(2011年 アメリカ)
トムの常軌を逸したスタントが始まったのは本作から。オリジナリティ溢れるデスウィッシュアクションを高密度のストーリーの中で見せるという本シリーズのフォーマットはようやくここで確立しました。ただし物語が複雑すぎるきらいがあり、見せ場に目を奪われていると話が分からなくなるので要注意です。

あらすじ
イーサンのチームは殺し屋サビーヌ・モローに奪われた秘密ファイルを回収するためにクレムリンに潜入したが、任務中にクレムリンは爆破され、イーサンは容疑者としてロシアの諜報機関に拘束される。隙をついてイーサンは逃げるが「ゴースト・プロトコル」発動によりIMFは解体され、組織のバックアップなしで任務継続することになる。
落ち目だったトム・クルーズ
2006年、トム・クルーズとパラマウントの間の14年間に及ぶパートナー関係は、トムの奇行が原因で終了しました。再びスターの座に返り咲いた現在では信じられないことなのですが、2006年から2011年にかけてトム・クルーズの集客力が極端に低下して彼の企画は全然通らなくなり、この期間中に製作できたのは『ワルキューレ』くらいのものでした。あとは、まったく話題にならなかったロバート・レッドフォード監督の『大いなる陰謀』、言われなければトムとは気付かれないほどの怪演を見せた『トロピック・サンダー』、イーサン・ハントのパロディを自ら演じた『ナイト&デイ』と、以前のトムなら引き受けてこなかったような雇われ仕事で凌いでいました。
他方、パラマウント社内では主演を変えてM:iシリーズを再開させるというプロジェクトも存在していたようなのですが、そんなこんなを乗り越えて再び両者が手を取り合って製作したのが、この『ゴースト・プロトコル』なのでした。まさにトム・クルーズにとっては勝負作であり、特に『ナイト&デイ』を大コケさせた後で『ミッション:インポッシブル』までコケたとなれば修復不可能な大ダメージを受けるところだっただけに、気合の入り方は違いました。
起死回生のアクション大作
劇場公開時、すっかりトムへの信頼の揺らいでいた私は期待半分・不安半分で劇場に足を運んだのですが、その見せ場の凄さには目を奪われました。
ハイライトの壁登りはもちろんのこと、クレムリンへの潜入、砂嵐の中でのカーチェイス、立体駐車場でのブリーフケース争奪戦と、そのどれもが非凡であり、完璧に作り込まれています。スタントをトム・クルーズ自身がこなしていることも画面の緊張感に繋がっており、アクション映画としては非常に充実した作品となっていました。
プロデューサー・トムの冷静な判断
また、前作ではチョイ役だったサイモン・ペッグを主要キャストの一人としたことでスリルと笑いのバランスが格段に良くなったし、クセ者俳優ジェレミー・レナーを加えたことで、作品全体に程良いキナ臭さも漂っています。この辺りのキャスティングの妙はプロデューサーとしてのトム・クルーズの能力の高さを示すものだし、トム・クルーズ一枚看板ではやっていけないというプロデューサーとしての客観的な判断能力は、やはり称賛に値すると思います。
多すぎる構成要素・複雑すぎるプロット
残念だったのは、二転三転どころではない展開に、慌ただしいほどの舞台の移動。さらにはカーターの復讐劇やブラントの贖罪までが含まれており構成要素はパンパンであり、娯楽作としては容量オーバーに達しているという点でした。
例えばドバイでテロリストと殺し屋の両方を同時に騙すという只でさえ複雑なミッションの上に、システムに入り込めないという不測の事態からサーバールームへの物理的な侵入を試みるという展開などはあまりに複雑すぎて初見時にはよく理解できておらず、ブルーレイで何度見返しても「えーと、この人は一体何をやってるんだっけ?」という状態となってしまうため、もうちょっと単純な話にしても良かったような気はします。
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