【凡作】ニキータ(1990年)_コスパの悪い殺し屋(ネタバレあり・感想・解説)

軍隊・エージェント
軍隊・エージェント

(1990年 フランス)
リュック・ベッソンの映画にリアリティを求めるのは筋違いかもしれませんが、それにしても本作の殺し屋像はあまりにも筋が通っていなくて、気持ちが話に入っていきませんでした。ハリウッドでリメイクされたほどなので世界的には良作として評価されている作品ですが、私は全然楽しめませんでした。

あらすじ

麻薬中毒者の少年少女が薬局に乱入し、警官隊と撃ち合いになった。そのうちの一人ニキータ(アンヌ・パリロー)は警官殺害の罪で終身刑の判決を受けるが、護送された先は刑務所ではなく政府機関の拠点だった。そこにボブ(チャッキー・カリョ)と名乗る捜査官が現れ、記録を抹消して暗殺者になるか、それとも死ぬかの選択を迫られる。

スタッフ・キャスト

監督・脚本はリュック・ベッソン

1959年パリ出身。18歳から雑用係として映画界に出入りするようになり、ジャン・レノ主演の『最後の戦い』(1983年)で監督デビュー。クリストファー・ランバートが主演し、ジャン=ユーグ・アングラードやジャン・レノも出演した『サブウェイ』(1985年)、同じくジャン・レノが出演した『グラン・ブルー』(1988年)などで頭角を現しました。

本作『ニキータ』(1990年)で娯楽アクションに開眼し、その後『フィフス・エレメント』を映画化するためにハリウッドに渡りました。

しかしいろいろあってペンディングとなり、急遽作った『レオン』(1994年)が好評を博して『フィフス・エレメント』(1997年)の企画が軌道に乗ったのだから、人生とはどうなるか分からないものです。

『フィフス・エレメント』(1997年)以降はそれまでのキャリアと比較すると見劣りする映画が増えてきたものの、2001年に設立した製作会社ヨーロッパ・コープでプロデューサー業に開眼。『TAXi』シリーズ、『トランスポーター』シリーズ、『98時間』シリーズなどわんぱくな映画を量産しました。

主演はアンヌ・パリロー

1960年パリ出身。16歳で舞台デビューし、1978年に映画デビュー。1986年に本作の監督リュック・ベッソンと結婚しましたが、完成する頃には離婚していました。本作以降はハリウッド映画に出演するようになり、ジョン・ランディス監督の『イノセント・ブラッド』(1992年)や、ランダル・ウォレス監督の『仮面の男』(1998年)などに出演しました。

豪華な共演陣

  • チェッキー・カリョ(ボブ役):1953年イスタンブール出身、パリ育ち。1982年にフランス映画界でデビューし、1990年代以降はハリウッド映画に頻繁に出演する出稼ぎフランス人俳優の代表格のような存在となりました。マイケル・ベイ監督の『バッド・ボーイズ』(1995年)、ローランド・エメリッヒ監督の『パトリオット』(2000年)、ジョン・アミエル監督の『ザ・コア』(2003年)などのわんぱくな映画に多数出演。
  • ジャン=ユーグ・アングラード(マルコ役):1955年フランス出身。フランス国立高等演劇学校(コンセルヴァトワール)で学んだ後に映画デビュー。ジャン=ジャック・ベネックス監督の『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1986年)で有名になりました。イザベル・アジャーニ主演の『王妃マルゴ』(1994年)でセザール賞最優秀助演男優賞を受賞。ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の『マキシマム・リスク』(1996年)でハリウッドに進出しました。
  • ジャン・レノ(掃除人役):1948年カサブランカ出身。1960年に家族でフランスに移住し、演劇学校に通った後に俳優デビュー。リュック・ベッソン監督作によく出演していました。『レオン』(1994年)以降はハリウッドでの仕事が急増し、『ミッション:インポッシブル』(1996年)『RONIN』(1998年)などに出演。チェッキー・カリョと並ぶ出稼ぎフランス人俳優の代表格となりました。
  • ジャンヌ・モロー(アマンド役):1928年パリ出身。フランス国立演劇学校 (コンセルヴァトワール)で演技を学び、1947年に舞台デビュー。ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』(1958年)、フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』(1962年)などヌーヴェルヴァーグの監督達の作品で国際的な名声を得ました。1977年にはオスカー監督ウィリアム・フリードキンと結婚したのですが、1979年に離婚しました。2017年逝去。

