【凡作】ペイバック_途中からつまらなくなる(ネタバレあり・感想・解説)

クライムアクション

(1999年 アメリカ)
前半の荒んだ空気には見応えがあったし、後半もそれだけを切り出せば面白かったのですが、前半と後半の間での断絶がかなり不自然に感じられました。前半の勢いを最後まで維持してくれれば良い映画になったと思うのですが。

あらすじ

強盗のポーターは相棒と妻に裏切られ、背中から銃で撃たれた。死んだかと思われたポーターは一命を取り留めており、5か月後、復讐と金の回収に戻ってくる。

スタッフ・キャスト

監督・脚本は『L.A.コンフィデンシャル』のブライアン・ヘルゲランド

監督・脚本は当時新進気鋭の脚本家であり、本作制作中に『L.A.コンフィデンシャル』でアカデミー脚色賞を受賞したブライアン・ヘルゲランドであり、本作は監督志望だった彼の監督デビュー作でもあります。

『陰謀のセオリー』でメル・ギブソンに気に入られ、『リーサル・ウェポン4』の脚本にもノークレジットで参加した後、映画化のアテもなく書いていた本作の脚本を映画化する機会をメル・ギブソンに与えられての監督デビューでした。以降も数本の映画を監督したものの残念ながら監督としての芽は出なかったのですが、脚本家としてのキャリアは順調であり、クリント・イーストウッドやトニー・スコットのお気に入りを経て、現在ではハリウッドトップクラスの脚本家となっています。

最近、メル・ギブソンが監督に就任したリメイク版『ワイルド・バンチ』の初期脚本にも参加していました。

主演は当時の大スター・メル・ギブソン

プライベートでいろいろあって悪いイメージが付きすぎてしまい、今では監督業の方がメインになっていますが、90年代のメル・ギブソンは世界一の大スターでした。

よくよく考えてみればこの人も特殊な俳優で、『リーサル・ウェポン2』以降の明るく気さくなイメージが強いのですが、実際には奥さんを亡くして自暴自棄になる役柄を好んで演じており、全盛期におけるパブリックイメージと、彼が好んで演じてきた役柄には相当な乖離がありました。

後述する通り、本作は荒んだバイオレンスと軽快な娯楽が同居した不自然な作風となっているのですが、それは個人の趣向とパブリックイメージとの間にかなりの断絶があった当時のメル・ギブソンという俳優を象徴しているかのようでもありました。

登場人物

ポーターの関係者

  • ポーター(メル・ギブソン):プロの強盗。相棒のヴァルとともに中国人ギャングの集金係を襲ったが、その直後にヴァルにそそのかされたリンに銃撃されて死んだものと思われていた。5か月後、復讐と取り分の7万ドルの回収のため街に戻ってきた。
  • リン(デボラ・カーラ・アンガー):ポーターの妻。ポーターとロージーの不倫を知ってポーターを背中から撃った。その後、ヴァルとステッグマンによって薬漬けにされ、ポーターが戻ってきた夜にオーバードーズで死亡した。
  • ロージー(マリア・ベロ):高級コールガール。運転手兼ボディガードのポーターと不倫をしていた。ヴァルのSMプレイで殺されかけたことがある。

ヴァルの関係者

  • ヴァル・レスニック(グレッグ・ヘンリー):ポーターの元相棒。リンをそそのかしてポーターを背中から撃たせ、強盗で得た金を独り占めした。その後リンが正気に戻ることを恐れてか、ステッグマンを使ってリンを薬漬けにした。SMの趣味がある。
  • パール(ルーシー・リュー):SMの女王。ヴァルは上客。ポーターとヴァルの強盗被害に遭った中国人ギャングと繋がっている。
  • アーサー・ステッグマン(デヴィッド・ペイマー):ヴァルからの依頼でリンにヘロインを運んでいた。タクシー会社を根城にしており、ヒックス警部からの目こぼしを受ける代わりに金づるにされている。
  • ヒックス警部(ビル・デューク):汚職警官。金づるになりそうな犯罪者にたかっている。ステッグマンのタクシー会社で偶然見かけたポーターに目を付けた。

犯罪組織

  • カーター(ウィリアム・デヴァイン):犯罪組織の幹部。ポーターが取り返そうとしている7万ドルはヴァルから組への借金返済の一部だったことから、組の金を守るためにポーターと敵対する。
  • フェアファックス(ジェームズ・コバーン):犯罪組織の幹部。カーターが殺された後の陣頭指揮をブロンソンから指示された。ヤクザだが血生臭いことを嫌う。
  • ブロンソン(クリス・クリストファーソン):犯罪組織のトップ。イケメンの息子を溺愛している。

感想

魅力的な裏社会

ウイスキーでメスを洗い、そのウイスキーを飲みながら患者の処置をするような闇医者にかかる冒頭からハードボイルド感全開。復活後、無一文のポーターはホームレスから金を奪うことにはじまって、スった財布のIDで金融機関から金を借り、クレジットカードを使って腕時計を購入して質屋で換金するという方法で軍資金を整えていきます。

