【駄作】マーキュリー・ライジング_登場人物が全員愚か(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
Mercury Rising (1998)

(1998年 アメリカ)
まったく緊張感のないサスペンスアクション。その原因は追う側も追われる側も合理的な判断を下していないことであり、双方が行き当たりばったりの行動をしているうちに、より多くのボロを出した方が負けるという程度の低い追っかけっこが面白いわけがありません。

あらすじ

自閉症児のサイモン(ミコ・ヒューズ)がパズル雑誌の難問を解いたが、それはNSA職員が紛れ込ませていた「マーキュリー」と呼ばれる暗号だった。決して破られるはずのないマーキュリーが解読されたことに焦ったNSA高官クドロー(アレック・ボールドウィン)は、サイモンの自宅に殺し屋を差し向ける。殺し屋はサイモンの両親を殺害したが、肝心のサイモンは見つけられずに退散した。

その後に現場を訪れたFBI捜査官のアート(ブルース・ウィリス)は隠れているサイモンを発見。サイモンは病院に収容されるが、何者かの指示により警備体制が解かれ、殺し屋が現れた。巨大な陰謀の存在を感じ取ったアートは、サイモンを連れて病院を脱出した。

スタッフ・キャスト

製作は『アポロ13』のブライアン・グレイザー

1951年LA出身。南カリフォルニア大学映画学科を卒業後はサーファーをしていたという変わり種で、1970年代に数本のテレビ映画を製作した後、『ラブ IN ニューヨーク』(1982年)で仕事をしたロン・ハワードとコンビを組むようになりました。

1986年にはロン・ハワードと共同でイマジン・エンターテイメントを設立し、以降、『バックドラフト』(1991年)、『アポロ13』(1995年)、『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)と多くのヒット作を製作。『ビューティフル・マインド』(2001年)ではアカデミー賞を受賞しました。

また大ヒットテレビドラマ『24 -TWENTY FOUR-』(2001-2010年)も手掛けており、雑誌による映画業界のパワーランキングでは常に上位に名を連ねている大プロデューサーです。

監督は『冷たい月を抱く女』のハロルド・ベッカー

1928年ニューヨーク出身。1960年代に短編監督を何作か監督し、1970年代に長編監督デビュー。

若き日のショーン・ペンやトム・クルーズが出演した『タップス』(1981年)がまぁまぁのヒットとなり、以降はマシュー・モディーン主演の青春ドラマ『ビジョン・クエスト/青春の賭け』(1985年)、ジェームズ・ウッズとショーン・ヤングが共演した『THE BOOST 引き裂かれた愛』(1988年)、一番ダメだった頃のアル・パチーノ主演したサスペンス『シー・オブ・ラブ』(1989年)など、有名俳優を卒なく演出できる監督として重宝されました。

本作に出演したアレック・ボールドウィンとは、ニコール・キッドマン主演のサスペンス『冷たい月を抱く女』(1993年)でも一緒に仕事をしています。

近年はニコラス・ケイジ主演のサスペンス『ヴェンジェンス』(2016年)にプロデューサーの一人としてクレジットされていました。

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『スーパーマン4/最強の敵』のコンビ脚本家

脚本を執筆したのはコンビで活躍するローレンス・コナーとマーク・ローゼンタール。

ローレンス・コナーはもともとテレビ界の住人で、『大草原の小さな家』や『探偵レミントン・スティール』などのエピソードを執筆していました。

その後映画界に転身してマーク・ローゼンバーグと組むようになり、マイケル・ダグラス主演の『ナイルの宝石』(1985年)や『スーパーマン4/最強の敵』(1987年)など低品質な続編を手掛けました。

完成作品が観客からの支持を得られるかどうかはともかく、このコンビは続編やリメイクの類を得意としているようであり、『必死の逃亡者』(1955年)のリメイク企画である『逃亡者』(1990年)、人気シリーズ第6弾『スター・トレックVI 未知の世界』(1991年)、『猿人ジョー・ヤング』(1949年)のリメイク『マイティ・ジョー』(1998年)、往年の名作のリメイク『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001年)などを手掛けています。

主演はブルース・ウィリス

1955年生まれ。高校卒業後に警備員、運送業者、私立探偵など複数の職業に就いた後、俳優としてニューヨークで下積みを経験し、オフ・ブロードウェイの舞台などに立っていました。

1984年頃にLAに転居してからはテレビ俳優となり、オーディションで3000人の中から選ばれた『こちらブルームーン探偵社』(1985年~1989年)の主演でコメディ俳優としての評価を確立しました。

