【良作】ラストマン・スタンディング_ブルースのユンファ化(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1996年 アメリカ)
世界的不人気作のようですが、私は好きなんですよね。40年代フィルムノワールをカラッとした砂漠で蘇らせた新しさや、ハードボイルドなブルース・ウィリス、そして二丁拳銃のガンファイトと、見所の多い作品となっています。

作品解説

『用心棒』の正式リメイク

黒澤明監督の時代劇『用心棒』(1961年)は世界的な人気を博し、セルジオ・レオーネ監督のウエスタン『荒野の用心棒』(1964年)などに影響を与えました。

『荒野の~』は非公式リメイクであり、後に東宝から裁判を起こされて敗訴しているのですが、一方で本作『ラストマン・スタンディング』は本家からの許諾を得た正式リメイクとなります。

『用心棒』のハリウッドリメイクを思い立ったのは、『ラッシュアワー』シリーズのプロデューサー アーサー・サーキシアンで、当初より彼はバイオレンス映画の雄ウォルター・ヒルに監督依頼をしていました。

しかしヒルは、黒澤映画のリメイクなんて狂気の沙汰であるとしてこの依頼を断り続けていたのですが、黒澤氏本人がアメリカでのリメイクを支持しているとの情報があったことから、1994年に監督契約にサインしました。

ヒルは1940年代のフィルムノワールの手法を用いて1930年代を舞台にしたギャング映画を作るというアプローチを思いついたのですが、そもそも『用心棒』はダシール・ハメットの犯罪小説『血の収穫』(1929年)の翻案であり、日本、イタリアと世界を一周回って原点に戻って来たとも言えます。

他にコーエン兄弟の『ミラーズ・クロッシング』(1990年)も、『血の収穫』からの影響を受けた作品だとされています。

興行面では大コケした

本作は1996年9月20日に公開され、初登場2位でした。ただし1位のコメディ『ファースト・ワイフ・クラブ』(1996年)の半分以下の売上高であり、金額的には今一つでした。

その後も順調にランクを落としていき、4週目にしてトップ10圏外へ。全米トータルグロスは1811万ドルという大コケでした。

国際マーケットでも同じく不調であり、全世界トータルグロスは4726万ドル。6700万ドルの製作費すらカバーできませんでした。

感想

ブルースの2丁拳銃

本作の見どころは何と言ってもブルース・ウィリスが披露する2丁拳銃で、そのド派手さに堪らないものがあります。

何せ、ブルースに撃たれた奴はガラスを突き破って吹っ飛んでいくのです。このやり過ぎ感が最高でしたね。

相手が大人数であっても、2丁拳銃の凄まじい連射であっという間に片づけてしまうブルース。どうですか、ハッタリは。

本作のガンアクションはジョン・ウーとチョウ・ユンファが発明したスタイルを継承しているのですが、それをウエスタンの世界で馴染む形にチューニングしている辺りがウォルター・ヒルの妙技ですね。

ウーのような派手な舞踏や豪快な火花とセットではなく、まっすぐに伸ばした腕から一定のリズムで銃弾を撃ち込むというスタイルにすることで、何となく説得力のある形にまとめています。

また銃の扱いのうまいブルース・ウィリスの所作もあって、無茶苦茶ではあるんだが、まぁそれらしくは見えるのだから大したものです。

マフィアを手玉に取るブルース

1932年。何かしらやらかしてメキシコに逃亡中の男(ブルース・ウィリス)が、砂漠のど真ん中の小さな街ジェリコに食事と給油のために訪れたところ、アイルランド系マフィアに絡まれて車を壊されます。

思いがけず足止めを喰らった男がこの街の状況を調べてみたところ、アイルランド系とイタリア系の二つの組織が敵対していることが分かります。

で、男はジョン・スミスというバレバレの偽名を名乗り、二つのマフィアをうまく利用して金を稼ごうとするのが本作のあらすじ。

秀逸だと思ったのがジェリコという街の設定で、禁酒法下におけるメキシコからのアルコールの密輸拠点なので、小さな街なのに2つのギャングがいるという合理的な説明となっています。

さらに、ギャングが滅茶苦茶やってるのでほとんどの住人は逃げ出し、残っているのはバー、売春宿、葬儀屋といった、マフィアとの関連のある事業者のみ。一般人のいない街なので、主人公が好き勝手暴れても二次的被害が発生する心配はないわけです。

そして、この街で大物面しているのはシカゴなどでは二流以下の人材なので、大都会で戦ってきた主人公からすればチョロい相手。

知略を張り巡らせるというよりも口先三寸で馬鹿を騙すって感じなのですが、小遣い稼ぎ感覚で田舎者ヤクザを手玉に取る主人公の活躍は痛快だったし、ブルース・ウィリスの飄々とした個性とも一致していました。

「あいつら、あんなこと言ってやがるぜ」とか「俺が行ってきてやるぜ」とか言いながら、二つの組織の喧嘩をけしかけるブルースの姿が私にはツボでした。

スタローンだとこんなに滑らかにはいかないし、メルギブだとコミカルになり過ぎる。ブルースだからこそ、程ほどにハードボイルドな雰囲気を残しつつ、相手を煙に巻くような主人公像をモノにできたわけです。

哀れな女への同情で窮地に陥る

二つの組織から金を引っ張れるだけ引っ張って、バレそうになったらとんずらしようというのが主人公のマスタープランでした。

しかし両組織に囲われている哀れな女達に同情してしまって、何とかしてあげようと思ったことから予定が狂うというのが後半の展開です。

女がきっかけでクールな男に隙が出来てしまうというのが、フィルムノワールっぽくて良かったですね。

また女に弱そうなブルースの個性も生きており、彼が窮地に陥っても、必要以上に馬鹿っぽく見えていません。こちらもお見事でした。

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