この導入部には、我々の知らない裏社会の様子を垣間見るような感覚があって、妙にワクワクさせられました。本当にリアルなのかどうかは分からないのですが、細部にとても説得力があって作品の世界に一気に引き込まれるような魅力がありました。

ポーターとリンの愛憎関係

まずポーターが向かったのは我が家であり、5か月前にポーターを銃撃したリンがそこに帰宅してきます。リンがポーターを銃撃したのは彼の不倫を知ったためでしたが、愛するポーターを殺してしまったという罪悪感に耐えきれなくなったのか、リンはステッグマンから供給されるヘロインに頼りきってヤク中になっていました。生きて帰ってきたポーターを見たリンは当惑し、ヘロインを過剰摂取してその晩に亡くなるのでした。

ポーターはリンを殺す気で戻ったのか、それとも自分の不徳が原因であることからリンを許すつもりだったのかは分からないのですが、リンの死体と一晩添い寝し、朝になると仇のヴァルの始末と、取り分の7万ドルの回収に出かけます。

何という荒れまくった幕開けかとビビりました。これがメジャースタジオが配給し、世界一のスターが主演した映画なのかと。同時に、セリフも表情もなしに背中だけでドラマを語ってみせたメル・ギブソンのハードボイルド加減にも目が釘付けになりました。さすがは初代マックス・ロカタンスキーです。

ヤクザ相手に一歩も引かないポーターの雄姿

ヴァルは犯罪組織との関係が深く、ヴァルを探すということはヤクザと揉めるということでもありました。ポーターがヴァルの居所を訪ねる度に、「お前、組に喧嘩売るんか?」みたいなことを言われるのですが、ポーターはそんな脅しに一歩も引くことなく、組の名前を笠に着た小物たちを容赦なく痛めつけて目的を達成しようとします。

本物のアウトローが組織に所属する子悪党達を痛めつける様には大変なカタルシスがありました。この辺りには、裏社会やアウトローを描くことに長けたヘルゲランドの資質が遺憾なく発揮されているように思います。

娯楽アクションへと転調する後半の違和感

ただし、ヴァルを殺した辺りから作品は急激に大人しくなっていきます。

いや、見せ場は派手になっていくんですよ。ここから犯罪組織との全面抗争に突入し、組の幹部が直接手を下してくるような話の広がり方をしていくのですが、前半にあった荒んだ雰囲気はなくなり、急激に普通のアクション映画へと変化していきます。

まず冒頭で入手したリボルバーをオートマチックに持ち替え、発射弾数が分かりやすく増加。当時流行っていた横撃ちや二丁拳銃をメルギブが披露することで、熟練の犯罪者らしい凄みが減少します。ポーターの性格が陽気になる一方で死体の数は増えていき、ある意味危なくなっているような気がするのですが、どれだけ大勢の敵に襲われてもポーターが返り討ちに遭わせてしまうので、前半にあったヒリヒリするような緊張感が失われています。

7万ドルの意義が失われている

また、「13万ドルなんて返せるか」「俺が返せと言ってるのは7万ドルだ」というやりとりが段々とコミカルに描かれるようになっていくのですが、7万ドルはただの金額ではなく、ポーターの命とプライドを象徴する数字であり、これ以上でもこれ以下でもないという点にこそポーターの自己評価が投影されていました。そこにハードボイルドが宿っていたはずなのですが、これを何度も何度もしつこくやられてしまうと、「なんで7万ドルにこだわってるんだろう」と観客の側も違和感を持つようになってしまいます。

前半の雰囲気が百点満点だっただけに、別の映画になったようなこの転調はちょっとなぁという感じでした。

ディレクターズ・カット版

この転調の理由ですが、後半はブライアン・ヘルゲランドが撮っていません。

ヘルゲランドが完成させたバージョンに不満だったメル・ギブソンが、『マッドマックス2』の脚本家であるテリー・ヘイズに後半部分を全面的に書き直させ、本職は美術監督であるジョン・マイヤーを監督に立てて撮り直させたものが劇場公開版となりました。当初、組長は電話の声だけで、しかも女性という設定だったのですが、この撮り直しのためにブロンソンというキャラクターが新規に創造され、クリス・クリストファーソンが雇われました。

メルギブが不満だったのはポーターがヒーローらしくなかったことであり、観客から好感を抱かれるキャラにしなければならないと考えた結果が、この不自然な後半の転調でした。

ブライアン・ヘルゲランドが完成させたディレクターズ・カット版はアメリカでは2007年にリリース済なのですが、日本語バージョンはいまだにリリースされていません。ディレクターズ・カット版の出来が良いという話もあるだけに、ぜひとも日本版のリリースをしていただきたいところです。