【凡作】マキシマム・リスク_ヴァンダムらしからぬ真面目映画(ネタバレあり感想)

クライムアクション
クライムアクション

(1996年 アメリカ)
基本的にB級素材ではあるもののドラマパートにやたら作り込まれた部分があって、そこが妙な味になっている映画でした。サスペンスアクションとしては端正にまとめられている一方で、ヴァンダム映画としては爆発力不足な点が残念ではありましたが。

あらすじ

フランスの刑事アラン・モロー(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)は、自分と瓜二つの男の殺害現場を訪れる。死亡した男の名はミカエル・スヴァロフ(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)。彼は幼い頃に養子に出されたアランの双子の弟だった。アランは弟の足跡を辿ってNYに行き、ミカエルを装ってロシアン・マフィアに潜入する。

スタッフ

監督はリンゴ・ラム

本作の監督を務めたのは、2018年12月28日に亡くなったリンゴ・ラム。彼のハリウッド進出作に当たります。苦労しつつもハリウッドで2作・3作と連続して映画を撮ったジョン・ウーとは違い、ラムはハリウッド特有の不自由な製作システムに馴染めなかったと伝えられており、現に、本作の後にはすぐに香港に帰ってしまいました。

ただしヴァンダムとは気が合ったのか、時間を置いた2001年の『レプリカント』、2003年の『HELL ヘル』で再度コラボしています。

脚本は『レッド・オクトーバーを追え!』のラリー・ファーガソン

本作の脚本を書いたのはラリー・ファーガソンという人物であり、『ハイランダー悪魔の戦士』(1986年)、『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)の脚本を書いた人です。

この人は混乱した企画の立て直しに呼ばれることも多く、大勢の監督・脚本家が入り乱れて収集のつかなくなった『エイリアン3』『ラスト・アクション・ヒーロー』のテコ入れなどもしています。要は、ハリウッドでめちゃくちゃに信頼される脚本家だったということです。

「とりあえず回し蹴りしとけばいいんだろ」という感じで物語自体のクォリティはなおざりにされる傾向の強いヴァンダム作品としては例外的に一流脚本家による作品が使用されており、なかなか気合の入った映画であると感じました。

感想

もう一人の自分の足跡を辿る物語

本作の筋書きはアクション映画の世界ではよくあるパターンの一つで、もう一人の自分の足跡を辿るうちに大きな陰謀に辿り着くというものです。『トータル・リコール』『ロング・キス・グッドナイト』、『ボーン・アイデンティティ』、『ペイチェック』、そして直近の『アリータ:バトル・エンジェル』もこのパターンに当てはまります。

ヴァンダムがシブい

意外だったのが、ヴァンダムが硬派な物語に馴染んでいるということであり、彼はサスペンスアクションの雰囲気を台無しにしていません。

また、演技もちゃんと出来ています。主人公・アランは警察官であり、生き別れになった弟・ミカエルはヤクザの構成員。そしてアランは生まれも育ちも南仏・ニースに対して、ミカエルはNY育ち。

まさに正反対とも言えるアランが瓜二つの顔を利用してミカエルに成りすまし、ミカエルが生きた世界へと潜入するのですが、これを演じるヴァンダムはミカエルを装うアランという捻じれた構図の演技がきちんとできています。演技もできる人だったのねと感心させられました。

ナターシャ・ヘンストリッジが良すぎる

本作のヒロインポジションにいるのがミカエルの彼女・アレックス役のナターシャ・ヘンストリッジなのですが、美人すぎてヤバかったですね。

彼女は14歳でモデルデビューし、20歳の時に『スピーシーズ/種の起源』で女優デビュー。このデビュー作の時点では「エイリアン役だから演技力なんて要らない。美人で躊躇せず脱いでくれる人が欲しい」というキャスティング意図を感じて、さして気になる女優さんでもありませんでした。

その後、Z級SF界の巨匠アルバート・ピュン監督の『アドレナリン』を挟んでの本作なのですが、彼女が意外なほど良い女優さんになっていて驚きました。

修羅場で生きてきた人物らしい芯の強さが表現できており、ただの綺麗な添え物女優の域に留まっていません。本作撮影時点では21歳だったのですが、その若さには不相応なほどの年季を感じました。

じっくり描くべき内容を端折りすぎている

上記の通り、各構成要素は良いんですけど、映画としてはあまり面白くありませんでした。テンポを意識してか、ドラマ部分を飛ばし過ぎているのです。

ミカエルの置かれていた環境は特殊で、育ての親であるロシアン・マフィアのボスからは心の底から愛されている一方で、兄弟として育てられたイワン(ザック・グルニエ)とは敵対関係にあり、愛憎に満ちたドラマがそこにはあったはずなのですが、この一番面白そうな部分が完全に放棄されています。

また、アランとアレックスの関係は葛藤を含んだものであるべきだったのに、表層だけで終わっています。

死んだ弟の彼女と恋仲になっていいのかというアランの葛藤や、同じ顔であっても別人格であるアランをミカエル同様に愛せるのかというアレックスの葛藤。

これらが描かれていれば作品は随分面白くなっただろうと思うのですが、その点を消化しきれていません。ミカエルだと思って迫ってきたアレックスに対して「ごめん、俺はミカエルじゃないんだ」と言って断るくだりがたった一度あるだけ。これでは全然足りませんよ。

敵に魅力がない

ロシアン・マフィアが敵かと思いきや、実はマフィアとFBI捜査官が結託しており、アランとアレックスはその両方から追われるという展開を迎えるのですが、この逼迫感が全然表現できていません。

で、その要因として考えられるのが、魅力的な敵がいないという点です。

ロシアン・マフィア側はイワンと白髪の大男の二人がメインとなるのですが、イワンの凶暴性が不足しているし、大男もいつものヴァンダムであれば余裕で勝てるレベルに見えてしまっています。もっとヤバイ奴に見せる必要があったと思います。

FBIに至っては論外ですね。そこら辺の中年オヤジでしたから。社会に影響を与えられるFBIらしい追い込み方もないので、ただ3人の中年オヤジがヴァンダムを追いかけているだけ。これではヴァンダムが負ける気がしませんよ。

アクションが地味

また、本作ではヴァンダミング・アクションも最低限に抑えられています。

いつものヴァンダムらしい格闘を見せるのはサウナでの決闘シーンくらいだし、その場面にしても複数の敵を余裕でちぎっては投げるようないつもの無双ぶりではなく、一人の相手との殴り合いというリアリティ重視した路線が選択されています。

ちょっと盛り上がりに欠けましたね。

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