【良作】ロックアップ_スタ版ショーシャンクの空に(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(1989年 アメリカ)
興行的に低迷した作品ではあるのですが、地味ながらも堅実な作風でスタローン関連作中でも上位に入る作品です。男のドラマや痛みを伴うバイオレンスを余すことなく描いたジョン・フリン監督と、ガサツなようでいて実は論理的な物語を構築した脚本家のジェブ・スチュワートの手腕が光っています。

あらすじ

フランク・レオン(シルヴェスター・スタローン)は出所を心待ちにする模範囚だが、残りの刑期が半年になったところで、突如待遇の悪いゲートウェイ刑務所へと移送される。その移送はゲートウェイ刑務所のドラムグール所長(ドナルド・サザーランド)の根回しによるものであり、フランクによる告発で左遷された過去を持つドラムグールは、配下の看守や囚人たちを使ってフランクに復讐しようとしていた。

スタッフ・キャスト

製作は『コマンドー』のローレンス・ゴードン

ウォルター・ヒル監督作品のプロデューサーとして有名で、『ウォリアーズ』(1982年)や『48時間』(1982年)を手掛けています。本作の悪役チンクを演じたソニー・ランダムとはウィルター・ヒル繋がりでしょうね。

本作の監督ジョン・フリンの代表作『ローリング・サンダー』(1977年)の制作も手掛けています。

1984年から1986年まで20世紀フォックスの社長を務め、また自身のプロダクションであるゴードン・ピクチャーズで、元部下のジョエル・シルバーと共に『コマンドー』(1985年)、『プレデター』(1987年)、『ダイ・ハード』(1988年)といった聖書レベルのアクション映画を多く製作しました。まさに偉人。

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監督は『ローリング・サンダー』のジョン・フリン

監督は、タランティーノにも愛されるバイオレンスの傑作『ローリング・サンダー』(1977年)のジョン・フリン。個人的にセガールの最高傑作だと思っている『アウト・フォー・ジャスティス』(1991年)もこの人の作品です。

若い頃にはロバート・ワイズやJ・リー・トンプソンの下で働いていた人なので、本作は1989年の作品ながら70年代の映画のような空気が漂っています。また生々しさ、痛々しさの描写を得意としており、本作のようなハードな男の映画には持ってこいの監督です。

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脚本は『ダイ・ハード』のジェブ・スチュアート

さして期待されていなかった『ダイ・ハード』(1988年)の脚色を任され、同作が興行的にも批評的にも大成功したことから一躍アクション脚本の大家となりました。他にハリソン・フォード主演の『逃亡者』(1993年)やスティーヴン・セガールの『沈黙の断崖』(1997年)を手掛けています。

って、ジョン・フリンと言いジェブ・スチュワートと言い、本作のスタッフは後にセガールと関わることになるようです。

本作のオリジナル脚本はリチャード・スミスという人物が書いたものなのですが、製作開始時点では使い物になるレベルではなく、プロデューサーのローレンス・ゴードンが『ダイ・ハード』(1988年)でも雇ったジェブ・スチュワートを呼び寄せ、もう一人の脚本家ヘンリー・ローゼンバウムと共にホテルに缶詰めにして突貫作業で直させたもののようです。

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主演は僕らのスタローン

1946年ニューヨーク出身。1970年に俳優としてデビューするもパッとせず、ロジャー・コーマン製作の『デス・レース2000年』(1975年)でのマシンガン・ジョー役でようやく二番手の役を掴み取り、自ら脚本を書いた『ロッキー』(1976年)でブレイクしました。

『ロッキー』『ランボー』のシリーズ化で80年代半ばには世界一のマネーメイキングスターとなりましたが、本作の前年に製作した『ランボー3/怒りのアフガン』(1988年)が期待されたほど稼げず、また本作と同年に製作した『デッドフォール』(1989年)も伸び悩み、1980年代末は人気に陰りの見え始めた時期にありました。

主演スターの勢いの鈍化の影響を受けて本作も興行的に低迷。全米初登場7位、2400万ドルの製作費に対してトータルボックスオフィスは2200万ドルに留まりました。

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感想

地味ながらも良作

登場人物は1名を除いて男性のみ。激しい銃撃戦もカーアクションもなく、主人公は何でも解決するスーパーマンでもありません。本作の興行的失敗の一因は、スタローンの超人的破壊を望んだ当時の観客のニードに応えたものではなかったためだと思われます。

そんな感じの方向性なので絵面はとにかく地味。展開も地味。スタローンがネチネチといじめられ、耐えようのないストレスをかけられてついに爆発するという内容に留まっています。

しかし現在の目で見ると、派手なドンパチを入れなかった点にこそ本作の良識が宿っていると言えます。

主人公が能力的に万能ではないことがドラマ性を高めているし、展開に緊張感を生んでいます。また刑務所の閉塞的な空気感の表現にも繋がっており、もし荒唐無稽な爆破や銃撃戦が含まれる内容であれば、こうはいかなかったと思います。

