【良作】キラー・エリート(2011年)_息詰まるプロ同士の攻防戦(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント

(2011年 アメリカ)
殺し屋vs元SASという素敵なカードが実現したアクション映画ではあるのですが、ロバート・デ・ニーロとクライヴ・オーウェンが殺人マシーンを演じたことでドラマ性が発生しているし、ストーリーは国際政治のダーティさを反映した意義深いものとなっています。B級アクションとして括るにはあまりに上出来すぎる映画でした。

あらすじ

1981年、殺し屋のダニー(ジェイソン・ステイサム)は仕事中に嫌気がさしたために足を洗い、故郷に戻って幼馴染のアン(イヴォンヌ・ストラホフスキー)と共に静かな生活を送っていた。そんなある日、同業の友人ハンター(ロバート・デ・ニーロ)がオマーンの族長からの仕事をやり切れずに拘束され、ダニーがハンターの仕事を完遂させるよう迫られた。その仕事とは族長の息子達の死に関わった3名の元SAS隊員の暗殺であり、ハンターを救いたいダニーは渋々引き受けることにした。

しかしSAS側にはこのような報復から元隊員達を守るためのフェザーメンと呼ばれる秘密結社が存在しており、その現場部隊のリーダーであるスパイク(クライヴ・オーウェン)がダニーを待ち構えていた。

スタッフ・キャスト

主演はジェイソン・ステイサム

1967年イングランド出身。水泳の飛び込み選手でイギリス代表チームに所属していたのですが、1992年に引退。

その後ファッションモデルを経てガイ・リッチー監督の『『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998年)の主要登場人物の一人として俳優デビューしました。

『ロック・ストック~』(1998年)や『スナッチ』(2000年)の時点では武闘派に怯える一般人役だったのですが、ジョン・カーペンター監督の『ゴースト・オブ・マーズ』(2001年)、ジェット・リー共演の『ザ・ワン』(2001年)に出演した辺りからアクション俳優としての適性を示すようになり、リュック・ベッソン製作の『トランスポーター』(2002年)でその地位を確立しました。

その結果、『エクスペンダブルズ』シリーズ(2010-2014年)ではアクションスターがひしめき合う中でスタローンに次ぐ二番手を任されるまでになり、アクション映画界の若頭的なポジションをゲット。

アクション映画の新興ブランド『ワイルド・スピード』シリーズには、第6弾『EURO MISSION』(2013年)でのカメオ出演を経て第7弾『SKY MISSION』(2015年)のメインヴィランとして出演。ただしこの一作限りで殺してしまうことは惜しいと考えられたのか、第8弾『ICE BREAK』(2017年)には善玉ポジションで再登場しました。

共演はロバート・デ・ニーロ

1943年NY出身。『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1943年)でアカデミー助演男優賞受賞、『レイジング・ブル』(1980年)で主演男優賞受賞という実績を持つ、当代きっての演技派俳優です。

特にマーティン・スコセッシ監督とのコンビネーションの評価は高く、『タクシードライバー』(1976年)『キング・オブ・コメディ』(1983年)、『グッドフェローズ』(1990年)などの傑作を生みだしています。2012年に発表された『映画史に残る監督と俳優のコラボレーション50組」では第1位に選出されました。

2000年代以降は年間複数本の映画に脇役として出演するフットワークの軽い大御所俳優となり、ジェイソン・ステイサムが出演する本作もそんな中の一本となっています。

敵役はクライヴ・オーウェン

1964年イングランド出身。イギリス王立演劇学校で学び『ブルーム』(1988年)で映画デビューしたのですが、しばらくは大きな役に恵まれませんでした。

『ボーン・アイデンティティ』(2002年)の教授と呼ばれる殺し屋役で注目を集め、ジェリー・ブラッカイマー製作の大作『キング・アーサー』(2004年)で主演、マイク・ニコルズ監督の『クローザー』(2004年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、人気俳優としての地位を確立しました。

恐ろしいほどにどんな役でも演じられる俳優であり、かつ、重厚な史劇(『エリザベス:ゴールデン・エイジ』)から頭空っぽのアクション映画(シューテム・アップ)まであらゆるジャンルに出演するフットワークの軽さが売りになっています。

