【良作】殺人魚フライングキラー_キャメロンのすべてがここにある(ネタバレあり・感想・解説)

クリーチャー・メカ
クリーチャー・メカ

(1981年 アメリカ・イタリア・オランダ)
ジェームズ・キャメロンの監督デビュー作はB級ホラーだった!という若い人にはにわかには信じがたい作品。いろいろアレな映画扱いされてはいるけれど、ちゃんと向き合えばコンパクトにまとまった良作であることがご理解いただけるはず。さすが腐ってもキャメロンだ。

ジェームズ・キャメロンの監督デビュー作

B級映画の帝王ロジャー・コーマンが率いるニューワールド・ピクチャーズが製作し、製作費60万ドルに対して全世界で1600万ドルもの収益を上げた『ピラニア』(1978年)の続編。

第一作と同じくジョー・ダンテに監督させるつもりが『ハウリング』(1981年)のスケジュールと競合してしまい、代わってジェームズ・キャメロンが監督を務めた。

が、キャメロンが本作を監督したと言うには若干の語弊があるので、その辺の事情を説明しておきたい(映画ファンにとってはさんざん擦られまくったネタではあるが・・・)。

ジョー・ダンテが使えないと分かると、ニューワールドはオヴィディオ・G・アソニティスとミラー・ドレイクに白羽の矢を立てた。

オヴィディオ・G・アソニティスは『デアボリカ』(1973年)や『テンタクルズ』(1977年)で知られたイタリア人監督で、B級ホラーでの実績を買われて本作では製作総指揮を務めた。

そしてミラー・ドレイクは、ロジャー・コーマンの元でプロイテーション映画『とんでるスチュワーデス』(1973年)の脚本を書いた人物であり、キャビンアテンダントとカンフーと麻薬組織とヌードを組み合わせた奇妙奇天烈な内容の同作をまとめあげた構成力が高く買われて本作の監督に抜擢された(多分・・・)。

ただしアソニティスとドレイクの意見はまったく合わず、撮影開始前にドレイクがクビになり、視覚効果担当として参加していたジェームズ・キャメロンにあらためて白羽の矢が立てられた。

なぜ20代半ばのキャメロンが指名されたかと言うと、配給会社との契約上、アメリカ人監督の名前が必要だったから(当時はイタリア製の産地偽装ハリウッド映画が多かったのだ)。

キャメロンはカナダ人のはずなんだけど、アメリカ人っぽい名前であればOKというドンブリ勘定にイタリアのおおらかな気風を感じる。

そして現場スタッフはイタリア人ばかりで、そのおおらかさにキャメロンは苦労したようだ。

そのうえアソニティスとの意見も合わず2週間(5日説もあり)でキャメロンも解雇され、撮影も編集もアソニティスが引き継いだ。

さすがに自分の映画ではないということで、キャメロンは自分の名前をクレジットから外すよう要求したが、上記の契約の存在から拒否された。

キャメロンはなけなしの全財産をはたいてローマに渡って直談判をしたのだが相手されず、そのうえ体調まで崩してホテルで寝込んだ。

その際に殺人ロボットに追い掛け回される夢を見て、そのイメージを膨らませたのが出世作『ターミネーター』(1984年)だったというのだから、人間万事塞翁が馬という言葉を思い知らされる。

なお、本作に主演したランス・ヘンリクセンは後にターミネーター役の候補となり、シュワルツェッガー主演に決まった後には刑事役として出演。もう一人の主演でありトリシア・オニールも、『タイタニック』(1997年)に出演することとなる。

また当初の監督だったミラー・ドレイクは視覚効果エディターに転身し、『アビス』(1989年)『ターミネーター2』(1991年)『トゥルーライズ』(1994年)とキャメロン作品に多く参加することとなる。

相変わらず、キャメロンは義理堅い男である。

1988年にキャメロンは配給会社と契約を結び、自分の手で編集したバージョンが一部の国でリリースされた。

尺が20分も詰められ、ストーリーの前後も改められ、こちらは見違えるように良くなっているとのことである(日本では未公開なので鑑賞する術はないが・・・)。

キャメロンのすべてがここにある

キャメロンは本作を蛇蝎のごとく嫌っているとされているが、どうやらそれは自称キャメロンのマブダチ小峯隆生氏が広めた説らしい。

『アビス』(1989年)のプロモーションで来日したキャメロンと意気投合した小峯氏だったが、友人の一人が本作のファンだと発言したところおかしな空気になったことから、「これは触れちゃいけないやつなんだ」と理解したとのこと。