本作の比較対象としては、同年にスタローンが主演した『デッドフォール』(1989年)が考えられます。『デッドフォール』もまた主人公が罠に嵌められて劣悪な刑務所に収監され、身の危険から脱獄を余儀なくされるという展開を迎えるのですが、『デッドフォール』の主人公レイ・タンゴは複数人の凶悪犯に囲まれてもまったく動じないほどのメンタルと、脱獄すると決めればいとも簡単に成功してしまうほどの能力を持っているので、そこにドラマやスリルは生まれていませんでした。

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しかし本作はスタローンをガタイの良い普通の囚人として描いており、1対1の喧嘩であっても苦戦をするほどの戦力に留められているので、何かが起こればやられるという緊迫感をもって全編が描かれています。

秀逸なアメフト場面

そんな中でも白眉の出来だったのが中盤におけるアメフト場面でした。

実はドラムグール所長(ドナルド・サザーランド)の息がかかっている凶悪犯チンク(ソニー・ランダム)が中庭でフランク(シルヴェスター・スタローン)をアメフトに誘います。

当然普通の試合ではなく、スポーツの体裁をとったリンチであることは明確なのでフランクは断るのですが、頭の悪い友人ファーストベース(ラリー・ロマーノ)がチンクの挑発に乗りかけたことから、「じゃあ俺がやる」と言ってフランクが出ていきます。

案の定、フランクが悪質なタックルを受けまくる凄惨な現場と化すのですが、これを眺めるオーディエンス達の視線によって、フランクに対する周囲の評価がどう変わっていくのかが描かれます。

ドラムグール所長とチンクは何度タックルを受けても立ち上がるフランクのガッツに脅威を覚え、心ある看守ブレイドン(ウィリアム・アレン・ヤング)はフランクが不当な扱いを受けていることへの疑念を決定的なものとします。

そして一度はフランクと関わり合いになることを避けた囚人のエクリプス(フランク・マクレー)は、フランクのガッツに感銘を受けて一肌脱いでやろうと立ち上がります。

一つのゲームを通して複数の登場人物達の心情の動きを描写し、しかもセリフを一言も使わずにこれを実現してみせたのだから、ジョン・フリン監督は実に良い仕事をしています。

フランクが可哀そうすぎる

アメフト試合でガッツを見せたことをきっかけに友人の増えたフランクは、自動車整備工としての手腕を活かして、エクリプス達と共に刑務所内の修理工房に放置されたままのマスタングの修理を行います。

陰鬱な展開の多い本作には珍しく明るく楽しい場面なのですが、復活したマスタングをファーストベースが暴走させたことが、ドラムグール所長に付け入る隙を与えてしまいます。

ドラムグールは車を暴走させたファーストベースではなくフランクを独房にぶちこみ、冬の寒さの中、ブリーフ一丁で毛布も与えないという過酷な扱いとします。

加えて、15分おきに点呼をとって眠る暇を与えず、朦朧とする意識の中で番号が言えなくなったフランクを警棒でボコボコに殴るというドエライ仕打ちまでを行う始末。

この場面は見ていられないくらい辛いものがありました。「頼むからやめてくれ!キーファー・サザーランドの親父!」と画面に向かって叫びそうになったほどです。

ここでもジョン・フリンの演出が炸裂。寒さや疲労、痛みの描写に成功しているので、観客に対しても苦痛を疑似体験させられるレベルに到達しています。

ついにフランクの堪忍袋の緒が切れます!

ここまでの虐待をしていると、さすがにメイズナーやブレイドンといった自身のコントロール下にない看守を誤魔化しきれなくなったことから、ドラムグールは仕方なくフランクを一般房に戻します。

直接的な虐待でフランクを屈服させることは難しいと考えたドラムグールは、その周辺人物を狙う作戦に切り替えます。

で、その命を受けたチンクがファーストベースを殺害。加えて、フランクの恋人メリッサが出所する囚人に狙われているという情報が出てくるわ、友人のダラス(トム・サイズモア)がドラムグールに騙された上に命を失うわで、フランクの堪忍袋がついにブチ切れます。

看守を交わしながら所長室に至ったフランクはついにドラムグールを確保。ドラムグールの命をフランクが握った瞬間の興奮といったらありませんでした。「もうやっちゃっていいよ!」と観客の誰もが叫びたくなる瞬間でしたね。

しかし心優しいフランクはドラムグールを本気で殺す気はなく、彼に罪の告白をさせたところで、心ある看守長メイズナーに自分とドラムグールの身柄を預けます。この落としどころも良かったと思います。

スタ版ショーシャンクの空に

ここまで見て感じたのは、『ショーシャンクの空に』(1994年)と同じ話だということです。

主人公に言うことを聞かせたくて独房に入れたり、その友人を殺したりする刑務所長。そして耐えた末の主人公の反撃で所長がすべてを失うという顛末と、ほぼ同じ話ですね。

ただし殺伐とした空気と男汁の濃さは本作の方が圧倒的に上ではあるのですが。

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