一流スタッフ集結

  • サイモン・ダガン(撮影):ニュージーランド出身の撮影監督で、主にオーストラリア映画界で活動しています。同じくオーストラリアの監督アレックス・プロヤス監督の『アイ,ロボット』(2004年)からハリウッド大作を手掛けるようになり、『ダイ・ハード4』(2007年)、バズ・ラーマン監督の『華麗なるギャツビー』(2013年)、メル・ギブソン監督の『ハクソー・リッジ』(2016年)などを手掛けています。って、ほとんどがオーストラリア人監督作ですね。
  • ラインホルト・ハイル&ジョニー・クリメック(音楽):ドイツ出身の作曲家コンビで、同じくドイツ出身のトム・ティクヴァ監督作品の常連であり、『ラン・ローラ・ラン』(1998年)、『パフューム ある人殺しの物語』(2006年)、『ザ・バンク 堕ちた巨像』(2009年)、『クラウド・アトラス』(2012年)などを手掛けています。
  • ジョン・ギルバート(編集):ニュージーランドの編集技師であり、同じくニュージーランド出身のピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)でアカデミー編集賞にノミネートされ、メル・ギブソン監督の『ハクソー・リッジ』(2016年)で受賞しました。
  • ミシェル・マクガヒー(プロダクションデザイン):90年代よりアートディレクターとして活動しており、カルト的な人気を誇るSF『ダークシティ』(1998年)や大ヒット作『マトリックス』(1999年)が代表作。他に『ミッション:インポッシブル2』(2000年)『アクアマン』(2018年)なども手掛けており、最新作はモンスターユニバース『ゴジラvsコング』(2021年)。

作品解説

「実話に基づく」とは言うものの…

本作は1972年にオマーンで起こったミルバトの戦いを背景として、それに関わったSAS(英国特殊空挺部隊)の元隊員が次々暗殺されるという物語であり、映画の冒頭に「Based on True Story(実話に基づく)」のテロップが表示されます。

原作小説『The Feather Men』(1991年)を執筆した元SAS隊員で探検家のラナルフ・ファインズ卿がこの物語を事実であると主張しており、映画終盤でジェイソン・ステイサムに殺されかける元SASの作家はファインズ卿自身がモデルになっているとのことなのですが、それを事実だと裏付ける客観的な根拠はどこにもありません。

よって話半分どころか十分の一くらいで見るのが、本作を見るうえでの正しい姿勢のようです。

興行的には苦戦した

本作は2011年9月23日に全米公開されましたが、同じくエージェントものであるジョン・シングルトン監督の『ミッシングID』(2011年)にすら敗れて初登場5位と低迷しました。

その後も持ち直すことはなく公開3週目にしてトップ10圏外へとフェードアウトし、全米トータルグロスは2512万ドルにとどまりました。

世界マーケットでも同じく不調であり、全世界トータルグロスは5708万ドルで7000万ドルの製作費すら回収できませんでした。

登場人物

殺し屋

  • ダニー・ブライス(ジェイソン・ステイサム):元は腕利きの殺し屋だったが、子供の目の前でターゲットを暗殺したことで仕事に嫌気がさし引退した。その後は故郷に帰って隠居生活を送っていたが、友人であるハンターの命と引き換えに元SAS隊員暗殺という困難なミッションを引き受けざるを得なくなる。
  • ハンター(ロバート・デ・ニーロ):ダニーの同業者であり友人でもある。高額報酬と引き換えにオマーン族長から元SAS隊員暗殺依頼を引き受けるが、仕事を果たすことができず逃げようとしたところを捕まり監禁された。
  • デイヴィス(ドミニク・パーセル):ダニーの元仕事仲間であり、今回のSAS隊員暗殺ミッションに加わる。現地調査を担当しており、ターゲットのコミュニティに入り込んでその行動や人間関係などを探り出す。
  • マイアー(エイデン・ヤング):ダニーの元仕事仲間であり、今回のSAS隊員暗殺ミッションに加わる。現地での資材調達を担当しており、武器や車両の他、必要に応じて人材の都合もつける。

その他

  • スパイク・ローガン(クライヴ・オーウェン):元SAS隊員で、現在は元SAS隊員を報復から守るために結成された秘密結社フェザーメンで現場指揮を執っている。ダニー達の動きに気付き、臨戦態勢を取る。
  • アン・フレイザー(イヴォンヌ・ストラホフスキー):ダニーの幼馴染であり、故郷に戻って隠居生活を送るダニーの恋人となる。仕事のために長期不在となるダニーに対して、他に女がいるのではないかとの疑念を抱く。
  • 代理人(アドウェール・アキノエ=アグバエ):殺し屋に対して依頼を斡旋しており、ミッション遂行中における依頼人とのコミュニケーションも基本的には彼を通して行われる。

