【凡作】マイアミ・バイス(2006年)_物語が迷走気味(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション
クライムアクション

(2006年 アメリカ)
ルックスにかけてはほとんど完璧と言える映画なのですが、方向転換を繰り返す物語が面白みに欠けており、トータルでは不満点の多い作品でした。

あらすじ

潜入捜査中のFBI捜査官が白人至上主義組織に殺害された。FBI捜査官フジマ(キアラン・ハインズ)は米捜査機関内に内通者がいる可能性を疑い、マイアミ市警特捜部(マイアミ・バイス)に対して極秘の潜入捜査を持ちかける。

指名されたのは、まだ組織に対して面が割れていないクロケット(コリン・ファレル)とタブス(ジェイミー・フォックス)。二人は白人至上主義組織と繋がりのある南米の麻薬カルテルに潜入する。

スタッフ・キャスト

監督・脚本はマイケル・マン

1943年シカゴ出身。1960年代半ばにイギリスへ渡り、リドリー・スコット、アラン・パーカー、エイドリアン・ラインらとコマーシャル演出などを手掛けました。昔の仲間が凄すぎですね。

その後アメリカに帰国しテレビ番組の脚本や演出を手掛けるようになり、製作総指揮を務めた『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1989年)が大人気となりました。

並行して映画界での活動も行っており、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981年)で長編監督デビュー。続いてハンニバル・レクターが映画に初登場する『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986年)も監督したのですが、どちらもヒット作とはなりませんでした。

90年代に入ると時代劇『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)がヒット。ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノを共演させた『ヒート』(1995年)がクライムアクションの金字塔となり、『インサイダー』(1999年)でアカデミー監督賞ノミネートと、男性映画の雄としての地位を確立しました。

主演はコリン・ファレル

1976年ダブリン出身。BBCの連続ドラマでキャリアをスタートし、その後アメリカに渡ってジョエル・シュマッカー監督の『タイガーランド』(2000年)の主演で注目を浴びました。

2000年代前半は引っ張りだこで、西部劇『アメリカン・アウトロー』(2001年)、ブルース・ウィリス共演の『ジャスティス』(2002年)、スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート』(2002年)、アメコミもの『デアデビル』(2003年)と、ものすごい勢いで出演作が公開されていました。

往年のテレビドラマのリブート企画への主演は『S.W.A.T.』(2003年)に次ぐ2度目であり、本作でも安定した存在感を見せます。

もう一人の主演はジェイミー・フォックス

1967年テキサス州出身。高校時代はアメフトのクォーターバック、大学進学後には名門ジュリアード音楽院でピアノを学び、卒業後にはコメディアンになったという、恐ろしいほど何でもできる人です。

コメディアンとして出演したテレビ番組『ザ・ジェイミー・フォックス・ショー』(1996-2001年)が大人気となり、ミュージシャンとしてアルバムもリリース。

オリバー・ストーン監督の『エニイ・ギブン・サンデー』(1999年)から本格的に俳優業を開始し、マイケル・マン監督の『ALI アリ』(2001年)と『コラテラル』(2004年)に出演。

テイラー・ハックフォード監督の『Ray/レイ』(2004年)ではレイ・チャールズに扮し、アカデミー主演男優賞を受賞しました。

作品概要

テレビドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』のリメイク

『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1989年)はマイケル・マンが製作総指揮を務めたテレビドラマであり、高級スーツや高級スポーツカーが登場し、大ヒットナンバーがBGMとして流れるという当時としては斬新なスタイルの刑事ドラマでした。

加えて、完璧主義者マイケル・マンが本編中で使用される銃器や脚本内容のリアリティにも徹底的にこだわったことから、ただ派手なだけではなく、頑固なマニアも納得させる品質を維持していたことが勝因でした。

ただしテレビシリーズは徐々に視聴率を落としていき、第4シーズンではスタッフが総入れ替えとなって作風がガラリと変わったことからファンからの反発を喰らい、第5シーズンで打ち切りとなりました。

その後、マイケル・マンは映画監督に転身して大成功。

『ALI アリ』(2001年)に出演したジェイミー・フォックスがマイケル・マンに『特捜刑事マイアミ・バイス』のリブートを提案したことが当映画化企画の始まりであり、続く『コラテラル』(2004年)の成功によってマイケル・マン×ジェイミー・フォックスのコンビが確立し、本作の製作が本格的にスタートしました。

難航した製作

撮影は2005年夏にマイアミを中心に行われたのですが、その年はハリケーンの当たり年でした。観測史上最強クラスのハリケーンが複数個発生し、うちカトリーナはアメリカ南東部に壊滅的な被害を与えました。

