仕事人間ヴィンセント

そんなニール達を追うのはLA市警強盗殺人課のヴィンセント・ハナ(アル・パチーノ)。

ニール達の強盗現場を見るや「これは腕利きの仕業だ」と言い、口頭では「ヤバイ」と言いつつも心なしか表情は嬉しそうです。

彼は大学院卒業後に海兵隊に入った文武両道であり、家にはまったく居付かず現場に張り付き続けている仕事の鬼。そんな姿勢であるため私生活は破綻しており、2度の離婚歴に加えて3度目の結婚生活にも終わりが近づいています。

そこにまだ見ぬ好敵手が現れ、俄然張り切り始めるヴィンセント。強盗現場に居合わせたホームレスが微かに聞き取った「スリック(お調子者)」というたった一言からマイケルを割り出し、そこから強盗団全員の面を剥いでいくという執念の捜査を行います。

そんな捜査を実現するため、深夜に帰宅し早朝に出ていくという生活を送るヴィンセントに対して、奥さんのジャスティン(ダイアン・ヴェノーラ)はご立腹。

「もっと夫婦らしくしたい。夫婦で分かち合いたい」と言ってくるジャスティンに対して、ヴィンセントは「俺は孤独であることで仕事への緊張感を保っている」と元も子もないことを言い出します。

奥さんに向かって「俺は孤独で」なんて話をしてどうするんだという感じですが、ヴィンセント自身は特に悪気もなく言っているのだから付ける薬がありません。

挙句の果てには「『ハニー、今日はイカれた男が自分の子供をレンジで焼き殺したよ』なんて話がしたいのか」と言って茶化し始める始末。完全に終わっています。

決戦前夜の邂逅

勘の良いニールは警察にマークされていることに気付き、また担当のヴィンセントが一筋縄にいく相手ではないことも見抜き、無傷のうちに解散してそれぞれ別の道を行くか、それとも最後のヤマを踏むのかの決断を子分達に迫ります。

冒頭の無記名証券のマネタイズがうまくいっておらずアテにしていた金が入ってきていない一味は、満場一致で次のヤマを踏むという結論に至り、その準備へと取り掛かります。

ヴィンセントはヴィンセントで、こちらの存在に気付いたにも関わらずニール達がLAを離れていないということは何かやるつもりだと考え、彼らへのマークを強めます。

そんな中、ヴィンセントはニールに直接接触を図ります。マイケル・マンが本作のインスピレーションを受けたチャック・アダムソンとニール・マッコーリーの会話の再現であり、ヴィンセントとニールは空港のカフェへと入っていきます。

ヴィ「普通に暮らす気はないのか?」

ニ「庭でバーベキュー、テレビで野球?そんな暮らしが望みなのか?」

ヴィ「俺の気配を近くに感じたら、彼女を捨てられるのか?」

ニ「ああ、自分への掟だ」

ヴィ「寂しいもんだな」

ニ「耐えられなきゃ別の生き方を探すことだ」

ヴィ「別の生き方って?」

ニ「分からん」

ヴィ「探す気もない」

ニ「俺もだ」

妻に対しては「孤独であることで緊張感を高める」と言っていたヴィンセントがニールに対しては本音をぶつけ、ニールも本音で答える。

仕事かプライベートかで迷っていたヴィンセントは、自分以上に振り切れたニールの姿勢から仕事に生きる道への自信を取り戻し、ニールもまたヴィンセントとの受け答えの中でもやもやとしていた思考がシャープになっていき、スッキリとした両者は「今度会うときは殺す」と言い合って別れます。

目の前の敵こそが自分の真の理解者であるという捻じれた構図の上に、お互いへのリスペクトと友情を匂わせる会話。語気は穏やかであるものの、背後にある熱い感情に震えました。

この場面はニールとヴィンセントが初対面であることを重視し、あえてリハーサルを行わずに撮影されたと言います。その結果、二人の会話には緊張感が漂っており、見ているこちらの背筋までが伸びました。

伝説の大銃撃戦

ニール達は最後のヤマとして銀行強盗へと入ります。

しかしトレホがウェイングローの手にかかっており、ウェイングローから警察に強盗計画はタレコミ済でした。冒頭、小物を見逃した代償を思わぬところで払わされることになったのです。

銀行から出てきたニール達を警官隊が待ち構えており、ニール達は持っていたアサルトライフルで応戦。映画史に残る大銃撃戦が開始されます。

この見せ場のために俳優達は元SASからの訓練を受けており、その身のこなしには説得力があります。また、強盗団は即座にスクラムを組んで銃撃し、警官隊を近づけないという動き方もアクション映画でかつて見たことがありませんでした。

これが訓練の成果だ!
©Warner Bros.

この場面では実際の銃声を録音して使っている上に、サウンドデザインにもこだわりまくっているので戦場に叩き込まれたかのような臨場感があり、オーディオ的な聞かせ所でもあります。

すべてにおいてレベルの違う銃撃戦であり、今後、これを超えるものは現れないのではないかと不安になるほどです。実際、2020年現在で本作を超えた銃撃戦はないと思います。

ドン底でも仕事を選んだ男達 ※ネタバレあり

マイケルを失ったものの、ニールとクリスは辛くも逃げ延びます。

ニールはネイト(ジョン・ヴォイト)を使って高飛び用の飛行機をチャーターし、イーディに対して自分の正体を明かした上で、今の生活を捨てて一緒に来て欲しいと懇願。イーディは最初こそ取り乱したものの、最後はニールについていくことを選択します。

一方ヴィンセントはというと、ウェイングローの潜伏先情報を街中に流し、ニールをおびき出そうと罠を張ります。

そんな中、別居中のヴィンセントが暮らすビジネスホテルでジャスティンの連れ子ローレン(ナタリー・ポートマン)が自殺を図り、ヴィンセントは彼女を病院へと担ぎ込みます。そのままローレンに付き添おうとするヴィンセントに対し、ジャスティンは「仕事に行きたいんでしょ」と声をかけます。

「すまんな」と言いながらも仕事に出ていくヴィンセント。この状況で仕事を選ぶのかという感じですが、ヴィンセントはそういう男なのです。この夜、彼の家庭生活は完全に終わりました。

ニールはニールで、耳に挟んだウェイングローの情報は罠だと知りながらも、ケジメは付けねばならないとしてその潜伏先であるホテルへと向かいます。

つい数時間前にはイーディに一緒に逃げてくれと頼んでいたのに、今度はそのイーディを置き去りにして死地へと向かおうとするのだから身勝手な話です。ニールもまたそういう男なのです。

ここでの二人の選択に共通する伏線は中盤でのカフェの会話であり、「普通に生活する気はない」「いざという時には彼女を捨てる」「別の生き方を探す気はない」という言葉がすべてここに返ってきています。

二人とも普通の生活をする機会はあったものの、巻き込まれる女性達の迷惑も考えず、自らの意思で仕事を選んだのです。

阿呆です。阿呆なんだけど、ここまで仕事に打ち込み自分の生き方を通し続ける様はかっこよくもあります。 男性映画の最高峰として、本作は輝き続けます。

≪マイケル・マン関連作品≫
【凡作】刑事グラハム/凍りついた欲望_レクター博士は脇役
【傑作】ヒート_刑事ものにして仁侠もの
【良作】コラテラル_死闘!社畜vs個人事業主
【凡作】マイアミ・バイス(2006年)_物語が迷走気味