(1991年 アメリカ)
豪快にスベリ倒した映画で、見ていて辛くなるほどだった。これほどまでに意図したとおりの笑いをとれず、おしゃれなつもりが裏目に出てダサくなっている映画も珍しいのではなかろうか。清々しいほどの駄作ぶりである。

作品解説
ブルース・ウィリス入魂の企画
2022年3月末に俳優業からの引退を表明したブルース・ウィリスだが、40年以上に及ぶ彼のキャリアの中で、脚本にまで関与したのは本作のみである。
企画を思いついたのはウィリスの無名時代で、製作総指揮及び原案としてクレジットされているロバート・クラフトと共同でのことだった。
いつか本作を実現させたいと思っていたウィリスだったが、『ダイ・ハード』(1988年)と『ダイ・ハード2』(1990年)の大ヒットにより短期間でスターの地位を獲得したことにより制作環境が整い、4000万ドルという潤沢な製作費も調達できた。
なのだが、製作に入ると多くの過ちに気付いたことから脚本はひっきりなしに書き換えられ、マイケル・レーマン監督とブルース・ウィリスは現場で対立し続けた。
完成した作品は全米で大コケをした上に酷評も受け、後に『12モンキーズ』(1995年)に出演したウィリスは、もしもタイムトラベルができれば本作の製作前に戻って製作をやめさせたいとまで言った。
これに懲りたウィリスは以降30年以上に渡って俳優業に徹し、クリエイティブ面に関与することは二度としなかった。
豪華スタッフ集結
駄作として名を轟かす本作であるが、そうは言ってもトライスター入魂の作品だけあって豪華なスタッフが集結している。そのことがまた、どれだけ優秀な人材が集まっても企画がダメだとどうにもならんということを証明している。
- ジョエル・シルバー(製作):80年代から90年代にかけてのアクション映画といえばこの人で、『コマンドー』(1985年)、『プレデター』(1987年)、『リーサル・ウェポン』(1987年)、『ダイ・ハード』(1988年)など素敵な映画を多数製作。
- スティーヴン・E・デ・スーザ(脚本):ジョエル・シルバーのお気に入りで、『48時間』(1982年)、『コマンドー』(1985年)、『ダイ・ハード』(1988年)などを担当。
- ダニエル・ウォーターズ(脚本):『ヘザース/ベロニカの熱い日』(1989年)で注目を浴び、『バットマン リターンズ』(1992年)と『デモリションマン』(1993年)が大ヒットした。
- マイケル・ケイメン(音楽):アクション映画界の巨匠で、『リーサル・ウェポン』(1987年)や『ダイ・ハード』(1988年)を手掛ける。『ロビン・フッド』(1991年)ではグラミー賞最優秀主題歌賞を受賞。
- ダンテ・スピノッティ(撮影):マイケル・マン作品の常連で、『ヒート』(1995年)や『インサイダー』(1999年)が代表作。なお、当初の撮影監督は『U・ボート』(1981年)のジョスト・バカーノだったが、スケジュールの遅延により降板し、スピノッティはその後任だった。
- クリス・レベンゾン(編集):トニー・スコット作品やティム・バートン作品の常連で、『トップガン』(1986年)と『クリムゾン・タイド』(1995年)でアカデミー賞にノミネートされている。
全米大コケ
本作は4000万ドルもの製作費がかけられた大作だったが、全米興行成績は1900万ドルに終わった。
同じくブルース・ウィリス主演作である『ダイ・ハード2』の1億1754万ドル、『ラスト・ボーイスカウト』(1991年)の5950万ドルと比較しても際立って低い数字であり、本作の不調が原因でトライスター・ピクチャーズは財政難に陥り、ソニーピクチャーズに吸収された。
ラジー賞主要3部門受賞
本作はラジー賞で6部門にノミネートされ(作品賞、主演男優賞、監督賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞)、うち作品賞、監督賞、脚本賞を受賞した。