本作の製作は、まさにカトリーナの直撃を受けました。撮影は遅延し、製作費は倍増。ユニバーサルは最終的な製作費を1億3500万ドルと発表していますが、1億5000万ドル以上はかかっていると主張する関係者もいます。

いずれにせよ、派手な爆破やカーチェイスがあるわけでもない本物志向の刑事ドラマとしては金がかかり過ぎました。

加えて、そんな異常な状況でも炸裂したマイケル・マンの完璧主義が現場での軋轢を生みました。異常な気象条件下でも撮影を強行し、治安の悪い南米での撮影では地元ギャングをセキュリティに使ってスタッフや出演者を不安にさせ、僅かな違和感があっても撮り直しをするスタイルは俳優を疲弊させました。

ジェイミー・フォックスは一部の撮影には参加せず、マンは脚本の書き直しを余儀なくされました。その結果、オリジナル脚本よりも落ちる出来になったと言われています。

コリン・ファレルは撮影中にどんどん太っていき、本編では彼が演じるクロケット捜査官が場面によって太ったり痩せたりするという珍現象が発生しています。

興行的には低迷

2006年7月28日に全米公開。公開4週目を迎えた『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(2006年)以外にめぼしいライバルがいないという幸運もあって初登場1位を獲得したのですが、2週目以降の売上高の下落が激しく、公開4週目にしてトップ10圏外に弾き出されました。全米トータルグロスは6345万ドルにとどまりました。

世界マーケットではやや持ち直したものの、全世界トータルグロスは1億6423万ドルにとどまり、劇場の取り分や広告宣伝費を考慮すると、1億3500万ドルという製作費は回収できていないと思われます。

登場人物

合衆国捜査機関

  • ソニー・クロケット(コリン・ファレル):マイアミ市警特捜課所属の刑事。モヒートが好き。
  • リカルド・タブス(ジェイミー・フォックス):マイアミ市警特捜部所属の刑事で、クロケットの相棒。飛行機の操縦ができる。
  • トゥルーディー・ジョプリン(ナオミ・ハリス)マイアミ市警特捜部所属の刑事で、タブスの恋人。
  • マーティン・キャステロ(バリー・シャバカ・ヘンリー):マイアミ市警特捜部部長で、クロケットたちの上司。チームに対して全幅の信頼を置いている。
  • ジョン・フジマ(キアラン・ハインズ):FBI捜査官。潜入中の仲間を殺されたことから組織内の内通者の存在を疑い、マイアミ市警特捜部に極秘の潜入捜査を持ちかける。

麻薬カルテル

  • ジーザス・モントーヤ(ルイス・トサル):コロンビアの麻薬カルテルのボス。FBIすらその存在を把握していなかったほど謎に包まれた人物であり、イグアスの滝の隠れ家で生活している。
  • イザベラ(コン・リー):モントーヤの秘書兼愛人。モントーヤに代わって現場への指示を出している。潜入捜査官とは知らずクロケットと恋仲になる。
  • ホセ・イエロ(ジョン・オーティス):北米への麻薬密輸ルートを取り仕切っている売人。FBIからは重要人物とみなされていたが、実は仲介人に過ぎなかったことが判明する。

感想

ゴージャスなルックスの刑事アクション

冒頭、マイアミ市警特捜部(マイアミ・バイス)が売春組織摘発のためにナイトクラブに潜入するのですが、この時点で映像がとにかくスタイリッシュ。

高級ジャケットに身を包んだクロケット(コリン・ファレル)とタブス(ジェイミー・フォックス)は異常にかっこいいし、ボディガードと揉み合いになった際の身のこなしも華麗で、開始後ほんの数分でカッコいい刑事像を確立します。

クロケットの愛車フェラーリに加えて、ピカピカのセスナ機やモーターボートなど高級な乗り物が続々と登場し、カリブ海の絶景や壮観なイグアスの滝などロケーションも超豪華。

マイケル・マンはこれらの被写体を丁寧に描写することでラグジュアリー感溢れるルックスを作り上げており、見るだけで楽しめる画力のある作品となっています。

これは恋愛描写にも言えることで、麻薬カルテルに潜入したクロケット(コリン・ファレル)は、ボスの愛人であるイザベラ(コン・リー)と恋仲になるのですが、「ちょっと飲みに行かない?」でモーターボートを飛ばしてハバナにまで行ったり、密会場所が高級ホテルやリムジン車内だったりと、すべてにおいてゴージャス。