アーノルド・シュワルツェネッガー、クリント・イーストウッド、リチャード・ギア、メル・ギブソンらに次々と断られた末にオファーが来た『ダイ・ハード』(1988年)の主人公・ジョン・マクレーン役でコメディ俳優の枠を超える評価と、国際的な知名度を獲得。以降はハリウッド有数のマネーメイキングスターとして多数の大作に出演しました。

彼のキャリアが独特なのは、第一線に立つスターでありながらインディーズ監督との仕事を積極的に進めていたことであり、比較的低予算で製作された『パルプ・フィクション』(1994年)に出演したり、ディズニーが出資を渋る中でブルース・ウィリスが積極的に製作を働きかけたと言われる『シックス・センス』(1999年)などがその成果となっています。

本作はその『シックス・センス』(1999年)と重複する部分が多く、この時期は父性のある役柄を求めていたのかなと思います。

共演はアレック・ボールドウィン

1958年ニューヨーク州出身。1986年に映画デビューし、『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年)のジャック・ライアン役でブレイク。個人的には、現在に至るまで最高のジャック・ライアンはアレック・ボールドウィンだと思っています。

1993年には人気女優キム・ベイシンガーと結婚し、主演クラスの俳優として活躍していたのですが、リメイク版『ゲッタウェイ』(1994年)、『シャドー』(1994年)、『ヘブンズ・プリズナー』(1996年)と主演作が立て続けにコケたことから、本作に出演した90年代後半から脇役が増えてきました。

本作の出演には気乗りがしていなかったようなのですが、ユニバーサルとの契約の縛りがあったために渋々出演したのが実態だったようです。

作品解説

興行的には低迷した

本作は1998年4月3日に全米公開されましたが、往年のテレビドラマのリメイク『ロスト・イン・スペース』(1998年)と、16週目を迎えてもなお勢いを保っていた『タイタニック』(1997年)に敗れて初登場3位と低迷。

翌週は『スピーシーズ2』(1998年)にすら敗れて6位に落ち、公開5週目にしてトップ10圏外へとフェードアウト。全米トータルグロスは3293万ドルにとどまりました。

世界マーケットでも同じく苦戦を強いられ、全世界トータルグロスは9310万ドル。製作費6000万ドルの大作としてはかなり物足りない金額でした。

登場人物

主人公サイド

  • アート・ジェフリーズ(ブルース・ウィリス):FBIシカゴ支局の捜査官で主に潜入捜査を担当していたが、現場で上司を殴ったことからポジションを外された。親子心中事件という市警の案件を回されて現場に向かったところ、背後に巨大な陰謀があることに気付く。
  • サイモン・リンチ(ミコ・ヒューズ):自閉症の少年で、パズルを解くことが趣味。パズル雑誌に忍ばされていた「マーキュリー」と呼ばれる暗号を解読したことから、NSAに命を狙われることになる。
  • トミー・ジョーダン(シャイ・マクブライド):FBIシカゴ支局の捜査官で、アートの同僚。組織に頼ることのできなくなったアートから協力を依頼される。
  • ステイシー(キム・ディケンズ):気が良すぎて社会にうまく馴染めない求職中の女性。スタバで偶然出会ったアートから一時的にサイモンを預けられたことから、事件に巻き込まれる。

NSA関係者

  • ニコラス・クドロー(アレック・ボールドウィン):暗号コード「マーキュリー」開発チームを率いており、組織内での評判は高い。決して破られないと思われていたマーキュリーを破られたことは大きな失点に繋がるとして、その隠蔽を図る。
  • ピーター・バーレル(リンゼイ・ギンター):クドロー配下の殺し屋で、サイモンの命を狙っている。記録上は何年も前に死んだことになっている。
  • レオ・ぺドランスキー(ボッジ・パイン・エルフマン):クドローの部下で、マーキュリー開発チームのメンバー。パズル雑誌にマーキュリーを掲載した。サイモンを殺そうとするクドローの方針に反発し、アートとの接触を図る。
  • ディーン・クランデル(ロバート・スタントン)マーキュリー開発チームのメンバーで、レオの同僚。サイモン殺害に対する反発はレオと同様だが、クドローを恐れており、レオよりも慎重。

感想

敵が弱そうに感じられる

本作の主人公の側は、どれも社会からの脱落者のような面々です。アート(ブルース・ウィリス)はFBI内の偉い人を殴って窓際扱いだし、同僚のトミー(シャイ・マクブライド)も上司の顔色を伺っているような窓際予備軍。協力者となるステイシー(キム・ディケンズ)は人が良すぎて悪いことをすべて背負い込んでしまう求職者。

