【凡作】死の標的_セガールvsブードゥーの異種格闘戦は企画倒れ(ネタバレあり感想)

クライムアクション
クライムアクション

(1990年 アメリカ)
ホラーとアクションの折衷を狙った作風は失敗しており、ブードゥーの魔術を操る強敵という設定はほとんど面白さに貢献していないのですが、セガール自身がベストアクションに選んでいる作品だけあって見せ場の出来は非常に素晴らしく、セガールアクションを楽しむ映画としては充分イケます。

©Twentieth Century Fox

あらすじ

DEA捜査官ハッチャー(スティーヴン・セガール)は捜査中に相棒を亡くして仕事に対する意欲を失い、シカゴに帰郷する。しかし地元でも麻薬汚染は進んでおり、古株のイタリアン・マフィアと新参のジャマイカン・ギャングが激しい抗争を繰り広げていた。当初は静観をするつもりだったハッチャーだが、次第にその渦中に巻き込まれていく。

作品解説

3週連続全米No.1ヒット作

1988年の『刑事ニコ/法の死角』でデビューしたセガールの3作目に当たり、ワーナー・ブラザーズで仕事をすることの多かったセガールとしては珍しく、20世紀フォックスがリリースしています。

Vシネ俳優となった現在からは考えられないのですが、この頃のセガールは中規模予算で手堅く稼ぐマネーメイキングスターであり、本作は1990年10月に全米3週連続No.1を記録し、年間興行成績でも第27位につけています。

加えて、同年の2月には『ハード・トゥ・キル』もリリースしており、そちらは年間興行成績第25位のヒット。主演作を年2本リリースして、そのどちらもヒットさせるという恐ろしい実力を持っていたのです。

なお、両作の間に挟まれた年間26位の作品とはマフィア映画の金字塔『グッドフェローズ」でした。

セガール映画の標準フォーマットを確立した作品

  1. 一度も危機に陥らないほどの物凄い強さ
  2. 物凄い前職
  3. 物凄い人脈

これがセガール映画の標準フォーマットですが、前2作ではこの辺りがまだふわふわしていて、敵の手に落ちたり瀕死の重傷を負わされたりするし、過去の人脈を利用して悪党を成敗するという点もさほど押されていませんでした。

しかし、本作よりこの3点が恐らくは意識的に強調されており、その後30年近く続くセガール映画の標準フォーマットを確立した作品として、本作はなかなか重要だったと思います。

感想

セガールvsブードゥーという異種格闘戦

まったくピンチに陥らない圧倒的な強さを誇るセガールには、この頃から敵探しが始まっていました。一体誰と戦わせれば面白いのかと。

一時は、シュワルツェネッガーに断られた『プレデター2』に出してはどうかという話もあったらしいのですが、同作の監督・スティーヴン・ホプキンスに拒否されてそちらはダニー・グローバー主演に落ち着いたという経緯があります。『プレデター2』の批評的・興行的惨敗を見ると、マータフではなくセガールと戦わせといた方がプレデターも幸せだったんじゃないのという気がしますが。

『プレデター2』の名残は本作にも見て取れて、ジャマイカン・ギャングやブードゥーといった要素は両作に共通しています。極東のマーシャル・アーツvs中米のブードゥー、アメリカ人にとっては神秘性溢れる異国情緒対決という様相を呈していたのです。

それでいいのか、ブードゥー描写

上記のコンセプトに加えて、監督に『ハロウィン4 ブギーマン復活』、『アナコンダ2』のドワイト・H・リトルを起用した点からは、アクションとホラーのハイブリッドを目指していたように思うのですが、盤石なセガールはともかく、ブードゥーの描写がとにかく弱いんですよね。

本編中、何度もブードゥーの儀式が登場するのですが、彼らの呪いに有効性があるという場面が皆無なので、変な宗教を信じている人たちが気味の悪いことをやっているだけという描写にとどまっています。そこは、儀式が成立すると悪いことが起こると観客にも信じさせる必要があったと思うのですが。

