【良作】ザ・シークレット・サービス_悪役造形が素晴らしい(ネタバレあり・感想・解説)

サスペンス

(1993年 アメリカ)
現在の目で見るとかなりユルめのサスペンスドラマなのですが、暗殺犯リアリーの人物像が素晴らしいうえに、これを演じるジョン・マルコヴィッチのねちっこさもよい具合に役柄と馴染んでおり、この悪役の存在によって見られる映画になっています。

あらすじ

シークレット・サービスに勤めるフランク・ホリガン捜査官(クリント・イーストウッド)は、ケネディ暗殺を防げなかったという過去を持っている。そんなフランクが通報を受けてあるアパートを調べたところ、室内は大統領暗殺計画を匂わせるもので溢れていた。大統領暗殺計画の通報は年間1000件を越えるのだが、フランクはこの男が本物であると確信。暗殺計画を防ぐため大統領警護の現場復帰を志願する。

スタッフ・キャスト

監督は『U・ボート』(1981年)のウォルフガング・ペーターゼン

1941年ドイツ出身。70年代より西ドイツのテレビ映画を手掛けるようになり、テレビ時代の上司からの誘いで監督した『U・ボート』(1981年)が非英語圏作品ながら監督賞を含むアカデミー賞6部門でノミネートされる高評価を獲得。

続いて製作費2700万ドルの大作『ネバー・エンディング・ストーリー』(1984年)を監督。これは巨大マーケットを持つハリウッドと、国策として映画を製作していたソ連以外の国の映画としては史上最大規模という勝負作だったのですが、全世界で1億ドルを稼ぐ大ヒットとなり、ペーターゼンはこの博打に勝ったのでした。

前任者の解雇により監督に就任したSFドラマ『第5惑星』(1985年)でハリウッド進出。前任者のフィルムを一切引き継がず、セットも新造するというこだわりで製作したのですが、これが製作費4000万ドルに対して1200万ドルしか稼げなかったことから、ペーターゼンは芸術家としてのこだわりを捨てるようになりました。

以降は本作『ザ・シークレット・サービス』(1993年)、『アウトブレイク』(1995年)、『エアフォース・ワン』(1997年)、『パーフェクト・ストーム』(2000年)、『トロイ』(2004年)と、この監督ならではという意匠の特にない娯楽作を連発するようになり、そのクセのない作風からハリウッドを代表する職人監督となりました。

主演はクリント・イーストウッド

1930年生まれ。学生時代には運動能力と音楽の才能を評価されていた一方で、学業の方は全然ダメだったらしく、高校を卒業できたのかどうかは定かではありません(伝記作家が調査したものの、守秘義務の壁に阻まれて解明できなかったようです)。

1949年から工場勤めを開始し、1951年より2年間の兵役を務めました。『グラン・トリノ』(2008年)、『運び屋』(2018年)などで朝鮮戦争に従軍した老人役を演じるのは彼自身のこの履歴によるものですが、彼の勤務地はカリフォルニア州のフォート・オード基地であり、戦場に出たことはありません。

1958年からスタートしたテレビドラマ『ローハイド』の主演で人気を博し、1964年には当時ほぼ無名だったイタリアの映画監督セルジオ・レオーネからの依頼を受け出演した『荒野の用心棒』が大ヒット。続く『夕陽のガンマン』(1965年)、『続・夕陽のガンマン』(1966年)も世界的にヒットし、イーストウッドは俳優としての地位と豊富な資金を得ました。

そこで設立したのが自身の製作会社・マルパソ・プロダクションであり、2020年現在に至るまでイーストウッドはこのプロダクションを活動拠点としています。

監督業でも成功を収めており、『許されざる者』(1992年)と『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)で再びアカデミー作品賞と監督賞を受賞。同作では74歳という史上最年長受賞の記録も出しました。その他、『ミスティック・リバー』(2003年)、『硫黄島からの手紙』(2006年)、『アメリカン・スナイパー』(2014年)の3作品で作品賞・監督賞にノミネートされています。