こうした過剰さの連続で独特な質感を作り上げており、作品は『特捜刑事マイアミ・バイス』のリブートに求められる要件をクリアーしていきます。

ド迫力の銃撃戦

そして、マイケル・マンの十八番である銃撃戦は今回も絶好調。

序盤と終盤の二度、大掛かりな銃撃戦があるのですが、実際の警官の動きを丹念に研究した結果の銃撃戦には説得力があり、また見た目にも楽しめます。

音響へのこだわりも強いマイケル・マンはサウンドデザインも徹底しており、四方八方からバカでかい銃声が響き渡る銃撃戦は迫力満点でした。

物語は迷走気味

冒頭、潜入中のFBI捜査官が白人至上主義組織に殺害されるという事態が発生。

どこかの捜査機関から情報が漏洩しているに違いないと踏んだFBI捜査官フジマ(キアラン・ハインズ)は、まだ敵に面が割れていないマイアミ市警のクロケットとタブスを白人至上主義組織と密接な繋がりのある南米の麻薬組織に潜入させ、内通者を探ろうとします。

そもそもの目的は米捜査機関内の裏切り者の特定なのに、その目的とは直接的には無関係な南米の麻薬組織に潜入するという話がまずややこしいし、市警の刑事を海外出張させてまで南米の麻薬組織に潜入させるという基本がぶっ飛んでいます。

そして作戦の中間報告の際、「おおよその漏洩元は特定できたので、もう引き揚げよう」とまともなことを言うFBI捜査官フジマに対し、「せっかく麻薬組織への潜入がうまくいってボスに手が届きそうなのに、ここでやめられるか!」と突然ブチ切れるクロケット刑事。

なぜクロケットがブチ切れ出したのかは何度見ても分からないのですが、ともかくここから目的は米捜査機関内の裏切り者の特定から、麻薬カルテルの検挙に切り替わります。

ただしクロケットとダブスに捜査らしい捜査をしている様子はなく、特にクロケットはひたすら組織の運び屋に徹して麻薬王とその秘書にしてクロケットの恋人であるイザベラ(コン・リー)のご機嫌を伺っている状態で、出口が見えてきません。

そのうちクロケットのチームメンバーが麻薬組織から狙われ始めるのですが、それはクロケットとダブスの偽装がバレたからではなく、意中のイザベラに手を出されたことにムカついた麻薬王と、その部下イエロからの嫌がらせでした。

舞台はマイアミに戻り、終盤は白人至上主義組織に連れ去られた仲間の奪還がテーマとなります。

捜査の目的が目まぐるしく移り変わっていき、観客の視点が定まらないまま何となく銃撃戦で終了したような内容だったので、のめり込むような面白さがありませんでした。

捜査の目的を途中で変えたりせず、首尾一貫性のある物語にすればもっと良かったと思うのですが。

敵が小物すぎて盛り上がらない ※ネタバレあり

こうして全体を眺めると、今回の敵はイエロ(ジョン・オーティス)だと言えるのですが、こいつが小物も小物で全然強そうではないので、アクションは盛り上がりに欠けました。

ラオウを相手にしているかと思いきや、ラスボスがジャギだったみたいな感じでしょうか。違いますか。

このイエロ、麻薬輸送ルートを取り仕切る大物かと思いきや、実はモントーヤの指示で動いている仲介業者に過ぎなかったという初登場場面の時点で漂う小物感。

これではヤバいと思ったのか「俺は恐れられてるんだぜ!」とクロケットとダブス相手に凄んで見せるのですが、こういうのって自分で言えば言うほどみっともなくなっていきます。

高校入学初日に中学時代のワル自慢をするのだが、貧相な見た目で話を盛ってることがバレバレになってる奴みたいなものです。

実はイザベラに惚れているがモントーヤの愛人なので手を出せずに悶々としていたことも小物なら、イザベラと恋仲になったクロケットに嫉妬し、ビジネスに私情を持ち込みまくって嫌がらせを始めたことも小物。

ラストでクロケットとダブスの前に立ちはだかることになるのですが、二人の偽装を見抜いたということでもなく、クロケットがイザベラに手を出したことをモントーヤにチクり、配下の白人至上主義組織を使って潰してもいいという許可を得ての行動でした。

この時、イザベラをもらい受けるという約束をちゃっかりとモントーヤに取り付けている辺りも小物でした。

こんな小物ぶりなのでクロケットとダブスを追い込むタマにはどうやっても見えず、ラストの銃撃戦では特にハラハラすることもありませんでした。 やはりモントーヤをラスボスにすべきだったと思うのですが、続編構想でもあったのか、モントーヤとの決着はつかずに終わります。

この辺りの不完全燃焼ぶりも、作品の満足度を押し下げていますね。

≪マイケル・マン関連作品≫
【凡作】刑事グラハム/凍りついた欲望_レクター博士は脇役
【傑作】ヒート_刑事ものにして仁侠もの
【良作】コラテラル_死闘!社畜vs個人事業主
【凡作】マイアミ・バイス(2006年)_物語が迷走気味

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