また、組織の黒幕・スクリュー・フェイスには呪術的な能力が宿っているという設定が置かれており、実際、デヴィッド・カッパーフィールドの如く瞬間移動をしてみせたり、殺したはずが生きていたりといった描写が入るのですが、観客側には双子トリックがバレバレなんですよね。オチがオチになっていないという。これもまた、観客側にもスクリュー・フェイスが本物であると信じさせる見せ方が必要だったと思います。

本作のタイトル” Marked For Death”はブードゥーの呪いを指したものであるにも関わらずこの体たらくでは、企画の趣旨が死んでいるとしか言いようがありません。

相変わらず負ける気がしないセガール

そんな感じで敵側の描写がボロボロなので、「セガール危ない!」と観客が冷や冷やする場面は1秒もなく、設定や敵を変えても安定のセガール無双でした。

また、本作ではキース・デヴィッドという強力な相棒も参戦。ジョン・カーペンター監督の『ゼイリブ』にて、サングラスをかける・かけないで大男二人が3分間に渡ってプロレスをするという80年代アクションでもっとも無意味な見せ場を盛り上げた一人です。

本作ではベトナム帰りという設定まで追加されており、彼一人でもブードゥーとはそれなりに渡り合えたんじゃないのという程の逸材なのです。ベトナム帰りの大男がセガール側についたとなれば、もう負ける気がしませんね。

加えて、セガールの暴走がブードゥー側を越えちゃっています。ジャマイカに出張して敵の本拠地を叩き、そこでとったスクリュー・フェイスの生首をシカゴにまで持って帰るんですが、敵を殺すだけではなく首から下を切り落とし、生首を持って国際線に乗るなんて常人のやることではないでしょ。

911前のザル状態のセキュリティだったとは言え、そんなものの持ち込みを許した空港も一体どうなんだという感じだし。

アクションのみ素晴らしかった

セガール自身がキャリア中のベストアクションとして本作を挙げている通り、アクションだけはセガール史上最高でした。

セガールが潜入捜査中に危機に陥る冒頭からチェイス・格闘・銃撃のバランスは良好。なお、冒頭でセガールに追われているヒゲはダニー・トレホであり、2010年の『マチェーテ』にて、今度はセガールがトレホ主演作にお邪魔することとなります。

中盤のカーチェイスは『フレンチ・コネクション』を意識したとのことですが、確かにそれだけの迫力とスピード感があったし、カーチェイスからの銃撃戦+格闘という見せ場の連携の良さ、場面転換のスムーズさも売りになっています。

クライマックスでは珍しいセガールの剣道も炸裂しますが、この動きもなかなか様になっています。そして、スクリュー・フェイスの背骨をへし折り、エレベーターシャフトから放り投げ、階下で飛び出していた杭にぶっ刺すというセガール史上もっとも惨たらしい敵の死に際も豪快そのもので、なかなか楽しませてくれました。

≪スティーヴン・セガール出演作≫
【凡作】刑事ニコ/法の死角_パワーと頭髪が不足気味
【駄作】ハード・トゥ・キル_セガール初期作品で最低の出来
【凡作】死の標的_セガールvsブードゥーの異種格闘戦は企画倒れ
【良作】アウト・フォー・ジャスティス_セガール最高傑作!
【良作】沈黙の戦艦_実はよく考えられたアクション
【凡作】沈黙の要塞_セガールの説教先生
【良作】暴走特急_貫通したから撃たれたうちに入らない
【凡作】グリマーマン_途中から忘れ去られる猟奇殺人事件
【凡作】エグゼクティブ・デシジョン_もっと面白くなったはず
【凡作】沈黙の断崖_クセが凄いがそれなりに楽しめる
【駄作】沈黙の陰謀_セガールが世界的免疫学者って…
【駄作】DENGEKI 電撃_セガールをワイヤーで吊っちゃダメ
【まとめ】セガール初期作品の紹介とオススメ

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