【駄作】オーバー・ザ・トップ_スターの集客力のみが頼みの綱(ネタバレなし感想)

その他
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(1987年 アメリカ)
トラック運転手のリンカーン・ホークは10年ぶりに再会した息子とNYからLAへの二人旅に出る。アームレスリングの選手でもあるリンカーンは、筋肉を通して息子に男の生きざまを教える。

製作はあのキャノン・フィルムズ

製作は80年代に一世を風靡し、その後一気に凋落したキャノン・フィルムズ。ちょっと前に『キャノンフィルムズ爆走風雲録』というドキュメンタリー映画を見たのですが、それによると「安い・早い・分かりやすい」の三拍子で急成長し、一時期はハリウッド全体の売上高の20%を一社で占めるほどのインパクトを持った会社でしたが、同社の共同代表のメナハム・ゴーランが金にはなるものの敬意は得られなかった状況に不満を持ち、メジャースタジオと遜色のない映画を作ろうと躍起になっていた時期がありました。そんな時期に製作されたのが本作でした。

主演は当時世界最高のスターだったシルヴェスター・スタローン。とはいえ、これだけ地味な上に時代錯誤的な面もある企画が観客に受け入れられるとは思っていなかったスタローンは出演依頼を何度も断っていたのですが、1,000万ドルという前代未聞の金額のギャラを提示されたことから、さすがにこれを断る手はないということでこの依頼を受けたのでした。

金で釣られた豪華メンバー

本作でスタローンは主演だけではなく脚本も担当しており、さらには『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』で知られるスターリング・シリファントも参加。アカデミー脚本賞ノミネート経験者のスタローンと受賞者のシリファントという肩書だけ見れば黄金チームによる脚本なのですが、これがベタの極みで深みゼロ。親子の感動ドラマとスポ根もののテンプレートを重ね合わせただけの作風であり、金で釣られたビッグネームによるやっつけ感全開の作風となっています。

ただし王道ならではの強みもあって、見る側のコンディションによっては一切裏切りのないこの流れが心地よく感じられる場合もあります。キャノン・フィルムズの映画だしと割り切れるかどうかが評価の分かれ目だと思います。

見た目がとにかく地味

本作は、おそらく映画史上初めて腕相撲を題材にした作品なのですが、他のスポーツと比べると見た目がとにかく地味。また、大男達が力を入れてるだけなので試合展開も単調でそこにドラマ性を持ち込むことが難しく、なぜ今までどの映画人もこの題材に手を出してこなかったのかを考えれば「映画向きではない」の一言も思い浮かんできそうなものなのですが、メナハム・ゴーランはこの難物に果敢に挑み、そして見事に撃沈しました。

一応、工夫の跡は伺えるのですが、①本気になる時にはかぶっているキャップの向きを変える、②ラストスパートをかける時には指を組み替える、の2点だけでは、素材が抱えるそもそもの弱さを補うには至っていません。

リンカーンはロクでなしか否か

リンカーンを家から追い出し、マイケルとの再出発も阻もうとしている義父が悪人っぽい立ち位置にあり、義父はリンカーンに向かって「負け犬」だの「ロクでなし」だのと言いたい放題なのですが、本編を見る限りではその指摘は当たってるように思います。

まず「負け犬」ですが、裕福なカトラー家がマイケルの面倒をみてくれていたことから、おそらくリンカーンは養育費をまったく払っていなかったものと思われます。所帯持ちならかかったであろう多額のコストが丸々浮いていたにも関わらず蓄財にも自己研鑽にも励むことなく、わが身とトラックだけの風来坊生活を10年も続けていたのだから、確かに負け犬ですよね。

次に「ロクでなし」ですが、奥さんの急死後、義父にマイケルとの面会を断られた際に、リンカーンはトラックを暴走させてカトラー邸の門をぶち破って警察沙汰になるのですが、マイケルに会うという目的をより遠ざけるような短絡的な行動を衝動的にとってしまうというこの堪え性のなさでは、家族からリンカーンを遠ざけていた義父の判断は正しかったような気がします。

人柄こそ良いものの、家族への責任を背負える大人ではないというのがリンカーンの人物評ではないでしょうか。

リンカーンの主張の説得力のなさ

リンカーンは腕相撲を通してマイケルに人生を教えようとするのですが、当のリンカーンが負け犬でロクでなしだとすると、一気に説得力が失われます。ダイナーにいた子供とマイケルに腕相撲をさせ、3回勝負のところ初戦で負けたマイケルが残り2戦を放棄して逃げ出した際に「人生は向こうからやってこない。自分の力で勝ち取るものだ」という名言を与えるのですが、義父からの信頼を得ることに失敗して妻子を置いて逃げ出したリンカーンがこれを言うのかという気もしてきます。

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