【凡作】ジェイソン・ボーン_よせばいいのに(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(2016年 アメリカ)
アクションもドラマも後退した二番煎じ。話のスケールは大きいのにドラマはこじんまりとしているし、アクションが大掛かりになったことでむしろスリルは減退している。オリジナルメンバーが揃ってこれでは、ジェイソン・ボーンシリーズにはもう何も残っていないんでしょうな。

作品解説

作らないと言ったり、作ると言ったり

『ボーン・アルティメイタム』公開前の時点から、マット・デイモンは更なる続編に興味がない旨の発言をしていた。

しかし2007年8月に公開された『アルティメイタム』がシリーズの興行記録を塗り替える大ヒットになった上に、アカデミー賞で3部門を受賞する高評価となったことから、ユニバーサルは黙っていなかった。

『アルティメイタム』の功労者である脚本家ジョージ・ノルフィに引き続き脚本を書かせるという算段であり、ポール・グリーングラス監督、マット・デイモンも関与する予定だった。

ところが、2008年12月にグリーングラスは4作目を監督しないことを発表した。グリーングラスの手腕に絶対の信頼を置くデイモンも、その判断に追従した。

ただ、ユニバーサルとしては新作を作らないとオプション切れとなることから、シリーズのもう一人の功労者である脚本家トニー・ギルロイに新たなプロジェクトを任せた。

ギルロイはジェイソン・ボーンが登場しない新章『ボーン・レガシー』(2012年)をジェレミー・レナー主演で製作したが、批評家からも観客からも支持されず、やはりオリジナルの監督と主演が必要であるということになった。

2014年9月、ユニバーサルはポール・グリーングラスとマット・デイモンの復帰を正式に発表。

グリーングラスは監督のみならず脚本も手掛け、デイモンは主演のみならず製作も手掛けることから、かなりの本気度合いであることが伺えた。

オリジナルメンバーがそこまで本腰を入れるとあらば、彼らは語るに足る物語を発見したのだろうと、全世界のアクションファン達は期待を寄せた。

なお、当初のタイトルは『ボーン・リサージェンス(復活)』だったのだが、同時期にフォックスが『インデペンデンス・デイ リサージェンス』を製作中であることが判明したので、タイトルはシンプルに『ジェイソン・ボーン』に改められた。

シリーズ2番目の興行成績

ファン達の期待を反映してか、興行的には大成功を収めた。

2016年7月29日に全米公開されるや、最初の週末だけで5921万ドルを売りあげた。全米トータルグロスは1億6243万ドルで、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)に次ぐヒットとなった。

国際マーケットではそれ以上に好調で、北米以外の興行成績は『アルティメイタム』を越えてシリーズ最高を記録。

全世界トータルグロスは4億1548万ドルで、純粋なアクション映画としては上々の売上高となった。

感想

ボーンの戦いが大雑把に

『ボーン・スプレマシー』(2004年)の直後から始まるというストーリーの関係上、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)は2004年に起こった出来事という設定だった。

で、本作の設定年代は製作年と同じ2016年であり、ジェイソン・ボーンは12年間、隠遁生活を送っていたということになる。

元CIAの殺し屋という、凄いんだけど実社会でつぶしの効かないキャリアを持つボーンは、『ランボー3』のジョン・ランボーの如く、賭け試合のファイターとして日銭を稼いでいる。