感想

コスパの悪すぎる殺し屋

不良のエージェント化はアクション映画界では割かしメジャーな素材であり、ロバート・アルドリッチ監督の『特攻大作戦』(1967年)、マギーQ主演の『レディ・ウェポン』(2002年)、ヴィン・ディーゼル主演の『トリプルX』(2002年)、日本で言えば『スケバン刑事』シリーズ(1985-1987年)がこれにあたります。『SKY MISSION』(2015年)以降の『ワイルド・スピード』シリーズもこんな感じになってきていますね。

そんな中で本作が類似作と大きく異なるのは、従来作が不良を使い捨ての即戦力として扱っているのに対して、本作ではかなり丁寧な育成を行っているということです。

ニキータが刑を免れてからのトレーニング期間が実に3年。卒業試験の暗殺に成功した後、次の任務が入るまで遊ばされていた期間が半年。物凄く丁寧に育成されています。裏を返せば、めちゃくちゃにコスパの悪い殺し屋ってことでもありますが。

加えて、実際の任務にあたってもそれほどの価値を発揮しないという点がこれまた困ったところです。

ボブ(チェッキー・カリョ)からもらったヴェニス行きのチケットで旅行に行くと、宿泊先のホテルに電話がかかってきて窓の外のターゲットを射殺せよとの指示が出ます。

ライフルはバスルームに事前にセットされており、ターゲットは概ね予定通りに姿を現す。ニキータのやることは狙撃にうってつけの場所から引き金を引くだけという簡単なものであり、ここまでお膳立てができているのであれば、誰でもやれるんじゃないかというレベルです。

私の勝手なイメージなのかもしれませんが、殺し屋って『ゴルゴ13』や『暗殺者』(1995年)のような、与えられたターゲットの行動分析から始まって、最適な殺し方の選定、武器の持ち込みや逃走経路の確保までを自分でやるものだと思っていたので、「はいここで引き金を引いてください」までがお膳立てされていると、これじゃない感が出てしまいます。

この程度のことができればいいのであれば3年もかけて育成せず、ひたすら射撃の訓練だけをさせておけばよかったような気もするし。

不良をエージェントにした意味がほぼない

そもそも不良をエージェント化することのアクション映画的な意義って何だろうと考えると、不良ならではの生存能力やメンタルの強さ、時にダーティな手段にも打って出るという毒を以て毒を制す的な活躍の仕方なんだろうと思うのですが、本作ではその点もほとんど追及されていません。これは勿体ないと感じました。

ニキータが型破りな行動や発想を披露し、ある特殊な状況下ではベテラン工作員をも凌駕する一面を見せてくれれば盛り上がったのですが、設定があまり深掘りされていないので、これでは死刑囚を主人公にした意味がありません。死刑囚という設定を外し、新米エージェント危機一髪みたいな話でも同じような内容になったと思います。

殺し屋がアホ揃い

後半、ニキータは国家機密を駐仏ソ連大使から機密情報を奪うという指令を受けます。季節の移ろいから察するに相当な時間をかけて下準備を行い、ソ連大使に成りすますための男性工作員までを動員しての大掛かりな作戦であり、ニキータの熟練度を示すためにも結構重要なイベントだったのですが、これがもうグダグダ。

割かし早い段階で作戦は計画から外れ、ニキータも男性工作員もテンパり始めます。そこにジャン・レノ扮する掃除人が事態収拾のために送り込まれてくるのですが、まだマシかと思いきやこいつが輪をかけてアホ。

状況も考えずに「やれと言われてるんだから任務は続行だ」の一点張りでまったく譲らず、どうしても任務を中止したい男性工作員との同士討ちを始めます。

この同士討ちで男性工作員が死んでしまったので、仕方なくニキータがソ連大使に変装して領事館に侵入しようとするのですが、女性が男性に変装することにはかなりの無理があって、どう見てもニキータなんですね。せめて掃除人の方が変装した方がそれらしかったと思うのですが、ニキータが変装するわけです。

しかしソ連領事館員は彼らを上回るアホで、バレバレの変装を見抜けずにニキータは大使の執務室にまでフリーで入れてしまいます。もうめちゃくちゃですね。

結局、ニキータの変装はバレてしまうのですが、素早く動けば逃げる隙があったというのに、またもや掃除人が「任務を遂行する」の一点張りで脱出が遅れたために、彼は銃撃を受けて絶命します。アホなんでしょうか。

本作はあまりにも殺し屋の描写がお粗末で、危機また危機の連続というよりも、立ち回りが悪すぎて自ら危険を呼び込んでいるように見えるので、まったく面白くありませんでした。

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