【凡作】バニシング・レッド_逃げるラングレン(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1993年 アメリカ)
逃亡犯ドルフ・ラングレンがフェラーリで荒野を疾走するという異色アクション。見せ場は頑張っていてなかなか見応えがある一方、劇中のドラマが不完全燃焼を起こしているので、映画としての完成度は低め。

※時間がなかったので、いつもの”ですます調”をやめていて変な感じかもしれませんが、ご了承ください。

作品解説

スタントマン出身ヴィク・アームストロングの監督デビュー作

本作の監督は、これが長編デビュー作となるヴィク・アームストロング。

本業はスタントマンで、若い頃の容姿がハリソン・フォードに似ていたことから『インディ・ジョーンズ』シリーズがその代表作。また『007』シリーズや『スーパーマン』シリーズでも中心的なスタントマンとして関わっており、その筋では超一流の人材として有名。

加えて70年代から第二班監督も務めており、『ターミネーター2』(1991年)のオープニングシークェンスを監督したのも彼。

その他、ポール・バーホーベン監督作や007シリーズや初期MCUなど、第二班監督としては八面六臂の大活躍で、Amazonスタジオが公共事業並みの予算をかけたドラマ『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』(2022年)にも参加している。

そんな映画界の重鎮の長編デビュー作であるが、メイン監督はどうやら合わなかったようで、本作後には第二班監督に戻っている。

『バガー・ヴァンスの伝説』の原作者スティーヴン・プレスフィールドが脚本

本作の脚本を書いたのは作家で歴史研究家のスティーヴン・プレスフィールド。

元は海兵隊員で、除隊後にはコピーライター、教師、トラック運転手、バーテンダーなど職を転々とし、ホームレス生活をしたこともあるという変わり種。

本業は作家で、その代表作は後にロバート・レッドフォードにより映画化される『バガー・ヴァンスの伝説』。また古代の軍事史などの研究家でもあり、テルモピュライの戦いに関する小説は海軍兵学校の教材にもなっているらしい。

そんなわけで人生経験と知性豊かな御仁であるが、80年代から90年代にかけてはハリウッドから脚本のオーダーを受けており、『キングコング2』(1986年)、『刑事ニコ 法の死角』(1988年)、『フリージャック』(1992年)などを担当。

また『トータル・リコール』(1990年)のスクリプトドクターも務めており、その腕前はかなり信頼されていた模様。

アメリカでは劇場公開されなかった

そんなまぁまぁ豪華な布陣で手掛けた本作であるが、当時からドルフ・ラングレンの評価が低かったアメリカでの劇場公開は見送られ、HBOで初公開。

一方、日本を含む海外ではラングレン人気が高かったこともあって劇場公開されるという逆転現象が発生。国際マーケットでの売り上げは良かったようで、ビジネスとしては成功したとのこと。

ただしソフト化面においても本作は不遇を受け、シネマスコープの画角で製作されたにも関わらず、アメリカでは長らくスタンダードサイズのみが流通しており、オリジナルサイズでのリリースが実現するまでに20年もかかった。

それでもディスクが出ているだけ良い方で、日本では劇場公開後のVHSとレーザーディスクのリリースで止まっており、いまだにDVDもBlu-rayも出ていないという、あんまりな扱いを受けている。

今回、我らが午後のロードショー様が放送してくださったおかげで鑑賞することができただけで、一般には見る手段がかなり限られた映画となっている。

感想

昔、日曜洋画劇場でやってましたな

本作をはじめてみたのは日曜洋画劇場で、中学生の頃だった。

ドルフ・ラングレンの地上波放送を見ているのなんてクラスでも私と友人の杉岡くらいだったが、本作の場合は様子が違っていて、結構な数のクラスメイトがこれを見ていて、月曜の学校ではちょっと盛り上がった。

なぜそんなドル高現象が起こったのかというと、ヒロイン役の吹替が当時人気のあった声優 林原めぐみだったから。アニメで活躍する彼女が洋画の吹替をするのは珍しかったのだ。

しかも彼女が吹替をしたクリスチャン・アルフォンソがやたらエロかったので、観るのをやめられなくなったらしい。

みんなドルを見ていたわけでもないということに私と杉岡はちょっとがっかりしたものの、それでもドル主演作について他のクラスメイトと話せるのは楽しかった。

『ロッキー4』のソ連のボクサーだよ」と言って、「え、そうなの?」と隣の席の女子から感心されたことは良い思い出。まさかドルフ・ラングレンの知識が女子との接点になるとは思ってもみず、人生も捨てたものではないと思ったりで。