こうした面々がNSAの包囲網を掻い潜りながら子供の命を守り、陰謀を暴いていくことが物語の骨子となっているのですが、負け犬からの思いがけない反撃というせっかくの図式を、本作はうまく娯楽に落とし込めていません。

その要因は敵が強そうではないという点にあります。

彼らと対峙するNSAの高官クドロー(アレック・ボールドウィン)は緻密な作戦でアートを追い込んでいるわけでもないし、たった一人であたふたしていてNSAの組織力も発揮されていません。

その配下の殺し屋バーレルは子供一人を何度も何度も仕留め損ねるような間抜け。おまけに白昼堂々と銃を振り回して監視カメラにバッチリ撮られるようなバカなので話になりません。

特に酷いと思ったのが内部告発をしようとするNSA職員レオとアートが密会する場面で、通信を傍受したバーレルが現場に先回りするのですが、公共の場ということで放てる銃弾は一発限り。

そこでバーレルが殺しのターゲットに選んだのが、なんとレオの方。反撃能力のあるアートを優先して殺し、レオは追い追い始末すればいいんじゃないのと普通は考えるところなのですが、よりにもよってその逆を選んだわけです。案の定、バーレルはアートに追いかけ回されることになるのだから話になりません。

クドロー達は負けるべくして負けたようにしか見えないので、圧倒的強者を相手にした負け犬達の大番狂わせの物語になりえていません。

おかしな選択ばかりする主人公

ただし、バカという点では主人公側も負けてはいません。

サイモンが入院している病院を訪れたアートは殺し屋に襲われ、何か巨大な陰謀が動いていることを察知します。その結果、自身は指名手配犯になりながらサイモンを連れて単独で逃亡するという、考えうる最悪の選択をします。FBIの拠点に連れ帰ればいいのに。

そうして誰も信用できないという行動をとっている割には、スタバで偶然出会ったステイシーにはちょっとサイモンを見ててくれとか気軽に頼むし。サイモンと一緒にいさせるということは、口封じのために消されるリスクをステイシーにも負わせるということなのに、その辺りの逡巡はないわけです。

それどころか一度世話になっただけでは飽き足らず、ステイシーの家にまで押しかけて、泊めてくれとか言い出す始末。もう無茶苦茶ですね。

ステイシーもステイシーで、いくら良い人設定があるとは言え、何か訳の分からんことに焦っているブルース・ウィリスを見てヤバイ人だと思わず、可能な限りの協力をしてあげるというのは、一人の人間として破綻しているような気がしました。

クドローの件もそうでしたが、本作は「なぜ登場人物がこんな選択をしたのか」という点がきちんと整理されていないので、全員が愚かに見えてしまうという問題が発生しています。知恵を使った高度な出し抜き合いではなく、ボロを多く出した方が負けていくような。これではサスペンスが盛り上がるはずがありません。

子役の演技がリアルすぎて浮いている

サヴァン症候群の子供サイモンを演じるミコ・ヒューズは迫真の演技を見せます。サイモン役のために障がい者施設に通うなど、子役ながら大人並みの役作りをした成果なのですが、あまりにもサイモンに成りきりすぎていて映画全体から浮いています。

本作はロバート・デ・ニーロやダスティン・ホフマンが出ている映画ではないのです。ブルース・ウィリスがあたふたしており、ご都合主義的な展開も多く見受けられる娯楽アクションなのだから、ミコ・ヒューズ君は『レインマン』(1987年)で確立されたサヴァン症候群のテンプレ演技をやっておく程度で丁度良かったのです。

たった一人だけ異様にリアルな演技をしていることの違和感が物凄いことになっています。「サザエさん」の中にたった一人だけ劇画タッチのキャラクターが紛れ込んでいるような。

見せ場のキレのなさがツライ

そしてブルース・ウィリス主演の娯楽アクションであるにも関わらず、目を奪われるような見せ場が無かった。そのことが本作の出来にとどめを刺しました。

冒頭、白人至上主義者が占拠する銀行にFBIが突入をかける場面から、アクションの出来の悪さが炸裂します。

FBIがあっちにいて、犯人グループがこっちにいて、FBIがバンバン銃を撃って、犯人グループがバタバタと倒れる。非常に平面的なアクションで、動きというものがまったくありません。

クライマックスでもまったく同じような見せ場が登場します。ビルの屋上にいるクドロー達に対して、ビルの中からFBIの攻撃隊が現れる。FBIはあっちにいて、クドロー達はこっちにいて、FBIがバンバン銃を撃つ。

意図的に冒頭の図式を反芻しているのだろうとは思いますが、アクション映画的にはつまらない見せ場を二度も繰り返されても困るなぁという感じでした。