【良作】アウトブレイク_感染パニックものでは一番の出来(ネタバレあり・感想・解説)

災害・パニック
災害・パニック

(1995年 アメリカ)
パンデミックの恐ろしさがかなりの迫真性で描かれると同時に、こういうものが上陸した時に政府はどう対応するのかというシミュレーション映画としてもよく出来ており、加えて演技の質も高く、かなりの見応えがありました。一般的な娯楽作の形に落とし込もうとして失敗した後半の出来は残念でしたが、その弱点を補って余りあるほど前半の出来は素晴らしいものでした。

©Warner Bros.

あらすじ

ザイールで致死率の極めて高いウィルスによる出血熱が発生し、米陸軍の疾病対策チームが送り込まれる。チームのリーダーであるサム・ダニエルズ大佐は米国での警戒通達を出そうとするが、上官であるビリー・フォード准将に却下される。そんな折、ウィルスの宿主である猿が密猟者に捕まってアメリカに密輸され、猿に接触した人々が次々とモターバ熱を発症し始める。

作品解説

プロダクション

プロデューサーのアーノルド・コペルソンはパンデミックもののベストセラー『ホットゾーン』の映画化企画を20世紀フォックスで進めていました。『羊たちの沈黙』(1990年)のテッド・タリーが脚色し、監督はリドリー・スコット。主演はロバート・レッドフォードとジョディ・フォスターという鉄壁ぶりで、完成すればさぞかし凄かったんだろうなと思うのですが、結局フォックスがゴーサインを出さずに頓挫しました。

その後、オリジナル脚本でパンデミックものを作り直し、ワーナーがゴーサインを出したのが本作だったと言うわけです。主演にはハリソン・フォードを想定していたのですが、断られてダスティン・ホフマンとなりました。

そういえば、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982年)の主人公デッカードは当初ダスティン・ホフマンにオファーされており、断られたのでハリソン・フォード主演になったという裏話があったのですが、本作はその逆パターンになったというわけです。

3週連続全米No.1ヒット

本作は1995年3月10日に全米公開。2位の『ママのフィアンセ/結婚に異議あり!』(1995年)に2倍以上の金額差をつけてのぶっちぎりの1位となりました。以降も好調を維持して3週連続全米1位となり、全米トータルグロスは6765万ドルでした。

日本公開は1995年4月29日だったのですが、丁度そのタイミングでザイールでエボラ出血熱の大流行が発生し、社会的関心の高い状況での興行となったおかげで興行収入18億円の大ヒットとなりました。うっすらとした記憶を辿ると、当時エボラ出血熱を特集したNHK『クローズアップ現代』で、本作のフッテージが使用されたりもしていました。

不謹慎ながら現実世界でのアウトブレイクとも重なったことの影響もあって全世界トータルグロスは1億8985万ドルに上り、5000万ドルという大作としてはやや控えめな製作費ながら、全世界年間興行成績14位という好記録を収めました。

感想

感染が拡大していく様にハラハラさせられる

序盤では殺人ウィルスがアメリカに上陸し、感染拡大していく様が描かれます。

まずアフリカの感染者達の悲惨な様子を見せて、これがアメリカに来たらヤバイと思わせます。そこからウィルスの宿主である猿が貿易船に乗せられてアメリカにやってくるのですが、この猿が危険だと分かっている観客は「あ~、それ触っちゃダメだから!」とハラハラさせられる仕組みとなっています。

動物から人へ、人から人へ、接触感染から空気感染へという拡大方法が視覚的に分かりやすく表現できているし、その過程にスリルを織り込んでみせたウォルフガング・ペーターゼン監督の演出は絶好調でした。

加えて、中盤では名もなき一人の感染者にフォーカスし、幸せな家庭を持つ女性が感染により家族から引き離され、隔離された後に死体袋に入れられて焼却されるまでが淡々と描かれます。この光景は簡潔ながらもなかなかショッキングでした。

軍隊出動の大スペクタクル

殺人ウィルスがアメリカに上陸したとのことで軍隊出動の大騒動となるのですが、のんびりとした田舎町に軍事車両の列が走り、上空をヘリが飛び交うスペクタクルは圧巻のものでした。