調子に乗って「『マスターズ 超空の覇者』とか『レッド・スコルピオン』にも出てたでしょ!」と事情を知らない人からすると蛇足でしかない情報を言って、「は?」と引かれもしたが。

そんな青春の映画。

ただし人気作というわけでもないので、その後は再放送の機会にも恵まれず、上述の通りソフト化も進んでいないことから、ほとんど忘れ去られた映画になっていたのだが、今回、テレビ東京さんがやってくれた。

午後ロー枠にて、バッキバキのHD画質での放送。まさかこの埋もれた映画を高画質で見られるとは思わなかったので、冒頭の時点でひっくりこけた。

そして吹替は懐かしの日曜洋画劇場版。

俺らが見たのはこれだったよな、杉岡。

中途半端な愛憎劇

ただし、中学時代から本作を面白いとは感じなかったし、今回再見しても、やはり面白くなかった。

なぜかというと、劇中で繰り広げられる愛憎劇がやたら中途半端だったから。

主人公サンティ(ドルフ・ラングレン)は高級車を狙う車泥棒で、ハイウェイパトロール警官を撃ち殺してしまった件で重罪に問われている。

しかしそこは我らがドルのこと、彼が根っからの悪人というわけではなく、その背後には悪徳警官セヴェランス(ジョージ・シーガル)がいて、彼の指示で動いていた模様。

で、サンティの口封じをしようとするセヴェランスと、人質を取って逃走するサンティというのが本作の基本的な構図なのだが、二人の関係はかなり複雑。というのも、二人は家族同然に親しかったのだ。

彼らが出会ったのはサンティの少年時代で、セヴェランスは刑事として彼を逮捕したのだが、子供のいないセヴェランスはサンティを我が子のように可愛がるようになり、養子にすることも考えていたらしい。

しかしセヴェランスの妻がサンティを誘惑して関係を持ったことから二人の信頼関係は崩壊し、セヴェランスはサンティを激しく憎むようになったとのこと。

そんな愛憎関係に立脚する物語なのだが、サンティ/セヴェランス/セヴェランスの妻の三角関係が作品の構成要素として全く魅力的ではない。というか全然機能していない。

ただしこれは脚本の落ち度というよりも、本来は脚本に詳細なドラマが書き込まれていたのだが、いざ撮影して編集してみると思ったほど面白くはなっておらず、余計なので全部カットしたという事情が推測される。

それほどまでに、やたらネタを振っているのに肝心の中身がないという状態となっており、思ったように形にできなかったという製作場面が透けて見えてくるのである。

同様に、最初は犯人と人質の関係だったサンティとリタが、次第に協力関係に発展していくというドラマもうまく流れていない。

サンティに対して正体を隠しているものの、実はリタは保安官助手。しかもかなり優秀な部類に入るらしい。

戦闘へのたしなみがあり、その気になればいくらでも反撃できるであろうリタが、その時点では凶悪犯として認識されているサンティの言いなりになっていることは不自然だったし、徐々に彼女がサンティに同情するようになっていくという展開もドラマチックではなかった。

この二人のドラマは前年の『ユニバーサル・ソルジャー』(1992年)でのヴァンダムとアリー・ウォーカーのものとほぼ同じなのに、どうしてこちらはうまくいかないんだろうと不思議になった。まぁ、ローランド・エメリッヒがうまかっただけとも考えられるが。

ともかく、ドラマが壊滅的なのは映画としてイタかった。

アクションは派手

一方、アクションはというと、スタントマン出身の監督だけあってかなり気合が入っており、こちらの出来で映画全体はかなり救われていると思う。

何と言ってもハイライトはフェラーリとランボルギーニが荒野を疾走するという前代未聞のカーチェス。

車好きが見るとレプリカであることは丸出しらしいのだが、事情に詳しくない私のような者からすると、カッコいい車の全力疾走にはなかなかグッとくるものがあった。

加えてスーパーカーのスピード演出もうまくこなせており、そんじょそこらのカーチェイスとは違う迫力を出せている。

また派手な銃撃戦がいくつかあるのだが、これらが『ゲッタウェイ』(1972年)や『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(1992年)からのハッキリとした影響下にあるのはご愛敬。

後にヴィク・アームストロングは、本作で見せ場をパクってしまったことをジョン・ウーに直接謝罪したのだが、「私も以前からあなたの映画のアイデアを拝借してますよ」と、実に心温まる回答を受け取ったらしい。

そんな愛に溢れたアクション映画なので、こちらも温かい目で見たくなってしまう。

スポンサーリンク
公認会計士のB級洋画劇場