ボーンの顔は老け、頭髪には白いものも混じっているが、筋肉は以前にも増して隆々で、ごついロシア人を一発KOする。

格闘家に転身したことがボーンのファイトスタイルに大きな変化をもたらしており、諜報戦の現場に戻っても、以前のように小技を効かせることはなくなっている。

パンチはシュワルツェネッガーやスタローンのような大振りになっているし、その場にあるものを掴んで凶器に対抗するという見せ場もなくなった。

限りなく『エクスペンダブルズ』に近いファイトスタイルとなっており、これではジェイソン・ステイサムがやったって同じではないかと思ってしまう。

かと思えば、痩せ型のハッカーにノートPCで頭をぶん殴られて窮地に陥ったりもするのだから、随分と隙だらけになったものである。

3部作での見せ場だったボーンの格闘の面白みがなくなっていることが、本作の弱点だった。

またクライマックスには恒例のカーチェイスがあるのだが、今回はマイケル・ベイが撮ったようなド派手なものになっていてコレジャナイ感が漂っている。

この手の見せ場は『ボーン・アイデンティティ』でダグ・リーマンとマット・デイモンが必死に拒否したもののはずだが、デイモンがプロデューサーに就任した途端に、この路線で行くことにしたという天邪鬼ぶりも凄い。

CIAも随分と小粒になりましたな

本作のCIAはエドワード・スノーデン的な情報漏洩に悩まされており、新入職員ヘザー・リー(アリシア・ヴィキャンデル)のチームがWEBを監視している。

その際にCIA元局員ニッキー・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)によるハッキングを確認し、彼女を追うことで芋づる式にジェイソン・ボーンに辿り着くというのが導入部。

ヘザーの上司はCIA長官デューイ(トミー・リー・ジョーンズ)で、いろいろと隠したい事情のあるデューイは、ニッキーとボーンの口封じをすべく、みんなからアセット(作戦員)と呼ばれる男(ヴァンサン・カッセル)を現場に送り込む。

ここに本作の基本的な構図が出来上がるのだが、『ボーン・アルティメイタム』の頃と比較すると、CIAも小粒になったように見受ける。

12年前のCIAは世界中に工作員を配置しており、ボーンの行方を掴めば数十分で刺客を送り込めるほどのネットワークを持っていたが、今や動いているのはアセット一人で、世界中どこでも飛んでも行きまっせ状態。

手ごわい敵という以前に、一人で何でもこなして大変だなという印象である。

またCIA長官も小粒になっている。

スコット・グレンが長官だった頃には部下を自由自在に操っていたのだが、トミー・リー長官は自分で現場の指揮をとり、大事な交渉にも自ら臨む。

トップ自らが動いてえらいなとは思うものの、悪の総本山らしい威圧感はなくなった。

そして、現場にいるアセットにもトミー・リー長官が直接指示を出している。よくよく考えてみれば悪事を働いているのは実質2名だけという貧弱ぶりで、CIAという巨大組織を背負っている者らしさはない。

で、トミー・リー長官の現在の最大の関心事は、プラットフォーマーとの癒着がバレやしないかということである。

CIAはかねてよりディープドリーム社というプラットフォーマーとの協力関係にあり、彼らに便宜を図る見返りに、個人情報の提供を受けていた。

GoogleやMicrosoftのようなプラットフォーマーは膨大な個人情報を持っているが、それを悪用されたらどうするんだという問題は指摘され続けている。そうした現実のトピックを絡めた辺りが、本作の新奇性であると言える。

ではこれが面白かったというと、そういうわけでもない。

本作のテクノロジー描写は『ボーン・アルティメイタム』の頃よりも劣化しており、現代的なテーマに演出が迫れていないという問題が一つ。

加えて、隠ぺいをしたいトミー・リー長官のとる手段が昔ながらの暗殺ばかりで、CIA側の手数が増えていないという問題もある。

ヘザー・リーにしても、せっかく情報担当という12年前にはなかったポジションについているのに、中盤以降は現場に出ていくようになってしまい、結局はいつものCIA局員と変わらなくなる。