題材からすると不謹慎かもしれませんが、ここまで大掛かりに軍隊が動く映像にはやはり燃えるものがありますね。また、防毒マスクを被って顔の見えない兵士達は不気味で、パンデミックの恐ろしさを間接的に表現していました。

オスカー俳優大量出演の豪華さ

ダスティン・ホフマンが演じる主人公サムの人物像は興味深いものとなっています。感染症担当の軍医という職業柄、人の死に立ち会いすぎて社会や人生に対する楽観的なイメージを持てなくなり、感覚的に突き抜けてしまった男。

レネ・ルッソ扮するロビーと寂しい者同士で職場結婚をしたものの、子供を持たなかったのか持てなかったのか代わりに犬を溺愛するのみの生活となり、次第にそこにも意義を見いだせなくなって離婚。

パンデミックに対する反応の源泉は、当初は頑固な職人的なこだわりだったのですが、仲間を失い始める中で徐々に人間としての闘志へとシフトしていくという様には、なかなかに熱いものがありました。

その他、組織の論理と個人的な良心の間で板挟みとなる上司のモーガン・フリーマン、皮肉屋の部下ケヴィン・スペイシー、熱血タイプの新人キューバ・グッティング・Jr.と多彩なキャラクターが散りばめられており、群像劇としてうまくまとめられています。加えて、これらを演じるのがオスカー俳優達という豪華さで、演技の安定感が違いました。

J・T・ウォルシュが凄い!

ただし、もっとも印象に残った俳優は彼ら以外にいます。大統領補佐官を演じるJ・T・ウォルシュ、彼がもっとも強烈でした。

今封じ込めなければ全米に感染拡大の可能性ありとする米陸軍の分析に続けて、全国民を守るためには住民もろともの被災地の焼却しか手立てがなく、この場に居る閣僚全員がこの苦渋の決断に同意すること、今後起こるであろうマスコミからのバッシングに対しても賛成の立場を貫くことを激しい口調で迫ります。

「全国民の権利・財産を守るために、2千人の自国民を焼いてもいいなんて話は憲法のどこにも書かれていない。でも我々はやるしかない!やるんだ!」と数分間に渡って一方的に喋りまくる様には大変な迫力があったし、非常時における政府の意思決定方法の一端を垣間見たような生々しさもありました。

猿探しが始まってからは平凡になる

そんな感じで硬派な描写とスペクタクルの両立した見ごたえのある作品だったのですが、主人公達がウィルスの宿主である猿を探しに出てからのラスト30分はちょいと微妙になります。

森に放たれた一匹の猿が発見できて、しかも捕獲までできるという展開はさすがに都合良過ぎでしょ。住宅街に迷い込んだニホンザルの捕獲だって地元警察を総動員しても難しいのに、本作で動いているのはダスティン・ホフマンとキューバ・グッティング・Jr.のたった二人だけですからね。しかも舞台は広い山の中って無理にも程があります。感染拡大の抑え込みに係る重要な部分だっただけに、もっと現実的な解決策が欲しいところでした。

その後に始まるヘリチェイスも意味わからんものでした。『カプリコン・1』(1977年)みたいなことをやりたかったんだろうなとは思うのですが、抗ウィルスワクチン開発の鍵となる猿を乗せているヘリを撃墜しようとする陸軍側の行動はさすがに不合理で、この見せ場全体に説得力がありませんでした。

勧善懲悪のクライマックスがイマイチ

爆弾投下か否かというクライマックスも、勧善懲悪の構図に落とし込んだために面白みがなくなっていました。

この場面であるべきだったのは理念vs理念の衝突だったはず。すなわち、全国民を守るためには少数の犠牲を出すしかないという体制側にもそれなりに理があり、抗ウィルスワクチンでパンデミックを抑え込むという主人公の側にも絶対的な確実性はないという構図を置いて、「あなたならどう判断しますか?」と観客に対して問いかけるような内容にしていれば面白かったと思います。

ちなみに、当初のクライマックスは町に爆弾が落とされて終わりだったのですが、あまりに救いのない内容だったためにテスト上映の結果が非常に悪く、急遽ハッピーエンドに差し替えられたようです。爆弾投下のVFXのやり直しなどを要する大変な差し替え作業となったのでした。

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