共演はジョン・マルコヴィッチ

1953年イリノイ州出身。イリノイ大学で演劇を専攻し、1976年に友人のゲイリー・シニーズと共に劇団を立ち上げ。舞台俳優としてオビー賞など数々の賞を受賞し、ローランド・ジョフィ監督の『キリング・フィールド』(1984年)で映画デビューを果たしました。

スティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(1987年)やベルナルド・ベルトルッチ監督の『シェルタリング・スカイ』(1990年)などで高い評価を獲得し、本作『ザ・シークレット・サービス』(1993年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされました。

リベラルの多い演劇界では珍しく保守的な政治思想の持ち主であり、それがイーストウッドとの接点になったのか、後にイーストウッド監督作の『チェンジリング』(2008年)にも出演しています。

作品解説

全米年間興行成績第7位の大ヒット作

本作は1993年7月9日に公開されたのですが、トム・クルーズ監督の『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年)とスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(1993年)という2本のメガヒット作に阻まれて初登場3位でした。

一度も全米1位は獲っていないのですが、根強い人気で10週にわたってトップ10に留まり続け、全米トータルグロスは1億231万ドル。全米年間興行成績第7位という大ヒットになりました。

世界マーケットでも同じく好調であり、全世界トータルグロスは1億7699万ドルに達しました。製作費が4000万ドルだったことを考えると、かなりの利益をもたらした作品だったと考えられます。

アカデミー賞3部門ノミネート

また本作は批評家からも高く評価され、娯楽アクションとしては例外的にアカデミー賞で3部門(助演男優賞、編集賞、脚本賞)にノミネートされました。

登場人物

シークレット・サービス

  • フランク・ホリガン(クリント・イーストウッド):シークレット・サービス所属のエージェントで、かつてケネディ暗殺を防げなかったという過去を持つ。現在は大統領警護から外れて偽札捜査を担当している。
  • リリー・レインズ(レネ・ルッソ):シークレット・サービス所属で大統領警護を担当している。女性の社会進出を茶化すフランクとは最初のうちは対立したが、その後打ち解けて共に大統領暗殺阻止に奔走する。
  • アル・ダンドゥレア(ディラン・マクダーモット):シークレット・サービスの新米エージェントで、フランクと共に偽札捜査を担当している。職務に対するストレスを抱えている。
  • ビル・ワッツ(ゲイリー・コール):大統領警護チームのリーダー。自信家でフランクからの忠告にも耳を貸さない。

その他

  • ミッチ・リアリー(ジョン・マルコヴィッチ):元CIA工作員だが、冷戦終結とともに過去の遺物となり、口封じのための殺し屋を送り込まれたことから地下に潜った。その後行方不明になっていたが、大統領暗殺に向けて再度動き出した。
  • ハリー・サージェント(フレット・ダルトン・トンプソン):大統領首席補佐官。選挙キャンペーンを重視しており、大統領の動きを制限しようとするフランクを好ましく思っていない。

感想

緩慢なサスペンスドラマ

主人公は、かつてケネディ大統領暗殺を防げなかったシークレット・サービスの古株フランク(クリント・イーストウッド)。

フランクはケネディ暗殺がきっかけで酒に溺れて妻と離婚し、以降は再婚もせず孤独な人生を送ってきました。ずいぶん昔に出世コースからも外れたようで、還暦目前の今でも現場仕事をしており、年下の上司達からは煙たがられる存在となっています。

加えてリリー(レネ・ルッソ)やアル(ディラン・マクダーモット)といった若い世代から引かれるような言動を繰り返し、頭の固い頑固おやじぶりも披露。ケネディ暗殺時点から時が止まったような存在なのです。

そんなフランクが新たな大統領暗殺計画を防ぐために奔走することが作品の骨子なのですが、この手の内容ならばロートルならではの強みを生かした捜査で若い連中を出し抜いて欲しいところ、そうした方向性がさほど模索されていません。

