【駄作】ペイチェック 消された記憶_SFマインドゼロ(ネタバレあり・感想・解説)

異世界

(2003年 アメリカ)
ジョン・ウーが初の本格SFなのですが、題材を扱い切れなかったのかただ撮ってるだけみたいな状態となっています。SF映画として欠陥どころか、ウーが本来得意としているはずのアクションや男のドラマまでが盛り上がらず、ジャンル映画の監督が慣れない分野に挑戦してはいけないという見本みたいな映画となっています。

© 2003 Paramount Pictures Corporation and Dreamworks Productions LLC. All rights reserved.

あらすじ

秘密保持のためプロジェクト期間中の記憶をすべて抹消される代わりに高額報酬を受け取るフリーランスのエンジニア・マイケル(ベン・アフレック)は、1億ドルという破格の報酬と引き換えに3年間の長期プロジェクトに参加する。3年後、記憶を消された後のマイケルが受け取ったのは報酬ではなく、19個のガラクタが入った紙袋一つだけだった。さらに、マイケルは企業のエージェントやFBIに追われ始める。

ジョン・ウー×フィリップ・K・ディックという異種格闘戦

2000年代にはフィリップ・K・ディック作品が多く映画化されました。

  • クローン(2001年)
  • マイノリティ・リポート(2002年)
  • スキャナー・ダークリー(2006年)
  • NEXT-ネクスト-(2007年)
  • アジャストメント(2011年)

そんな中でも、本作はかなりの変化球でした。現実の脆さと個人のアイデンティティの構築をテーマにしたディック作品に対し、強い男が困難に立ち向かう戦いというジョン・ウーの作風。本質的に両者は相容れないものなので、奇跡の化学反応が起こった傑作になるか、テーマと内容が整合しない駄作になるかのどちらかだったと思うのですが、残念ながら後者の結果に落ち着きました。

導入部のみ面白い

ただし、ウーがまだ本気を出していない導入部は面白いんですよね。

1億ドルもの報酬が提示されるプロジェクトとは一体何なのか、また記憶抹消後には約束と全然違う話になっており、しかもその状態を生み出したのは記憶抹消前のマイケル自身だったという謎の散りばめ方が良くて、巻き込まれ型サスペンスとしてはなかなかよくできているのです。

作り手が意図したほど面白くなっていない本編

本編に入ると序盤での期待感はどんどん裏切られて行きます。

一見するとガラクタにしか見えない19個のアイテムが思いもよらない場面で危機脱出のツールになるという点と、謎に包まれた20個目のアイテムは一体何なのかという点が本作の大きな見せ場となるのですが、これが作り手の意図したほど面白くなっていません。

まず19という数が多すぎてアイテムが事前に頭に入ってこないので、「このアイテムには一体どんな役割があるんだろうか」と推測するというワクワク感がないし、いよいよアイテムが効果を発揮する場面でも、「なるほど、そう来たか!」という使われ方をするものが少なかったように思います。20個目に至っては、後述の通り「作品の趣旨に合わないんじゃないの」というものだったし。

ジョン・ウーなのにアクションが冴えない

マイケルが戦闘のプロではなくエンジニアという設定なのであまり派手な立ち回りをさせることができず、ジョン・ウー印のド派手なアクションはほぼ封印されていました。二丁拳銃でバンバン撃ちまくって、そこら中で景気よく火柱が上がりまくるいつもの銃撃戦を期待すると裏切られます。

また、銃撃戦と並んでジョン・ウーが好むバイクチェイスについても、マイケルがヘルメット着用なので見た目が相当ダサくなっていました。本作ではジョン・ウーがアクションを頑張っていないために、観客の根本的な要求に応えられていませんでした。

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中盤での地下鉄線路内での追撃戦に至ってはどう見てもハリボテの車両が迫ってくるので、ハラハラさせられるどころかハリボテの前で必死の形相をしているベン・アフレックという画に笑ってしまいそうになりました。

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ジョン・ウーなのに男の戦いが盛り上がらない

開発を引き受けたマイケルと、依頼主であるオールコム社CEOのジミーには親友という設定が置かれており、記憶抹消後のマイケルは親友のジミーから命を狙われることになります。

友情と裏切りというジョン・ウー要素がここにぶち込まれているのですが、マイケルとジミーの関係性を全然描けていないので、後半に入るとそもそも二人が親友だったという基本設定すら忘れ去られ、悪人が主人公を追っているだけという状態となっています。

※ここからネタバレします。

真面目な考察もあるにはある

そもそもなぜこんな戦いが始まったのかというと、大企業の命を受けてマイケルが開発したものとは未来を見る装置だったが、この技術は物事に対する人類の認識を根底から覆す危険な代物であり、その先にある退廃と破滅のビジョンを見たことから、マイケルは記憶を消された後の自分にこの装置の破壊を託したためでした。この考察自体は非常に興味深かったと思います。

問題は、物語がこの考察とは正反対の方向へと走っていくということです。マイケルは自分自身の死のビジョンも見ていたのですが、いつどこで殺されるのかという情報を事前に知っていたので、彼はこれを回避することができました。

え?未来を変えられるの?

それだと、人類の破滅と退廃という考察が成り立たなくなるような気が。ここでのビジョンは変えようのない未来である必要があったと思います。

そして、記憶を消される前のマイケルが装置を使ってナンバーズを高額当選させておいたというオチが待っており、この当選券こそが20個目のアイテムだったことが判明するのですが、これは危険な装置だから破壊しなければならないと公共心に燃えつつも、私利私欲のためには使ってハッピーエンドというのは如何なものかと。

その他、いろいろとおかしなこと

プロジェクト単位で記憶を消されるエンジニアは食っていけるのか?

専門家とは経験値の蓄積によってスキルが向上し、技術面でも報酬面でもより上の仕事ができるようになっていくものなのですが、プロジェクトを終えると記憶を消されるマイケルにはこの蓄積がなく、どうやってスキルを維持しているのだろうかという点が気になりました。

あるプロジェクトを終えた後には、最新技術に疎い時代遅れのエンジニアになってしまうのが関の山ではないかと。そもそも、基本設定から破綻しているように思いました。

未来のビジョンがおかしい

マイケルが装置越しに自分の死を見たビジョンには、カメラアングルやカット割りがあるというおかしなことになっています。そこは、主幹映像っぽいビジョンじゃないといけなかったと思うのですが。

ユマ・サーマンが恐ろしくブサイクに映っている

本作で一番疑問に思ったのはこの点かもしれません。ユマ・サーマンのキャリア史上最低とも言えるスクリーン映えとなっているのです。

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『キル・ビル』二部作と同時期の映画なのでユマ・サーマン自体に問題があったわけではなく、撮り方が悪かったのだろうとは思うのですが、本作の撮影監督は『トップ・ガン』『ミッション:インポッシブル2』のジェフリー・L・キンボールであり、俳優を美しく撮ることには長けた人のはずなんですけどね。

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