感想

緊張感みなぎるアクション大作

舞台は1981年。国家間のイデオロギー対立を背景として非公式な軍事衝突や暗殺が横行していたバイオレントな時代だったとテロップで説明されます。

そんな時代に殺し屋家業を行っているダニー(ジェイソン・ステイサム)とハンター(ロバート・デ・ニーロ)の活躍が冒頭で描かれるのですが、このイントロが非常に秀逸で一気に引き込まれました。

爆破と銃撃戦が繰り広げられるド派手な見せ場ではあるのですが、決して大味ではなく、ちょっとでも気を抜くと弾が当たりそうな緊張感が漂っています。

加えて、ダニーが引退を決意する場面にあって「殺しは嫌だなぁ」と観客にも感じさせるような生々しさもあって、実にバランスの良い見せ場となっています。

本編に入っても見せ場は基本的にこの路線で、ステイサムが派手な大立ち回りなどを演じるもののやりすぎになる一歩手前で踏みとどまっており、ピリッとした緊張感が漂っています。

サスペンスを毀損しない程度にチューニングされたアクション。この匙加減が実に丁度良くて作品内容に合っていました。

殺し屋ダニーのプロフェッショナリズム

冒頭のミッションで殺しに嫌気がさして隠居生活を送っていたダニーの元に、オマーンの族長より3名の元SAS隊員の暗殺依頼が舞い込みます。

その3名とはかつてミルバトの戦い(1972年)に従軍した族長の息子たちの死に関わった隊員達であり、族長は唯一生き残った末っ子の安全を考慮し、これまでの9年間は復讐などしてきませんでした。

そんな族長も老い先短くなってきており、そろそろ末っ子に部族を引き継がせなければならない。しかし復讐こそが部族の掟てであり、兄たちの仇をとらせなければ末っ子が族長として認められないという状況になったので、ダニーが呼ばれたというわけです。

そんな感じなので、このミッションには大義がありません。

個人的な意思ではなく軍の命令に基づき一兵卒として働いたSAS隊員を復讐の対象とすることがまず倫理的に間違っているし、復讐の動機は部族内での政治的駆け引きに根差すもので、かなり不純です。しかも肝心の末っ子は族長の座を望んでおらず、内心では「こんなことやらなくてもいいのに」くらいに思っています。

ターゲットとして名指しされた3名の元SAS隊員は一体何のために殺されるんだろうか。そんなことに思いを馳せてしまうようなミッションであり、ダニーも心情的にはこれに反発しています。

しかし友人のハンターを人質に取られており、やらなければ彼を殺すという脅しも受けている。するとダニーは見ず知らずの気の毒な元SAS隊員よりも生涯の友人であるハンターの命を選び、仕方なくミッションを引き受けることにします。

そこからダニーはミッション遂行に向けて動き出すのですが、気乗りしなくてもやると決まれば成功に対して徹底的にこだわるという辺りにダニーのプロフェッショナリズムが宿っていました。こういう職人的な犯罪者を描いた作品は実に気持ちの良いものです。

また個人的信条に反していても引き受けざるを得ない仕事もあるという点にも、プロフェッショナリズムを感じました。時として仕事とはそういうものです。

カタギになれない戦闘マシーン・スパイク

そんなわけでダニーは望まない殺しをさせられる殺し屋なのですが、一方彼を迎え撃つスパイク(クライヴ・オーウェン)には、カタギになれず闘争を望み続けている戦闘マシーンという正反対の性格付けがなされています。

スパイクは元SAS隊員であり、現在はSAS出身者達を報復から守るための秘密結社フェザーメンに所属しています。フェザーメンは暴力を伴った組織ではあるのですが非公式な存在なので、表向きスパイクは非戦闘員ということになります。

しかしスパイクはカタギの生活に馴染めていない様子であり、安アパートにパートナーと共に暮らしているものの日常生活に対して関心を持てず、リビングの真ん中に設置した仲間との通信用の無線機に四六時中噛り付いています。