しかし上記の通り1988年にはキャメロン自身が再編集をしているし、『ターミネーター』(1984年)のコメンタリーでも本作について触れている。

また本国ではインタビューで本作の話題にも触れており、「キャメロンに本作の事を聞いちゃいけない」と思ってるのは日本人だけのようだ。

あるいは、キャメロンにとって地雷だとしておいた方が話として面白いので、盛った話が訂正されずに今に至ったのかもしれない。

後のキャメロン作品とは比べ物にならない出来なのは否定できないが、B級ホラーとして見ればさほど悪くない。

実際、本作は金曜ロードショーや日曜洋画劇場で頻繁に放送されており、私も少年時代に何度か鑑賞し、結構気に入っていた。

こういう映画が地上波放送されていた時代も、子供が見ていても何のお咎めもなかった我が家の家庭環境も、どちらも素晴らしかったなぁというのは前回の『地獄のマッドコップ』(1988年)の記事でも書いたような気がするが、ともかく昔はこういうエログロ作品でも平気で放送されていたのだ。

ご丁寧に金曜ロードショーと日曜洋画劇場の両バージョンが入ったBlu-rayが販売されているので、有難く購入させていただいた。

元の映画がモヤのかかったような眠たい画質だったので、フルHDでの高画質化とはいかなかったが、それでも2種類の吹替版が楽しめるソフトは楽しかった。

あらためて聞くと声優陣は豪華だったし(金曜ロードショー版:宗形智子、青野武、安原義人、納谷六朗、日曜洋画劇場版:田島令子、野沢那智、田中秀幸、羽佐間道夫)、定価5,280円で少々値は張るが、作品に対して多少なりとも思うところがある方は持っておいて損のないソフトである。

舞台はカリブ海の架空のリゾート地。

夜の海でダイビングセックスを楽しもうとするチャレンジャーな男女二人が不審死を遂げる。

リゾートホテルでダイビングインストラクターを務める主人公アン(トリシア・オニール)は、回収された死体から軍の開発した凶暴な生物兵器フライングキラーの仕業であることを突き止め、ホテルの支配人らに警告するんだけど、なかなか取り合ってもらえないというのが、ザックリとしたあらすじ。

舞台はリゾート地、金儲け主義のために対策が進んでいかないというあらすじは、モロに『ジョーズ』(1975年)のパクリである。

対策に当たるアンは元海洋生物学者で、元夫のスティーヴ(ランス・ヘンリクセン)は島の保安官、友人のギャビーは爆破漁を専門とする変わり者の漁師。このトリオもまた『ジョーズ』のブロディ所長、海洋学者フーパー、漁師クイントをモチーフにしたものだろう。

そして終盤では危険な海に出て行った息子クリスを救出するというサブプロットも絡んでくるが、これなんかは『ジョーズ2』(1979年)からの引用である。

こんな感じで『ジョーズ』からのパクリを隠す気もない豪快な作風ではあるけど、そこは腐ってもキャメロン、ただの二番煎じに終わらせない独自性もちゃんと織り込んでいる。

なにせ主人公は保安官のスティーヴを差し置いてアンである。強い女性を主人公にするというキャメロンの作風は、デビュー作の本作より健在だったのだ。

そして一度は破綻したアンとスティーヴの夫婦が、フライングキラー騒動をきっかけに再生するというメロドラマ的要素は『アビス』(1989年)を思わせるし、爆破からの脱出というクライマックスは『エイリアン2』(1986年)のようだった。

そして主人公の一人はアフリカ系で、21世紀のポリコレ的にもバッチリだ。無駄におっぱいが出まくる作風がポリティカルにコレクトなのかはよく分からんが。

その他、B級ホラーとは思えないほど凝りまくった水中撮影は後の『アビス』へ、死体からフライングキラーが飛び出す場面は『エイリアン2』のチェストバスターへ、胸ビレで飛翔する水棲クリーチャーは『アバター2』へと引き継がれており、本作は後のキャメロン映画へとつながっていく要素を多く内包している。

「処女作にはその監督もすべてが宿る」とも言われているが、本作もまた、ジェームズ・キャメロンの作風がこれでもかというほど織り込まれている。

そして映画としてもコンパクトにまとまっていて、これがなかなか面白い。

IMDBでは3.8点というびっくりするほど低い点が付けられているが、本作は決してそのレベルの映画ではなく、B級ホラーとしてはそこそこ成功したレベルに達していると思う。

テンポの良い展開、タイラーという胡散臭いキャラの投入、群衆がフライングキラーに襲われ、果てはヘリコプターも海に突っ込むというスペクタキュラーな展開など、構成や演出の手数はなかなか豊富。

そこにエログロを織り込んでくるのだから、サービス精神にも抜かりがない。

地味によくできていたのが死体の描写で、生き物に嚙み千切られたと思しきボロボロの断面がリアルだった。

特殊メイクを担当したのはルチオ・フルチ作品の常連ジャネット・デ・ロッシ。『サンゲリア』(1980年)の蛆がわいたゾンビなどを手掛けたその道の職人であり、本作でもその手腕を披露している。

そんなわけで程よくしっかり作られた作品で、是非とも真面目に見返して欲しい一作である。

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