中途半端に今風のトピックを絡めただけでは、盛り上がるはずがない。

ボーンとCIAの間の関心のズレ

そして本作の脚本の最大の欠陥だと思うのが、黒幕であるトミー・リー長官と主人公ジェイソン・ボーンとの間に、関心のズレがあるということである。

ニッキーがハッキングしたデータには、アイアンハンド作戦とトレッドストーン作戦の情報が含まれていた。

で、トミー・リー長官が気にしているのは前述の通りプラットフォーマーとの癒着で、それはCIA内ではアイアンハンド作戦と呼ばれている。

一方、ボーンが関心があるのはトレッドストーン作戦の方である。

新情報からボーンの父親も関与していたらしいことが判明し、これまでの認識が一変しかねない状況となったことから、その内容を確認しようとしている。

この通り、敵対関係にあるにもかかわらず両者の対象物は一致していない。

これが本作の話を分かりづらくしている上に、感情的な盛り上がりを阻害する原因ともなっている。

二人でじっくり話してみれば解決できる問題じゃないかとも思えてくるのである。

クライマックスの舞台はラスベガスであり、公の場で事の次第を洗いざらいブチまけようとしているディープドリームの社長を、トミーリー長官は暗殺するつもりである

で、ボーンはその阻止にやってくるのだが、ボーン個人の物語にフォーカスしてみると、彼がこの暗殺を防ぐ理由がない。ボーンにとってはどうでもいいはずのアイアンハンド側の話なのだから。

こうした脚本上の齟齬には如何ともしがたいものがありますな。

ドラマの新機軸が不発 ※ネタバレあり

そして、本作ではこれまでになかったドラマ要素も取り入れられているのだが、これもまたうまくいっていない。

これまでボーンを含む殺し屋達はただの道具で、そこに意思は介在しておらず、よって私怨もないことになっていた。

『ボーン・スプレマシー』でのブライアン・コックスの言葉を拝借するならば、殺し屋とは「錐(きり)の尖った先端部分」である。それは確かに人を傷つけるが、そこに意思があるわけではないし、その者が動かなかったところで、他の殺し屋が代わりをするだけだ。

であるから、ボーンは愛するマリーを殺したキリルにとどめを刺さなかったし、『アルティメイタム』で襲い掛かってくるブラックブライアーの刺客を殺すこともしなかった。

それはボーンに襲い掛かってくる刺客達も同様で、彼らはあたかも武士のような精神性の持ち主であり、立場上、ボーンを殺さねばならないだけで、元仲間に対する敬意はきちんと払っていた。

そこに来て本作のアセットであるが、ボーンに対するハッキリとした殺意を示す。

彼はボーンがブラックブライアー作戦を暴露したことで敵対国に捉えられ、拷問を受けたとのことで、精神面で屈折した上に、ボーンに対する異常な執着を抱いている。

サイコパス気味の殺し屋を登場させるのは、シリーズ初のことである。

そして、ボーンもまた別の理由からアセットへの殺意を抱いている。

実はボーンの父はアセットに暗殺されていた。

生前の父はボーンがCIAに入ることに反対していたのだが、一方当時のボーンは父がテロリストに殺されたとの嘘を吹き込まれたことから、尚のことCIAへの志望を強めたわけで、彼自身の運命をも変えた暗殺だったと言える。

そんなわけで親子二代の恨みを持つボーンは、アセットへの復讐心を抱いている。

ここに私怨vs私怨のバトルが始まるのだが、これまでのシリーズが好きだったものからすると、終始コレジャナイ感が漂っていた。

そういうのはジェイソン・ステイサムか誰かがやればいいのであって、ジェイソン・ボーンがやる必要はないよなと。

二人の対決はラスベガスでのカーチェイスに発展するわけだが、その前段階でアセットの命運はすでに尽きていた。暗殺未遂で面は割れており、放っておいても当局に捕まるであろう状況なのに、それでもボーンは彼を追いかけ始める。

自分の手で仕留めたいという思いからなのだが、多くの車両や建物を巻き込みながら極めて個人的な対決をするわけで、全くはた迷惑な話である。

≪ジェイソン・ボーン シリーズ≫
【良作】ボーン・アイデンティティ_本物らしさの追求
【良作】ボーン・スプレマシー_ハードな弔い合戦
【良作】ボーン・アルティメイタム_ビターなのに爽やか
【凡作】ボーン・レガシー_シリーズで一番つまらない
【凡作】ジェイソン・ボーン_よせばいいのに

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