体力の衰えで容疑者追跡に失敗したり、風邪による発熱のために現場で重大な判断ミスを犯したりとカッコ悪い部分ばかりが目立っているのです。

結局、フランクが捜査らしい捜査で実績を上げることはなく、フランクに対して勝手にシンパシーを感じて接触を図ってくるというある意味で親切な犯人のおかげで、何となくフランクの手柄になったような、そんな一件でした。

ケネディ暗殺を防げなかった男という前提がこれほどまでに機能していないことにはかなりガッカリさせられました。

壊れたCIAエージェントが良い味を出している

そんなわけでイーストウッド主演作としての出来は芳しくないのですが、対する大統領暗殺犯のキャラ造形と、これを演じるジョン・マルコヴィッチが非常に良かったので、作品としては帳尻が合っています。

90年代前半といえば『沈黙の戦艦』(1992年)や『007/ゴールデンアイ』(1995年)など、東西冷戦の終結により行き場を失い野良化した元エージェントがテロリストに転じる映画が多く製作されました。本作もそのうちの一作。

ミッチ・リアリー(ジョン・マルコヴィッチ)はCIAの汚れ仕事を担当してきた工作員であり、優秀なので冷戦時代には重宝されていたようなのですが、冷戦終結と共に不要な人材となり、不都合なことをいっぱい知っているのでCIAにより抹殺されかけました。

そこからリアリーは国家を憎み、大統領暗殺を計画するのですが、その段取りをしている最中にフランクの存在を知り、自分と同じく過去の遺物であるフランクへの愛着を勝手に抱き始めます。

全体をあらためて振り返ると、当初よりリアリーが大統領暗殺を本気で実行するつもりがあったのかどうかは怪しく感じられてきます。精神がぶっ壊れた彼のことなので大統領暗殺を夢想することこそあったにせよ、本当に動く気はなかったのではなかろうかと。

しかしフランクという人物を知り、国家の現代史に人生を翻弄された同類としてシンパシーを感じた。そしてフランクとの接点を持ちたくて大統領暗殺計画を動かし始めたのではないか。この映画にはそういう見方も出来てきます。

夜な夜なフランクに電話を掛けたり、フランクの目の前に姿を現したり、ビルから落下しようとするフランクを助けたりと、大統領暗殺を本気で成功させたいのであれば決してそんな選択はしないということを繰り返すのは、彼の関心は大統領暗殺ではなくフランクにあったことの証左となります。

この捻じれたリアリーというキャラクターを、演技派ジョン・マルコヴィッチがねっとりとした演技で具体化しています。

高い知能と壊れた精神を併せ持ち、大統領暗殺という大胆な計画を注意深く進めていくという矛盾した個性を、マルコヴィッチは余すところなく表現。本作でマルコヴィッチはアカデミー助演男優賞にノミネートされましたが(受賞は『逃亡者』のトミー・リー・ジョーンズ)、その評価も納得の演技を見せています。

この映画の魅力の大半はリアリーにあるといえます。

ウォルフガング・ペーターゼンの手堅い演出

本作を監督したのはウォルフガング・ペーターゼン。『U・ボート』(1981年)で出てきた時には重厚な演出を見せていたのですが、ハリウッド進出作『第5惑星』(1985年)がコケたあたりから彼の中での何かが壊れ、以降はどんな題材でも無難に仕上げるハリウッド有数の職人監督となっていました。

本作でも、良くも悪くも職人監督ぶりを披露しています。

前述したとおり、フランクの物語は彼のトラウマにそれほど突っ込んでおらず、設定の表面を撫でているだけなので面白くなってはいませんでした。

前半部分の捜査はダラダラとしていて山場がないうえに、イーストウッドとレネ・ルッソのロマンスという誰も望んでいない要素までを盛り込んでおり、まったくもって切れ味の悪いサスペンスドラマになっています。

しかし今日ここで暗殺が行われるということに気づいてからのクライマックスに向けての盛り上がりは尋常なものではなく、娯楽を知り尽くしたペーターゼンならではの手腕が炸裂しています。

地味な絵面が続いた本作において、パトカーの車列やホテルの巨大な会場など、ここで一気にスペクタクルを全開にし、見せる演出を行ったことはお見事としか言いようがありませんでした。