(2005年 アメリカ)
前作・前々作と比較すると格段に面白くなっています。見せ場の連続でストーリーを語り、ギミックは豊富で、肉体だけではなく頭も使い、そしてイーサンはちゃんとチーム戦をやっている。素晴らしいアクション大作だと言えます。

あらすじ
イーサン・ハントは現場から引退して教官をしていたが、元教え子のリンジーがベルリンで敵に捕らえられたとの報告を受け、自ら奪還作戦を指揮する。リンジーの奪還には成功したが頭に仕掛けられていた爆弾により死亡。怒りに燃えるイーサンは国際的な武器商人にして敵の首領であるデイヴィアンを捕らえるが、ワシントンへの護送中に敵の襲撃部隊に襲われ、デイヴィアンを奪われる。
プロダクション
本作は極めて制作が難航した作品であり、当初はデヴィッド・フィンチャー監督×フランク・ダラボン脚本という凄まじい布陣で意気揚々と製作が開始されたものの大御所はどんどん脱落していき、企画は白紙状態に。
次に雇われたのが『NARC:ナーク』が絶賛されたジョー・カーナハンで、当初の撮影開始予定は2004年8月でカーナハンは7月まで作業していたものの、結局カーナハンも撮影開始直前に脱落しています。そもそも監督の降板劇は現場の不穏さや企画の不安定さを示すものである上に、当時はトムの奇行問題で彼への風当たりが厳しかったこともあって、「おかしくなったトム・クルーズがプロデューサーの権力を振りかざして無茶苦茶やってるんじゃないか」なんて噂まで立ちました。
さらには、カーナハンの代打として起用されたのが、それまで映画を一本も撮ったことがなかったJ・J・エイブラムスだったという点も不安を掻き立てました。気鋭のインディーズ監督の華々しいメジャーデビュー作になるはずだった作品が、最終的に映画の監督経験ゼロのテレビプロデューサーの手に委ねられたのですから。
ただしその後のエイブラムスの活躍ぶりを見れば、カーナハンを切ってエイブラムスを採用したトム・クルーズの決断は正しかったと言えます。本作の後には、やはり実写映画の監督経験のなかったブラッド・バードや、脚本家としての活動を中心にしていたクリストファー・マッカリーを次々と育てており、異業種の才能の中から監督業に向く者を選別し、一流の監督として育て上げるというプロデューサーとしてのトム・クルーズの目利き力・人材登用術には目を見張るものがあります。
感想
シリーズ中、もっともしっかりした作り
地味すぎた『1』(レビューはこちら)と派手すぎたの『2』(レビューはこちら)の間をとった作風だし、かといって『ゴースト・プロトコル』や『ローグ・ネイション』のような詰め込みすぎ・情報過多にも陥っておらず、観客の生理にもっとも近く、もっとも見やすい娯楽作として仕上がっています。
良くも悪くもこの映画に新しいものは何ひとつないのですが、アクション映画の黄金比に当てはめて全体を構築するという作りの堅牢さと、伏線を張って後に回収するという仕事の丁寧さ、笑いとスリルの絶妙なバランスや、細かいギミックの作り方などどれをとっても素晴らしく、ストーリー上の必然としてアクションが存在し、アクションの中でストーリーが語られるという良質な娯楽作となっています。
また、個々の見せ場の内容も豊かなものです。デイヴィアンを拘束したイーサン達が謎の武装集団の襲撃に遭うシーンを例にとると、
- ミサイル装備の無人飛行機から逃げる
- 武装集団との銃撃戦
- 戦闘に巻き込まれた一般市民の保護
- デイヴィアンの取り逃がし
- 素性を知られた婚約者を助けに行かなくちゃ!
これだけの出来事を一気に見せてくるので、まさに危機また危機って感じで盛り上がります。通常の映画だと一般市民はアクションを邪魔しないよう知らない間に画面から消えちゃってるものですが、そこを本作はご都合主義に逃げずアクションの要素に取り込むというアプローチをしているのです。
ただし、シリーズ内では埋没しがち
堅実さ、これがマイナスにもなっています。本シリーズはハチャメチャなんだけど妙に印象に残るキービジュアルを個別作品毎に生み出せているのですが(『1』のCIA本部潜入、『2』のバイクチェイス、『4』のブルージュハリファ壁のぼり、『5』の飛行機しがみつき)、本作に限ってはそのような象徴的な見せ場を作り出せておらず、良質なアクション映画の域を出ていないという点は引っかかりました。その結果、シリーズ中もっとも影の薄い作品となっています。
シリーズ内の関連性の低さは課題
また、シリーズものならではの面白さを今回も作り損ねていたという点も不満でした。このシリーズはどれもまったく別の映画になっていて、シリーズものとしての面白さがありません。『1』にて意中のクレアに裏切られた心の傷はどうなったんでしょうか。『2』にて命がけで救ったナイアは一体どこに消えたんでしょうか。
『リーサル・ウェポン』や『ワイルド・スピード』のように前作でできた人間関係が次回作以降にも反映され、ドラマが蓄積されていく形にすればより面白いと思うのですが、恋人どころか上司や仲間までコロコロ入れ変わるし、イーサンという人物自体が作品毎に人格変わりすぎだし、これをシリーズと呼べるのだろうかと言えなくもありません。
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