パートナーから「あんたいつまでやってんの」と言われても、「うるさい!今大事なとこなんだよ!」と返すような有様。

いまだに昔の部下達の前で上官ぶったり、隊員達の溜まり場に顔を出したりと暴走族OBみたいな行動をとっており、エリート軍人として持て囃されていたSAS時代を忘れられない人なんだということが伝わってきます。

そんな感じなので、元SAS隊員を狙った殺し屋が活動中という知らせを受けると俄然張り切り始めます。

しかし周囲は彼ほど熱くはなくて、フェザーメンの重鎮たちからは国内法無視で動いている一部メンバーが行政から問題視され始めているので、動くのをやめて欲しいとまで言われています。

しかしスパイクはやめません。仲間を守るという大義名分がある以上、正義は我にあるのだから存分に戦うべきという心境なのです。

ここに「引退を望む殺し屋vs暴力衝動を抑えきれない元SAS隊員」という熱いカードが成立するのですが、通常であれば逡巡する殺し屋役にクライヴ・オーウェン、闘志に燃える元SAS隊員にジェイソン・ステイサムとするであろうところを、あえて逆のキャスティングにしているところがミソ。

ともすれば単細胞な戦闘マシーンに見られかねないスパイクが、クライヴ・オーウェンの上質な演技によって深みのあるキャラクターになっています。

ヘマをやらかす部下までが魅力的

そんなこんなで殺し屋vs元SASの死闘が開始されるのですが、ダニーの部下2名があまり優秀ではないので殺しは首尾良く進んでいきません。私は、無能なキャラクターが事態を悪化させる映画が苦手なのですが、不思議と本作には嫌な思いがしませんでした。

それはなぜかと考えると、そこに極限のリアリティを感じたからだろうと思います。

暗殺とは定常的な業務ではなくプロジェクト的な業務であり、各人のスキルとスケジュールの空き具合を加味してメンバーをアサインしていく進め方になるのでしょうが、クライアントの定める納期に対してベストメンバーのスケジュールが空いている保証がありません。

かといって欠員補充のためにアルバイト募集みたいな貼り紙をするわけにもいかないし、いつ何時裏切られるかも分からない世界なので信頼性は必須となってくる。そうなると人材に対しては「及第点を越えていれば良しとする」くらいの基準でなければ動けないのかもしれない。

本作を見ているとそんな風に感じてきました。

そして、そんな視点で本編を見ているとデイヴィス(ドミニク・パーセル)とマイアー(エイデン・ヤング)にも魅力が感じられてきます。

殺しの腕前は一流だが、常に殺気放ちまくりで潜入や調達ができないダニーに代わって、彼らはダニーが動くまでのお膳立てをしています。脇の甘さや現場対応力の低さは仕方ないのです。それを担当しているのはダニーなんだから。

ただしデイヴィスもマイアーも自分の専門領域では堅実な仕事をしており、納期に間に合わないということは起こしていません。またスパイクに勘づかれたことで急にプラン変更が生じても柔軟に対応しており、彼らはよくやっています。

仕事というのはチームワークなんだなぁ。そんなことを思い出させる含蓄が本作にはありました。

国際政治に正義はない ※ネタバレ

ダニーとの激しい抗争の後、スパイクは死亡した部下達の報復としてオマーンの族長を暗殺に向かうのですが、そこで思いもよらぬ黒幕の存在が明らかになります。

本件を仕組んでいたのは英国政府であり、族長の末っ子を権力者の座に就かせることで石油利権を得ようとしていたのでした。

今の今まで英国のために尽くした元兵士達を守ってきたのに、その英国政府が間接的に彼らの暗殺に手を下していたという事実を知り、複雑な国際政治において正義はないことを思い知るスパイク。

正義がなくなれば、後に残るのは損得勘定のみ。スパイクは、ダニーが受け取るはずだった暗殺の報酬を持ち逃げします。恐らくスパイクはダニーやハンターと同じくフリーランスの殺し屋になるのでしょう。

好敵手だったダニーもスパイクも死亡しない結末はハッピーエンドとも言えるのですが、その先にあるのは大義のない殺しの世界であるというバッドエンディングでもあり、ジェイソン・ステイサム主演の映画らしからぬ深い余韻をもって映画は終了します。

この終わり方も素晴らしかったと思います。大満足のアクション映画でした。