主要3部門を独占したことにより、1991年を代表する駄作という不名誉な称号を得たのだった。
また1999年にはこの10年ワースト作品賞にもノミネートされている(受賞は『ショーガール』)
感想
スベり倒すとはこのこと
本作の劇場公開は私が小学生の頃で、子供の目にもかなり宣伝をやってるなぁと印象に残るほど大きく公開された。字幕を読める年齢ではなかったので映画館には行かなかったが。
数年後、ゴールデン洋画劇場での放送で初鑑賞したのだが、あまりにつまらなくて驚いた。
つまらなさ過ぎてその後に本作を見返すことはなかったのだが、この度、午後のロードショーで放送されたので有難く拝見した。
先日の『ゴールデン・チャイルド』(1986年)と言い、記憶に残る駄作を当時の吹き替えで鑑賞する機会を作ってくれるので、午後ローには感謝してもしきれない。私にとっては親戚のお兄ちゃんのような放送枠である。
で、再見しての感想だが、概ね初鑑賞時と変わるところはなかった。
レオナルド・ダ・ヴィンチが登場する冒頭に始まり、マフィアだのCIAだのバチカンだのが絡むスケールの大きな物語で、笑いありスリルありの一大娯楽を目指していたことが分かるのだが、まったくもってワクワク感がない。
ブルース扮するハドソン・ホークは10年の服役を終えたばかりの元大泥棒で、出所早々マフィアに絡まれて美術館に盗みに入らざるを得なくなる。
いつものブルース・ウィリスと違うのは腕っぷしにモノを言わせたり人を殺したりしないことで、屋上からこっそり侵入し、防犯カメラの映像をループさせるという小技を使ったりする。
防犯カメラにダミー映像を流すというトリックは、その後『スピード』(1994年)や『ミッション:インポッシブル3』(2006年)などでアクション映画の定番となるのだが、始めてこれをやったのは本作だったと思う。
そういった点では本作にも良いところはあるのだが、見せ方の問題かその新しさや発想力に感心させられないのが逆に凄い。
時間内に作業を完了させなければならないハドソン・ホークと相棒のトミー(ダニー・アイエロ)は、歌を歌ってタイミングを合わせたりする。
それが「どうです、おしゃれでしょ!」って感じで強調しすぎて逆に粋を感じない。こういう仕掛けはさりげなく見せないと。
その他、ハドソン・ホークが大好物のカプチーノにありつこうとするとことごとく邪魔が入るとか、お勤め中に流行したファミコンのことを知らないとか、カートゥーンの効果音が使われているとか、観客を楽しませたいんだなという仕掛けはいくつも目に付くのだが、それらすべてがうまく機能していない。
これほどスベリ倒している映画にはめったにお目にかかれないし、あまりにスベリ過ぎていて、笑っていない私が何か悪いことをしているような気分にすらなってくる。
観客にここまで気を遣わせる映画というのもなかなかないだろう。
置きに行ってるブルース
もう一つ問題を感じたのが、コミカルなパートはことごとく周囲の脇役に振っており、ブルース自身は恥ずかしい演技をしていないことである。
『キング・オブ・コメディ』(1983年)のストーカー役が強烈だったサンドラ・バーンハードは、本作でもかなり極端な悪役を演じているのだが、あまりに振り切れすぎてラジー賞助演女優賞にノミネートされた。
またヒロイン役のアンディ・マクダウェルはラリってイルカの物真似までを披露するのだが、正統派で頑張ってきた彼女にここまでやらせてスベらせるというのも酷い。
アンディ・マクダウェルは脚本が刻一刻と書き換えられていく製作現場を目の当たりにして、台詞をきっちり頭に入れていくことよりも、その場で何を言われても対応できることを意識していたのだとか。
こんなに頑張ってくれた女優さんをスベらせてはいけないと思うし、ブルース・ウィリス肝入りの企画ながらブルース自身は置きに行っているのはどうかと思った。座長が先陣切ってやらないでどうするんだと。